報道特別番組
報道特別番組(ほうどうとくべつばんぐみ)とは重大な事件・事故、災害などの事態などが発生した時、日本の放送局が、その日予定されている番組(番組編成)を急遽変更して放送する報道番組の一般的な呼称である。俗に言う「臨時ニュース」のことでもある。特報(とくほう)とも呼ばれるほか、報道特番(ほうどうとくばん)との略称もある。
概要
正しくは「特別編成による報道番組」のことである。即ちその日予定されている番組編成枠(時間枠)に変更を加えて放送するもので、且つその内容が「報道」であるものを示し、別途規定される。時間枠に変更のないものは、報道特別番組ではなく「番組内容の変更」として扱われ、通常の手順によって放送される。つまり、「報道特別番組」「報道特番」「特番」といった場合には、単に予定されている番組の「その日のタイトル」であることが多くあるので、ここでは時間枠に変更を加えて放送する、すなわち特別枠として扱われるものを「報道特別番組」と定義して述べる[1]。大地震や大津波などが発生し、かなりの緊急性を要する場合は「緊急」の語が更に冠されて放送することがある。
日本放送協会(NHK)は災害対策基本法や国民保護法で、報道機関唯一の指定公共機関に指定されており、NHKは大災害の際には被災者の生命と財産を守るため、防災情報を正確・迅速に放送する責務を、有事の際には警報、避難の指示、緊急通報の3つの緊急情報を放送する責務を負うことになっている[2][3]。またNHKと各民間放送局(民放)ともに報道特別番組の実施についてはそれぞれ特別の規定(自主規定)を持ち、これに従って報道特別番組は実施される。民放の場合、広告出稿者(スポンサー)との出稿契約時に、報道特別番組時のコマーシャルメッセージ(CM)の取り扱いについて別途、取り決めがなされる[1]。
テレビ・ラジオの持つ「同時性」「臨時性」「機動性」を最大限に活用することは国民から電波を負託されている放送局の使命であり、国民に対して一刻も早く重大な情報を伝えることを目的として実施されるものが報道特別番組である。例えば一般的に、突発的な事件・事故が発生した場合、放送局の報道担当部署は番組編成担当部署に緊急連絡を入れる。番組編成担当部署は事件・事故の状況、規模、今後の見通しなどを報道担当部署に確認、意見を聞いた上で「いつ」「いかに」伝えるかを判断、さらに関連するセクションと協議して報道特別番組の実施を決定する。この判断の基準は原則として各放送局・各放送系列の持つ自主規定である。従って各放送局・各放送系列によって、どのようなものを報道特別番組とするかの判断には違いがあり、結果、同じ内容のものであっても放送する放送局と、「放送しない」、即ちその日に予定されている編成枠内で扱う程度に留める放送局に分かれることがある[1]。
具体例
- 災害
- 実施される代表例である。水害、震災、噴火、火災などで大きな被害が出ている・またはその可能性のあるような場合。
- 局地的なものについては、地元ローカルないしブロックローカルで収めることがある。
- NHKは気象業務法第15条第1項・第6項の規定により、気象、地象、津波、高潮、波浪および洪水の警報が出た時は報道特別番組を開始し、開始前の番組内容は中断となる(民放で使用されているような『報道特別番組』のタイトル出しはなく、直ちにニューススタジオへの映像に切り替え「ここでニュースをお伝えします」のアナウンスと共に、そのままニュースに入る[4])。特に震度6弱以上の地震が確認された場合は、報道特番開始時にNHK独自のチャイム[5]を鳴らし(それが定時ニュースの最中だったとしても例外ではない。静岡県東部地震は東日本大震災特集となった『ニュースウオッチ9』の放送中に起きた)、さらにその地震によって気象庁または各地方の気象台より津波警報または大津波警報が発表された場合には緊急警報放送を発信し、一層の注意、警戒を呼びかける。2006年以降になると緊急地震速報を利用したシステムが導入され、津波情報の伝達が地震発生から1~2分程度と非常に速くなったため、海底が震源の強い地震が発生した場合は緊急警報放送(津波警報が出ず津波注意報のみ発表の場合は津波注意報の発令を示す日本列島地図の表示)と同時に報道特別番組が開始というケースも多くなっている。
- 戦争
- 国際的に重要視される国同士の戦争が起こった際に行なうこともある(2003年の「イラク戦争」勃発時など)。小国同士の武力衝突レベルでは行なわない。
- 国内政治
- 内閣総理大臣の内閣総辞職表明、または組閣および内閣改造や衆議院解散、国会による証人喚問などの場合。
- これ以外には、2005年の郵政国会(第162通常国会および総選挙後の第163特別国会)において、郵政民営化法案の本会議採決が行われた際にNHKとフジテレビが報道特別番組を編成したケースがある。この法案は当時内閣総理大臣の小泉純一郎の悲願であり、第162通常国会における採決の際には「否決された場合は衆議院解散に踏み切る」(郵政解散)と宣言していた。ただし、法案採決の模様を生中継するために実施されたケースは少ない。また内閣総理大臣指名選挙の中継は、総辞職・総選挙後に行なわれる最初の臨時国会召集で行なわれることが分かっているので、報道特別番組になることはない。
- 重大な刑事事件
- テロリズムやハイジャック、大量殺人など、多数の死傷者が出ていると見られる、もしくは多数の市民の生命が危険に晒されるような事件が発生した場合。1970年3月のよど号ハイジャック事件、1972年2月のあさま山荘事件、1974年8月30日の三菱重工爆破事件、1979年1月26日の三菱銀行人質事件、1989年8月の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件、1994年6月の松本サリン事件[6]、1995年3月の地下鉄サリン事件[6]、1997年5月の神戸連続児童殺傷事件、1998年7月の和歌山毒物カレー事件、2000年5月の西鉄バスジャック事件、2008年6月8日の秋葉原無差別殺傷事件がその前例。特にあさま山荘事件や地下鉄サリン事件では、終日実施された。なお、NHKで放送されたあさま山荘事件の人質救出日の報道特別番組は視聴率50.8%を記録し、現在も報道特別番組の視聴率としては、歴代最高の数値である。
- 強制捜査
- 国民的関心の高い事件(上の「重大な刑事事件」以外にも政治事件や経済事件も含まれる)において、当事者に対して強制捜査が行われた場合。過去にはロッキード事件(1976年)やリクルート事件(1989年)、一連のオウム真理教事件(1995年)などがある。2000年代後半以降では、2006年1月のライブドア社に対する強制捜査(ライブドア事件)や、2006年6月の村上ファンドに対する強制捜査(村上ファンド事件)[7]などがある。特にオウム真理教の強制捜査では、終日、断片的に実施された。
- 大事故
- 旅客機の墜落事故や大きな鉄道事故など多数の死傷者が出ていると見られるような事故が発生した場合。1985年8月のJAL123便墜落事故や2000年3月の営団日比谷線脱線衝突事故、2005年4月のJR福知山線脱線事故がその前例。とりわけ、後者の福知山線脱線事故は事故の当事者・JR西日本による杜撰な対応やいわゆる「日勤教育」が露呈したことにより会社自体の信頼を大きく失墜させ、宣伝広告活動の長期自粛に追い込まれる事態となった。
- 刑事裁判
- 1976年2月のロッキード事件やオウム真理教事件など、大きな事件の重要な公判(初公判や判決公判)の場合に実施されることがある。また、2009年8月3日から東京地方裁判所で始まった足立区女性整体師刺殺事件の公判(裁判員制度による初めての公判)や2009年10月の酒井法子の覚せい剤取締法違反事件の公判の時も実施された。
- 日本国外の重大事件・事故
- 日本国外の要人の死亡や大規模なテロ事件、戦争勃発などの場合。1963年11月のケネディ大統領暗殺事件[8]、1983年9月の大韓航空機撃墜事件、1991年1月の湾岸戦争、1991年8月のソ連クーデター、1997年8月の元皇太子妃・ダイアナの事故死、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件およびその後の対テロ戦争、2003年3月のイラク戦争、2006年7月と2009年4月の北朝鮮のミサイル発射、2006年10月の北朝鮮の核実験、2011年12月の当時総書記・金正日の死去がその前例。
- 皇室関連
- 重篤な病気や崩御・薨去などの不幸の場合のみならず、即位や婚約・結婚、妊娠判明・出産などの慶事の場合であっても実施されることがある。
- 昭和天皇が崩御した1989年1月7日(午前8時以後)と1月8日は、通常番組編成を全て休止し特別編成に差し替え、また国民全てが喪に服すために派手な歌舞音曲も自粛するという観点から民放のCMの放送も自粛した(「Xデー」)。2月24日の大喪の礼の時間中も同様の処置が取られている。
- その他
- その他にも、国民的関心の高い出来事と思われる場合に実施される。1969年7月21日のアポロ11号月面着陸や2012年11月7日のアメリカ合衆国大統領選挙などがその前例。
放送について
NHKおよび各民放キー局がほぼ横並びに全国ネットとして実施するケースが多い。
現在(2011年4月 - )、NHKの報道特別番組は主に総合テレビ、BS1、ラジオ第1放送と日本国外向け国際放送のNHKワールド・プレミアム(有料放送の時間帯であっても特設ニュースがあった場合はノンスクランブルでの無料放送に切り替わる)、NHKワールド・ラジオ日本で放送される。
Eテレとラジオ第2では、原則として実施されない。そのため、Eテレ・ラジオ第2のみ通常番組を放送しているというケースもある。
なお震度6強・7を超える大型の地震、津波警報・大津波警報を伴う津波[9]、天皇崩御や軍事攻撃などの非常事態が発生する恐れがある場合は、Eテレ、ラジオ第2、NHK BSプレミアム(BSプレミアム発足前はBS2・ハイビジョン)を含めて全チャンネル共通放送(全中)となる場合がある(過去に天災では日本海中部地震、阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災が、それ以外では1989年の昭和天皇崩御の例が挙げられる)
判決などである程度、時刻が予定されているものについては、当日の新聞のテレビ欄などでその放送を予告するか、「中断あり」などと掲載することもある(東日本大震災翌日の3月12日には全てのチャンネル(ラジオ第2は地方紙の一部除く)で「本日は終日ニュースを放送します」の表示がされ、開始・12時・19時・深夜の区分け部分でも「ニュース(東日本大震災関連)」とのみ書かれた)。NHKと民放では、ネット各社やCMとの関係を調整する必要のある民放の方がNHKよりもその「第一報」について遅れる傾向にある。
実施にあたっては、放送中の番組を中断したり、予定していた番組の放送全てを中止、もしくは延期という措置をとることになるため、放送局には視聴者からの苦情や放送時間についての問い合わせが数多く寄せられることになる。
また放送予定だった番組を後日改めて放送するためには、別途、放送枠を編成する必要がある。バラエティ番組では、1週分の収録を休止し、収録ペースを元に戻すことが多い。
帯番組となっている昼ドラマやバラエティ番組は土日を除く5日間放送するため後日改めての放送は困難であり、深夜番組帯(午前0時半以降)に放送する場合が多いが(『ライオンのごきげんよう』や東海テレビ制作『昼ドラ』など)、2009年3月までTBS系列で平日午後1時台に放送されていたものについては、翌日の午前10時台を代替放送枠に設定していることが多く、過去に放送が中断や休止されたものはその全てを翌日午前10時台に代替放送することで調整していた。一方、1993年まで放送されていた『100万円クイズハンター』は、放送が中断・休止された日の分は次の日曜日の早朝6時から代替放送された。生放送番組は企画流れとなってしまうが、時事を取り扱う情報番組・ワイドショー番組等については、報道特別番組に準ずる内容にして放送を維持することも多い。この場合、予定内容を一部変更して放送する旨がテロップもしくはキャスターコメントで伝えられる。さらに、(その情報番組・ワイドショー番組に)定期出演しているタレントはこの回に限り不出演とし、アナウンサー・フリーアナウンサー等のみで進行する場合もある。また、正式な報道特別番組に変更するためにその番組としては休止になるも、報道特別番組のキャスターをその番組の出演者が担うというケースもある。
一方、テレビ東京系列では、全国ネットでの報道特別番組が実施されることは少ない。報道特別番組においては、必然的に各局が同じ事件や事故などについて放送することになるため、その内容も似たものになりがちで、扱われる事例によっては食傷気味になる視聴者もいる。このため、通常番組を放送しているテレビ東京系列にチャンネルを合わせる人も多く、普段は視聴率最下位のことが多いテレビ東京系列が、この時に限っては通常よりも高視聴率を記録したケースもある。特に大災害などの時には発生から一週間以上、報道特別番組しか報道しないこともあるため、被災者がテレビ東京系列の通常放送を視聴して平静を取り戻せたというケースもある一方で、視聴者から批判が寄せられることもある。 テンプレート:See also
ラジオは通常番組を放送し、長時間編成が短期間で終わることが多い。2011年3月の東日本大震災の場合、首都圏でも千葉・茨城を中心に甚大な被害が出たため、地震発生直後の11日午後から13日深夜29時(翌14日5時)まで断続的に特別番組を放送し続けた(ラテ欄には通常番組タイトルの並んだ地域もあるが、内容を変えた局もある)。また特番編成を終えた後も特別な枠を作る局もあった(JFN系列「TIME LINE」(TFMで放送しているものを枠拡大、並びに全国ネットさせた)、「HOPE MAIL」)。一方、ラジオ福島は直後の12日は完全にCM抜き・災害報道に移行。以後350時間(14日間)に渡って非常態勢を採った[10]。
1990年代後半まで民放では、激しいBGMやテロップ等を使用する演出が見られたが、後にこのような演出は少なくなった。
NHK・民放キー局いずれも有事発生時、地上波(NHKの場合、総合テレビ)で放送する報道特別番組を自らが保有するBS放送でもサイマル放送する場合がある。
民放におけるクロスネット局では、大震災発生時等各キー局が揃って長時間の報道特別番組を編成している際、各キー局発の報道特別番組を飛び降り・飛び乗りを繰り返しながら放送することがある。民放テレビにおけるクロスネット局では、報道特別番組の系列切り替えを行う際、「ここで○○(系列)報道特別番組を終了し、ここからは○○(系列)報道特別番組をお送りします」という趣旨のテロップを流して対応することもある[11]。
民放ローカル局では、有事発生時に通常時は自局でネットしない、ないし飛び降り・飛び乗りとしているキー局発の情報・報道番組、ワイドショー番組を事実上の報道特別番組として臨時ネット・フルネットすることがある。
報道特別番組中のCMの扱い
CMの放送については、各局、各系列によって契約が少しずつ異なることから違いがある。
- NNN - 当該時間帯の提供は全てパーティシペーション(スポットCM)扱い。ただし、事前に設定されている特番の一部においては、スポンサー及び提供クレジットを付けて放送することもある。
- ANN、FNN - 当該時間帯のスポンサーをそのまま特番のスポンサーに置き換えて提供クレジット込みで放送。ローカル枠など極一部についてはパーティシペーション扱い。
- JNN - 当該時間帯の提供は全てパーティシペーション扱い。
- TXN - 当該時間帯のスポンサーをそのまま特番のスポンサーに置き換えて提供クレジット込みで放送。
ただ、多くの民間企業が宣伝目的であるCMの放送を自粛するケース[12]もあり、このような場合はACジャパンやJARO、地上デジタル放送推進などのCMに差し替えられる。
また、時間帯や内容によってはCMの一部もしくは全てが放送されないこともあるため、その際には営業担当社員がスポンサーや広告代理店に事実関係の報告をし承諾を得る連絡に追われることになる。ただしスポンサー契約の際にあらかじめ「報道特別番組など突発的な臨時編成を組む場合の対応」についての特約条項が盛り込まれるようになり、混乱は少なくなった。
とは言え、報道特別番組実施中の放送進行は手動となっていることがほとんどである。特約があるとはいえCMの契約は細かく、それぞれに合わせてCM放送データの自動番組制御装置へのデータ入力作業は煩雑で、極限られた時間中にこれを行うことはミスを招く結果となり、発局ローカルCMがそのまま流れる、地元ローカルのCMが出ない、あるいは中断する、CMに入らずスタジオの映像のまま打ち合わせの風景が流れるといった放送事故(CM事故)も多い。
NHKのみ、CMが存在しないので、非常に臨機応変な対応が可能である。
参考文献等
関連項目
de:Eilmeldung en:Breaking news fr:Édition spéciale he:מבזק חדשות (טלוויזיה)
pt:Plantões jornalísticos- ↑ 1.0 1.1 1.2 テンプレート:Cite book
- ↑ 日本放送協会防災業務計画 NHKのHP
- ↑ 日本放送協会国民保護業務計画 NHKのHP
- ↑ 他に、民放での珍しいケースとして、TBSテレビが東日本大震災の時に『3年B組金八先生』を再放送中だったが、“宮城県北部で震度7”の速報テロップを繰り返したのち、「番組の途中ですが、先程からテロップでお伝えしていますとおり―」と打ち切って切り替え、同時に大津波警報の発表を伝えた。「JNNニュース」の表示も出なかった
- ↑ 1941年12月8日早朝の、真珠湾攻撃開始と太平洋戦争勃発を伝える大本営発表当時から使用されているもの
- ↑ 6.0 6.1 オウム関連事件。同項も参照。
- ↑ これらの事件はフジサンケイグループ大再編や放送持株会社制導入のほか、買収防衛策(M&A)導入企業増加の契機ともなった。
- ↑ 日本初の衛星中継はこのニュースで行なわれた
- ↑ 地震・津波による緊急警報放送システム発動時も同様である。
- ↑ ラジオ福島・編『ラジオ福島の300日』毎日新聞社
- ↑ 2011年3月の東日本大震災発生時のテレビ大分・テレビ宮崎のケースより
- ↑ 自動車・食品・電機等メーカー、保険・金融・通信関連セクターの企業が中心。