身長
身長(しんちょう)は、人間が直立した時の、床又は地面から頭頂までの高さ。身の丈、上背(うわぜい)、背丈(せたけ)とも言う。
目次
概念
人間の大きさを身長で表すのは、動物のうちでは例外的で、人間以外の動物は、多くは全長 として口の先端部から尾の先端部の長さを言う。体長は頭と胴の長さで、尾は含まないのが普通である。哺乳類や恐竜の大半は脚が長く体長に比して体の高さが大きいので、体高を用いることがある。これは4本脚で直立した時の肩の高さの値で、首を上に上げた高さではない(キリンの類を除く)
人類学では、身長160cmから169cmまでを「中身長」とし、150cmから159cmは「低身長」、150cm未満は「超低身長」と言い、170cmから179cmは「高身長」、180cm以上は「超高身長」とする。更に人類全体の平均身長は、男性で165cm、女性はそれよりおよそ7%低いとされているが[1]、地域差が非常に大きい。また、後に述べるように先進国を主として近現代には大幅な身長の増加があったのをはじめ、同じ国や地域でも、時代によってもかなりの変異が見られる。
なお、身長は一日を通して一定ではなく、平均身長の男性で約2cm程度の変化がある。これは、朝起きたときには椎間板が充分に水分を含んでいるが、夜寝る前には自重などにより圧迫され、かなり水分を放出するためといわれている。しかしこれらは個人の変異又は一時的なもので、人種或いは地域集団に見られる身長の差や、時代による変化とは関係がない。
身長の決定要因
個人の身長は主に成長ホルモンとそれを刺激する女性ホルモンの分泌によって左右される。女性ホルモンは成長ホルモンの分泌を刺激し身長の伸びを促すと共に骨端線の閉鎖を促し、骨端線が閉鎖され成長ホルモンを止めてしまう。女性は男性より女性ホルモンの分泌が多いため、思春期開始が男性より早く、身長の伸びのピークも男性より早いが、骨端線も男性より早く閉鎖してしまうため、最終的に女性ホルモンの分泌が少なく骨端線の閉鎖が遅くなる男性より低身長となる。女性ホルモンが全く作用しない男性では骨端線が閉鎖しないため高身長となる[2]。先天的に下垂体に異常がある場合、成長ホルモンが多くまたは長期間排出されると巨人症となり、逆に少ないまたは短期間排出の場合には小人症となる。思春期開始時期の平均身長は男性は約145cm、女性は約134.1cmで、思春期の身長の伸びのピークは男性は約13歳、女性は約10.88歳(10歳10ヶ月-10歳11ヶ月)でピーク時の女性の平均身長は約142.4cmである[3]。
生活水準が向上し栄養(特に、肉を中心とする動物性蛋白質)に恵まれると身長が高くなると言われる場合が多いが、身長の大小と栄養の間には必ずしも強い相関はない事に注意する必要がある。確かに近現代になって先進諸国では身長が大きくなったが、世界的には身長の高低と生活水準(文明)の高低は一致しない事が多い。例えば、世界の高い身長の集団はアフリカのサラ族(平均身長181.7cm、以下同じ)、スマトラ島中央部のマライ人 (175.5cm) 、南米南部のパタゴニア人 (175.0cm) 、スウェーデン人 (174.4cm) など、文化にも地域にも、共通点もまとまりもない[4]。一般に、コーカソイドは高身長の傾向があり、特に北欧に分布する北方人種は高い。モンゴロイドは中身長が多く、ネグロイドはナイル川上流付近で平均180cm以上の超高身長(サラ族、ディンカ族等)のものからネグリロ(ピグミー)のように150cmを切るような超低身長まで幅広い変異を示す。こうした差異は生まれた時からあり、フランス人の新生児の身長の平均は50cmなのに対し、インドシナ人の場合は46cmしかない。人種あるいは地域によるこのような差がなぜ生じたのかは不明。
日本においては、第二次世界大戦後の国民の栄養状態改善(肉食の普及)によって青少年の身長が大幅に伸びたと言われるが、実際はそのような単純なものではない。東京帝国大学(現在の東京大学)男子学生を対象とした調査によると、1910年代から1940年代の30年間に3.1cmの身長増加が認められ、同じく女子学生では1910年代から1950年代の40年間に3.4cmの増加があり、戦前から男女共にほぼ10年間に1.0cmという急速な身長の伸びが見られた事が分かる[5]。歴史を遡ると、成人男子の場合、縄文時代には156cmから160cmであったが、古墳時代には165cmほどになり、以降は鎌倉時代、室町時代と経るにしたがって次第に低くなり、江戸時代には157cmと、歴史時代では最も低くなり、以後増加に転じて、明治以降は急速に高くなった[6]。これらは栄養の良否だけでは説明が付かない。
なお、100年間に10センチメートルほどという急激な身長の伸びは、日本だけでなくヨーロッパでも確認されている。1870年代初頭から1980年までのヨーロッパ15カ国の男性の平均身長を調査した所、1870年の平均が167.7cmだったのが1980年には177.8cmになっている。国によって若干の差異があり、スペインは約163cmから約175cm、スウェーデンは約170cmから約180cmに伸びている[7][8]。
先進諸国での高身長化も含め、身長がどのような理由でどのように決まるかについては古今に様々な説がある。栄養以外にも、照明の発達による昼間時間の延長がホルモン分泌に影響を与えた結果であろうとする意見もあるが[9]、現在でも決定的と言えるものはない。多くの要素が、中にはまだ知られていない原因も含めて複雑に影響し合っている可能性が考えられる。従って、巨人症や小人症のような明らかな異常の場合を除き、人為的に身長を制御する事(背を高くしたい云々)は困難な上、安易に行なうのは肉体的もしくは精神的に大きな危険を伴う恐れがある。以下に述べる説も、多くはあくまで仮説の段階で、中には厳密に証明されていないものもある。
2007年(平成20年)のある発表では、国別平均身長はオランダが1位。アメリカが5位に転落したことに関して、ジャンクフード過剰摂取による一定の微量栄養素不足が原因[10]とも指摘されたが、不明[11]。
身長は主に脳下垂体から分泌される成長ホルモンとその影響によって左右されることが明らかである。成長ホルモンは睡眠時に多く分泌されるため睡眠は重要であるが、睡眠時間帯による成長ホルモンの分泌量の影響はない[12]。
思春期の身長の伸びはあまり個人差がない[13]とされる。そのため、身長を伸ばすには思春期前の期間が長く、且つ思春期前までにどれだけ伸ばせるかが重要で、これが大人になってからの身長を左右しやすい。
気候の影響が言われる場合もある。ベルクマンの法則によると、同種の恒温動物では寒冷地に住む種が熱帯地に住む種に比べて大柄になるとされる。これは、体が大きくなると表面積が増えて放熱量が増えるものの、体積の増加によってそれ以上に熱生産量が増加し[14]、寒冷地での生存に有利になるためとされる。人類も北欧人の方が南欧人より高い身長である。 テンプレート:要出典範囲。
妊娠中に牛乳を多く飲むと子供の身長が高くなるという研究結果がある[15]。
他器官への影響
身長が伸びる際、骨格系があらゆる方向に伸び、眼軸長(角膜と網膜までの距離)も伸びて近視に繋がる場合があるという仮説がある[16]。また、マルファン症候群という症候群がある。高身長には限らないが、遺伝的な予想身長よりも背が高くなった場合に起こりうるものだという。
身長に関する俗説
- 牛乳を飲むと背が伸びる
- 他にも「小魚を食べる」などがある。共通するのはカルシウムを多く摂取しようという事である。カルシウムの摂取が身長の伸びにどう関与するかは明確ではない。また、人が一日に摂取できるカルシウムの量は決まっている。身長を伸ばすためには蛋白質が重要で、カルシウムは骨を硬くするだけという指摘もある。もっとも、牛乳には蛋白質も含まれているため、摂取量の差が身長の差に現れる可能性はある(あくまで可能性に過ぎない)。
- バスケ・バレーなどのジャンプ系の運動が効果がある
- このような「ジャンプ系」の運動に限らず、体をひねる・そらす・曲げるなどの体をまんべんなく動かす全身運動による刺激が、関節液(軟骨に栄養を届かせる)の循環をよくし、骨の成長を促すという意見もある[17]。
身長の測定
身長の実測
通常、身長の測定には身長計が用いられる[18]。身長計の前に背を向けて真っ直ぐに立ち、スケールを頭頂部にまで下げたところで目盛を読む。最近はデジタルスケールのものもある。
身長は仰臥位で測定されることもあり頭頂部とかかと基部に三角定規などを当てマークしておきメジャーなどで測定する[18]。
なお、起立不可能な患者や脊椎前弯患者などの身長の測定の場合には膝下高による推定身長による算定も用いられる[18](#身長の推定も参照)。
第2次世界大戦後の日本ではメートル法によりセンチメートル表記を主に使用するが[19]、それ以前は尺貫法により尺・寸を用いて表記していた。特に、成人男性の身長は5尺台(約150-180cm)であることが多いので、「5尺」を省略して寸だけで身長を表すことが広く行われていた。
身長の推定
イギリスの統計学者カール=ピアソンは、四肢の長管骨の長さからその個人の身長を推定する公式を発表し、事故死・犯罪被害者の白骨遺体はもちろん、化石人骨の身長を知る為に広く用いられている。下にその一例を示す。
- 推定身長 (cm) = 81.036+1.880(大腿骨最大長[cm])
足痕長、足痕幅から、およその身長を推定することができることがある。一般に、日本人の成年男性の身長は、
- 身長 (cm) = 80.44+3.53×足痕長 (cm) 、身長 (cm) = 109.40+5.23×足痕幅 (cm)
また、日本人成年女性の身長は、
- 身長 (cm) = 71.09+3.65×足痕長 (cm) 、身長 (cm) = 110.14+4.14×足痕幅 (cm)
の計算で算出できるとされている。
或いは、個人の身長は両親の身長から大まかに推測計算することが可能である。予測身長と呼ばれ、下記の計算法がある。
男子
- (両親の身長の合計+13cm)/2
女子
- (両親の身長の合計-13cm)/2
他にも幾つか細部が異なる計算方法もある。おおむね、この数値の誤差9cm以内で収まるのが一般的だが、成長期に身長が伸びやすい環境で生育した個体や、その逆の個体ではその限りではない。
身長の調査
日本人の身長は、他の運動・身体データと共に、文部科学省のスポーツ・青少年局参事官生涯スポーツ課が年齢別体格測定として調査結果を公表している。
- 平成19年度体力・運動能力調査調査結果統計表 テンプレート:Ja icon
- 平成20年度体力・運動能力調査調査結果統計表 テンプレート:Ja icon
- 平成21年度体力・運動能力調査結果の概要及び報告書について テンプレート:Ja icon
- 平成22年度体力・運動能力調査結果の概要及び報告書について テンプレート:Ja icon
身長と生活
人間工学上の設計
生活空間においては、ドアの高さやベッドの長さなど、身長を意識して設計されているものが多く、人間工学では身長は重要な要素の一つである。学童の体位向上(身長増加)により、学校で使用する机や椅子が合わなくなり、規格の変更が為される例もある。自動車やオートバイ、飛行機などの乗り物においては、設計時に想定された操縦者の身長から大きく外れている体格の場合、乗降や操縦に重大な支障を来たす場合がある。座席や操縦に使用するインターフェイスの取替えなどによってある程度の身長差はカバーできるが、それでもなお過不足を生じる程操縦席と操縦者の身長のミスマッチが大きい場合、低身長や高身長が直接の障害となって、その乗り物への搭乗を断念しなければならない事態が生じうる。
身長制限
施設・設備によっては、安全上の理由から利用に身長制限を設けることがある。プールでは多くの場合に最低身長が定められている。遊具などでは、あわせて最高身長も制限することがある。
職種によっては、身長によって制限が設けられている職業がある。航空自衛隊の航空学生は、男女共通で身長158cm以上190cm以下という制限を設けている。警察官の採用には、「おおむね160cm以上」となっており、おおむねなので絶対的基準ではないが、選考の項目となっている。なお、この基準は各都道府県警によって異なる[20]。
力士の新弟子検査は、身長173cmが必要となり、これに満たない場合は第二新弟子検査を受ける必要がある。宇宙飛行士も、JAXAの規定では158cm以上、190cm以下の範囲に収まっている必要がある。さらに、船外活動では宇宙服のサイズの関係で165cm以上が必要とされる[21]。
英国内情報機関の情報局保安部(MI5)は2004年(平成17年)、「男性は身長180cm、女性は173cmを上回らないことが望ましい」との職員採用の新基準を設けた[22]。スパイ諜報活動においては、長身はふさわしくないことを表しているものとみられる。
身長とスポーツ
多くのスポーツでは身長が高いことが有利にはたらく。特に、バレーボール、バスケットボールなど高さを要求するスポーツでその傾向が顕著である。サッカーなど他の競技でも、リーチや打点の高さなどの面で長身が利点となる。大相撲では新弟子検査の項目に身長があり、基準に満たない者は入門することができない[23]。 柔道やボクシングなどの格闘技では体重別に階級があるため、無差別級を除き、身長もある程度近い選手同士が対戦する事になる。 一方、長身を動かすには時間がかかるために俊敏性や器用さの面で劣ることがあり、小柄な選手の方が有利とされるケースもある。長身でない選手が活躍しやすいポジションとしては、{バレーボールのリベロ、バスケットボールのガード、野球の二塁手、などが挙げられる。。サッカーではFWやMFに時折見られる[24]。 フェンシングでは、身長やリーチの差を瞬発力が補う場合があるという[25]。同じく武具を使用して一撃で勝敗に繋がる競技剣道は不明。
一方で、身長が高いことが不利に働く競技も少なからず存在する。競馬や競艇やモータースポーツなど動物や乗り物に乗る競技ではこの傾向が顕著である。可能な限り体重を落とす必要があるため、身長が低い競技者が有利となり、長身は圧倒的に不利になる。また、乗り物によっては余りにも長身であると、操縦席に身体が収まらない事態を生じる場合があり、結果としてその乗り物を使用する競技への志望を断念しなければならなくなる場合もある[26][27]。
脚注
- ↑ 寺田和夫『人種とは何か』 岩波新書 1967年(昭和43年)
- ↑ 思春期の発現・大山建司
- ↑ たなか成長クリニック・思春期
- ↑ 寺田和夫『人種とは何か』 岩波新書 1967年(昭和43年)
- ↑ 鈴木尚 『日本人の骨』 岩波新書 1963年(昭和39年)初版
- ↑ 鈴木尚 『骨』 学生社 1960年(昭和36年)。近現代以前には身長の測定は行なわれていなかったから、これらの数字は発掘された古人骨からの推定値である。
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ 近現代になって照明器具が発達し、夜間も昼間と同じように明るい環境となった事により、昼間の時間が長くなったと同じ作用が人体に働き、それに伴って内分泌が変化して身長の伸びを促進したとする考え。成長ホルモンは睡眠中に活発に分泌されるという説と矛盾するが、身長を決定する因子が非常に複雑に入り組んでいる可能性を考えれば、あり得ない説ではない。
- ↑ 米国人の身長は縮んでいる、北朝鮮とは正反対の「意外な理由」 AFPBB News
- ↑ The Dutch get ahead for heights - World - Times Online
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 体表面積は体の大きさ、例えば身長もしくは全長の2乗に比例して増減するが、体積は3乗に比例するので、体が大きくなると表面積より体積の増加量が増え、体温の保持に都合が良い。
- ↑ 妊娠中に牛乳をたくさん飲むと子どもの背が高くなる―デンマーク研究(2013年(平成26年)9月7日 マイナビウーマン)
- ↑ 中学生長身バレーボール選手の視力と視力矯正率 愛知工業大学研究報告 第48号 平成25年
- ↑ どうすればもっと身長を伸ばすことができるのか? 特命リサーチ200X-II Research Report No.087 2003/01/19
- ↑ 18.0 18.1 18.2 テンプレート:Cite web
- ↑ 1966年(昭和42年)に尺貫法は全面的に禁止された。
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ 週刊エキサイト Excite エキサイトニュース(03月07日 共同通信)
- ↑ 第一検査は173cm以上、第二検査は167cm以上。
- ↑ メッシはマラドーナの「神域」にどこまで迫ったか:日本経済新聞
- ↑ 金メダル候補にインタビュー: エロワン・ル=ペシュー - フランス生活情報 フランスニュースダイジェスト
- ↑ モータースポーツではラリードライバーのケン・ブロックが、高身長が原因でF1マシンのテスト走行参加を断念した事例がある。
- ↑ ピレリ、ケン・ブロックのF1テストを中止 - F1-Gate.com 2011年(平成24年)8月5日