中空軸平行カルダン駆動方式
中空軸平行カルダン駆動方式(ちゅうくうじくへいこうカルダンくどうほうしき)とは、電車のモータ駆動方式のうち、カルダン駆動方式の一種。1941年にスイスの電機メーカー、ブラウン・ボベリが開発した「ディスクドライブ」方式が原型とされる。
モータは車軸に平行配置して台車枠に固定。モータ軸を太めの中空軸構造とし、ここにもう一本の駆動軸(ねじり軸と呼ばれる)を通す。駆動軸の一端にたわみ板継ぎ手を介して中の軸を駆動、モーターの反対側を実質の出力口とする。これによってずれの角度を押さえ、幅を広げずに継ぎ手のたわみ幅を小さく押さえることができる。
モータ直径は大きくなるものの、WN駆動方式に比して電機子軸方向の寸法を短くできることから、特に狭軌鉄道に適する。
日本での導入例
東洋電機製造が、日本初の可撓継手による平行駆動装置2種類(ブラウンボベリのディスク方式にヒントを得た、たわみ板による中空軸カルダンとWN継手に類似の中実軸歯形継手)を1952年11月に京阪神急行電鉄(現・阪急電鉄)京都線751で現車試験をした。この試験の結果を受け、最初の実用中空軸平行カルダン駆動装置を1953年6月に完成した京阪電気鉄道1800型1801用として1セット納入した。駆動機構はモーター側ゴムと歯形継手、ピニオン側にたわみ板継手を使用した。1954年には世界初の1,067mm狭軌用としてたわみ板継手式中空軸カルダン駆動装置を名古屋鉄道と南海電気鉄道に納入し、同年路面電車用として西日本鉄道福岡市内線に投入した1000形に採用された。
1957年には日本国有鉄道(国鉄)モハ90系の駆動装置として採用された。三菱電機がアメリカ企業のウェスティングハウス・エレクトリックのライセンシーとして製造したWN駆動方式に比べ、軸方向の寸法を最小で済ませることができてスペース効率に優れることと、ギアボックスと電動機の電機子軸の相対位置の変動幅を大きく取れ、劣悪な軌道条件での追従性に優れることから、狭軌の鉄道事業者を中心に普及した。
その後たわみ板継手を2個組み合わせた形状のTD(Twin Disc)継手と中実軸の電動機を用いる「TD平行カルダン駆動方式」が開発された。一方でVVVFインバータ制御と誘導電動機の組み合わせが普及した。結果として主電動機の小型化が推進されたことから中空軸平行カルダン駆動の優位性は相対的に低下し、近時の新系列の電車で本方式を採用する例は殆ど見られなくなった。
採用している(していた)鉄道事業者
- 東京急行電鉄
- 東武鉄道
- 京王帝都電鉄(現・京王電鉄)
- 京浜急行電鉄
- 京成電鉄
- 西武鉄道
- 小田急電鉄(3000形、3100形)
- 遠州鉄道(1000形)
- 名古屋鉄道
- 京阪電気鉄道
- 南海電気鉄道(東洋電機製造製主電動機車両の11001系(狭軌用では日本初)・20001系・21001系)
- 阪神電気鉄道
- 阪急電鉄(京都線の1300系・2300系・2800系・3300系)
- 西日本鉄道
- 富山地方鉄道
- 日本国有鉄道(国鉄)(207系900番台はTD平行カルダン駆動方式)
- 北海道旅客鉄道(JR北海道)
- 東日本旅客鉄道(JR東日本)
- 東海旅客鉄道(JR東海)
- 西日本旅客鉄道(JR西日本)(JR西日本の新造車での採用実績は205系1000番台、211系クモロ211・モロ210形(廃車)、213系増備車、それに221系の4系列のみ。207系以降のVVVFインバータ車は一部例外[1]を除いてWN駆動方式)
- 九州旅客鉄道(JR九州)
- 横浜市交通局
- 京都市交通局
脚注
関連項目
- ↑ 営業用車両では223系5000番台、N700系3000/4000/5000番台のグリーン車が該当。