サクランボ
サクランボまたは桜桃(おうとう)は、バラ科サクラ属サクラ亜属の果樹であるミザクラ(実桜)の果実。食用。
目次
概要
木を桜桃、果実をサクランボと呼び分ける場合もある。生産者は桜桃と呼ぶことが多く、商品化され店頭に並んだものはサクランボと呼ばれる。サクランボは、桜の実という意味の「桜の坊」の「の」が撥音便となり、語末が短母音化したと考えられている。
花を鑑賞する品種のサクラでは、実は大きくならない。果樹であるミザクラには東洋系とヨーロッパ系とがあり、日本で栽培される大半はヨーロッパ系である。品種数は非常に多く1,000種を超えるとされている。
果実は丸みを帯びた赤い実が多く、中に種子が1つある核果類に分類される。品種によって黄白色や葡萄の巨峰のように赤黒い色で紫がかったものもある。生食用にされるのは甘果桜桃の果実であり、日本で食されるサクランボもこれに属する。その他調理用には酸味が強い酸果桜桃の果実が使われる。
殆どの甘果桜桃は自家不和合性があり、他家受粉が必要である。受粉には最低限自家不和合性遺伝子型(S遺伝子型)が異なる必要があり、異なる品種なら何でも良いというわけではない。極僅かだが自家結実する品種もある。一方、酸果桜桃は全ての品種に自家和合性が有る。
一般には「初夏の味覚」であり、サクランボや桜の実は夏の季語であるが、近年では温室栽培により1月初旬の出荷も行われている。正月の初出荷では贈答用として約30粒程度が入った300グラム詰めで3万円から5万円程度で取り引きされ、赤い宝石と呼ばれることがある。
歴史
サクランボは有史以前から食べられていた。桜桃の一種である甘果桜桃(セイヨウミザクラ, Prunus avium)はイラン北部からヨーロッパ西部にかけて野生していた。また別の品種である酸果桜桃(スミミザクラ, Prunus cerasus)の原産地はアジア西部のトルコ辺り。
原産地の推定は、1世紀の古代ローマの博物学者プリニウスが著書博物誌に書いた説明に基づく[1]。これによると、古代ローマの執政官ルクッルスが第三次ミトリダテス戦争で黒海南岸のケラソス(Kerasos、現在のトルコギレスンテンプレート:Enlink)近くに駐屯した際、サクランボの木を見つけ、ローマに持ち帰ったという。サクランボの木が属するサクラ亜属の学名Cerasusは、ケラソスのラテン語表記である。なお、逆にサクランボにちなんで町の名が付けられた可能性もある[2]。
ただし、イギリスで青銅器時代のサクランボの種が発掘されていることから[3]、19世紀のスイスの植物学者アルフォンス・ド・カンドルテンプレート:Enlinkは、ルクッルスがコーカサスから持ち帰ったのは、セイヨウミザクラの一栽培品種だったとの仮説を述べている[4]。
この二品種は黒海沿岸からヨーロッパ諸国へ伝わり、特にイギリス・フランス・ドイツで普及した。名称がノルマン人によってシェリーズ (cherise) となり、イングランドに渡ってシェリー (chery) となり、英語のcherryになったといわれている[2]。16世紀ごろから本格的に栽培されるようになり、17世紀にはアメリカ大陸に伝えられた。
一方、中国には昔から華北・華中を中心に、支那桜桃(シナノミザクラ, Prunus pseudocerasus)・唐実桜(カラミザクラ)がある。口に含んで食べることから一名を含桃といい[5]、漢の時代に編纂された礼記『月令』の仲夏(旧暦5月)の条に「是月也,天子乃以雛嘗黍,羞以含桃,先薦寢廟」[6]との記述がある。江戸時代に清から日本に伝えられ、西日本でわずかに栽培されている[7]。これは、材が家具、彫刻などに使われる。暖地桜桃とも呼ばれる。「桜桃」という名称は中国から伝えられたものである。
セイヨウミザクラが日本に伝えられたのは明治初期で、ドイツ人のガルトネルによって北海道に植えられたのが始まりだとされる[7]。その後、北海道や東北地方に広がり、各地で改良が重ねられた。
品種
早生種
- 高砂(たかさご)
- アメリカ原産。収穫時期は6月中旬。元名はロックポートピカロー。受粉樹として栽培される。
- ジャボレー
- フランス原産。酸味が強く糖度が低い。ジャム、果実酒等の加工用。
- 紅さやか
- 紅ゆたか
- 香夏錦
- 正光錦
中生種
- 佐藤錦(さとうにしき)
- 国内で最も多く生産されている品種。1912年(大正元年)から16年かけ、ナポレオンと黄玉を交配してできた。名前は交配育成した山形県東根市の佐藤栄助に因んで1928年(昭和3年)に命名された。苗の販売業者が渋る佐藤を押し切り「砂糖のように甘い」という意味も込めて名づけたテンプレート:要出典。
- 北光
- 天香錦
- 夕紅錦
晩生種
- ナポレオン
- ヨーロッパ各国で栽培されている品種。名前はナポレオン・ボナパルトに由来し、彼の死後ベルギー王が命名したという。収穫時期は6月下旬。佐藤錦の受粉木として一緒に栽培されることが多い。完熟した果実は通好みとされ非常に美味しい。海外ではロイヤル・アンの名称で呼ばれる。
- 紅秀峰(べにしゅうほう)
- 収穫時期は7月上旬。果実は大きく糖度高く豊産性で非常に優秀な品種。
- 紅てまり
- 大将錦
産地
世界
世界の2005年のサクランボ(セイヨウミザクラ)生産量は、1,900キロトンである。その主な生産国と生産割合は次の通り[8]。
順位 | 生産国 | 生産量 |
---|---|---|
1 | トルコ | 260,000 t |
2 | アメリカ合衆国 | 250,000 t |
3 | イラン | 224,000 t |
20 | 日本 | 18,400 t |
日本
サクランボの生産地としては山形県が全国の収穫量の7割を占めており(その中でも山形県東根市は生産量日本一)、それに次ぐ青森県・山梨県を合わせた上位3県で全国の9割近くを生産している。近年は北海道でも生産が進んでいる。
サクランボ合計 | 佐藤錦 | 高砂 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
収穫量 | シェア | 収穫量 | シェア | 収穫量 | シェア | |
全国合計 | 20,800 t | 15,500 t | 783 t | |||
山形県 | 14,900 t | 72% | 12,100 t | 78% | 261 t | 33% |
青森県 | 1,630 t | 8% | 1,140 t | 7% | 5 t | 1% |
山梨県 | 1,350 t | 6% | 752 t | 5% | 448 t | 57% |
(出典:農林水産省統計部:農林水産統計データ2006年版)
主な産地
加工品
実は食用に供される。果実から種を取り出すための専用器具も販売されている。
加工品としては、実を砂糖漬け(もしくはシロップ漬け)にして水分を飛ばしたドレンチェリーがある。洋菓子に用いられる。それとは別にDried cherryもある。
缶詰などで販売されるシロップ漬けのものは、メロンソーダ・みつまめ・冷麦などのトッピング、弁当の付け合せにされることがある。
シンボル
- 県の木
- 市町村の木
- 市町村の花
- 山形県東根市
サクランボを題材にした楽曲
関連項目
脚注
テンプレート:Sister- ↑ プリニウス 博物誌 Book XV Section XXX.
- ↑ 2.0 2.1 21世紀研究会 『食の世界地図』p.141、2004年、文春新書、ISBN 4-16-660378-7
- ↑ Huxley, A., ed. (1992). New RHS Dictionary of Gardening. Macmillan ISBN 0-333-47494-5.
- ↑ Candolle, A. de (1882). Origine des plantes cultivées. Geneva.
- ↑ 跡見群芳譜 シナミザクラ (支那実桜)
- ↑ 中國哲學書電子化計劃 月令
- ↑ 7.0 7.1 インターネット版つくばスチューデンツ 2006年6月号
- ↑ Asociacion de Exportadores de Chile A.G. World Sweet Cherry Review 2006 Edition (PDF 898K)