拳銃
拳銃(けんじゅう)は、片手で射撃するためにデザインされた銃の総称である[注 1]。小型で携帯性・秘匿性に優れており、主に護身用に使用される。
火縄銃が伝来した直後から日本でも製造されており、短筒、馬上筒などと呼ばれていた。洋式火器が輸入されるようになった幕末から短銃、ピストル (蘭:pistool)と呼ばれるようになった。英語のハンドガン (handgun) が日本で意訳された言葉である拳銃[注 2]と並んで一般的な呼称となっている。しかし米国で単に「ピストル」というと普通は自動拳銃を指し、回転式拳銃はリボルバーと呼ばれる[注 3]。また、暴力団関係者の間でははじき、チャカといった隠語で呼ばれている。
概要
両手で扱う他の火器と比較して、次のような特徴を持つ。
- 小型である
- 銃床を持たず銃身が短く携帯性に優れている[注 4]。各国の警察官も拳銃を携行している事が多い。犯罪者の側も隠し持つために有利であるので、大型銃と比較し所持規制が厳しい傾向にある(アメリカでも自宅に置く「所有」は規制が緩いが、「携行」は警察官を除き許可制)。
- 拳銃弾を用いる
- 小銃弾に比べて装薬量の少ない拳銃用弾薬を用いる。拳銃は銃身が短いため銃身内での弾頭の十分な加速が望めず、弾頭重量によってパワーを稼ぐ必要がある。
そのため拳銃弾は小銃弾に比べ短いが口径は大きい傾向にある。結果として近距離で十分な威力を持つが距離による威力減衰が激しい特性がある。 - 片手でも射撃が可能
- 拳銃弾は小型で低威力のため、反動が少なく片手でも使用できる。片手で使用できないものは拳銃の範疇に含めない。ただし片手持ちでは射撃精度が低くなる為、現在は両手で保持する射撃姿勢が主流である[注 5]
用途
軍事用途
現代では将校、狙撃手、車両および航空機の乗員などに、護身用として自動拳銃が支給されるのが一般的である。対して一般の歩兵部隊ではごく限定的な数が運用されるのみである[注 8][1]。
拳銃は一般的な火器と異なり、ストック(銃床)やフォア・グリップ(前方銃把)の類が存在しない上に、そのものが軽量であるため制動が難しい。そのため、射撃には習熟が必要[注 8][1]な上に、命中精度が低く、野戦において小銃類に対抗することは不可能に近い。中近距離の戦闘においても、アサルトライフルや短機関銃といった自動火器に比べて、有効射程や発射速度が絶対的に不足しており、不利は免れない[注 9][1]。わずかに室内などの数m以内の近接戦闘で対抗しうる程度である。さらに、小銃弾に比べて殺傷力(ストッピングパワー)が低い上に、現代の歩兵が着用しているボディーアーマーや戦闘用ヘルメットを貫通すら出来ない場合が増えている。それに加え用途の限られる拳銃弾の補給は兵站への余分な負担となる。
しかしながら、実用上の不利にも関わらず、副武装(サイドアーム)として未だに拳銃は現役である。つまり、自動小銃や軽機関銃などの主武装を失っても丸腰にならずに済むという心理的充足には、小型で携帯性が高い拳銃が適している。特殊部隊のように特別に訓練・予算が充実している部隊は拳銃の訓練する場合が増える[注 8][1]。同様に先進国では軍隊の職業軍人化によって兵士一人あたりの訓練・予算が増加し、拳銃訓練を施される兵士の割合が増える傾向にある。とはいえ拳銃を携行するのは負担になるため必要な任務に限られることが多い。
近世の拳銃
火縄銃の時代から存在した。日本では短筒(片手用)、あるいは馬上筒(両手用)と称した。しかし当時の拳銃は、単に火縄銃の銃身を短くしたものに過ぎない。そのため取扱いの手間も火縄銃と全く同じであり、サイズこそ小型であってもポケットや懐に隠し持つ事など不可能な代物であり、現代の拳銃のような護身用に使えるものではない。また、片手で撃てるように反動を減らした場合(前装式なので火薬の量の調整は容易である)威力不足で実用に耐えない場合もあった。
しかしながら、銃身にライフリングが施されていない当時、銃身を短くした拳銃であっても、普通の小銃に比べてさほど命中率については劣るものではないという利点もあった。
これらは主に騎兵銃として運用された。上記の馬上筒という名称は、そこからの命名である。伊達政宗は大坂の役において騎馬鉄砲隊を編成し、後藤基次らを打ち破っているが、真田信繁には敗れている。以降の日本では戦乱が途絶えたため、これ以降の進歩は途絶えた。一方でヨーロッパでは、三十年戦争においてスウェーデン軍は拳銃で装備した胸甲騎兵を大々的に運用し、他国でも騎兵科の兵職の一つとして定着した。
また、銃の点火方式が火縄からフリントロック式に移行すると、懐に隠し持つ事も可能になり、護身用として用いられるようになった。
近代の拳銃
技術の発達により銃が軽量化されていくと、小銃より若干銃身が短い程度の騎兵銃であっても、騎兵用としての目的が果たせるようになった。また、銃身にライフリングが施されると小銃と拳銃の命中率の差が非常に顕著になった。そのため騎兵用の主要装備としては次第に用いられなくなっていくが、サーベルや槍を主要装備とする抜刀騎兵/槍騎兵の補助装備として用いられる事はあった。
第一次世界大戦までの拳銃
リボルバー、そして自動拳銃の発明で能力・携帯性が向上した。当時の小銃は手動装填で連発能力が低く、近接戦闘では拳銃でも渡り合えたため、将校や下士官の護身用として存在感のあった時期となった。小型であることから第一次世界大戦では塹壕戦用の武器としても使用されたが、大戦後期の短機関銃の実用化で能力不足を露呈し始めた。
第二次世界大戦までの拳銃
引き続き将校下士官の護身用に使用されたが能力不足が目立ち、短機関銃やカービンに置き換えられることが増えた。さらには末期のアサルトライフルの実用化により主要な兵器として陳腐化するに至った。
現代の拳銃
歩兵の防弾装備の発達から拳銃弾の威力不足が顕著になった。さらに拳銃弾を補給する負担を減らすという意味もあり、護身用途も短縮小銃(特にカービンモデルのアサルトライフル)に代えられることが増えた。
警察・治安維持部隊用途
携帯性の良さから極めて広く使用されている。かつては安価で信頼性の高いことから装弾数の不利にも係わらずリボルバー式が使われることが多かったが、オートマチック式の信頼性向上により移行が進んでおり、欧米諸国の治安組織に至ってはほとんどの組織がオートマチック式を採用している。
信号・照明用
信号拳銃と呼ばれる専用の拳銃が存在しており、軍隊や民間で連絡や遭難時に使用される。
犯罪用途
隠し持てるため、犯罪に多用される。そのため所持規制を課している国家が多い。
市民の自衛用
一部の国では市民が自衛用に所有することを認めている(購入して自宅に常備。持ち歩く携帯は別の許可を要する場合が多い)。ただ市民の銃が犯罪に悪用されたり、子が悪戯して暴発事故に発展したりすることも多いため、常に議論の対象になっている。
競技用
射撃競技のピストル種目に使用する。最初から競技用として設計されたものと、既に製造された銃を競技向けに改造したものがある。
狩猟用
拳銃の民間所持が認められている国では、猟銃とともに拳銃を持ち歩くハンターがいる。多いのは護身用途であり、散弾銃に散弾を装填したままでは大型獣の突進を止められず、かと言ってスラッグ弾を装填しなおす時間もないのではないかという恐れから大型拳銃を持ち歩く。あるいは長い銃身の散弾銃やライフルでは動きの速いオオカミや毒へびを捕捉できない恐れから取り回しのよい拳銃を持ち歩く人もいる。また、ウサギや鳥などの小型動物を獲る時に使用される場合もある(高価な猟銃弾の節約と食べる部分を損なわない為)。
拳銃の種類
拳銃には、単発式・複銃身式・回転式・自動式といった種類に大別される。
単発式・複銃身式拳銃
一本の銃身を持ち、一発の弾薬しか装填できないものを単発式と呼び、単発式の銃身を複数にして連射・斉射できるようにしたものを複銃身式と呼び、前装式銃器の時代から様々な形式のものが作られた。
後に銃身後端を切断して、ここに回転式の弾倉(シリンダー)を付けたものが作られるようになり、これが前装式回転式拳銃へと発展した。
一体型の薬莢が用いられるようになった時代から、これを装填するために銃身部と機関部の間で2つに折って装填できる形式ものが作られるようになり、単銃身~4連銃身程度のものが製造されてきたが、本数が増えるだけ重量が増すため小型の製品が多かった。
デリンジャーは上下二連銃身の小型拳銃で、中折れ式拳銃の代表例であり、手の平や袖の中に収まるコンシールメント・ウェポン(隠し持てる武器。目立つ拳銃を取り上げられた場合の最後の抵抗手段)としても有名である。.41リムファイヤのレミントン・ダブルデリンジャー、.22LRのハイスタンダード・デリンジャーなどがある。
1865年に第16代アメリカ大統領リンカーンの暗殺に用いられたのは、前装式の単発小型銃フィラデルフィア・デリンジャーであり、これが有名となったため、小型拳銃の商品名としてデリンジャーという名称が多用されるようになった。
近年では、銃身と撃鉄を交換するだけで様々な口径を撃つことが出来るトンプソン・コンテンダーが、シルエット競技(重い鉄板を撃ち倒す)で人気が高い。
回転式拳銃
リボルバーとも呼ばれる。中に薬室を複数納めたレンコン状の回転式弾倉(シリンダー)を有するのが特徴で、装弾数は一般に5発か6発である(近年の金属の熱処理技術の向上や、口径の関係で7~8発のものもある。)。 ナガン・リボルバー等一部のリボルバーを除いて、大体は弾倉と銃身の間に隙間(シリンダーギャップ)があるため、発射ガスがそこから放射状に飛散する。このためサプレッサー等を付けても全く意味がない。
利点として自動式拳銃と比べて構造が単純・堅牢である。保守も容易であり、実包装填時の暴発の危険性が低く信頼性が高い。また、不発が発生した場合ハンマーを起こす(シングルアクション)、または引き金を引くだけ(ダブルアクション)で次弾を素早く発射出来る、弾頭の形状・装薬量の変化に左右されない。 欠点は装弾数が少ないことや弾薬の再装填に時間が掛かることである。(再装填に関してはスピードローダーという装填器具ですばやく装填できるものもある。) 価格も安いため、銃の所持が許可されている国では護身用、また発砲する機会は少ないが持っている事が権威と力の象徴になるような地域の警察官用としてリボルバーの需要があり、古い年代のリボルバーは芸術品としての人気も高い。
その構造上部品数が少なく、耐久性を上げやすいことから、回転式拳銃向けの大口径で高威力のマグナム弾も作られている。 シリンダーの保持方法によって振出式(スイングアウト)、中折れ式(トップブレイク)や固定式(ソリッドフレーム)等に大別でき、現在最も普及しているのはスイングアウト方式である。
自動式拳銃
自動式拳銃とは、射撃時の反動(反動利用式)や、火薬が燃焼する際に生じるガスの圧力(ガス圧作動方式)を利用して、遊底(スライド、ボルト)と呼ばれる部分を後退させ、排莢や次弾装填を自動化した拳銃である。 ほとんどの拳銃は反動利用式(ショートリコイル)の作動機構を持ち、スライドの後退によって反動が軽減される効果を持つ。 英語ではオートマチックピストル(automatic pistol)、またはオート(auto)と呼ぶ。ジョン・ブローニングが1900年にコルトM1900によって世界で初めて実用化。またのちにベルギー・ファブリックナショナルでFN ブローニングM1900が、世界で初めて大量生産された。
一般的な自動式拳銃は、引き金を引く度に1発ずつ弾丸を発射、排莢、再装填を行う半自動式(セミオートマチック)。引き金を引いたままにすれば全自動(フルオートマチック)で発射できるものは「マシンピストル」(後述)と呼ばれ、便宜上は区別される。
利点として、大部分の回転式拳銃に比べて装弾数が多く、弾倉の交換もグリップ内に挿入する形式で簡単に交換できるため連射に向いている。口径にもよるが7発前後から、多いものでは15発以上の弾丸を装填できるものもある。 さらに専用のロングマガジンを使う事で更に装弾数を増やす事も可能(グロック18Cは最大で33発もの弾薬を装弾できる)。 また、ロングマガジンにグリップ・アダプターという器具をつけて挿入することでホールド感を安定させることもできる。 自動式拳銃の弾倉には、弾丸が一列に収められているもの(シングル・カラム:単列弾倉)と、幅を広げてジグザグに収めるようにしたもの(ダブル・カラム:複列弾倉)があり、後者は銃の大きさをほとんど変えずに装弾数を大幅に増やせることから近年幅広く採用されている。 しかし、銃把(グリップ)が太くなり、重量も増すため、操作性は低下する場合が多い(このため、自衛隊の拳銃等は手の小さい女性自衛官が使用することを考慮してシングルカラムマガジンを採用している)。
自動式拳銃の欠点としては部品数が多く、回転式拳銃よりも複雑な動作をするために、しっかりと手入れをしていなかったり、グリップをきちんと握って射撃をしないと動作不良や部品の破損を起こしやすい点が挙げられる。
マシンピストル
マシンピストル(Machine pistol)とは、フルオート射撃可能な拳銃サイズの火器の総称である。 通常、セミオートのみの自動拳銃にフルオート射撃機能を追加したものを指すが、自動拳銃に近い大きさの小型の短機関銃を指す場合もある。そのため異なる特徴を持つ二種類の銃を指しており、意味の曖昧な名称となっている。
英語の“Machine Pistol”は、ドイツ語で短機関銃を指す“Maschinenpistole”の直訳にあたるが、ドイツ語の意味とは異なり、Machine Pistolには一般的な短機関銃は含まれない[注 10]。
自動拳銃にフルオート射撃機能を持たせる試みは、塹壕戦用に拳銃の火力を強化する目的で、第一次世界大戦開戦から間もない1915年頃からドイツで始まった。しかし、高速な発射速度に起因する反動の強さ、集弾性の低さ、装弾数の少なさといった欠点があり、塹壕戦用兵器としてはMP18等の短機関銃が主流となった。[注 11]
現在は小型かつ短時間に強力な弾幕を張ることができる特徴から、要人警護等の特殊用途での使用が見られる。
拳銃にフルオート機能を持たせた「マシンピストル」には、以下の特徴を持つものが多い。
- 反動制御のための着脱式ストックが装備可能[注 12]。
- 装弾数を増やした(概ね20発以上)弾倉が用意されている。
- バースト(2~3点射)機能や、発射速度の抑制機構を持つ。
短機関銃を小型化した「マシンピストル」には、以下の特徴を持つものが多い。
- 反動制御のためのストックは着脱式ではなく銃に固定されているが、小型化の目的のために伸縮式や折り畳み式が多い。
- もともと20発以上の弾倉を使用する。
- 精度よりも火力を重視するため、バースト機能はなく、発射速度が非常に高い。(構造的に精度は期待できず、小型であるため必然的に発射速度は高くなる。また構造を簡単にする要望からそうした機能は求められない)
自動拳銃ベースの「マシンピストル」の代表例: アストラM901、モーゼルM712、H&K VP70、スチェッキン・マシンピストル、OTs-23、OTs-33、CZ 75 FULL AUTO、グロック18、ベレッタM93R(フルオートではなく3点バースト)
マシンピストルサイズとされる小型短機関銃の代表例: Vz 61、マイクロUZI、ステアーTMP、MAC10/11、TEC-9、9mm機関拳銃
射撃操作
回転式拳銃
回転式拳銃の基本的な射撃操作と、拳銃の挙動は以下の通りだが、競技用拳銃などに操作の異なるものがある。
シングルアクション
テンプレート:Main シングルアクションとは弾丸を一発撃つごとに手で撃鉄を起こす必要がある銃、または一発撃つごとに手で撃鉄を起こす操作法を指す。
- 弾薬を回転式弾倉に装填し、銃にセットする。
- 撃鉄(ハンマー)を親指で引き起こす。銃内部のバネを圧縮した状態で撃鉄は止まる。
- 上記操作と連動して弾倉が回転し、弾薬が発射位置まで移動したところで弾倉が固定され、発射準備が完了する。この状態をコッキングと呼ぶ。
- 人さし指で引き金を引く。撃鉄が作動して落ち、弾薬の底部にある銃用雷管を叩いて火薬が発火し、弾丸が発射される。
引き金が撃鉄を倒すという一つ(シングル)の動作しかしないことからこう呼ばれる。西部劇で多く登場する。片手撃ちの場合、基本的には親指でコッキングして発射準備をする。
速射する場合には先に引き金を引いたまま、空いている手の親指と小指で掌を扇ぐようにコッキングし連続射撃を行う。この動作をファニング(ファニングのファンとは扇のこと)といい、西部劇などでよく見られる。初期のリボルバーにダブルアクション機構がなかったために生じた連射技だが、実弾射撃の場合は一発発射するごとの反動が大きいので、次弾以降の命中を期するのは難く、空包を使用した映画やショーならではのパフォーマンスと言える。
ダブルアクション
テンプレート:Main ダブルアクションとは弾丸の発射に際し、引き金を引くだけで撃鉄が起き上がってから落ち、連続で発射が行える機構やその操作法のことを指す。
- 弾薬を回転式弾倉に装填し、銃にセットする。
- 引き金を引く操作と連動して撃鉄が起こされる。さらに連動して弾倉が回転し、弾薬が発射位置まで移動したところで弾倉が固定され、発射準備が完了する。
- 弾倉の固定とほぼ同時に、引き続けていた引き金が定位置に来た段階で連動していた撃鉄が落ち、弾丸が発射される。
引き金が撃鉄を起こし、さらに倒すという2つの動作をすることからダブルアクションという。引き金を連続して引くだけの簡単な操作で連射できるが、撃鉄を起こす余分な力がいるため引き金を引くのに必要な力(トリガープル)がシングルアクションより大きいことや、引き金を引く距離(トリガーストローク)が長くなり撃ちづらく、命中精度が落ちるなどの欠点もある。
現代のリボルバーの大部分はシングルアクションとダブルアクションの両方の操作ができるようになっているが、ダブルアクション専用のものもある(S&W M40、二十六年式拳銃など)。これは、取扱いに不慣れな者による暴発事故を防ぐ他、格闘時などに偶然もしくは相手の妨害により、ハンマーと弾丸底部を叩く隙間に異物が挟まることで撃鉄が弾丸底部を叩けなくなったり、異物がクッションとなって雷管が発火せず射撃不能になる事を防ぐ意味もある。
撃鉄を起こした状態から射撃を中止する場合、指で撃鉄を押さえながらゆっくり元の位置に戻す(デコッキング操作)必要があるが、内蔵安全装置を持たない古い時代の回転式拳銃の場合には、暴発の可能性が有り危険である。 こうした古い時代の回転式拳銃の場合には、撃鉄が起きていない状態でも落下等により衝撃が加わると暴発する可能性がある(遊戯銃では実銃にはない安全装置が追加して設けられていることがある)。これを踏まえ、現代の回転式拳銃には引金を引く操作をしない限り撃針を弾薬に触れさせない内蔵安全装置が組み込まれている。
自動式拳銃
以下に、一般的な自動式拳銃の操作と挙動を示す。回転式拳銃同様に、シングルアクション、ダブルアクションなどの方式が存在するが、基本的に自動式の場合は2発目以降は撃鉄またはストライカーが発射準備状態になるため2発目以降は回転式でいうシングルアクションの撃鉄が起きた状態となる。そのため、ダブルアクションとシングルアクションの違いは撃鉄が倒れた状態からの最初の1発目の場合にのみ差がある。ただし最近は引き金に軽く触れただけで発射されてしまうシングルアクションの状態を嫌い、回転式のダブルアクションと同様に毎回ダブルアクションで作動するように作られた物が、主に警察関係で採用される傾向がある。
- 弾薬が装填された弾倉を銃に取り付ける。弾倉はバネの力で弾丸を銃の内部に押し上げている。
- 遊底(スライド)をいっぱいに引いて、引く手をはなす。バネにより遊底は戻り最初の弾薬を薬室(チェンバー)に送り込む。
- 前項のスライドの動作によって撃鉄が起こされ、射撃の準備が完了する。(コッキング状態)
- 引き金を引くと、撃鉄、撃針が作動して弾丸が発射される。
- 遊底が反動(リコイル)で後退し、自動的に空薬莢を排出(排莢)して、撃鉄が起きる。
- 後退しきった遊底がバネの力で戻る。その際、弾倉からせり上がってきた次弾が薬室に送り込まれる。(上記「2.」の手動操作が自動で行われたことになる)
- 半自動(セミオート)拳銃の場合は発射後、撃鉄が起きた状態で動作が止まる。引き金を引いていた指を放すと上記「3.」が終わった状態に戻って一発ずつの発射が可能。全自動(フルオート)拳銃の場合は、引き金が引かれている間は自動的に撃鉄が落ち、「5.」〜「7.」が繰り返されて連続して発射される。
- 弾倉内の弾丸がすべて発射されると、遊底は後端で停止して、機関部が露出した状態になる。これをホールドオープンと呼ぶ。ホールドオープンは射手に弾丸が尽きたことを知らせる。また、弾倉の交換による再装填を高速化する意味もある。ここで射撃を終了する場合は、空弾倉を抜き取り、安全のため薬室内に弾丸が残っていないことを確認する。
- 続けて射撃を行う場合は、ホールドオープンの状態で空弾倉を外し、弾丸が装填された弾倉を取り付ける。
- 遊底を固定しているレバー(スライドストップ)を解除するか、遊底を軽く引いてはなすことで遊底が前進し、弾倉最上部にある弾丸を薬室に送り込む。
上記の例は、あくまで一般的な自動拳銃の挙動である。 この段階ではシングルアクションとダブルアクションの違いはない。 デコッキング操作をした等で撃鉄が倒れた状態から射撃を再開する場合、シングルアクションの場合は撃鉄を引き起こす必要があるが、ダブルアクションの場合は引き金を引くだけでよいという違いがある。
大抵の自動拳銃は暴発を防ぐ手動の安全装置を各種備えているが、1970年代以降に設計されたものは安全装置の動作が自動化されており、手動の安全装置を持たない銃も登場している。安全にデコッキングを行うためのレバーも装備している銃が多い(遊戯銃ではデコッキングレバーを安全装置とするよう改変されている場合が多い)。発射の意志を持って引き金を引かない限り、落下等の衝撃が銃に加わっても容易には暴発(不時発射)しない銃が一般化している。
拳銃の所持規制
日本
日本で拳銃の所持が許可されるのは、
- 警察庁・警視庁及び道府県警の警察官(皇宮護衛官を含む)
- 防衛省(自衛隊)の自衛官
- 海上保安庁の海上保安官
- 財務省の税関職員
- 法務省の入国警備官及び入国審査官や刑務官
- 厚生労働省の麻薬取締官
- 都道府県の麻薬取締員
- かつての日本国有鉄道の鉄道公安職員(運輸省所管)(俗称:鉄道公安官)
- 国際的な規模で行われる競技会の選手またはその候補として日本体育協会から推薦を受けた者
など、競技用けん銃の所持を除いては公安的な職務[注 13]を担う公務員に限られる。
なお漁業法に基づく漁業監督官には特別司法警察職員の身分はあるが、拳銃の携帯や使用は認められていない。
上記に挙げた職種の者がやむを得ず発砲に至った場合には拳銃を使用したことが適正だったかどうかを明かすことが多い。
上記以外の者は銃砲刀剣類所持等取締法で摘発される。
特殊な例として在日米軍基地の警備員にも許されている。これは基地内では米国の法律が適用されるためではなく、日米地位協定による法的根拠があるためである[2]。
また、かつては日本の郵便配達夫も拳銃を携帯していた。これは明治初期の郵便制度発足当初、人気のない場所で現金書留を狙い、刀を持った強盗が配達夫を襲う事件が多発し、また山中にはいまだ多かったニホンオオカミが出たことから、欧州にならい1873年より配達夫にフランス製の回転式拳銃を携行させたもので「郵便物保護銃」と呼ばれていた。 これは警察官がサーベルを持つようになる4年前の事であり、法制度上は1948年まで用いられていた[3]。
競技用拳銃の所持について
競技人口の少なさから普及しているとは言い難いが日本においても射撃競技用としての所持は可能であり、所持許可を受けている者は自衛官、警察官に多いが若干ながら民間での所持者も存在する。ビームピストル、エアピストル競技で所定の成績をあげた者が対象となるが、公安委員会が日本全国で拳銃を所持できる競技者数を50人に制限している。(エアピストルは500人、ビームピストルは許可不要)
所定の成績であるエアピストル4段の選手が日本には少ないため、50人の上限に対して常に空きがあり、許可申請があれば認められる状態となっている。また、所持が許可されても自宅に保管することは許されず、通常は所轄の警察署の管理下に置かれ、練習や競技時には事情を申告した上で持ち出さなければならない。
古式銃の所持について
美術的価値を持つ拳銃に関しては、前述の所持枠に係わらず、所持も可能だが、必ず登録が必要である。「古式銃」として所持が認められるのは1868年(明治元年)以前に製造されたことが証明された銃のみであり、更に現代式実包が使える銃はこの条件を満たしていても認められない。四国の某旧家で幕末に入手されたと見られる「S&W Model2 ARMY」(坂本龍馬が所持していたことで有名な物)はこの規定に抵触するため承認されなかったという(高知県の竜馬記念館にある機種も、運営者が県(=官公庁)ではなく財団であるため認められず、撤去されている)。21世紀に入ってからは、コルトM1851 36口径先篭め式拳銃の和式コピー[4]が承認された、という例はある。これはこの形式の弾丸は現在では存在しないので実弾を発砲することは現実的に困難である、というのが承認の根拠であったとされる。
旧日本軍将校の遺族が「形見」として故人の銃器を所持していることがあるが、これらも民間人が個人で所持することは違法である。故人が戦前や戦中に入手したものを家人に内密にしたまま所有し続け、死後に遺族に発見される、というケースもある。ただし、各都道府県警察はこれらの遺品銃器について発見時の自主的提出を呼びかけており[5]、これに応じた提出であれば不法所持として摘発される事はない。
一方、暴力団やその関連組織の拳銃不法所持は毎年摘発事例が記録されており、日本国内における拳銃不法所持の摘発件数の上位を占めているが、近年では一般人の間でも拳銃の不法所持が増加しており、拳銃を用いた事件が多発する原因となっている。
アメリカ合衆国
その他の諸国
3Dプリンター拳銃
2013年に米国テキサス州の非営利団体「ディフェンス・ディストリビューテッド」が3Dプリンターを使用して拳銃を製作するための設計図をインターネットで公開した。この銃は「リベレーター」と名づけられ、設計図をダウンロードすることで3Dプリンターによりプラスチック製の拳銃を作ることが可能である。これにより対面販売と異なり誰でも身元調査なしに銃器を手に入れることが可能で、凶悪犯、テロリスト、精神的に重い病を抱えた人、子どもなども銃を入手できるようになるという懸念が強まっている[6][7][8]。また、作成された銃はプラスチック製であるため金属探知機に引っかからず、安全保障面での問題も指摘されている[6]。設計データはのちに削除されたが、YouTubeなどでそういった銃の設計についての画像が公開されている。
日本では2014年5月8日、3Dプリンターを使い樹脂で製作した拳銃を警察への届け出なしに所持したとして、川崎市在住の湘南工科大学職員の男性が拳銃の不法所持(銃刀法違反)容疑で逮捕された。警察が男性の自宅を家宅捜索した際、同様の拳銃らしきもの5丁が見つかり押収。そのうちの2つは鑑定した結果、殺傷能力のあるものとみなされた。男性は「拳銃は自宅にある3Dプリンターで印刷し、自分で作ったが、違法だとは思っていなかった」としている[8]。3Dプリンターを使った拳銃の複製品での押収・検挙はこの事件が日本初である。
代表的な拳銃
リボルバー
テンプレート:Seealso テンプレート:Columns-start
- Caracal F
- U.S. M1917
- S&W M10(ミリタリー&ポリス)
- S&W M19(コンバットマグナム)
- S&W M28(ハイウェイパトロールマン)
- S&W M29
- S&W M36(チーフスペシャル)
- S&W M500
- S&W M686
- コルトM1848(ドラグーン)
- コルトM1851(ネイビー)
- コルトM1877(ライトニング)
- コルト・シングル・アクション・アーミー(ピースメーカー)
- コルト・ディテクティブスペシャル
- コルト・ニューサービス
- コルト・パイソン
- コルト・ローマン
- コルト・トルーパー
- コルト・キングコブラ
- コルト・アナコンダ
- スイス・アーミーM1882
- スタームルガー・セキュリティシックス
- スタームルガー・ブラックホーク
- スタームルガー・レッドホーク
- エンフィールド・リボルバー
- トーラス・レイジングブル
- ナガンM1895
- ニューナンブM60
- Pfeifer Zeliska
- マテバ 6 Unica
- マニューリン MR 73
- モーゼルM1878 Zig-Zag
- レ・マット・リボルバー
- レミントン・ニューモデルアーミー
- 桑原製軽便拳銃
- 二十六年式拳銃
オートマチック
- Cz75
- FN Five-seveN
- FN ブローニングM1900
- FN ブローニングM1910
- FN ブローニング・ハイパワー
- FN ポケット・モデル M1906
- H&K MARK 23 ソーコムピストル
- H&K P7
- H&K P9S
- H&K USP
- H&K P2000
- H&K VP70
- IMI ジェリコ941
- IMI デザートイーグル
- SIG P210
- SIG SAUER P220
- SIG SAUER P226
- SIG SAUER P230
- SIG SAUER P239
- SIG SAUER P250
- SIG SAUER Pro
- SIG SAUER モスキート
- S&W M39シリーズ
- S&W シグマ
- ZVI KEVIN
- ウィルディ・ピストル
- オートマグ
- グリセンティM1910
- グロックシリーズ
- コリブリ
- コルトM1900
- コルトM1903
- コルトM1908 ベストポケット
- コルトM1911 ガバメント
- コルト・ウッズマン
- ジュニア・コルト
- ショーンベルガー・ピストル
- スタームルガーMkI
- スタームルガーP85
- スチェッキン・マシンピストル
- スタイヤーGB
- スプリングフィールドXD
- トカレフTT-33
- ブレン・テン
- ベルグマンM1896
- ベレッタ84
- ベレッタ92
- ベレッタ93R
- ベレッタM1915
- ベレッタM1934
- ベレッタM1951
- ベレッタ950 ジェットファイア
- ベレッタ8000 クーガー
- ベレッタPx4 storm
- ボーチャードピストル
- マカロフ PM
- ミネベア 9mm自動拳銃
- モーゼルC96
- モーゼルHSc
- ラドムVIS wz1935
- ルガーP08
- ワルサーP5
- ワルサーP22
- ワルサーP38
- ワルサーP88
- ワルサーP99
- ワルサーPP
- ワルサーPPK
- 九四式拳銃
- 十四年式拳銃
- 稲垣式自動拳銃
- 杉浦式自動拳銃
- 南部式自動拳銃
- 浜田式自動拳銃
- 日野・小室式拳銃
- ニューナンブM57/M57A1
その他
脚注
注釈
出典
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 大波篤司著『図解ミリタリーアイテム』28ページ「兵士全員が拳銃を装備するわけじゃない?」項目
- ↑ 『いんちき館 研究分館』「一味違う軍雇用」
- ↑ 『いんちき館 研究分館』「郵便物保護銃」
- ↑ 「桜田門外の変」にて大老井伊直弼の襲撃に用いられたとみられるもの[1]
- ↑ 「思い出の品」相当数? 軍用拳銃回収を強化 山形県警 河北新報2011年1月23日
- ↑ 6.0 6.1 「3Dプリンター銃」が米国で物議、規制推進派からは反発の声 - ロイター、2013年3月2日
- ↑ 米で波紋、「3Dプリンター銃」開発者に聞く ほぼ100%製造可能「日本からも反響多く」 - 日本経済新聞、2013年5月6日
- ↑ 8.0 8.1 3Dプリンターで拳銃製造か 所持容疑で逮捕 - NHKニュースウェブ、2014年5月8日 同5月9日閲覧
関連項目
- 銃
- 弾丸
- 鉄砲
- エアガン
- 銃規制
- 口径
- 実包
- マグナム (実包)
- ジップ・ガン
- 二丁拳銃
- サタデーナイトスペシャル
- スピードローダー
- ハンドロード
- ホルスター
- サミュエル・コルト、コルト・ファイヤーアームズ
- 小銃・自動小銃等一覧
- 機関銃一覧
- 短機関銃・PDW等一覧
- 拳銃一覧
- 散弾銃一覧
- 狙撃銃一覧
- 磁気ピストル(魚雷信管)
- ペッパーボックスピストル(基本的には拳銃史初期のパーカッション式。現代技術をもとに開発された製品もあり。)
- 西部劇en:Handgun
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