西武9000系電車
西武9000系電車(せいぶ9000けいでんしゃ)は、1993年(平成5年)から製造された西武鉄道の通勤形電車。
目次
概要
101系の車体更新車として、1993年(平成5年)から1999年(平成11年)にかけて10両編成8本計80両が西武所沢車両工場にて製造された。なお9108編成は、同工場での最終新造車である。
車体は新2000系とほぼ同仕様の普通鋼製とし、外板は黄色塗装である。走行機器などは基本的に廃車となった101系の電装品を再利用したもので、電動カム軸式抵抗制御方式であったが、省エネルギー化の観点などから2004年(平成16年)度から2007年(平成19年)度までに全編成の制御装置をVVVFインバータ制御方式に更新した。現時点で西武鉄道の通勤用車両の中で最後に製造された「黄色い電車」でもある。
新2000系との主な相違点を以下に示す。
- 前面手すりと貫通扉下部の靴ずり部が黒色。
- ローマ字併記の種別・行先表示器[1]を装備し、種別表示と行先表示は分離された。
- 全て10両固定編成。
- そのため2000系にはない付随車(サハ)が存在する。
- 先頭車に電気連結器が装備されていない。
- 車椅子スペースの設置。
- 車内の連結面に空調機器の作動を示す「冷」「暖」のランプの設置。
- 非常用車側灯の橙色化。
9107編成からは、新製時より車両間転落防止幌を設置したため妻面窓がやや縮小された。なお転落防止幌は後に全編成に設置された。
本系列においても2000系の一部編成と同様に種別・行先表示器字幕の交換が、9101編成を皮切りに2008年(平成20年)6月14日ダイヤ改正までに全車へ施工された。
前面スカートは9101・9102編成では新2000系と同一仕様のため連結器部の切り欠きが大きいが、9103編成以降は切り欠きが小さい。 テンプレート:Double image aside テンプレート:-
車内設備
車内は当時、量産が開始されていた6000系で採用された仕様を取り入れた。室内は「ハーレ・クイーン」と呼ばれる柄模様入りクリーム色系統の化粧板を使用した。床材は薄茶色系で、出入り口部は滑り止め付きとした。
座席モケットは2000N系と同じく朱色系であるが、新たに区分柄を取り入れたものとした。なお、優先席部は薄い緑色の座席モケットである。座席端部はステンレスパイプで仕切る構造とした。
客用ドアの室内側はステンレスのヘアライン仕上げとした。ドアガラスは9106編成までは単板ガラス、9107編成以降は複層ガラス構造である。なお、連結面貫通扉も同様にステンレスのヘアライン仕上げである。つり革は白色系の丸型である。優先席部のものはオレンジ色品へ交換されている。また、2005年(平成17年)度より客用ドア上部線路方向へのつり革増設工事が9101・9104・9108編成に施工された。
本系式では車内の2か所(モハ9200形・モハ9900形)に車椅子スペースを設置しており、同スペース部側窓は固定窓とし安全手すりと対話式非常通報装置を搭載する。
サービス機器は6000系で採用した各客用ドア上部へのLED式車内案内表示器・ドアチャイム・自動放送装置のほか、各車に乗務員と相互通話可能な非常通報装置ならびに中波帯AMラジオ放送再送信用アンテナを搭載する。
冷房装置は能力48.84kW・42,000kcal/hのCU72D形集中式冷房装置を搭載し、室温はマイクロコンピュータにより自動制御される。 テンプレート:-
乗務員室
乗務員室は正面非常貫通構造であり、室内は薄緑色の配色としている。乗務員室背面には遮光幕を設置した小窓・仕切扉窓・小窓で客室と仕切られる。
運転台は着座位置左側に主幹制御器を、右側にブレーキハンドルを配し、上部には故障などをガイダンス表示するモニタ装置を設置する。 テンプレート:-
走行機器
※本項では製造当初の機器について解説を行う。
制御装置は日立製作所製の電動カム軸式抵抗制御装置(MMC-HTB-20E形[2] 1C8M制御)。主電動機は出力150kWの直流電動機。いずれも101系からの再利用品である。またブレーキ装置も101系から抑速ブレーキ機能を外した発電ブレーキ併用電磁直通ブレーキ (HSC-D) とし、新たに滑走防止装置を搭載する。
台車も流用品のFS372・FS072形とし、軸箱支持はペデスタル方式、基礎ブレーキは両抱き式踏面ブレーキ(クラスプブレーキ)構造である。
補機類はメンテナンスなどを考慮して新製品を使用していおり、補助電源装置には東洋電機製造製の150kVA出力静止形インバータ (SIV) を採用し、編成で3台搭載とした。故障時に備えて冗長化が考慮され、6000系同様に自動受給電装置[3]を搭載する。
空気圧縮機 (CP) は6000系と同型の低騒音形レシプロ式のHS-20-4形を搭載する。
集電装置は新品で電磁かぎ外し付きのPT-4320-S-B-M形とし、M1・3・4・5車(モハ9200・9500・9600・9800の各形式)の飯能寄りに搭載し、編成全体で母線引通しを行っている。なお、最終編成の9108編成は落成時よりシングルアーム式のPT-7116A形を採用した。
運用
製造方法は、自社の西武所沢車両工場(現在廃止)の能力から当初は4両編成で落成し狭山線で運用。数か月後に中間車6両を製造して10両編成で本線系統での運用に移行する方式が採用され、以下の配置となった。
- 9101 - 9104編成:新宿線
- 9105 - 9108編成[4]:池袋線
しかし1998年(平成10年)3月26日の池袋線と帝都高速度交通営団(現・東京地下鉄)有楽町線との相互直通運転開始に伴うダイヤ改正により、9101 - 9104編成が池袋線に転出したものの翌4月に9101・9103・9104の各編成は新宿線に再転出。同年11月には池袋線の6000系を営団直通仕様車に統一する車両移動を行う際に9104編成が再度池袋線に移動し、その後新宿線に残った2本も20000系の登場により再度池袋線に移動した。
2008年(平成20年)現在は全編成が武蔵丘車両基地に所属し、池袋線で運用[5][6]されており、早朝の保谷・小手指始発の各駅停車飯能行を除いて、優等列車のみで使用されている。
VVVFインバータ制御への改造
本系列の車体自体は新しいが、冷房装置・補助電源装置等を除いた主要電装品は101系からの流用であり、また抵抗制御方式のままでは今後のメンテナンス費用の増加や予備部品確保の難しさ等の問題点が指摘された[7]。また、運転性能的には現状のままでも問題はないが、社会的な環境対策による省エネルギー化の観点から、より電力消費量の減少が必要とされるようになった[7]。
このようなことから車体の残存寿命を考慮しても、改造後の電力消費量やメンテナンス費用の減少などから十分に投資が回収できる見通しが立ったためVVVFインバータ制御方式への改造を施工することが決定された[7]。改造内容はコストを極力抑えるために省コスト化・省エネ化を図れるものに限定し、そのほかの機器の改造は行わず、また改造内容は必要最低限ものとした[7]。さらに機器は予備品の共通化などの目的から20000系・10000系5次車と極力同型のものを採用した[7]。
施工内容
2003年(平成15年)度から2007年(平成19年)度にかけて全編成に以下の工事を施工した。
- 抵抗式制御装置および抵抗器等を撤去し、日立製作所製IGBT素子を使用した全電気ブレーキ対応VVVFインバータ[8][9]制御装置に更新した[7]。
- 主電動機は20000系および10000系5次車と共通の135kWかご形三相誘導電動機(HS32530-03RB形)とし[7]、またフィルターリアクトル、断流器なども共通とし、予備品の効率化を図った[7]。
- 台車は基本的に変更はないが、電動台車は歯車比は変更されなかったものの主電動機を交換したため駆動装置が中空軸平行カルダン駆動方式からWN駆動方式に変更された[7] 。
- 最高速度が110km/hから120km/hに向上。
- ブレーキ装置を発電ブレーキ併用の電磁直通ブレーキ方式 (HSC-D) から回生ブレーキ併用の電磁直通ブレーキ方式 (HSC-R) に変更した[7]。さらに同様のMT比である6000系に準じた遅れ込め制御方式に改良し、各車にブレーキ受量器や電空変換弁などの取り付けた[7]。
- 蓄電池も改良されて容量を増大。
- M4車(モハ9600形)のパンタグラフを撤去、警笛に電子警笛を追加[7]。
- 運転台は構造面での変更はしないものの電流計交換・表示灯類変更・モニタ装置のプログラム改修など最小限の改造を施工[7]。
改造工事の時期
本節では2008年(平成20年)1月までに施工された順に解説する。
- 9106編成
- 2004年(平成16年)2月上旬武蔵丘車両検修場出場。
- 9107編成
- 2005年(平成17年)1月上旬武蔵丘車両検修場出場。
- 9101編成
- 2005年(平成17年)7月12日東急車輛入場。10月27日出場。
- 9104編成
- 2005年(平成17年)11月7日東急車輛入場。翌2006年(平成18年)2月21日出場。
- 同年3月20日頃から営業運転を再開。
- 9105編成
- 2006年(平成18年)6月7日東急車輛入場。9月28日出場。
- 改造工事と同時に座席クッションを交換(6000系と同等だが、朱色モケットのバケットシート)、座席間にスタンションポール(つかみ棒)を設置し、つり革も乗務員室後方も含めてドア部分に増設され、10月から営業運転を再開。
- 9102編成
- 2006年(平成18年)11月6日東急車輛入場。翌2007年(平成19年)3月27日出場。
- 4月24日頃から営業運転を再開。スタンションポールの設置と座席の変更はされていない。
- 9103編成
- 2007年(平成19年)6月6日東急車輛入場。9月27日出場。
- 9108編成
- 2007年(平成19年)10月15日東急車輛入場。2008年(平成20年)1月31日出場。
- 出場後の極短期間、先頭車前面の車両番号表記がされていない時期が存在した。
編成表
テンプレート:TrainDirection | ||||||||||
形式 | クハ9100形 (Tc1) |
モハ9200形 (M1) |
モハ9300形 (M2) |
サハ9400形 (T1) |
モハ9500形 (M3) |
モハ9600形 (M4) |
サハ9700形 (T2) |
モハ9800形 (M5) |
モハ9900形 (M6) |
クハ9000形 (Tc2) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
機器配置 | VVVF | SIV,CP | VVVF | SIV,CP | VVVF | SIV,CP | ||||
車両番号 | 9101 | 9108 |
9201 | 9208 |
9301 | 9308 |
9401 | 9408 |
9501 | 9508 |
9601 | 9608 |
9701 | 9708 |
9801 | 9808 |
9901 | 9908 |
9001 | 9008 |
- 凡例
- VVVF : 制御装置(1C4M2群)
- SIV : 補助電源装置(静止形インバータ)
- CP : 空気圧縮機
その他の改造
6000系アルミ車(6151 - 6155編成)とともに順次全編成で戸袋窓簡易封鎖改造が行われた。
RED LUCKY TRAIN
京浜急行電鉄は、新1000形1057編成の車体塗装を、黄色を基調とした「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」として2014年5月1日に運行を開始したが、多くの乗客から「西武鉄道の車両に似ている」という声があった。そこで京急が西武にコラボレーション企画をしたいと申し出たことから、西武では9103編成を「RED LUCKY TRAIN」として京急風の塗装に変更し、2014年7月19日の臨時列車から運行を開始した[12]。 テンプレート:Double image aside テンプレート:-
脚注
参考文献
- 交友社『鉄道ファン』
- 1994年4月号 新車ガイド「西武鉄道9000系」
- 2001年6月号 大手私鉄の多数派系列ガイド「西武6000系・9000系」
- 2004年6月号 CAR INFO「西武9000系VVVF化改造車」
- 鉄道図書刊行会『鉄道ピクトリアル』
- 2002年4月号増刊 特集「西武鉄道」
- 2004年10月号増刊 鉄道車両年鑑2004年版「西武鉄道9000系VVVFインバータ化改造」
外部リンク
- 電車図鑑 9000系 - 西武公式サイト内
- ↑ 新造時のものは6000系と共通幕とされたため、本来乗り入れることのない地下鉄有楽町線関連のコマも存在した。2008年以降の新デザインは新2000系の方向幕車と同一。
- ↑ 制御段数は弱め界磁起動1段・直列12段・並列13段・弱め界磁5段・発電制動25段。
- ↑ 編成でSIVを2台以上搭載した場合、1台が故障しても健全なSIVから電力を供給する機能。
- ↑ 1996年(平成8年)新造車。
- ↑ 一部は6000系との共通運用。
- ↑ 新宿線用10両固定編成は予備車が不足していることから、稀に貸し出されることがある。
- ↑ 7.00 7.01 7.02 7.03 7.04 7.05 7.06 7.07 7.08 7.09 7.10 7.11 7.12 7.13 鉄道ピクトリアル2004年10月号臨時増刊号 鉄道車両年鑑2004年版「西武鉄道9000系VVVFインバータ化改造」記事。
- ↑ 20000系は3レベル、9000系は2レベルPWMという違いがある。
- ↑ ベクトル制御方式(1C4M2群制御)。
- ↑ 甲種輸送は下記のルートとなる。
- ↑ 2008年(平成20年)2月現在で搭載されているのはこの編成のみであることからか、機能停止となっている。
- ↑ テンプレート:PDFLink 西武鉄道公式ニュースリリース