航空学生
航空学生(こうくうがくせい)とは、海上自衛隊と航空自衛隊における航空機操縦士及び戦術航空士(海上自衛隊のみ)を養成課程及び課程在学中の人物のこと。
目次
概要
海上自衛隊は小月教育航空群小月教育航空隊(小月航空基地)、航空自衛隊は第12飛行教育団航空学生教育群(防府北基地)にて、教育を行う。全員が寮生活を送りつつ、座学ないし実技の教育訓練が行われる。
航空学生として自衛隊に入隊すると二等海士、二等空士に任用され、まず、基礎教育を受ける。約2年後の航空学生課程修了と同時に飛行幹部候補生として三等海曹、三等空曹に昇任し、それぞれ操縦課程に進む。その後は、約4年でウイングマーク(航空機搭乗員徽章)を授与され、約5年で曹長に昇任、約6年で三等海尉、三等空尉に昇任し、幹部自衛官になる。身分は特別職国家公務員である。 なお陸上自衛隊には同制度は無く、地上部隊の中から飛行要員の選抜を行う陸曹航空操縦学生制度を採用している。
1993年度から海上自衛隊及び航空自衛隊とも航空学生として女性の採用(航空自衛隊は戦闘機、偵察機以外)を開始した[1]。
航空学生課程
入隊先
- 海上自衛隊航空学生
- 山口県下関市の東端にある海上自衛隊小月教育航空群小月教育航空隊
- 航空自衛隊航空学生
- 山口県防府市にある航空自衛隊第12飛行教育団航空学生教育群
課程の概要
- 1年目
- 防衛学、人文社会科学、自然科学、英語など、将来の幹部自衛官に必要な素地を修得
- 2年目
- 航空力学、電子理論、航空英語、航空生理など、飛行教育に必要な知識を修得
昇任
- 航空学生(曹候補者)の課程
- 採用時:2等海士または2等空士(2士)
- 採用から約6か月後:1等海士または1等空士(1士)
- 採用から約1年後:海士長または空士長(士長)
- 採用から約2年後:3等海曹または3等空曹(3曹)
- 飛行幹部候補生の課程
- 採用から約6年後:3等海尉または3等空尉(3尉)
ただし、現に自衛官である者が航空学生として採用された場合は、その者の現階級あるいはこれと同位の階級の海上自衛官若しくは航空自衛官に異動させて航空学生が命ぜられる。
カリキュラム
- 一年次
- 人文科学
- 心理学
- 歴史学
- 哲学・倫理学
- 社会科学
- 経済学
- 法学
- 政治学
- 自然科学
- 数学
- 物理
- 物理実験
- 防衛学
- 防衛論
- 戦史
- 海上防衛一般
- 訓練
- 陸上警備
- 通信
- 鍛錬
- 服務
- 訓育
- 英語
- 体育
- 人文科学
- 二年次
- 工学
- 空気力学
- 航空力学
- 航空発動機
- 航空機構造
- 航空計器
- 航空機整備
- 電子理論
- 無線工学
- 電子工学実験
- 飛行一般
- 航空英語
- 航空気象
- 航空生理
- 救命生存法
- 航空法規
- 情報処理
- 電子計算機
- 航空法規
- 実習
- 乗艦実習
- 航空実習
- 自由研究
- 討論
- 論文作成
- 訓育
- 英語
- 体育
- 工学
受験資格
- 日本国籍を有し、18歳以上21歳未満で、次のいずれかに該当する者
- 高等学校卒業者または中等教育学校卒業者(卒業見込みの者も含む)
- 高等専門学校3年次修了者(修了見込みの者も含む)
- 高等学校卒業と同等以上の学力があると認められる者
※自衛隊生徒(少年自衛官)(例 第一術科学校生徒部、航空教育隊)から、受験する事も可能
試験は第1次〜第3次試験まで行われ、そこで選抜される。途中では航空身体検査も行われる。
航空身体検査
主な合格基準は以下の通り。
- 身長 - 158cm以上、190cm以下。
- 肺活量 - 男子は3000cc以上、女子は2400cc以上。
- 血圧 - 坐位で収縮期血圧140mmHg未満100mmHg以上、拡張期血圧90mmHg未満50mmHg以上
- 脈拍 - 安静時100以下(1分間)
- 視力 - 両眼とも遠距離裸眼視力が0.2以上で矯正視力が1.0以上、中距離裸眼視力又は矯正視力が0.2以上、近距離裸眼視力又は矯正視力が1.0以上で、近視矯正施術(オルソケラトロジーを含む。)を受けていないこと。
- 視器 - 斜位、眼球運動、視野、調整力、夜間視力、色覚等に異常のないもの
過去には握力検査もあったが、現在は撤廃されている。
特色
海上自衛隊・航空自衛隊のパイロット・戦術航空士には、航空学生出身者の他に、防衛大学校・一般大学の卒業生がいる。この中で、航空学生には次のような特色がある。
- パイロット・戦術航空士のうち、人数的に最も主要な供給源である。
- 入隊当初から将来パイロット・戦術航空士となることを前提とした教育訓練を受ける。これに対し、防衛大学校・一般大学出身者は幹部候補生学校入校から飛行教育開始までの間、他の職種に進む者と同一の教育訓練を受ける必要がある。幹部に成った後も、幹部候補生と航空学生の経歴管理に違いが有る。前者は上級指揮官に成る事を前提として地上勤務に就かせる等、広範な経験を集めさせている事に対し、後者はあくまで飛行関連部隊の中堅(現場レベル)の指揮官を育成する事が前提となっている。
- 若いうちに飛行教育を開始するため、また勤務期間中地上勤務に当たらせる事が比較的少ない為、パイロット・戦術航空士としての技量は一般に優れている。また、定年退職までの総飛行時間は、大卒者よりも格段に多くなっている。ただし、地上勤務が少ない故に幅広い知識・経験を集める機会も少なくなり、その大半が3佐どまりとなる。
- 航空自衛隊は戦闘機パイロット育成が主流であるため、各能力、精神的、肉体的に厳しい選抜基準を設けており、エリミネート率(パイロットになれない者の割合)は30〜40%といわれる。しかし航空学生課程を卒業した後であれば途中リタイアした者でも、他の職種(フライトエンジニアや航空士)に配属される事がある。
- 海上自衛隊ではエリミネート率は低く10%程度であると言われているが、実際は航空自衛隊のそれと変わらない。それは定員70名に対し定員超の80名程度を採用するが、エリミネートされる学生が30名程度おり、最終的に50名程度に絞られる為である。
- 海上自衛隊の固定翼と回転翼の乗員比は6:4である
- 海自空自とも事業用操縦士・定期運送用操縦士を取得できるが、除隊後2年間は航空機の搭乗職種に就くことはできない。
- 自衛隊では総務省の管轄外であるため、航空無線通信士資格は部内において必要ない。ただし同程度の教育が施される。
操縦できる航空機
航空学生課程修了後、飛行訓練を受けた後、操縦できる航空機は次のとおり。
- 海上自衛隊航空学生
- P-3C哨戒機及びその派生型多用機
- US-1A救難飛行艇
- YS-11輸送機
- U-36訓練支援機
- UH-60J救難ヘリコプター
- SH-60J・SH-60K哨戒ヘリコプター
- MH-53E掃海・輸送ヘリコプター
など
- 航空自衛隊航空学生
など
脚注
関連項目
参考文献
- 岩崎貴弘『最強の戦闘機パイロット』講談社、2001年。ISBN 4062106728
- 岡崎拓生『潜水艦を探せ:海上自衛隊航空学生』かや書房、1997年。ISBN 4906124291
- 杉山隆男『兵士を見よ』新潮社(新潮文庫)、2001年。ISBN 4101190143
外部リンク
- 自衛官募集 航空学生
- 自衛隊戦闘機パイロット広報動画http://www.nicovideo.jp/watch/sm9185572
- 海上自衛隊航空学生OBのブログ 海上自衛隊パイロットから起業家へ