CASSHERN
『CASSHERN』(キャシャーン)は、2004年公開の日本映画。1973年から1974年にフジテレビ系列で放送された、タツノコプロによるテレビアニメ『新造人間キャシャーン』を原作とする実写映画である。
目次
概要
映像作家・紀里谷和明の商業映画監督デビュー作品。主題歌を妻(当時)の宇多田ヒカルが担当して話題になった。また、豪華なキャスト陣も注目された。主要キャラクターの名前や家族構成、一部の象徴的デザインを原作から継承しているが、多岐にわたる設定変更と共に、ほぼ総ての登場人物が凄惨な死を遂げる神話めいた悲劇に翻案されている。監督曰く「見た後に、その人が何かを考える作品」。美術面ではCG・マット画によるロシア構成主義様式の都市景観やスチームパンクな移動機械群が登場する。また、人物劇では立ち位置や台詞、構図等を敢えて舞台劇風としたり、殺陣・アクションシーンではより多くのカットに分断し劇画的な構図変化を強調する等の演出特徴がある。照明・色彩・質感は全編にわたり加工されている。ほぼ全編スタジオ撮影[1]でグリーンバック合成が多用された。老医師役を演じた三橋達也は本作が遺作となった。製作費6億円[2]に対し、興行収入約15億3000万円と商業的には成功している。
地上波テレビでは2006年2月12日に『日曜洋画劇場』で放送された。[3]
2013年3月26日にはニコニコチャンネルで「人類vsコンピュータ映画特集」の一作品として放送された。
北米ではドリームワークスが2004年11月に配給権を獲得していたが2007年10月16日にDVDとしてリリースした[4]。アジア、ヨーロッパ各国でも公開されVHS、DVDが発売されている。また、国内に先行しイタリアで2008年、ドイツで2010年にBlu-ray Discが発売されている。
あらすじ
現実とは異なる歴史を歩んだ世界。超大国大亜細亜連邦共和国はヨーロッパ連合との50年の長期大戦に勝利したが、国土・人心は荒廃しきっていた。環境破壊と汚染は深刻で公害病は蔓延し、人種階級差別を是とする政策へ反発する内紛も各地で起きていた。
遺伝子工学の第一人者である東博士は画期的な再生医療を可能とする新理論「新造細胞」を発表。実用化のため理解と支援を広く求めたが、学会の反応は冷たかった。しかし軍上層部が興味を示し、貿易商社・日興ハイラルの社員・内藤を通じ支援を申し出る。難病を患う妻ミドリのためにも、一刻も早く研究を完成させたい東博士は申し出を受ける。
東博士の一人息子の鉄也は、長年研究のみに没頭し続ける父への反発から従軍を決意する。東博士は鉄也の婚約者ルナや病のミドリのためにも思いとどまるよう促すが、鉄也は余計に反発してしまう。鉄也は激戦区の第七管区に派兵され、ある日上官に強要され無抵抗の女性住民を撃ち殺してしまう。
一年後、鉄也は作戦中に戦死する。陸軍本部に鉄也の遺体が届く頃、異形の稲妻が建物を貫き、同施設内の東博士の研究所では異変が始まる。新造細胞培養槽の生体部品群がひとりでに結合を始め、無数の人の姿となって蘇生を始めた。何かに気づいた内藤は即時に蘇生体殲滅を指示し、数百の蘇生体が再び惨殺される。
奇跡的に逃げ延びた蘇生体のリーダー「ブライキング・ボス」は仲間の「サグレー」[5]「バラシン」「アクボーン」と共に自らを「新造人間」と名乗り、人類への復讐を誓う。一方、東博士はなにかを確かめるように鉄也の遺体を培養槽に浸す。すると鉄也は息を吹き返した。放浪の末に大量のロボット兵器群を発見し、人類へ宣戦布告した新造人間。死から蘇ると同時に彼らと同じ超人的身体能力を宿した鉄也。運命は数奇にもつれていく。
設定
- 新造細胞
- 東博士の研究テーマ。ある少数民族の体内で見つかった特殊細胞を適切に操作培養することで、万人に移植可能な人体臓器を自由自在に作り出すことができる。というもの。ES細胞をヒントに設定された。
- 研究所の新造細胞培養槽は異形の雷が落ちて以後、想定外の機能を示すようになる。
- 新造人間
- 新造細胞培養槽から生まれたブライキング・ボスが自らの種に付けた呼称。人間と変わらない知性・容姿を持つが、超人的身体能力を有している。しかしその身体能力故に肉体に負荷を与える結果となり長く生きる事が出来なかったが、ブライキング・ボスたち新造人間は放浪の末にかつてのヨーロッパ連合の研究所を発見し、そこにあった薬品を独学で解読して調合・投与することによって抑えることができた。
- 鉄也の場合、蘇生後の筋肉の異常発達によって内圧が上がり、そのままでは分裂、破裂してしまう。しかし上月博士が試作の高機能ボディアーマーを着装させ外から抑え込んで解決した。
- 民族優位主義政策
- 出自民族により厳格に社会地位を分ける階級制度。下層階級出身者には手首を一周する刺青がある。
- 第七管区
- 大亜細亜連邦共和国内でテロにより抵抗を続けている少数民族の住む地域。従軍した鉄也の派兵先。
- キャシャーン
- 第七管区の民族が信仰する守り神。神像は両手に雷を握り背中に羽根を持った青年の姿。鉄也はここに住む恩人の老医師に「村を守ってくれ」と頼まれ、自らキャシャーンを名乗るようになる。
- 高機能ボディアーマー
- 兵装学者である上月博士が歩兵用に開発していた外骨格スーツ。爆風などの衝撃に耐えられるほどの強度を持ち、腰部に装着しているスラスターで飛行が可能な他、スラスターの先端部に装備しているワイヤー付きのニードルハーケンで攻撃することが出来る。また、マスク部分には本来は戦意高揚のために開発したモルヒネ散布口があり、モルヒネによりある程度の痛覚を軽減することができる。
キャスト
- 東鉄也 / キャシャーン(元兵士、新造人間) - 伊勢谷友介
- 上月ルナ - 麻生久美子
- 東博士 - 寺尾聰
- 東ミドリ - 樋口可南子
- 上月博士 - 小日向文世
- アクボーン(新造人間) - 宮迫博之
- サグレー[5](新造人間) - 佐田真由美
- バラシン(新造人間) - 要潤
- 上条ミキオ / 上条中佐 - 西島秀俊
- 内藤薫(日興ハイラル社員) - 及川光博
- ルナの母親 - 森口瑤子
- ブライキング・ボスの妻 - 鶴田真由
- 坂本(東鉄也の従軍時代の上官) - 寺島進
- 関口(東鉄也の従軍時代の戦友) - 玉山鉄二
- 池上(東ミドリの助手) - りょう
- 上条又一郎 / 上条将軍(上条中佐の父) - 大滝秀治
- 老医師 - 三橋達也(特別出演)
- ブライキング・ボス(新造人間) - 唐沢寿明
- 虐殺される民間人 - HISASHI & TAKURO(GLAY)(エキストラとして特別出演)
- オープニングナレーション - 納谷悟朗
スタッフ
- プロデュース:宮島秀司、小澤俊晴
- プロデューサー:若林利明
- 監督:紀里谷和明
- 原作:吉田竜夫 / タツノコプロ『新造人間キャシャーン』
- 脚本:紀里谷和明、菅正太郎、佐藤大
- 美術:林田裕至
- 撮影監督:紀里谷和明
- 撮影:紀里谷和明 森下彰三
- 照明:渡部嘉
- 録音:矢野正人
- 衣装:北村道子
- 装飾:赤塚佳仁
- 音響効果:柴崎憲治
- ヘアメイクデザイン:稲垣亮弐
- アクション監督:諸鍛冶裕太
- バトルシーンコンテ:樋口真嗣
- コンセプチュアルデザイン:木村俊幸、庄野晴彦、D.K、林田裕至
- VFXスーパーバイザー:木村俊幸
- CG監督:野崎宏二
- CGスーパーバイザー:庄野晴彦
- プロダクションデザイナー:林田裕至
- 助監督:野間詳令
- 制作担当:武石宏登
- ラインプロデューサー:椋樹弘尚
- アソシエイトプロデューサー:野地千秋、田中誠、姉川佳弘
- 音楽プロデューサー:高石真美
- 音楽:鷺巣詩郎
- 製作:CASSHERNパートナーズ(松竹、プログレッシブピクチャーズ、エレクトリック・ゴースト、衛星劇場、テレビ朝日、朝日放送、タカラトミー、伊藤忠商事、TOKYO FM、イーンソリューションズ、菱和ライフクリエイト、ビッグショット)
テーマソング・挿入歌
- テーマソング
- 挿入歌
- 椎名林檎「茎(ステム)」
- MONDO GROSSO「LIKE NO ONE'S LOOKING」
- HYDE「MASQUERADE」
- TOWA TEI「ORIGINAL HUMAN」
- ACIDMAN「水写」
- SS:ST(Shiro SAGISU & Satoshi TOMIIE)「Pluriel」
- 鬼束ちひろ「BORDERLINE」
- THE BACK HORN「レクイエム」
- GLAY「無限のdéjà vuから〜Peaceful Session〜」
キャッチコピー
- キャシャーンがやらねば誰がやる
- 原作テレビアニメのオープニングナレーションからの引用(ただし全文ではない)。予告編等広告で用いられた。原作のナレーションは納谷悟郎だが、本作予告編ではブライキング・ボス役の唐沢寿明が語った。(納谷は本作でも冒頭のナレーションを担当しているがこの口上は含まれていない)本フレーズは後に製作された『キャシャーン Sins』のCMでも使われている。
- この地に生まれた、愛する人々に捧ぐ。
評価
旧アニメ版のように「サイボーグヒーローが悪役ロボットを次々と破壊する痛快さ」は作品のほんの一部であり、むしろ全編は暗いペシミズムで覆われ、「人間への憎悪と復讐心」に満ちた新造人間の姿と、彼等を生み出す事になった世界の退廃した時代背景を描くことに重点が置かれた。また、旧アニメ版ではブライキング・ボスやバラシンなどがロボットであったが、本作では新造人間という少数民族として描かれている。本作における荒廃した世界観は再びアニメ化された『キャシャーン Sins』に受け継がれることとなる。
公開期のマスコミ評価は押しなべて低調だった。特に2005年1月の日本映画のワーストを評価する週刊文春主催の「文春きいちご賞」[6]では『デビルマン』に次ぐワースト2位を受賞した。主に、原作と大幅に異なる世界観や、アクションシーンが強調された予告編と本編のギャップなどが批判の対象となり、監督の身内が主題歌を担当した事についても「宇多田ヒカルの新曲のプロモーション映像だ」などと辛辣なコメントで評された。
以上のように否定的な評価も多かったが、製作費6億円に対して興行収入は約15億3000万円を記録し、まずまずの成功をおさめた。監督の紀里谷自身も、2009年の『SPA!』5/5・12合併号のインタビューで「出資者に出資額を130%にして返したんです。なのに世の中的には『コケた』ってことに。」と語っており、興行的な成功にも関わらず世間の評価が低いことを指摘した。
受賞
関連商品
ノベライズ
DVD
- 『CASSHERN ULTIMATE EDITION』(2004年10月23日、松竹ホームビデオ DA-0452) - 本編ディスクと特典ディスク2枚
- 『CASSHERN [期間限定盤]』(2007年1月27日、松竹ホームビデオ) - 本編ディスクのみ
※ 2014年現在、日本国内ではBlu-ray Discは未発売。
オリジナル・サウンドトラック
- 『OUR LAST DAY-CASSHERN OFFICIAL ALBUM-』 (2004年4月23日、EMIミュージック・ジャパン TOCT-25301)
ディスク1(挿入歌、主題歌)[7]
- 「茎(ステム)」椎名林檎
- 「LIKE NO ONE'S LOOKING」MONDO GROSSO
- アルバム『LIVE ON THE NEXT WAVE 1』収録
- 「MASQUERADE」HYDE
- アルバム『666』収録
- 「ORIGINAL HUMAN」TOWA TEI
- 「水写」ACIDMAN
- 「Pluriel」 SS:ST(Shiro SAGISU & Satoshi TOMIIE)
- 「BORDERLINE」鬼束ちひろ
- アルバム『Sugar High』収録
- 「レクイエム」THE BACK HORN
- シングル「夢の花」カップリング
- 「無限のdéjà vuから〜Peaceful Session〜」GLAY
- アルバム『rare collectives vol.3』収録
- 「誰かの願いが叶うころ」宇多田ヒカル
ディスク2 (BGMのみ)
- 荒廃
- 暗影
- 胎動
- 眩暈
- 神意
- 軌道
- 復活
- 足音
- 祈り
- 幻影
- THE LAST DAY(隠しトラック、ED)
ディスク1
- 荒廃(SCENE 03)
- 暗影(SCENE 12)
- 胎動(SCENE 14)
- 帰還(SCENE 16)
- 眩暈(SCENE 22)
- 閃光(SCENE 34)
- 神意(SCENE 40)
- 逃亡(SCENE 43)
- 軌道(SCENE 51)
- 復活(SCENE 65)
ディスク2
- 足音(SCENE 72)
- 祈り(SCENE 81)
- 因果(SCENE 94)
- 策動(SCENE 104)
- 幻影(SCENE 117)
- 叫び(SCENE 138)
- 記憶(SCENE 149)
- 輪廻(SCENE 153)
- THE LAST DAY(SCENE 156)
- ありし日に見た月々のように
その他の逸話
- 紀里谷監督は元々写真家だったため、テンプレート:要出典範囲。通常の映画では助監督は2人〜4人だが、本作では6-7人がクレジットされている。
脚注
外部リンク
- CASSHERN(松竹ホームビデオ)
- 映画「キャシャーン」よくある質問と答え(FAQサイト:非公式)
- テンプレート:Movielink
- テンプレート:Movielink
- テンプレート:Movielink
- テンプレート:Movielink
- ↑ 新造人間の屋内逃亡シーンと戦場シーンの一部は廃工場ロケ
- ↑ 元々は予算6000万円程のインディーズ規模だったが、結婚後一気に名が知れ渡り、スポンサー数が増え、制作費が増えたという
- ↑ この放送では劇中ラスト数分にエンディング曲がカブっており登場人物のセリフが聴き取れなかった
- ↑ これがハリウッド関係者の目に止まり、紀里谷はハリウッドのエージェンシーと契約を果たした。
- ↑ 5.0 5.1 名前の由来は原作・旧アニメ版に登場したサグレーだが、『キャシャーン(1993年のOVA)』同様女性という設定に変更されている。
- ↑ ゴールデンラズベリー賞の日本版的位置づけ。
- ↑ 「レクイエム」など一部楽曲は映画ではボーカルを省いた版が使われた