新宿鮫シリーズ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
テンプレート:Portal 『新宿鮫シリーズ』(しんじゅくざめシリーズ)は、大沢在昌のハードボイルド小説シリーズ。映画、テレビドラマ、漫画化もされている。
新宿署の鮫島警部を主人公とする警察小説のシリーズ。現実の警察の捜査はチームで行われるという制約を壊すために、キャリア警察官が警察内部の抗争に巻き込まれて、はぐれ状態になっているという設定である。下記の作品があるが、1作ごとに違った試みがされている。
小説世界の時系列では、『灰夜』は、『氷舞』と『風化水脈』の間に位置する。通し番号の順番が発表順と異なるのはこのためである。
シリーズ作品
- 長編
- 新宿鮫
- 毒猿 新宿鮫II
- 屍蘭(しかばねらん) 新宿鮫III
- 1993年 光文社カッパノベルス / 1999年 光文社文庫
- 舘ひろし主演でテレビドラマ化(NHK)された。
- 無間人形(むげんにんぎょう) 新宿鮫IV
- 炎蛹(ほのおさなぎ) 新宿鮫V
- 1995年 光文社カッパノベルス / 2001年 光文社文庫
- 氷舞(こおりまい) 新宿鮫VI
- 風化水脈(ふうかすいみゃく) 新宿鮫VIII
- 2000年 毎日新聞社 / 2002年 光文社カッパノベルス / 2006年 光文社文庫
- 灰夜(はいや) 新宿鮫VII
- 2001年 光文社カッパノベルス / 200420 光文社文庫
- 狼花(おおかみばな) 新宿鮫IX
- 「小説宝石」2005年1月号~2006年9月号
- 2006年 光文社 / 2008年 光文社カッパノベルス / 2010年 光文社文庫
- 絆回廊(きずなかいろう) 新宿鮫X
- 「ほぼ日刊イトイ新聞」2010年2月19日~2011年4月22日(週刊連載)
- 2011年 光文社
- 短編
- 鮫島の貌 新宿鮫短編集
- 2012年 光文社
- 区立花園公園
- 『現代小説』2011年12月号掲載
- 夜風
- 『本とも』創刊号 徳間書店 2007.07 / 『鏡の顔』、ランダムハウス講談社、2009年
- 似た者どうし
- 亡霊
- 『オール讀物』2009年8月号掲載
- 雷鳴
- 『小説新潮』2005年1月号 / 『警察小説競作 鼓動』、新潮文庫、2006年 / 『名探偵の奇跡』カッパノベルス、2007年
- 幼な馴染み
- 『週刊プレイボーイ』2006年42~43号 / 『小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所』、集英社、2007年
- 再会
- 『オール讀物』2006年8月号掲載
- 水仙
- 『ジャーロ』41号、2011年春掲載
- 五十階で待つ
- 『Anniversary50』カッパノベルス 2009年
- 霊園の男
登場人物
- 鮫島(さめじま)
- 主人公。国家公務員採用I種試験に合格し、警察庁に入庁したキャリアであった。出向中のある県警察警備部公安第三課時代に過激派左翼団体のエス(スパイ)を巡る意見の対立が出向先のノンキャリ警部補との間であったが、その過激派一味の検挙慰労会の後で互いに瀕死の重傷を負うほどの傷害事件を起こし、加えて警視庁公安部外事二課時代には公安部内の暗闘に関する重大な秘密を、同期入庁の宮本から遺書として託されたことで、警察機構内における特異な存在となってしまう。疎まれつつも宮本の遺書の存在の為に上層部も強硬な対応をとることが出来ないまま、新宿警察署防犯課(現在は生活安全課)に転属させられて、キャリアとして入庁時の警部のまま階級が据え置かれて現在に至る。
- 本来、警部は所轄署では課長もしくは課長代理職を務める階級だが、鮫島はそういった役職に就いてもおらず、係にも属していない。件の理由から新宿署内においても孤高の存在となってしまい、通常は二人一組で行動する刑事の捜査も単独行動を余儀なくされている、遊撃班的存在(但したった独りの)。しかしそうした境遇に置かれていても警察官としての使命感は強く、皮肉なことに彼を知る多くの者(犯罪者やヤクザも含む)からは『ただ一人の信用できる刑事』と言われ、出世も同僚達の冷たい視線も気にせずに地道に署内トップの検挙率を築きあげている。ヤクザには容赦がなく、事前の根回し無く幹部クラスまで噛んで(=逮捕)しまうので、ヤクザからは〝新宿鮫〟と恐れられているが、実際の鮫島は背丈こそ高めなものの、刑事にはとても見えない優男であり、新宿鮫などという厳めしい通り名とのギャップに驚く者が多い。
- 髪型が特徴的とされ、作中ではよく「後ろ髪を伸ばしている」などと表現される(マレット)。これは首すじにある過去の傷害事件で受けた(模造刀による)刀傷を隠すためである。年齢は36歳(第一作時)だが、彼が実年齢よりも10歳ぐらい若く見られるのはこの髪型による。
- 下の名前はシリーズを通して明らかにされたことがない。映画版では“崇”(たかし)という名前が付けられていた。
- 青木晶(あおき しょう)
- 鮫島の14歳年下の恋人。ロックバンド“Who's Honey"(フーズ・ハニィ)のヴォーカル。鮫島に“ロケットおっぱい”と呼ばれるほどの巨乳で、跳ね返りな女。年齢は22歳(第一作時。つまり鮫島の当時の年齢は30代後半)。元不良少女で、中絶経験有り。自身がプロ歌手として売れていくうちに、皮肉にもそのせいで鮫島と離れざるをえなくなっていく。
- 桃井正克(ももい まさかつ)
- 新宿警察署生活安全課課長(警部)。鮫島が信頼・尊敬する直属の上司であり、腹を割って話せる数少ない人物。年齢は52歳(第一作時)。過去に交通事故で家族(妻と1人息子)を失って以来、何事にも無感動で黙々と仕事をこなしているため、周りからは「マンジュウ」(=死体)と呼ばれて揶揄されているが、実際は表情には出さないものの鮫島同様警察官として強い使命感を内に秘めている。揶揄するようなことはなかったが、昔は鮫島も周りと同じく彼のことを空気のような存在のようにしか見ていなかった。が、第一作の『新宿鮫』で事件の容疑者を射殺までして絶体絶命の窮地から救い出されたことで、彼の内奥に秘められた強い感情に気づかされ、以後は感情を表に出しての交流こそないものの、信頼の置ける上司として彼を慕うようになる。組織犯罪対策課の新設時には(実現はしなかったが)、鮫島を課長として推薦した。『絆回廊』で被疑者確保時に流れ弾にやられ殉職した。享年58。
- 藪英次(やぶ ひでじ)
- 新宿警察署鑑識課員。禿げ頭が特徴。優秀な鑑識官で、特に弾道検査の手腕は警視庁本庁から引き合いが来るほど抜群の能力を持つ(なぜか本庁への栄転の話は断り続けている)。鮫島が桃井よりも気安く話すことができる人物で、彼と事件についての情報交換を行う場合も多い。こちら葛飾区亀有公園前派出所の主人公・両津勘吉とは幼馴染で、少年時代から現在に至るまで頭が上がらない。職人気質の人物で、服装などには全く無頓着。年齢は鮫島よりもやや年上で、39歳程度(第一作時)と考えられる。他人(特に仲の良い鮫島)に煙草や食べ物をたかる悪癖がある。医師を目指していたが、“ヤブ”という苗字ゆえに諦めた、というのが口癖。
- 宮本武史(みやもと たけし)
- 鮫島と同期のキャリア。警察上層部を揺るがす重大な秘密を鮫島に遺書として託して、自殺した。『灰夜』にて初めてその詳しい経緯が語られる。
- 香田(こうだ)
- 鮫島と同期のキャリアで官僚。鮫島を目の仇にしているが、時に協力することも。警視正まで昇進を重ね、『狼花』では妻子が外国人犯罪者の被害にあったことから自ら公安部から組織犯罪対策部に転属するが、自身が引き起こした事態の責任を取り、退職。現在は内閣情報調査室の下部機関に所属。
- ママフォースのママ
- 鮫島の行きつけのゲイバーのママ。炭鉱で働いていたことがあり、薬物中毒の悲惨さに詳しい。
- 木津要(きづ かなめ)
- 絶対に銃に見えない精巧な仕込み銃を開発・製作する技術を持つ同性愛者。35歳。『新宿鮫』でアジトに監禁した鮫島を射殺しようとした時に、桃井に射殺された。
- 真壁俊三(まかべ しゅんぞう)
- 新宿のヤクザ。『新宿鮫』で利権絡みで中国人ヤクザの幹部を殺傷し、自ら重傷を負いながらも鮫島の下に出頭した。長期の懲役に服することになるが、『風化水脈』で出所後に同じ中国人ヤクザに捕らえられて報復され、再び重傷を負う。高級車両窃盗事件を追っていた鮫島に救い出された後にヤクザ稼業から足を洗う。
- 仙田勝? / ロベルト・村上? / 深見? / 間野総治(まの そうじ)
- 外国人窃盗団を組織する謎の人物。『炎蛹』で初めて鮫島と接触して以来、新宿署管内で暗躍し続ける。愛人の言に寄れば東北地方の出身らしい。在京南米系犯罪者を束ねたり、面倒を見たりして、貧しい在京南米人に人望が厚い面がある。盗品売買をシステマティックに稼動させる実行力を備え、そこに日本のヤクザが係わることを極度に嫌がる。かつてノンキャリアの公安警察官で学生運動活動家を対象として潜入捜査活動をしていたが、その後退職し南米に渡ってCIAの対反米勢力工作や対麻薬組織工作、その他非合法工作を請け負うが、その任務の性質上自らも犯罪行為や悪徳に身を染めざるを得なかったことがあるらしい等々謎の多い人物だったが、『狼花』で遂に正体を現して鮫島と全面対決する。
- 劉陳生
- 毒猿の威名を持つ台湾マフィア首領直属の職業凶手。自分を裏切って敵に売った。台湾マフィアの巨大組織「四海」の幹部で首領の葉文を追って新宿に潜伏。元台湾海上武隊「水鬼仔」でテコンドーの使い手。新宿御苑で鮫島と対面する。『毒猿』
映画
『新宿鮫』の劇場版。タイトルは『眠らない街〜新宿鮫〜』。1993年10月9日に東映配給で公開された。
主演の真田広之が本作と『僕らはみんな生きている』にて日本アカデミー賞主演男優賞に、監督の滝田洋二郎が監督賞にノミネート、編集の冨田功が編集賞を受賞した。
原作で、晶は実在の歌手川村カオリをイメージして書かれており、監督も粘り強く出演を交渉したが、実現しなかった(後にテレビドラマで、主演の舘ひろしの強い希望で実現)。
キャスト |
スタッフ |
原作との主な相違点
- 原作では鮫島の下の名前は一切明らかにされていないが、本作では鮫島 崇(さめじま たかし)と設定されている。
- 原作では真壁がアジア人グループを仕込み銃で襲撃するシーンはないが(鮫島の語りのみ)、本作では描かれている。
- 原作では真壁が使う仕込み銃はライター型だが、本作ではポケットベル型。
- 原作と違い、香田は鮫島の同期でなく後輩になっていて、過去の傷害事件に絡んでいる。
- 原作では鮫島の刀傷は首筋だが、本作では後頭部にある。
- 原作では宮本は今の所は「自殺した」ことになっているが、本作では「謀殺された」と鮫島が語っている。
テレビドラマ
- 新宿鮫 無間人形(1995年4月9日-4月30日、毎週土曜日)
- 新宿鮫 屍蘭(1996年5月19日-6月9日、毎週日曜日)
- 第一部「危険な毒薬」、第二部「絶望の構図」
- 新宿鮫 毒猿(1997年12月30日)
- 新宿鮫 氷舞(2002年4月29日-5月2日、月曜-木曜)
- 第1回「巨大な罠」、第2回「戦慄の陰謀」、第3回「破局への岐路」、最終回「愛の行方」
キャスト
無間人形 屍蘭 毒猿 |
氷舞 |
スタッフ
- 演出:石橋冠(全作)、河村毅(氷舞)
- プロデューサー:川村尚敬(無間人形・氷舞)、一柳邦久・西村与志木(毒猿)、
- 製作:大津山潮・浅野加寿子(屍蘭)
- 脚本:今野勉(無間人形・屍蘭)、矢島正雄(毒猿)、吉本昌弘(氷舞)
- 音楽:坂田晃一(氷舞)
関連項目
- 新宿の狼 - カプコンがプレイステーション2用に開発していたが発売中止となったゲーム。のちにスパイクから発売。本シリーズにタイトル・設定が似ている。