連星

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連星(れんせい、binary star)とは2つの恒星が両者の重心の周りを軌道運動している天体である。俗に双子星(ふたごぼし)とも。

通常は明るい方の星を主星、暗い方を伴星と呼ぶ。また、3つ以上の星が互いに重力的に束縛されて軌道運動している系もあり、そのような場合にはn連星またはn重連星などと呼ばれる。夜空に輝いている星のうち約25%、生まれたばかりの星については半分以上が連星だといわれている[1]

概要

ファイル:Orbit5.gif
質量の等しい連星が楕円軌道を周回するアニメーション。画像中央の十字は連星系全体の重心を表す。

連星 (binary star) という言葉1802年ウィリアム・ハーシェルによって最初に作られたとされている。

天球上で互いに近い位置にある2つの恒星を二重星と呼ぶ。代表的なものにおおぐま座ミザールアルコルがある。しかし二重星は実際には、太陽系から近い距離にある星と遠くにある星とがたまたま隣り合って見えているに過ぎない場合が多い。このような天体を見かけの二重星と呼ぶ。望遠鏡の発明によってこのような恒星のペアが数多く発見された。1780年にハーシェルは700個以上の二重星について、星同士の離角と位置を測定した。その結果、そのうちの約50個が20年の観測期間の間に位置を変えており、互いに軌道運動をしている連星であることを発見した。

連星はこのように、恒星のペアが互いの重力によって結び付いている系である。十分に分解能の高い望遠鏡(または干渉計)を使って2つの星を分解できる(2個の星として分離して見分けることができる)連星を実視連星と呼ぶ。2つの星を分解できない場合でも、スペクトル線ドップラー偏移が見られることで連星であると分かる場合がある。このような連星を分光連星と呼ぶ。分光連星は星の軌道面が天球面に対して大きく傾いていて、2つの星が太陽系から見て近づいたり遠ざかったりするために、そのスペクトル線を継続的に調べると規則正しい周期で青い方にずれたり赤い方にずれたりするのである。軌道面が天球面にほぼ垂直になっている場合には、2つの星は決まった周期で互いに隠される。このような連星を連星と呼ぶ。

また、何もない空間の周りを周回しているように見える恒星もいくつか発見されている。位置天文的連星ノートを参照)と呼ばれる連星はこのような天体の一例である。この天体は比較的2星の距離が近い連星で、ある点の周りをふらつくような運動を見せるものの、伴星が見えないというものである。分光連星の中にも、前後に動くスペクトル線が1組しか存在しないものがある(通常の分光連星では近づく星と遠ざかる星による2組のスペクトル線が見える)。このような場合でも、普通の連星に用いるのと同じ手法を使うことによって、見えない伴星の質量を推定することができる。このような連星で伴星が見えないのは、伴星が非常に暗く主星の明るさに埋もれて検出できなかったり、中性子星のようにほとんど可視光を放出しない天体だったりするためである。場合によっては、見えない伴星がブラックホールである場合もある。このような例としてはくちょう座X-1がある。この連星系の見えない伴星の質量は太陽の約9倍である。不可視伴星の候補天体としては通常、中性子星も考えられるが、この質量は中性子星の質量の上限よりもはるかに重いため、ブラックホールである可能性が非常に高いと考えられている。また太陽系外惑星の捜索も、連星の不可視伴星と同じ手法で行われることが多い。

連星は、天文学者が遠距離の恒星の質量を直接測定できる主な方法の一つであるため、特に重要である。連星では互いに引き合う重力によって2つの星が回り合っている。実視連星では軌道の形を観測することで、また分光連星ではスペクトル線の時間変化を観測することで、星の質量を決めることができる。

恒星の多くは連星系を作って存在しているため、連星は我々が星形成の過程を理解する上でも重要な存在である。特に、連星の周期や質量を知ることによって連星系の角運動量の大きさが分かる。角運動量は保存量なので、連星の角運動量はその星が生まれた時点の状況についての重要な手がかりを含んでいる。

連星の分類

現在では連星はその観測的な属性によって4つのタイプに分類されている。

この分類の中で複数にまたがる星もしばしば存在する。例えば分光連星のいくつかは食連星でもある。

また、星同士の距離が両星の半径の数倍程度のスケールにまで接近した連星を近接連星 (close binary) と呼ぶ。連星のような二体系を公転周期に同期した回転座標で見ると、両方の星を中心とする涙滴型の等ポテンシャル面が存在する。両方の涙滴の尖った点同士はこの二体系のラグランジュ点L1で接している。この面で囲まれた領域をロシュ・ローブと呼ぶ。近接連星系の星が進化して巨星になると星本体が膨張してロシュ・ローブを満たし、やがては星のガスがローブからあふれて相手の星に降着するといった現象が起こり、新星超新星のような様々な活動現象の元となる。近接連星は星の間の距離に基づいて、以下の3つに分類される。

連星に関する研究成果

ハーシェル以来約200年にわたって連星について様々な研究が行われ、いくつかの一般的な性質が明らかになっている。

恒星のうち少なくとも約 1/4 は連星系であると考えられている。また連星系のうち約10%は三連星 (ternary) など、3つ以上の恒星からなる系である。

連星の軌道周期と軌道の離心率の間には直接的な相関関係があり、短い周期の連星では軌道の離心率が小さい(円軌道に近い)。また、連星の2星の距離は近いものから遠いものまで様々である。近いものでは互いの星の表面が接触しているものもある。遠いものになると、非常に離れているが天球上の2星の固有運動の値が同じであるということから、2つが重力的に束縛されていることが辛うじて分かる、というものまで存在する。連星の軌道周期は対数正規分布に従っており、周期が約100年程度の連星が最も多い。

連星の2つの星が同じ明るさの場合には、そのスペクトル型も等しい。明るさの異なる連星では、明るい方の星が巨星である場合には暗い方の星はより青いスペクトル型に属し、明るい方が主系列星ならば暗い星はより赤いスペクトル型に属している。

一般に、質量を決めるには重力の大きさを測定する必要があるが、恒星の中では(太陽や重力レンズを引き起こす恒星の例を除けば)連星が重力の大きさを測定できる唯一の存在である。このため、連星は恒星の中でも観測的に重要な地位を占めている。

実視連星の場合には、軌道の形が決まってかつ連星系の視差の値が得られれば、ケプラーの第三法則によって2つの星の質量の和を直接求められる。

分光連星の場合には、その連星が同時に実視連星や食連星でない限り軌道の形を完全に決めることができないため、視線方向に対する軌道傾斜角のサイン(正弦)を質量に乗じた積の形でしか求めることができない。よって、軌道傾斜角に関する別の情報が得られない限り、その質量は統計的に推定することしかできない。

分光連星が食連星でもある場合には、その連星系の両方の星についての性質(質量、密度、大きさ、光度、およその形状)を完全に得ることができる。

連星の例

出典

  1. 太陽もかつては連星だった!?ナショナルジオグラフィック、2011年9月16日

関連項目

外部リンク

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