黒
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黒(くろ)とは色の一つで、無彩色。煤や墨のような色である。光が人間の可視領域における全帯域にわたりむらなく感得されないこと、またはそれに近い状態、ないしそのように人間に感じられる状態である。黒は下のような色である。黒色(コクショク、くろいろ)は同義語。
日本語の「くろ」や漢字の「玄」は、「玄米」「黒砂糖」というように、翻訳においては、黒、茶色・褐色とblack,brownが整合しないことがある。
また、「黒」は有を現し、「有罪」や「陽性」などを意味することがある。(後述)
近似色
光源色としての黒
テンプレート:Infobox webcolor 色を光として見るとき、黒は、光がほとんどまったくない状態を意味する。例えばRGBにおいては、3色ともない状態である。従って、本来ブラウン管は黒として発色することはできないため、TV映像では他の色とのコントラストの調整によって人の目には強い黒として錯覚させている。ちなみに、ウェブブラウザでBlackと指定したときは、#000000として定義される。
物体色としての黒
物体の黒は、理想としては光の反射率が0ですべての波長の光を吸収する色である。絵具の三原色の3色を混ぜる(減法混合)と黒になる。ただし、全ての波長を完全吸収する物質(黒体と呼ばれる)は存在しない。黒光りという言葉があるが、黒の色材(絵具や塗料)に光沢を付与すれば実現できる。「黒光り」という語は塗装面の平滑さなどから来る艶、表面反射を意味していると言える。熱を吸収することを利用した黒色のフォイルが、料理に使用されている。
黒と工学
- 物理では光を全く反射せず、それ自身の温度による放射のみを発する物質を想定し、これを黒体と定義している。黒体放射は天文学に応用されている。研究段階ではあるがカーボンナノチューブ黒体が現在最も黒い物質である。
- 熱のふく射率が最も高い色であるため、光の吸収を考慮する必要がない機械内部の放熱板の色は黒であることが多い。
- 望遠鏡やカメラといった光学機器では、機器自体からの反射光が像や観測結果にノイズを加えないよう、黒が多用される。
黒の色料
黒い顔料は存在するが、黒い染料は厳密には存在しないとされる。染色で黒色を発色させる際は紫色の染料を濃くした物を使用する場合がほとんどである。故に紫色の染料(紫根やムラサキイガイ)が貴重品だったころは黒は高貴な色ともされた。エドワード黒太子の由来もここから来ているとされる。
炭素系黒色顔料
カーボンブラック Carbon Black
カーボンブラックは、広義には炭素からなる黒色顔料の総称として使われ、後述のランプブラックやボーンブラックを含む。黒色顔料の名称としてカーボンブラックと呼ぶ場合、チャンネルブラックやファーネスブラックなどの極微細カーボンブラックを指す。チャンネルブラックは著しい漆黒度と着色力を持ち、粒子の直径は僅か10nmである。ファーネスブラックは、表面が不活性で、通常カーボンブラックとして取引されているもののほとんどはファーネスブラックである。
油煙 Lamp Black
ランプブラックは油を不完全燃焼させて得た「煤」である。使用の歴史は数千年前に遡る。生産効率は悪いが足色に美しい青みが出る特異な色合いの顔料である。
植物黒 Vegetable Black
植物黒は植物原料を炭化させたもので、使用材料によって「葡萄蔓黒・葡萄蔓炭、バインブラック (Vine Black)」、「桃核黒・桃核炭、ピーチブラック (Peach Black)」などと命名されるが慣用名になっており、例えば「ピーチブラック」を冠する製品は存在するものの広く一般に入手可能な製品に桃核黒・桃核炭を使用した製品は存在しない。一部製品のラベルには植物性黒の使用が記されているが、顔料は既に払底しており実情と異なる。真正の桃核黒・桃核炭を望むならば、例えば火鉢や鞴などの簡便な道具を用いて自作するほかない。このときなるべく高温で焼成すると植物性黒らしい青味の強い黒色顔料を作ることが可能である。ただし当然ながら火には注意しなければならない。植物黒のColour Index Generic Nameは、Pigment Black 8。
骨炭 Bone Black
獣骨を焼成し製造した黒色顔料。主成分は燐酸カルシウムで発色成分である炭素は10%前後に過ぎない。この値は原料骨によって左右される。象牙は有機物含有量が高いために、象牙黒炭素を多く含有する着色力が強い黒色顔料を作ることができる。しばしば黴の温床となる、扱いに注意を要する顔料である。油絵具などに見られる「アイボリーブラック」のアイボリー(象牙)は名前ばかりで実際には牛などの骨による骨炭が使用されている。しかし2007年新たに発売された国産ブランド油絵具「油一」の「アイボリーブラック」には真正の象牙による骨炭が贅沢に使用されており、一部で話題となった。2年後の2009年、ホルベイン工業は顔料において、このほかの16種の顔料と同時に真正象牙黒を製品化した[1]。
黒鉛 Graphite
黒鉛は平面状の分子がきちんと層状に積み重なったもので、炭素の原子が蜂の巣状(六角形が二次元的に繰り返された構造)に共役結合した平面分子である。現在グラファイトは顔料の形で購入可能であり、鉛筆から手作りした鉛筆の粉とは性質が異なる。
酸化物系黒色顔料
鉄の酸化物(マグネタイト型四酸化三鉄)や、銅とクロムの複合酸化物、銅、クロム、亜鉛の複合酸化物なども、有用な黒色顔料である。炭素系黒色顔料とは性状が大きく異なる。
黒に関する項目
闇の色としての黒
黒は闇のイメージから、「悪」「死」「恐怖」「災禍」の意味を付加される例が多い。⇔白(善)、赤(生)
- 「悪」を意味する黒
- 「死」を意味する黒
- 日本では、喪服は黒で統一される例が多い。ただし明治時代以前においては、喪服は白であった。明治天皇の葬儀から、欧米に合わせて喪服を黒とするようにされた。『銀河鉄道999』の登場人物・メーテルの黒服も、喪服としての意味合いを持たせたものだった。
- 葬儀の際に用いられる鯨幕は、白黒の幕となる。
- 黒枠:訃報。新聞や雑誌などでの死亡広告が、太目の黒い枠で囲んだレイアウトであることに因む。
- 死→戦争→闘争との連想から、黒は「武勇」「憎しみ」「男性」を表す。なお男性を表す色には、黒以外に青もよく使われる。⇔赤(愛、女性)
- 死の象徴として黒旗が用いられる例も多い。例:(1) 海賊。「黒地にどくろ」。(2) 殺害の実行。中世のイギリスでは、死刑執行が終わると黒旗を掲げた。例外:F-1などのモータースポーツでは、失格を意味する。
- 災害時の医療トリアージでは、死者又は救命不可能な患者に黒のタグを装着する。⇔赤(危篤)、黄(要治療)、緑(軽症)
- 政治的には、黒はアナキズムを象徴する。マルクス主義の赤が「血」を象徴するのに対して、アナキズムの黒は「死」を意味し、「死ぬまで自由のために闘う」姿勢を表現している。
- 黒はファシズムを象徴する例もある。これは、黒シャツ隊や、プロイセンの近衛兵を真似たナチ親衛隊 (SS) の制服に由来する。日本でも、右翼の街宣車は黒で塗装されている物が多い。これらファシズムの黒も「死」を意味し、「死んでも忠義を尽くす」姿勢を表現している。
- 「恐怖」「災禍」を意味する黒
中立色としての黒
- 黒は何色にも染まらない性質から「中立」のイメージを持ち、裁判官の法服や、スポーツの審判員の衣服には黒一色が用いられる。
- 増減なしを表す。⇔赤・緑(増加)、青・赤(減少)
- 黒は「平常」「普通」を意味する例も多い。
「有」のイメージとしての黒
- 印刷や筆記具では、白紙に黒文字で書くことが多いため、黒は「有」「すべてを包含する」というイメージをもつ場合がある。 ⇔白(無)
- 帳簿では収入を黒インク、支出を赤インクで書いたことから、収入が支出を上回っていることを『黒字』という。
- 黒は、白や明るい他の色よりも重いイメージを持つため、見た目よりも重く感じさせる働きを与える作用を有する。実験では、同じ質量の物でも白色の同じ物質と比較して1.8倍は重く感じるという。万年筆や宝石などの高級品が黒い箱に収まっていることが多いのも、品物の質感や重量感・高級感をアピールするためである。
- 黒が高級感を与える色であるということを利用し、クレジットカードの最高級カードとしてブラックカードと呼ばれる格式の物が存在する。
- 黒はデザイン的には機能的なイメージを与え、主な購買層である男性客に好印象を与える(男性が機能的なものを好む傾向を持つため)。よって、オーディオ機器やビデオレコーダー、テレビ、PC、ラジオカセットレコーダー などは黒のデザインが多く、それらを総称して『黒物家電』と呼ぶことがある。対義語では、『白物家電』と呼ばれる部類のものがある。→白色
「無」のイメージとしての黒
- 「何も無い」という状況を表す色として、黒が「空虚」「無」という感覚を表す場合がある。ただし、黒と同様に白が同じ役割を果たすこともあり、それは個人の性格や、民族の文化などに影響される。例としては「目の前が真っ暗(暗黒)になる」=「頭が真っ白になる」というよく似た表現がある。また英語で黒を表すblackは、空白や白紙などを表すblankと関係があり、語源は白を表す言葉であったり、よく似た綴りでラテン系の言語では白を表すなど、「無」のイメージに関しては黒と白は関連が強い。
- 歌舞伎においては黒で示された物はその場に存在しないことを意味する。従って黒装束に黒頭巾の黒衣も舞台上では「存在しない」ことになる。仮に黒衣が何か物を持って舞台上に上がったとすれば、その黒衣は劇中に存在しないため、黒衣が持っている物は「宙に浮いている」ということになる。
- 内部の構造や状態について知り得ない部品をブラックボックスと呼ぶことがある。
- コーヒーで砂糖も乳製品も加えない状態をブラックコーヒーと称する。
墨のイメージとしての黒
- 「墨で塗り潰す」というイメージから、「反対」を意味する色として黒が使われる例もある。例えば、反対票のボールを黒球という。なお、「反対」を意味する色には、黒以外に赤(=朱墨を入れる)が用いられる例もある。⇔白(賛成)
- タコやイカが身を守る際に吐き出す黒い液も、「墨」と呼ばれる。
- 電気において、陰極は黒で表示される。 ⇔赤(陽極)
- 抵抗器で色により抵抗値を表す場合、黒は0または100を意味する。
ゲームにおける黒
- 相撲や将棋や囲碁などのゲームにおいて、敗戦を黒星という。(他のスポーツにもしばしば転用される)⇔白(勝利)
- 囲碁やオセロでは黒は先手である(この意味の黒は、上記の「黒星」の黒とは異なる)。将棋の棋譜でも先手を表すのに黒い駒の記号が使われる。逆にチェスでは後手である。
- トランプのスート(絵柄)では、スペードとクラブの色。
人物・キャラクターに関する黒
- 少年隊の東山紀之のイメージカラー。
- 関ジャニ∞の横山裕のイメージカラー。
- スーパー戦隊シリーズにおける戦士のイメージカラー。
収縮色としての黒
- ストッキングなど女性用衣料には黒がよく用いられるが、これは自分自身がスマートに見えるようにという意識が働いている。
- 黒い碁石の方が白い碁石よりも少し大きい。(黒石は直径22.2ミリ、白石直径は21.9ミリ。)これは黒石が小さく見えないように、視覚的なバランスと効果を考えた結果である[2]。
格式、公的としての黒のイメージ
その外の黒のイメージ
- 前述の通り黒はアナキストのシンボルであり、黒や黒旗はしばしば反政府を意味する。
- 五行思想において、黒は水を表し、北や冬を連想させる(例・玄冬、玄武など)。
- 多数の人が集まっているさまを、日本語では人々の髪の黒さから「黒山の人だかり」と呼ぶ。
- 黒といえば、夜空や宇宙を連想する者も多く、よって神秘的、あるいは静寂的な印象を与える色でもある。
- 黒はアジア人にとっては髪の色であり、美しい黒色、あるいは麗しい女性の黒髪を『カラスの濡れ羽色』『濡烏』という。この表現は男性には用いない。
- 黒人たちは黒をシンボルカラーとして用いる者が多い。『Black is beautiful』とも自称する。
- 錬金術では富や財産を表す。
- 西洋の紋章学では、黒はセーブルと呼ばれる。古フランス語。ペトラ・サンクタの方法では、交差した水平及び垂直の線で表現する。色名はクロテンの毛皮に由来する。
- 古代西洋のドルイド教などでは大地の色を表し、豊穣のイメージを持つ色であった。
- カラスの羽毛色から、他の生物でも黒い体色の種は「カラス」の冠が付く和名となる。
- 黒っぽい色彩は、しみなどは目立たない。これに反して白であるとしみなどは目立つ。
- 日本の蒸気機関車は、ほぼすべて黒を車体色としている。また貨車の車体色も、かつては黒が大半だった。
黒(ブラック)を含む言葉
黒
- 黒潮 - 日本の太平洋側南岸を流れる海流。暖流。日本海流。
- 黒海 - ヨーロッパとアジアとの間にある海。
- くろがねは鉄の古語。少量の炭素を混ぜて実用化するため、鈍い黒さがあることから。
- 黒鉛
- 黒電話
- 黒船 - 大型の西洋式航洋船。江戸時代末期に日本に来航した船を指す歴史用語。近年でも日本国外からやってきて日本市場を席巻するものを指すことがある。
- 黒猫 - 魔女の使い魔と言われる。また、黒猫が目の前を横切ると不吉の前兆という迷信がある。
- 黒死病 - ペスト。皮膚が黒くなり、死に至る可能性が高かったことから。
- 黒点 - 太陽の温度が低い部分。相対的に黒く見える。
- 黒衣 - 歌舞伎などで黒装束を着用し役者の介添や舞台装置を操作する人。黒だが見えないものとして扱われる。また、表舞台に登場せず裏方に徹する人や役目のことを指す。
- 黒人、黒色人種→ネグロイド
- 黒帯 - 日本の武道で有段者を示す帯。段位のない分野でも強い者を表す。
- 黒社会 - 中国で犯罪組織の世界を一言で言い表す言葉。裏社会、闇社会とほぼ同義。
- 黒砂糖 - 精製をしていない砂糖。黒糖。実際には褐色。上白糖に比べて色が黒っぽいことから。
- 黒板 - チョークで字や絵を書いて説明や伝言のために使う板。学校の教室や駅の伝言板などに設置されている。近年の黒板は濃い緑色であることが多いが、それでも黒板と呼ぶ。⇔白板
- 黒のカリスマ - プロレスラー蝶野正洋のニックネーム。
- 黒ロリ - 黒を基調としたロリータ・ファッション。ゴスロリとは異なる。
- 黒い三連星 - ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』の登場人物であるガイア・オルテガ・マッシュによる小隊の通称。彼らのパーソナルカラーが黒だった。
- 黒字 - 収入が支出を上回って利益が生じた状態。
ブラック
- BLACK (ゲーム) - クライテリオンゲームズが制作し、エレクトロニック・アーツが販売したアクションシューティングゲーム。
- オールブラックス
- ブラックホール
- ブラックジャック - (1) トランプの21。(2) 手塚治虫の医師漫画(→ブラック・ジャックの項目を参照)
- SR-71 ブラックバード - アメリカ空軍の戦略偵察機。
- 仮面ライダーBLACK - 石ノ森章太郎原作の特撮番組。
- ブラック企業 - 従業員を劣悪な環境で働かせる企業のこと。反社会的なモラルを持つ。
- ブラックゴースト - 石ノ森章太郎原作のSF漫画、アニメ『サイボーグ009』に登場する悪の組織。
- 中井正広のブラックバラエティ - 日本テレビ系列で放送中のバラエティ番組。
- ブラックデビル
- ブラックマトリクス - インターチャネル・ホロン社のシミュレーションRPG。
- ブラック・ラグーン - 広江礼威原作のガンアクションコミック、アニメ等。
- メン・イン・ブラック
関連項目
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さ | し | す | せ | そ | や | ゆ | よ | |||
た | ち | つ | て | と | ら | り | る | れ | ろ | |
な | に | ぬ | ね | の | わ | JIS慣用色名 |
出典
- ↑ http://www.holbein-works.co.jp/news/131-20090609-03.html ホルベイン専門家用顔料シリーズに17の顔料を新たに追加 (2009/06/09)
- ↑ 碁石 日本棋院 2012年12月18日閲覧
参考文献
- ホルベイン工業技術部編『絵具の科学』中央公論美術出版社 ISBN 4-8055-0286-X
- ホルベイン工業技術部編『絵具材料ハンドブック』中央公論美術出版社 ISBN 4-8055-0287-8
- 川村泰夫『日本の黒染文化史』染織と生活社 絶版
- 前田雨城『色 -染と色彩- ものと人間の文化史38』法政大学出版局