インターネットサービスプロバイダ
テンプレート:独自研究 インターネットサービスプロバイダ(Internet Service Provider)とはインターネットへの接続を 提供する組織のことである。プロバイダやISPなどと略して呼ばれることが多い。日本では電気通信事業者の一つとして位置づけられている。日本語では役務からインターネット接続事業者(略して接続事業者)と訳されることがある。
目次
概要
基本的にはインターネット接続を希望する個人や団体に対し、一定の対価を徴収した上で接続サービスを提供する。またISPによってはネット上でのオンラインショッピングに対する決済サービス等も提供している(詳しくは主なサービス内容を参照)。
大手ISPの中には自社(あるいはグループ)で大規模なインターネットバックボーンを運用し、併せてインターネットデータセンター(iDC)やインターネットエクスチェンジ(IX)などを運営するものも少なくない一方で、中小ISPになると実際には大手ISPのサービスに独自ブランドをつけてサービスを再販しているに過ぎない(自社設備を持たない)場合もあり、運営形態は様々である。
なおISPの多くは営利目的で運営されている(商用ISP)が、中には非営利組織として運営されるISP(非商用ISP)も存在する(UUNETの初期や、日本ではインターネット互助会横浜(IMASY)[1]など)。
ちなみに日本で最も加入者の多いISPはNTTドコモのiモードである(2011年1月末現在で約4961万人[2]。ただしspモード加入者を含む)。iモードは無線接続によるISPとして世界最大級であり、2006年1月にギネス・ワールド・レコーズから「Largest Wireless Internet Provider」の認定を受けている[3]。
また、2011年時点で加入者数が世界最大のブロードバンドISPは中国電信で、中国が上位二社を占めている[4]。
成立までの背景
元々インターネットの歴史は、1960年代から1970年代にかけて、コンピュータネットワークに関する研究機関(大学・企業の研究所等)同士が個別に互いのネットワークを接続するところから始まっているが(ARPANETやALOHAnetなどは複数の研究機関によるアライアンスの例である)、1980年代に米国内のそれらのネットワークは全米科学財団ネットワーク(NSFnet)に発展した。しかし当時NSFnetの利用には「学術研究目的の利用に限る」という制限が設けられており、この制約のため「企業同士がNSFnet経由でデータをやり取りすることができない」など、 学術機関以外がネットワークを利用する際にいろいろと問題が生じていた[5]。
また1990年代初頭までは、インターネット接続の手段として専用線以外にUUCP接続が広く使われていた。UUCPでは電子メールやネットニュース等の配信をバケツリレー方式で行うが、このリレーの途中にある組織のネットワークが何らかの要因(定期メンテナンス・障害等)で停止すると、それらの配信がストップしてしまうという問題があった。特にネットワークトポロジーの中心に近いところの機関(いわゆる「上流」)でネットワークが停止すると、その機関から配信を受ける多くのネットワーク(いわゆる「下流」)に影響が出ていた。
これらの要因を受け、1980年代後半になると特に企業から「利用目的に制限のないネットワーク」や「上流のメンテナンスの影響を受けない安定した接続」を求める声が強まったことから、1987年にUUNETが設立されサービスを開始。当初は非営利組織としてサービスを開始したUUNETだったが、ISPというビジネスが成り立つ目処が立ったことから2年後の1989年に商用化され、以後米国内で多くの商用ISPが発足した。同じく1989年には、マサチューセッツ州ブルックライン市に拠点を置くThe Worldも世界初期のビジネスとしての一般向けのインターネット・サービス・プロバイダ事業を開始した[6][7]。
当初はUUNETを含む商用ISPはいずれも「UUCPやTCP/IPを通信プロトコルに用いた、NSFnetとは異なるもう一つのネットワーク」という扱いだったが[8]、これら商用ISPによるネットワークは急速に拡大。1991年には商用ISP同士の初の相互接続点である「CIX」が発足した。さらに、1993年のビル・クリントン政権発足に伴う情報スーパーハイウェイ構想等の影響から、NSFnetがそれまでの方針を転換し「学術研究目的以外の利用も認める」ことになったため[9]、NSFnetと商用ISPの間の障壁が消滅し事実上ネットワークが統合された。この結果全米を網羅する巨大なネットワークが誕生し、以後のインターネットの隆盛につながっていくことになる。
日本では1980年代終盤頃からWIDEプロジェクトやJUNETなどが相次いで立ち上がり、企業や大学等が参加する大規模なネットワークが構成され、米国の流れを受けて1990年代に入り多くの商用ISPが発足した。
沿革
- 1987年 - UUNETがサービスを開始。
- 1989年 - UUNETが正式に商用化される(世界初の商用ISP)。
- 1990年 - ダイヤルアップ接続に対応する初の商用ISPとして「The World」が発足[10]。
- 1991年 - 米国の商用ISP同士の相互接続を行う組合として「CIX(Commercial Internet eXchange)」が発足[10]。
日本における歴史
- 1992年 - AT&T Jens(現JENS SpinNet)が日本初の、またインターネットイニシアティブ(IIJ)が日本企業初のISPとしてサービスを開始する。同年、ニフティサーブ(現・ニフティ)をはじめとして、パソコン通信サービス事業者は相次いでインターネットとの相互接続サービスを開始。
- 1993年 - TWICSが日本初の個人向けISPとなる。
- 1994年 - ASAHIネットがインターネット接続サービスを開始。
- 1995年 - インターキューがダイヤルQ2を利用した非会員制の個人向けISP事業を開始。
- 1996年 - NTT直営(当時)によるプロバイダ事業「OCN」が開始され、アクセスポイントの拡充が図られる。
- 1999年 - NTTドコモがiモードを開始。以後携帯電話からのインターネット接続が急速に普及する。
- 2000年前後 - ADSLやCATV、FTTHを用いたいわゆるブロードバンド回線が、Yahoo! BBのADSLプロバイダ事業参入以降急激にその価格を下げ、一般的となった。同時に中小事業者の淘汰が進行する。
- 2002年 - 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)施行。
- 2003年4月1日 - ISP8社(OCN・DION・So-net・BIGLOBE・nifty・ODN・ぷらら・Panasonic hi-ho)を幹事ISPとしてIP電話の普及を目的とした「IP電話普及ISP連絡会」を発足。
主なサービス内容
テンプレート:国際化 インターネット接続サービスの提供としてインターネットへのコネクティビティ(接続性)を提供する事を主要なサービス内容とする。その他付帯的なサービスとしては電子メールアカウントの提供、ウェブページ公開用スペースの提供、またISP独自によるポータルサイトを運営しており、併せてコンテンツサービスを提供する業態が一般化している。
サーバに対する負担やセキュリティーの問題から、CGIやSSIなどの利用に制限を設けている場合がほとんどである。
近年はIP電話やVODなどのブロードバンド回線を活用した付加サービスも一般化している。その他、企業向け等に専用線接続サービスやVPN、ホスティングサーバ(俗に言うレンタルサーバ)、ドメイン名取得手続きの取次ぎ、ASPなどの提供なども行う。また、一般的ユーザ向けにサービス利用のためのユーザサポート(電話やメール、さらには出張サービス)も行う。
回線事業者
ダイヤルアップ接続の全盛の時代には、ISPの主要サービスは、アクセスポイントからインターネットまでの接続性の提供であった。この場合、電話会社がアクセス回線を提供する回線事業者であり構造は明解であった。ブロードバンドインターネット接続全盛の今日では、様々な種類の接続方式、手段があるため、複雑化している。
法的には、日本国内におけるISPは届出電気通信事業者の中で「電気通信回線設備を設置しない事業者」という区分(旧一般第2種電気通信事業者)にあたる。なお、ISP事業の開始に当たっては総務省(総合通信局)への届け出が必要である。ISP事業は、届出電気通信事業者(電気通信回線設備を設置する事業者)や登録電気通信事業者、認定電気通信事業者の事業範囲に含まれる為、これらの事業者がISPを兼ねる場合もある。
このように、「電気通信回線設備を設置する事業者」を、ISPとの対比における「回線事業者」と呼んで、通信事業者の領域としてISPとは区別する場合がある。この場合、回線事業者の回線はアクセス回線、アクセスネットワークなどとも呼ばれ、POI(Point Of Interface)において、ISPの回線と接続される。回線事業者は、POIからラストワンマイルを経てユーザー宅までの接続回線を提供する。ISPは、POIからISPのバックボーン・ネットワークを経て、IXまでの接続性[11]を提供する。バックボーン・ネットワークは、ISPの規模により、全国に広域展開しているものから、単一~少数回線によりIXあるいは上位のISPまで接続しているだけのものまで、様々である。
事業者が従来から保有してきた回線を活用したり、またはISP自体が積極的に回線を構築(投資)するなどにより、ISPが回線事業者を兼ねて一体化したサービスを提供することを強みとする事業者もある。ADSLやCATV、FTTHなどのブロードバンド回線サービスのほか、無線アクセス(FWA:Fixed Wireless Access)などの無線ネットワークサービスにおいても見られる。携帯電話やPHSにおいても、各移動体通信事業者(キャリア)がISPサービスも提供している形態もある。これらの場合において、ISPと回線事業者との組み合わせが1対1であってISPを選択できないようなサービスの場合は、事業分界点としてのPOIは明確にならない。
また、ISPが回線事業者からの接続回線の卸提供を受けて、ISPサービスと接続回線サービスを一体化(ホールセール、whole sale)して提供する形態もあり、CATV、FTTH、ADSLなどブロードバンド回線に多く見られる。
2006年時点での主な提供サービスをまとめると、
- インターネットへの接続性の提供
- メールアカウントの提供(社によっては家族用などの目的で、一つの契約で複数のアカウントを取れる場合もある)
- ホスティングサーバ(ウェブページ公開スペース)の提供
- アプリケーションサーバの提供
- ニュースサーバ(ネットニュース)の運営(BIGLOBE、@nifty、DTI、ODN、IIJ、Yahoo! BBのように中止したか当初より持たないところも多い)
- 独自ドメイン名(.jpドメイン、.comなどのgTLD、.tv(ツバル)など一部他国ドメインなど)取得手続きの代行(レジストラ)
- いわゆる迷惑メールや、コンピュータウイルス入りメールのチェックサービス(一部)
- ダイナミックドメインネームシステム(一部)
- ポータルサイト運営
- 音楽や映像などのコンテンツサービスの提供(ビデオ・オン・デマンドなど、大手一部)
となっている。
無料プロバイダ
プロバイダの中には、接続料が不要なものもある。最も一般的なものはダイヤルアップ回線を利用した無料プロバイダで電話料金のみ負担すれば使用できる。初期はライブドアなどが有名であったが、ブロードバンドの普及に伴って事業者が減少している。なお専用ソフトをインストールし、広告を表示することによって収入を得るというビジネスモデルの事業者もある。
無料プロバイダには有料プロバイダでサイトにアクセスして会員登録をした後、IDとパスワードを使ってログインするものと、全員共通のIDとパスワードが公開されているものがある。後者の場合は、出先でいきなりネットに接続する際に利用価値が高い。
2006年に平成電電の事業休止に伴い、多くの無料プロバイダでアクセス回線に利用していた回線が現在利用できないため、複数の無料プロバイダが事業縮小してしまった。その代用としてソフトバンクやKDDIの回線をアクセスポイントとして提供した事業者もあるが、この回線は携帯電話から掛けられないため、モバイラーにとっては無料プロバイダの選択肢がほとんどない状況となっている。
事業者としての課題
継続的に技術の進歩および厳しい価格・サービス競争にさらされており、ISPの吸収合併などの再編も一部では見られている。
ダイヤルアップの時代にはパソコン通信と同様にオンラインサインアップにより接続設定し、すぐにサービスを利用開始できるようにし、新規ユーザの獲得に貢献した。また、CD-ROMによるオンラインサインアップ用のソフトウェアの配布(店頭、雑誌添付など)、新規購入PCへのバンドル(初期インストール済)などもある。
ブロードバンド回線の普及以降、ユーザへのISPサービス普及率の大幅な増加、それによる新規加入者数増の鈍化などが表面化し、サービスの差別化のほかにユーザを他のISPから乗り換えさせる方針に重点が置かれている(乗り換えたユーザへの料金割引など)。一方で、各地に多数存在したダイヤルアップ接続用アクセスポイント回線の縮小が、ナビダイヤルなどの特殊番号サービスを利用した「全国共通番号」などの形で進行している。
ブロードバンド回線の普及に伴い急増しているコンピュータウイルスやスパム(いわゆる迷惑メール)へのセキュリティ対策も、ユーザへのサービス提供も含めて重要となっている。ISPによっては他社とのサービスの差別化の一つとして、スパム対策サービスや電子メールのウイルスチェックサービス、パケットフィルタリングサービスを有償または無償で提供している。
またセキュリティだけでなく、ユーザ数の増加・一般化に伴い、ユーザ自身による不正、不法または違法な行為への対処も(一部限定的ながらも)求められている。(例としては迷惑メールの発信元対策としてのOP25Bの導入など)
上記のような状況や、ブロードバンド化による通信量の増加などに対応する設備投資が負担となり、通信キャリア系列や一部の大手電機メーカー系列などの大手事業者以外の中小事業者(いわゆる地場系のプロバイダ)は経営が苦しくなり、淘汰が進んでいる。
NHK受信料
NHKの諮問機関「NHK受信料制度等専門調査会」は2011年7月、放送がインターネットでも同時送信される時代になることを前提に、ISPの加入者からも受信料を徴収する新たな仕組みを提言した。これに対して、民放連の広瀬道貞会長は平成23年7月21日の記者会見で,「受信料で行うならば,大部分の人がネットで視聴できる環境を整備しなければならない。そのためのサーバーなどを備えるには大変な設備投資が必要で,受信料によるコスト負担は高額になる。」と述べた。[12]
日本の主なプロバイダ
- 上場しているプロバイダ
- ASAHIネット(朝日ネット) - 東証一部
- IIJ4U・IIJmio・IIJモバイル(インターネットイニシアティブ) - 東証一部・ナスダック
- i-revo アクセス(アイレボ-) - コナミとの合弁で設立。
- hi-ho(ハイホー) - 以前は松下電器(パナソニック)系列。
- @nifty(ニフティ) - 東証二部
- NTT系列のプロバイダ
- モバイルブロードバンド
- mopera U(NTTドコモ) - モバイルブロードバンド向けプロバイダ
- ホームブロードバンド
- OCN(NTTコミュニケーションズ) - ホームブロードバンド向けプロバイダ
- ぷらら(NTTぷらら)
- InfoSphere(NTTPCコミュニケーションズ) - 法人向けプロバイダ(個人向け事業はOCNに統合)
- WAKWAK(NTT-ME) - NTT東日本系。
- モバイルブロードバンド
- KDDI系列のプロバイダ
- モバイルブロードバンド
- au.NET - au
- ホームブロードバンド
- au one net
- JCNインターネット(ジャパンケーブルネット)
- コミュファ(中部テレコミュニケーション) - 以前は中部電力の完全子会社。
- モバイルブロードバンド
- ソフトバンク系列のプロバイダ
- モバイルブロードバンド
- アクセスインターネット(ソフトバンクモバイル)
- ホームブロードバンド
- モバイルブロードバンド
- 鉄道会社系列のプロバイダ
- CYBER STATION(鉄道情報システム) - JRグループ系。
- Tigers-net.com(アイテック阪急阪神) - 阪急阪神ホールディングス系。阪神タイガース公認ISP
- イッツ・コミュニケーションズ - 東京急行電鉄系
- 近鉄ケーブルネットワーク(KCN) - 近畿日本鉄道系
- 電力会社系列のプロバイダ
- 電機メーカー系列のプロバイダ
- ケーブルテレビ・有線ラジオ放送系列のプロバイダ
- @NetHome(テクノロジーネットワークス) - J:COM系。
- ZAQ(テクノロジーネットワークス、旧関西マルチメディアサービス) - J:COM系。
- @TCOM(TOKAIコミュニケーションズ)
- 無料プロバイダ
- Soloot
- アルファ無料接続サービス(アルファインターネット)
- かるがるネット (日本システムケア)
- その他のプロバイダ
- Qit(UCOM)
- spaaqs(UCOM) - 旧GyaO 光(UCOM)
- BB.excite(エキサイト)
- PRIN(WILLCOM) - WILLCOMのPHS専用ISP
- Nexyz.BB(ネクシィーズ) - ソフトバンクBBが提供するADSLのアクセスラインを利用した個人向けインターネット サービス
- AOL(イーアクセス)
- ドルフィンインターネット - 日本国内のインターネット黎明期から存在する一次プロバイダ。現在では珍しい、or.jpドメイン及びad.jpドメインを保有する。
- DTI(ドリーム・トレイン・インターネット) - フリービット系列。以前は、三菱電機系列、東京電力系列。
- InfoPepper(インフォペッパー) - 以前は東芝系列。
- エディオンネット(エディオン、旧デオデオエンジョイネット)
- BStreamおよびTINet-I - スピーディア。以前は東北電力系列。
- GMOとくとくBB(GMOインターネット)
- ZERO(GMOインターネット) - 以前は無料プロバイダだったが現在は有料プランのみ。
- グリーンネットISP[1]
- リンククラブインターネット[2]
- Toppa!(Hi-bit)
- AKB OFFICIAL NET - フルキャストマーケティングがシステムを提供。AKB48のファンクラブにもなっているという変わり種。
- かつて存在したプロバイダ
主なプロバイダ
脚注
関連項目
- アプリケーションサービスプロバイダ(ASP)
- コンテンツプロバイダ
- インターネットエクスチェンジ(IX)
- ダイヤルアップ接続, テレホーダイ, フレッツ
- プロビジョニング