海底超特急マリンエクスプレス
『海底超特急 マリン・エクスプレス』(かいていちょうとっきゅう マリン・エクスプレス、MARINE EXPRESS)は、手塚治虫原作のテレビスペシャルアニメ。
概要
1979年8月26日の『24時間テレビ 「愛は地球を救う」』内で放送された。24時間テレビアニメスペシャルの第2弾。
スター・システムがとられており、アトムやブラック・ジャック、サファイアやシャラクといった手塚作品のオールスターキャストが登場することで話題となった作品である。ただし、アトムや御茶ノ水博士など、一部のキャラクターは名前が変更されている。
舞台である海底の透明感を出すために、通常はポスターカラーで描かれる背景を水彩画で描いている。
手塚治虫のイースター島への旅行から持ち上がった企画であり、当初はマリン・エクスプレスよりも後半のムー帝国での冒険が中心の作品になるはずであった。しかし、手塚の手がけた絵コンテは放送時間を大幅に上回る2時間10分の分量となってしまい、後半のシーンを中心に大幅なカットがなされたため、海底列車内でのサスペンスを前面に押し出した内容となった。そうした経緯もあり、手塚は前作の『100万年地球の旅 バンダーブック』共々本作を劇場用アニメとしてリメイクすることを明言していたが、実現はしていない。
2008年開催の東京国際映画祭アニメ部門『animecsTIFF』でも上映された。
EDクレジットは「下から上に流れる」のではなく「上から下に流れていく」タイプとなっている。
ストーリー
2002年、人類最先端の海底超特急「マリン・エクスプレス」の開業を前に、招待客を乗せて試運転が行われようとしていた。
日本へ向けロサンゼルスを発車した超特急に乗り込んだのは、日米の計画責任者と関係者たち。その中には列車に忍び込んだ殺人犯を追ってきた私立探偵、計画を成功させることに情熱をもった若い運転士、密かにマリン・エクスプレスの破壊を計画する関係者、それに試運転を利用し武器の密輸を企む一団などがいた。
様々な思惑を乗せて走る列車は数々のアクシデントに遭遇し、やがては太古の世界のムー帝国とインベーダーとの争いにも巻き込まれて行く。
登場人物
人物名の下に、その「役」を“演じている”手塚キャラ名を記載。
- 伴俊作
- 声 - 富田耕生
- 『鉄腕アトム』などに登場のヒゲオヤジ。
- 私立探偵。シャイロック殺人事件の犯人を追ってマリンエクスプレスに乗り込む。ムー帝国での争いが終わった後に、彼一人だけが元の世界に戻ることになった。
- ムー大陸の事はマリンエクスプレス事故の混乱が見せた夢、幻だったのではないかと思えてきた頃、石垣に彫り残されたブラック・ジャックからの医療費請求を見つける。
- ロック・ナーゼンコップ
- 声 - 武岡淳一
- 『バンパイヤ』などに登場のロック・ホーム。
- マリン・エクスプレスの設計者ナーゼンコップ博士の養子であり、列車の運転士。父の築いたマリン・エクスプレス事業を成功させることに情熱を注いでおり、列車をめぐる数々のアクシデントに中心人物として立ち向かう。
- ムー帝国ではサファイアと恋仲になり、反乱兵を率いてシャラクに立ち向かう。その後、サファイアの元に残ることを選択した。
- デューイ
- 声 - 八代駿
- マリン・エクスプレスの操縦室でロックのサポートをしているアシスタントロボット。
- ブラック・ジャック
- 声 - 野沢那智
- 『ブラック・ジャック』などに登場のブラック・ジャック。
- 天才医師。シャイロックの主治医であり、彼の屋敷に向かう途中に重傷を負ったヒゲオヤジを助け、その治療費を取り立てようとマリン・エクスプレスまで付いて来る。
- シャラクへの反乱後、膨大な数の負傷者の治療のため、ムー帝国に残る。ムー帝国で伴俊作への請求を石垣に彫り付けていた。
- アダム・ナーゼンコップ
- 声 - 清水マリ
- 『鉄腕アトム』などに登場のアトム。
- ナーゼンコップ博士が造った人間ダミーの一つだが、見た目は人間の少年と変わらず、家族のように扱われている。従順で博士の言葉には逆らわない。
- マリン・エクスプレスを破壊するための制御ユニットが組み込まれており、シャラクにマリンエクスプレスを渡さないようにするため、マリンエクスプレスごと自爆を行う。
- ナーゼンコップ博士
- 声 - 勝田久
- 『鉄腕アトム』などに登場のお茶の水博士。
- マウイ族出身のポリネシアン。鉄道工学の権威であり、マリンエクスプレスの設計者。ロック、アダムと共にマリン・エクスプレスに乗り込む。
- 南洋の文化と自然が破壊される海底鉄道計画に加担したことを後悔しており、正式な運行が始まる前にマリン・エクスプレスを破壊しようと試みる。
- 「ナーゼンコップ(Nasenkopf)」はドイツ語で「鼻の頭」の意味で、過去の漫画作品『世界を滅ぼす男』で同じようにお茶の水博士が演じた科学者キャラクターの名前にも使われている。
- レッド・クレジット
- 声 - 大塚周夫
- 『メトロポリス』などに登場のレッド公。
- アメリカ国務長官。海底鉄道建設を中心となって推し進めた人物で、愛娘のミリーと共に試乗会に参加する。
- 白人至上主義者であり、科学者時代に同僚だったナーゼンコップ博士のことを見下している。マリンエクスプレスを利用して、軍が開発した武器の密輸を行おうとしている。
- 娘のミリーに目論見を知られ、「パパは悪い人じゃないわよね」と詰問されたことで密輸を諦める。マリンエクスプレスを暴走させ始めたアダムを制止するため、列車の外を伝ってコックピットに入ろうとするが、アクシデントにより命を落とす。
- ミルドレッド・クレジット(ミリー)
- 声 - 小山マミ
- 『ドン・ドラキュラ』に登場するチョコラ。
- クレジットの一人娘で、父親によく懐いている。車内で同年代のアダムと知り合い、その悲しい運命に心を痛めることになる。
- スカンク
- 声 - 矢田耕司
- 多数の手塚作品に登場しているスカンク草井。
- クレジットの部下。武器密輸の事実を知った人間の口封じを行っている。
- ランプ
- 声 - 内海賢二
- 多数の手塚作品に登場しているアセチレン・ランプ。
- クレジットの部下。マリンエクスプレスの暴走を知って逃げ出そうとするが逃げ遅れてしまい、ロックたちと共にムー帝国に飛ばされてしまう。
- サファイアとロックの反乱計画、およびアダムによるマリンエクスプレス破壊の計画の情報を手にシャラク側に寝返り、自分だけ元の場所に戻してもらおうとした。が、シャラクは約束通り「元の場所」、つまり太平洋のど真ん中にランプを戻し、ランプはそのまま海の藻屑と消えた。
- サファイア
- 声 - 太田淑子
- 『リボンの騎士』などに登場のサファイア。
- ムー帝国の女王。シャラクに襲われていたロックたちを助ける。シャラクとドンドラに乗っ取られた国を取り戻すため、ロックと共にシャラクに戦いを挑む。
- シャラク
- 声 - 肝付兼太
- 『三つ目がとおる』などに登場の写楽保介。
- クリプトリプトン星からムー帝国にやって来た宇宙人。海底に眠る財宝を手に入れるためムー帝国を乗っ取り王子を名乗るが、サファイアに惚れているため彼女を女王のままにしている。
- マリンエクスプレスを手に入れ、ムー帝国のみならず地球全土を支配下に置こうと企んでいる。ランプの密告により、慌ててアダムを排除しようとマリンエクスプレス乗り込むも、超能力でアダムを排除する直前にマリンエクスプレスの爆発に巻き込まれる。
- レオ
- 『ジャングル大帝』に登場する大人時代のレオ。
- サファイヤの忠実な僕。言葉は喋らないが、シャラクが持ち込んだ超科学によって空を飛べるようになっている。
- ドンドラ
- 声 - 千葉耕市
- 『ドン・ドラキュラ』などに登場のドン・ドラキュラ。
- サファイアの下でムー帝国の宰相をしていたが、シャラクに寝返った。
- 丸首文三
- 声 - 雨森雅司
- 多数の手塚作品に登場している丸首ブーン。
- 日本の建設大臣として試乗会に参加する。暴走するマリンエクスプレスから逃げ出そうとして、車外に放り出されてしまう。
- 大口
- 多数の手塚作品に登場しているハム・エッグ。
- 日本の建設省政務次官で、丸首の取り巻き。スカンクに殺される。
- 佐々木小次郎
- 声 - 豊田真二
- 『フィルムは生きている』などに登場する佐々木小次郎。
- 丸首のボディーガード。スカンクに殺される。
- スクリージ・シャイロック
- 多数の手塚作品に登場しているフランケンシュタイン。
- 海底鉄道建設公団の理事長。「何者かに命を狙われている」として伴俊作に調査を依頼するも、伴が到着した時には既に殺されていた。これが事件の発端となる。
- ピノコ
- 声 - 冨永みーな
- 『ブラック・ジャック』などに登場のピノコ。
- マリンエクスプレス試乗会を中継するテレビ番組を見ており、それをブラック・ジャックに告げる。その番組にマリンエクスプレスに乗り込むスカンクが映っていたのを見て、伴俊作はマリンエクスプレスに乗り込むことになり、ブラック・ジャックも治療費取り立てのため、伴を追ってマリンエクスプレスに乗り込むことになった。
- 警察官
- 多数の手塚作品に登場している田鷲警部と中村課長。
- 元の世界に戻った伴俊作の事情聴取に当たる。
- 観光客
- 声 - 峰恵研
- 作者の手塚治虫。
- ラストのワンシーンに登場。伴俊作がムー帝国の物だと言う石造をこの辺りではありふれた遺跡であると教え、夢でも見ていたのではないかと諭す。
- 隊員
- 声 - 島俊介
- 特殊部隊の隊員。マリンエクスプレスを暴走させているアダムを破壊しようとするが、失敗してしまう。
- アナウンス
- 声 - 作間功
- 女
- 声 - 山田礼子
- 駅長
- 声 - 藤城裕士
マリン・エクスプレス
日米が共同開発した太平洋海底横断鉄道。停車駅はロサンゼルス〜マルケサス島〜サモア島〜ポナペ島〜東京。海底にある軌道は、深海の水圧にも耐える透明なチューブで覆われている。
総延長は約25,000km。単線で、跨座式モノレールのような軌道を用いる。所要時間は約40時間(途中駅の停車時間を含む)、最高速度は900km/h(緊急時には1000km/hまで加速可能)。
先頭が機関車で、発車直前に連結される。連結は進行方向前方からではなく、舞台の奈落のように機関車が軌道とともにせり上がる形で行われた。車両のデザインは深海魚を模したものとなっていて、特に先端と最後尾にその傾向が顕著である。先端部には走行中にゆっくりと上下運動するパーツがあり、まるで深海魚が口を開閉させているような動きを表している。
客車はコンパートメントに区切られたタイプと座席だけが並ぶタイプがあり、後者にはデータ計測用のダミー(人形)が乗っている。ラウンジや医務室もある。
スタッフ
- 原案 - 手塚治虫
- 企画 - 吉川斌、都築忠彦
- 製作 - 島方道年
- プロデューサー - 武井英彦、山本智
- チーフディレクター - 出崎哲
- 演出 - 手塚治虫、出崎哲
- 総作画監督 - 清山滋祟
- 作画監督 - 西村緋祿司
- メカニカル作監 - 清水恵蔵
- 設定デザイン - 坂口尚
- 美術監督 - 牧野光成
- 音楽 - 大野雄二(選曲 - 鈴木清司)
- 協力 - 虫プロダクションほか
- 制作 - 日本テレビ、手塚プロダクション
主題歌
- 「ザ・マリン・エクスプレス」
- 作詞 - 奈良橋陽子 / 作曲・編曲 - 大野雄二 / 歌 - トミー・スナイダー(ゴダイゴ)
- シングル盤のカップリング曲は「序曲マリン・エクスプレス」
- 作曲・編曲 - 大野雄二 / 演奏 - You & The Explosion Band
映像ソフト化
2001年にジェネオン・エンタテインメントよりDVD化され、『100万年地球の旅 バンダーブック』『フウムーン』『ブレーメン4 地獄の中の天使たち』とのセット『24時間テレビスペシャルアニメーション1978-1981』が発売。翌2002年に同じくジェネオン・エンタテインメントより単品として発売された。さらに2009年には廉価版の形で再発売されている。