柳瀬尚紀
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柳瀬 尚紀(やなせ なおき、1943年3月2日 - )は日本の英文学者・翻訳家である。
その翻訳は、語呂合わせなどの言葉遊びを駆使した独自の文体で有名。「悪訳」をするとみなした翻訳家に対する痛烈な批判でも知られる。
来歴・人物
北海道根室市出身。1970年に早稲田大学文学部卒業、同大学院文学研究科博士課程中退。1977年に成城大学助教授、1991年に辞職。
大学院時代、鈴木幸夫教授のグループでジョイスの翻訳を『早稲田文学』に連載していた[1]。1976年に『飛ぶのが怖い』がベストセラーとなり、「飛んでる女」が流行語となる。話題が先行したが中味は純文学であったため実際に読み通した人は少ないと思われるが、その後もエリカ・ジョング作品の翻訳を続けている。
ルイス・キャロルの翻訳も多く、数学に詳しい。他に、『シンデレラ・コンプレックス』はロングセラーとなっている。他にも前衛的な文学を多数翻訳。
とりわけ著名なのはジェイムズ・ジョイスの作品で、翻訳不能と言われた『フィネガンズ・ウェイク』を独自の造語を用いて翻訳したことは話題となり日本翻訳文化賞受賞。岩波新書で出した『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』では『ユリシーズ』の一章の語り手が犬であるという新説を打ち出したが、部分訳3冊を1996~1997年に刊行したのみである(「新潮」2011年9月号に第11章が掲載)。2009年に新潮文庫で『ダブリナーズ』を出した。
趣味の領域を超えた活動も数多く、関連書籍も刊行している。
- 1987年には「猫の日制定委員会」を発足させるなど、猫好きである。
- 将棋に関する著作を、名人・羽生善治との共著で数冊出している。
- 競馬では「中央競馬GI 競走出走馬馬名プロファイル」を開催日に配布されるレーシングプログラムに掲載している。アナグラムの多用が特徴である。また、2008年より使用されている中央競馬の新馬戦の呼称「メイクデビュー」を考案した。
英語・国語辞書や翻訳・国語論に関する著作も多い。
翻訳書
- B.S.ジョンソン『トロール』筑摩書房 1969
- エドゥアール・デュジャルダン『もう森へなんか行かない』鈴木幸夫共訳 都市出版社 1971
- リチャード・バーギン『ボルヘスとの対話』晶文社 1973
- ホルヘ・ルイス・ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ『幻獣辞典』晶文社 1974
- ボルヘス、アドルフォ・ビオイ=カサレス『ボルヘス怪奇譚集』晶文社 1976
- ルイス・キャロル『シルヴィーとブルーノ』れんが書房新社 1976、ちくま文庫1987
- エリカ・ジョング『飛ぶのが怖い』新潮文庫 1976、河出文庫 2005
- ルイス・キャロル『不思議の国の論理学』朝日出版社 1977、河出文庫1990、ちくま学芸文庫2005
- ルイス・キャロル『もつれっ話』れんが書房新社 1977、ちくま文庫 1989
- エリカ・ジョング『あなた自身の生を救うには』新潮社 1978、新潮文庫 1979
- ルイス・キャロル『枕頭問題集』朝日出版社(エピステーメー叢書)1978
- ドナルド・バーセルミ『死父』集英社(現代の世界文学)1978
- ルイス・キャロル『かつらをかぶった雀蜂』れんが書房新社 1978
- 『パラドクスの匣』 パトリック・ヒューズ,ジョージ・ブレヒト 朝日出版社 1979(エピステーメー叢書)
- 猫文学大全 George MacBeth,Martin Booth編 大和書房 1980、河出文庫1990
- 犯罪は詩人の楽しみ 詩人ミステリ集成 エラリー・クイーン編 創元推理文庫 1980
- バーセルミ『雪白姫』白水社 1981 のち白水Uブックス
- エリカ・ジョング『魔女たち』サンリオ 1982
- ルイス・キャロル『ふしぎの国のアリス』集英社 1982(少年少女世界の名作) 「不思議の国のアリス」ちくま文庫
- 『ゆうべ女房をころしてしもうた(世界のライト・ヴァース)』編訳 書肆山田 1982
- エリカ・ジョング『ファニー』新潮社 1985
- 『ナンセンスの絵本』 エドワード・リア ほるぷ出版 1985、ちくま文庫 1988、岩波文庫 2003
- ダグラス・ホフスタッター『ゲーデル、エッシャー、バッハ-あるいは不思議の環』野崎昭弘・はやしはじめ共訳 白揚社、1985
- 『核戦争ブラック・ブック』 マーク・イアン・バラシュ 西条裕美子共訳 白揚社 1985
- 『魔女 魔女談なんて、ま、冗談?』 コリン・ホーキンズと魔女1名 サンリオ 1985
- コレット・ダウリング『シンデレラ・コンプレックス』三笠書房 1985、同文庫1986
- ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』ちくま文庫 1988
- 『宇宙の起源 最新データが語る宇宙の誕生』 マルコム・S.ロンゲア 河出書房新社 1991
- ジェイムズ・ジョイス『フィネガンズ・ウェイク』河出書房新社全2巻、1991-93、河出文庫全3巻 2004
- 『マルセル・デュシャン論』 オクタビオ・パス 宮川淳共訳 書肆風の薔薇 1991
- T・コラゲッサン・ボイル『イースト・イズ・イースト』新潮社 1992
- 『4人のちびっこ、世界をまわる』 エドワード・リア ほるぷ出版 1992
- ジョエル・ローズ,キャサリン・テクシエ『ラブストーリー、アメリカン』新潮文庫 1995
- バーセルミ『王』白水社 1995
- ボブ・ケイトー,グレッグ・ヴィティエッロ『肖像のジェイムズ・ジョイス』河出書房新社 1995
- 『ユリシーズのダブリン』(編訳) 河出書房新社 1996
- ジョイス『ユリシーズ』(3冊 未完)河出書房新社 1996-97
- エリカ・ジョング『ブルースを、ワイルドに』文春文庫 全2冊 1996
- レオ・ハータス『なんでもハップンとんちん旧館物語』フレーベル館 1996
- T.コラゲッサン・ボイル『ケロッグ博士』新潮文庫 1996
- マイケル・パトリック『名画にしのびこんだ猫』河出書房新社 1999
- ロアルド・ダール『おばけ桃が行く』評論社 2005 (ロアルド・ダールコレクション 1)
- ロナルド・ファーバンク『オデット』講談社 2005
- 『ガラスの大エレベーター』 評論社 2005 (ロアルド・ダールコレクション 5)
- 『チョコレート工場の秘密』評論社 2005 (ロアルド・ダールコレクション 2)
- 『ブランコあそびにいくんだい!』 ケイト・クランチィ 評論社 2005
- 『アッホ夫婦』評論社 2005 (ロアルド・ダールコレクション 9)
- 『すばらしき父さん狐』評論社 2006 (ロアルド・ダールコレクション 4)
- 『ダニーは世界チャンピオン』評論社 2006 (ロアルド・ダールコレクション 6)
- 『ことっとスタート』評論社 2006 (ロアルド・ダールコレクション 18)
- 『奇才ヘンリー・シュガーの物語』評論社 2006 (ロアルド・ダールコレクション 7)
- 『どでかいワニの話』評論社 2007 (ロアルド・ダールコレクション 8)
- 『したかみ村の牧師さん』評論社 2007 (ロアルド・ダールコレクション 19)
- 『一年中わくわくしてた』評論社 2007 (ロアルド・ダールコレクション 20)
- 『「ダ」ったらダールだ!』評論社 2007 (ロアルド・ダールコレクション 別巻2)
- クェンティン・ブレイク『帆かけ舟、空を行く』評論社 2007
- ジュリア・ドナルドソン『カタツムリと鯨』評論社 2007
- クェンティン・ブレイク『天使のえんぴつ』評論社 2008
- ロアルド・ダール『きゃくいんソング』評論社 2008
- ジョイス『ダブリナーズ』新潮文庫、2009
- ルイス・キャロル『アリス! 絵で読み解くふたつのワンダーランド』山本容子絵 講談社 2010
- クレメント・C. ムーア『聖ニコラスがやってくる!』西村書店東京出版編集部 2011
- エドワード・リア文 ロバート・イングペン絵『リアさんって人、とっても愉快! = How Pleasant to Know Mr.Lear! エドワード・リア ナンセンス詩の世界』西村書店東京出版編集部 2012
著書
- 『ノンセンソロギカ 擬態のテクスチュアリティ』朝日出版社 (エピステーメー叢書) 1978
- 『翻訳困りっ話』白揚社 1980、河出文庫 1992
- 『英語遊び』講談社現代新書 1982、河出文庫 1998
- 『翻訳からの回路』白揚社 1984、「翻訳は実践である」河出文庫 1997
- 『ズーっとみんななかよしニャンだ』開隆堂出版 1985
- 『ナンセンス感覚』講談社現代新書 1986、河出文庫 1998
- 『フィネガン辛航紀 『フィネガンズ・ウェイク』を読むための本』河出書房新社 1992
- 『辞書はジョイスフル』ティビーエス・ブリタニカ 1994、新潮文庫 1996
- 『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』岩波新書 1996
- 『G1出走馬馬名読本』ミデアム出版社 1998
- 『広辞苑を読む』文春新書 1999
- 『翻訳はいかにすべきか』岩波新書 2000
- 『猫舌流英語練習帖』平凡社新書 2001
- 『猫舌三昧』朝日新聞社 2002
- 『猫と馬の居る書斎』自由国民社 2003
- 『辞書を読む愉楽』角川選書 2003
- 『言の葉三昧』朝日新聞社 2003
- 『日本語は天才である』新潮社 2007
- 『日本語ほど面白いものはない 邑智小学校六年一組特別授業』新潮社 2010
共編著
- 『<カン>が<読み>を超える』米長邦雄対談 朝日出版社 (Lecture books)、1984 「「運とカン」を磨く」講談社+α文庫 1994
- 『やるっきゃない英文読解』千倉真理共著 日本翻訳家養成センター 1984
- 『『ジャック&ベティ』の英語力で英語は読める 最強の教科書英語による英語講座』開隆堂出版 1987
- 『猫百話』(編)ちくま文庫 1988
- 『突然変異幻語対談 汎フィクション講義』筒井康隆対談 朝日出版社 (Lecture books)、1988 河出文庫 1993
- 『対局する言葉 羽生v.s.ジョイス』羽生善治対談 毎日コミュニケーションズ 1996、河出文庫 1996
- 『辞書 日本の名随筆・別巻74』(編)作品社 1997
- 『ことば談義寐ても寤ても』山田俊雄対談 岩波書店 2003
- 『勝ち続ける力』羽生善治共著 新潮社 2009 のち文庫
注
- ↑ 鈴木佐代子『立原正秋風姿伝』中公文庫