T・S・エリオット
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トマス・スターンズ・エリオット(テンプレート:Lang-en-short、1888年9月26日 - 1965年1月4日)は、イギリスの詩人、劇作家で文芸批評家である。代表作には、5部からなる長詩『荒地』(The Waste Land、1922年)、詩劇『寺院の殺人』(Murder in the Cathedral、1935年)、詩劇論『詩と劇』(Poetry and Drama、1951年)などがある。
生涯
誕生はアメリカ合衆国のミズーリ州セントルイス。1898年にスミス学院に入学する。1904年、セントルイス万国博覧会を探訪中、フィリピン会場のイゴロット村に魅せられる。翌年発表された短編「昔は王様だった男」はその探訪成果である。[1][2][3]1906年に入学したハーバード大学では、アーヴィング・バビット等に師事し、卒業後、ヨーロッパ各地と米国を往復し、研究活動を行う。その後はソルボンヌ大学やマールブルク大学、オックスフォード大学にも通う。1927年にイギリスに帰化し、イギリス国教会に入信。「文学では古典主義、政治では王党派、宗教はアングロ・カトリック」と自身を語っている。
有名な「四月は残酷きわまる月(April is the cruellest month)」で始まる長編詩『荒地』で第一次世界大戦後の不安を描きだした。また、評論『伝統と個人の才能』(Tradition and the Individual Talent、1919年)によって、保守主義の思想家としても知られている。この中で、エリオットは「詩人とは表現するべき個性を持たず、特定の表現手段を持つ人で、それは個性ではなく手段であり、その中で印象や経験が特殊な予期せぬ状態で結合する。」と書いている。
作品
荒地
1921年に初稿を執筆。エズラ・パウンドの助言により、エピグラフ(コンラッド『闇の奥』の引用)の変更や、エピソードの削除等を行った。
フレイザー『金枝篇』の聖杯伝説を骨格として、聖書、ダンテ、シェイクスピアなどの引用を散りばめ、意識の流れの手法も用いて、第一次世界大戦後の荒廃した世界と救済への予兆を描きだした。末尾にはサンスクリット語も使用され、インド思想の影響も指摘されている。
1922年に文芸誌に発表。433行の難解な詩であり、中々理解されなかったが、1930年代になってF・R・リーヴィスらに評価されるようになった。
四つの四重奏
1935-42年の'Burnt Norton' 'East Coker' 'The Dry Salvages' 'Little Gidding'を1つに纏めたもの(1943年)。『荒地』のような緊張感は無い。初期と比べると宗教的な主題が強くなる。
寺院の殺人
1935年に発表された。殉教者トマス・ア・ベケットを主人公とする。無韻詩で書かれている。『寺院の殺人』(1935年)の第2幕に登場する「誘惑者」と主人公トマスの対話は、シャーロック・ホームズの『マスグレーヴ家の儀式』を真似たものである。
その他
1939年、児童向けの詩 『キャッツ - ポッサムおじさんの猫とつき合う法』を発表、なお、ポッサムおじさんは、エズラ・パウンドが彼につけた渾名である。エリオット没後に、ウェスト・エンドとブロードウェイにおけるアンドリュー・ロイド・ウェバーの大ヒットミュージカル『キャッツ』の原作となった。
脚注
- ↑ Bush, Ronald, 'The Presence of the Past: Ethnographic Thinking/ Literary Politics'. In Prehistories of the Future, ed. Elzar Barkan and Ronald Bush, Stanford University Press. (1995).
- ↑ Narita, Tatsushi. T. S. Eliot, The World Fair of St. Louis and 'Autonomy'. Published for NCCF-Japan. Nagoya: Kougaku Shuppan, 2013.
- ↑ Narita, Tatsushi. T. S. Eliot and his Youth as 'A Literary Columbus'. Nagoya: Kougaku Shuppan, 2011.
著作集・訳書(近年)
- 『エリオット全集』(中央公論社、全5巻、実質的には自選集)
- 『エリオット選集』(弥生書房、全4巻別巻1)、各2度出版された。
- 『荒地』 岩崎宗治訳、岩波文庫、2010年
- 『四つの四重奏』 岩崎宗治訳、国文社、2009年4月 → 岩波文庫、2011年4月
- 『袋鼠親爺の手練猫名簿』 柳瀬尚紀訳、評論社、2009年、「キャッツ」のイラスト入り新訳
- 『エリオット評論選集』 臼井善隆編訳、早稲田大学出版部、2001年、教育・宗教論集
- 『教育の目的とは何か』 臼井善隆訳、早稲田大学出版部、2011年
- 『文化の定義のための覚書』 照屋佳男・池田雅之監訳、中公クラシックス、2013年
伝記
- 『エリオット伝』 スティーヴン・スペンダー、和田旦訳、みすず書房、1979年
- 『T・S・エリオット』 ノースロップ・フライ、遠藤光訳、清水弘文堂書房、1981年
- 『T・S・エリオット』 ピーター・アクロイド、武谷紀久雄訳、みすず書房、1988年
- 『T・S・エリオット 人と思想』 徳永暢三、清水書院、1992年。新書版の入門書
参考文献(近年)
- T.S.エリオット『三月兔の調べ:詩篇 1909-1917年』クリストファー・リックス 編、村田 辰夫訳、国文社、2002年、ISBN-10:4772004998
- T・S・エリオット『クラーク講演』ロナルド・シュハード編、村田俊一訳、松柏社、2001年、ISBN-10:4881989995
- 小川聖子『二十世紀の洗礼者T.S.エリオット:詩と思想の創造的分析の試み』溪水社、1999年、ISBN-10:4874405428
- 川野 美智子『T.S.エリオット研究:午後の遠景』大阪教育図書、2004年、ISBN-10:4271117080
- 高柳 俊一・佐藤 亨・野谷 啓二・山口 均・編『モダンにしてアンチモダン:T.S.エリオットの肖像』研究社、2010年、ISBN78-4-327-47223-8
- 高柳俊一『T.S.エリオットの思想形成』南窓社、2002年、ISBN-10:4816500138
- 丹波菊井『T.S.エリオットの詩と文学:わが始めにわが終りあり、わが終りにわが始めあり』近代文芸社、2002年、ISBN-10:4773368241
- 西部邁「個性の滅却:トーマス・エリオット」『思想の英雄たち 保守の源流をたずねて』、198-212頁に所収、角川春樹事務所〈ハルキ文庫〉、2012年、ISBN 978-4-7584-3629-8
- 成田興史「T. S. エリオットとトランスパシフィック・イマジネーション:若き日の詩人をめぐる仮説設定を主軸に」、成田興史編『英米文学・英米文化試論:太平洋横断アメリカン・スタディーズの視座から』に所収、晃学出版、2007年、ISBN78-4-903742-02-1
- 佐伯 惠子『T.S.エリオット詩劇と共同体再生への道筋』、2011年、英宝社 ISBN-10:4269721162
- クレイグ・レイン『T.S.エリオット:イメージ、テキスト、コンテキスト』山形和美訳、彩流社、2008年
- 船木満洲夫『形而上詩人とT.S.エリオット』宝文館出版、1999年、ISBN-10:483201501X
- 村田 俊一『T.S.エリオットのヴィア・メディア―改宗の詩学』弘前大学出版会、2005年、ISBN-10:4902774038
- 村田辰夫『T.S.エリオットと印度・仏教思想』国文社、1998年、ISBN-10:4772004556
- 山田 祥一『T.S.エリオット論考』鳳書房、2007年、ISBN-10:4902455064