宇宙戦艦ヤマト 完結編
テンプレート:Infobox Film 『宇宙戦艦ヤマト 完結編』(うちゅうせんかんヤマト かんけつへん)は、1983年公開の劇場用アニメ映画作品。
通称「完結編」「ヤマト完結編」「ファイナル・ヤマト(Final Yamato)」。ナレーションは俳優の仲代達矢。
宇宙戦艦ヤマトシリーズの最終作品として製作された。ただし、2009年には続編の「宇宙戦艦ヤマト 復活篇」が製作されている[1]
キャッチコピーは「宇宙にひろがる永遠のロマン!ファイナル・ヤマトの熱い感動を―いま、あなたに伝えたい…」。
目次
作品解説
制作状況
最終作を意図して製作されたこともあり、スタッフの本作に対する意気込みは凄まじく、製作に携わった人数も尋常ではない。
本作が公開された1983年春は、『うる星やつら オンリー・ユー』、『幻魔大戦』、『クラッシャージョウ』と長編アニメーションの公開が重なり、掛け持ち状態の主要スタッフが多かった。
作画監督である金田伊功は「野田(卓雄)さんへの義理がある」とのことから、ほとんど『幻魔大戦』にかかりっきりとなり、原画自体はヤマト発進シーン、自沈シーン等数カットに留まる。
安彦良和は、「最後だから数カットくらい参加しても」と言っていたといわれる[2]が、実現はしなかった。冒頭シーンでの第一艦橋のシーンでわずかに湖川友謙の原画カットがある。
高橋信也は高沢孫一の名義で、『うる星やつら』と掛け持ちで参加している。
志願して、ルガール総統関連のほとんどを手がけた二宮常雄や、水関連を手がけた角田紘一等作画レベルは比較的高い反面、メカニック描写に関してはキャラクター描写に比べ徹底さを欠いている部分も見受けられる。ハイパー放射ミサイル以外のミサイル兵器は透過光でごまかす(冒頭のヤマトの迎撃ミサイルでさえ、射出シーン以外は青色の光線で表現)、ガトリング砲の回転描写や水雷艇の発進プロセスなどの設定が表現されていない。
また、本作のトピックとして、それまでピアニストとしてヤマトの音楽を支えてきた羽田健太郎のBGMの作曲への参加が挙げられる。音楽量は膨大なものになり、羽田は主にディンギル側の音楽と、ヤマトの小曲、ラストのピアノコンチェルト等を手がけ、宮川は従来通りヤマト側と戦闘曲、イメージ曲等を担当して両者の個性を相乗効果で盛り上げることとなった。
演出
時系列では直前の作品である『宇宙戦艦ヤマトIII』で艦長に就任した古代進は、冒頭で多数の犠牲者を出してしまったことで引責辞任し、戦闘班長に降格している。これに伴い、ヤマト初代艦長であった沖田十三が復活し、再び艦長に就任する。
沖田が蘇ることは事前に公表されており、ご都合主義との批判が多かった。劇中でも佐渡酒造が自らの誤診を「全国の皆さんに坊主になってお詫びせにゃならんな」と発言するシーンがある。
古代がヤマトのパルスレーザー砲を「高角砲」と呼んだり、コスモタイガーIIの塗装がそれまでの銀色から大戦後期以後の日本海軍機色(濃緑色、明灰白色)への変更、随伴して出撃した駆逐艦「冬月」を始め、太平洋戦争末期の戦艦大和最後の出撃に随伴した艦と同じ、あるいはそれに近い艦名が使用されている。
また、ヤマトが都市衛星ウルクに着陸して戦闘する描写は天一号作戦において大和が目指した自力座礁して陸上砲台となるという構想を基としているなど、大和の水上特攻をモデルとする演出が多く見られ、ヤマトの最期であることが示されている。
時代設定
前作『宇宙戦艦ヤマトIII』は制作当時の設定年代は西暦2205年(劇中のナレーションは西暦23世紀初頭と述べるのみ)であり、本作も制作開始当初は、前作の設定年代を守り[3]、西暦2205年とされていた。
しかし「昔のように感情豊かな古代をドラマで描きたい」[4]という理由で、西暦2203年に強引に変更された[5]。西崎は公式資料集にて、冒頭の銀河の大異変は『ヤマトIII』時に創ったガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦を消し飛ばすために登場させたと述べており[6]、このことからも、西崎は『ヤマトIII』と『完結編』とがつながっていることを意識していることが分かる。
初回上映版と完全版の差異
テンプレート:出典の明記 1982年夏に公開予定[7]だったが、製作作業の遅れから1983年3月19日に延期、さらに一部劇場では19日にフィルムが届かず翌20日からの公開となったところがある(最終の絵の完成は、3月18日の午前0時だったといわれる)。
本作品は、35mm版の初回上映版と70mm版の完全版が存在する。これは当初予定の70mm撮影と6チャンネルステレオでの録音が完全に間に合わなかったことによる。
- 35mm版
- 初日の公開時には、古代進と森雪のラブシーンとエンドロールの間に宇宙空間の中のアクエリアスのシーンが存在したが、その日のうちに急遽そのシーンを丸々カットする修正作業が行われたため、以後は上映時間が2分間ほど短くなっている。これは「アクエリアスのシーンへ移る際のラブシーンの留めの絵の作成が間に合わず、シーンがうまくつながらないと判断したため」と公開後に発売された書籍ロマンアルバム「宇宙戦艦ヤマト完結編」内にてプロデューサーが語っている。
- 初回公開版でのEDは挿入歌「宇宙戦艦ヤマト'83」に乗せて『宇宙戦艦ヤマト(劇場版)』、『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』、『ヤマトよ永遠に』のハイライトが過去を振り返っていく形で流れた。
- 大幅にカットし、『オーディーン 光子帆船スターライト』の公開時に一部の劇場で併映された特別編集版(ヤマトが艦首を持ち上げた後、アクエリアスからの水柱でできた海へ沈むところで終了する)も存在する。
- 2008年の時点で、35mm版のビデオ(VAP版)及びレーザーディスク(前述のアクエリアスのシーンは、カットされた後の状態で収録されている)を入手するのは困難だが、2枚組みのCD「宇宙戦艦ヤマト 完結編(ドラマ編)」では35mm版の音源を使用しており、音声だけならそちらで確認できる。宇宙空間の中のアクエリアスのシーンはDVDの特典映像として収録されている。
- 70mm版
- 欠番カットの復活他、選曲のタイミング等にかなり手が入っている(映像と音楽のタイミングを極力一致させるため、細かい部分の映像の新規追加や削除、音楽そのものの編集などが行われている)。一方で古代と雪のラブシーンはカットされた(DVDでは映像特典として収録されている)。結果、尺は35mm版の152分に対して70mm版は163分となった。
- また、ニュートリノビームや水柱のシーン等でスキャニメイト効果がかなりの量で取り入れられており、画質はかなり荒くなってしまっているもののかなりの効果を上げている。西崎プロデューサーの「ヤマトはアニメ技術の先端でありたい」という言葉の現れともいえ、CG技術が無かった時代の最先端技術が駆使されていると言っても良い。
ストーリー
西暦2203年、銀河系中心部の宇宙で大きな異変が生じた。異次元断層から別の銀河が現れ、核恒星系付近で銀河系同士の衝突が起こり、多くの星々が消滅した。古代進は宇宙戦艦ヤマトの艦長として地球防衛軍の命を受け調査に向かった。かつての盟友デスラー率いるガルマン・ガミラス帝国は壊滅的な被害を受けていた。
そんな中、その異次元断層から恒星間空間を回遊する水惑星「アクエリアス」が現れ、ディンギル星を水没させる。ヤマトはディンギル星から1人の少年を救った後地球に向かうが、ディンギル帝国の艦隊の攻撃に遭い、航行不能となる。しかし、落下中の衝撃で自動操縦システムが働き、ヤマトは負傷した乗組員を乗せたまま地球へ向かう。
地球は帰還したヤマトの情報から水惑星の存在を確認。接近してくる水惑星を避けるために各惑星やスペースコロニーへの避難を開始したが、ディンギル艦隊の巧みな戦術とハイパー放射ミサイルの攻撃の前に避難船団や地球艦隊は全滅していき、地球は封鎖されていく。ディンギルの長ルガール大神官大総統は新たな移住先として地球を目指していた。そして地球に移住するためにディンギル人の取った方法とは、自らの星を水没させた水惑星アクエリアスを人工的にワープさせることで、同じく地球を水没させて地球人類を絶滅させた後に移住するというものであった。
帰還したヤマトから奇跡的に救出された古代進は恋人である森雪の懸命の看護により一命を取り留めたが、自分の判断ミスにより多くの乗組員の命を犠牲にしたと艦長を辞任する。その頃、ルガール・ド・ザール率いる艦隊は地球艦隊を撃滅し、一歩一歩地球に向かっていた。これに対抗するのは、もはやヤマトしかなかった。古代もヤマトに乗り込もうとするが、自身が艦長を辞任したことで躊躇する。しかし、ヤマトの第一艦橋で聞いた初代艦長沖田十三の声にヤマトに乗り組む決意をする。
ヤマトの船出の日、地球防衛軍司令長官より驚愕の発表がされた。新たなヤマトの艦長が沖田十三であることを。沖田はイスカンダルへの航海の途中、ヤマトの艦医佐渡酒造の診断で死亡とされたが脳死には至っておらず、ヤマトのために戻ってきた[8]。蘇った沖田のもと、全地球の祈りを受けヤマトは発進した。
登場人物
スタッフ
- 企画・原作・製作・総指揮:西崎義展
- 原作・設定・監修:松本零士
- 総監修:舛田利雄
- 監督・勝間田具治、西崎義展
- 脚本:山本英明、笠原和夫、山本暎一、舛田利雄、西崎義展
- チーフディレクター:白土武
- 音楽:宮川泰、羽田健太郎
- 原画:二宮常雄、金田伊功、高橋信也、宇田川一彦、亀垣一、羽根章悦、小泉謙三、中鶴勝祥、鍋島修、湖川友謙 他
- 総作画監督:宇田川一彦
- キャラクターデザイナー:宇田川一彦、高橋信也
- 編集:千蔵豊
- スキャニメイト:東洋現像所ビデオセンター
- 現像:東映化学
主題歌・挿入歌
- 主題歌
- 挿入歌
カットされたシーン
本作には脚本の段階や、製作中、試写後にカットされたシーンが幾つかある。主なものを挙げる。
- ガルマン・ガミラス星において、古代が花束を投げた直後に恒星の衝突が起きているシーン。これがカットされ、急に避難・発進したように見える。
- 地球防衛軍にてアクエリアスが24時間ごとにワープしていることに動揺するシーン。これがカットされ、いきなり周知の会議をしているようになっている。
- アクエリアス付近でルガール・ド・ザール艦隊との戦闘時、ヤマトが敵の猛攻から小惑星帯へ回避するシーン。これがカットされ、波動砲発射の際、いきなり小惑星の陰に入っているように見える。台詞での「前方に小惑星が」「小惑星ごと粉砕せよ」はこの名残り。
- ウルクに着陸したヤマトが、コスモタイガー発進口が使用出来ないことで白兵戦を強いられる説明のシーン。第一艦橋から古代と島も銃を手に、加勢しに向かう箇所がカットされており、説明不足でなぜ最初にコスモタイガー隊を発進させないのかと思われてしまう感じになっている。
- デスラー艦とルガール総統の宇宙艦の戦いのシーン。本来は激戦でルガール総統の艦だけが撤退し、その後アクエリアスの水柱を断とうとするヤマトを狙って現れ、そこへデスラー艦が駆けつけてデスラー砲で粉砕する内容だった。このシーンがカットされたため、デスラー砲を撃つデスラーの服がいつの間にか汚れているように見える。
- ヤマトから総員撤退後、古代と雪が波動砲の回路を切り替えに行く時に佐渡も残っており、艦長室に訪れ、沖田と別れの杯を交わすシーン。これがカットされたため、冬月の展望室で佐渡も冷静に敬礼をしているのがいささか唐突になってしまっている。
その他
本作品の第一稿では原稿用紙500枚分という、4時間を超える分量のストーリーが用意されており、編集前のラフ・カットは白身部分を含めて3時間28分に及んだ。
本作は全作画工程を同時進行させるという、これまでに無い製作システムが採られた。これは、絵コンテから仕上げまで、全てのパートが同時に作業を進めるといった途方も無いものである。
作画監督の1人である金田伊功は、本作の製作前に先駆けて、通称「ヤマト百態」と呼称される膨大な量のイメージイラストを描いている。これは作画サイドから「これまでに無いヤマトの姿を描きたい」という提案を受けてのもの。
本作ではヤマトシリーズとしては初めてCGを使っている。ヤマト発進の際、真田の席のパネルに映る曲線ゲージがそれである。当時のCGはまだ簡単な模様しか作れなかったが、技術的な背伸びをせずに使うべき箇所に使い、後年に観ても違和感の無い効果を上げている。
アクエリアスから都市衛星ウルクが延々とワンカットでの引きで現れるシーンは、サイズの異なるウルクの背景をマルチで組み、オーバーラップさせながら合成してまとめ上げている。当時はまだコンピュータでカメラを制御しておらず、撮影用の目盛りと撮影スタッフの職人的な勘が頼りだった。結果、途中でややスピードが変わったり、オーバーラップが上手く重ならなかったりと限界があった。しかしこの東映動画の技術は後に改良され、『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』の劇場版で完成型を見ることになる。
出典・ 脚注
参考文献
- 『スーパーデラックス版‘宇宙戦艦ヤマト完結編’』(ウエストケープ・コーポレーション、1983年)
外部リンク
テンプレート:勝間田具治監督作品- ↑ 1990年代に本作の続編とされる作品として、OVA『YAMATO2520』及び映画『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』が企画された。前者は未完となり、後者の製作も一度は中止されたがのちに再開、2009年に公開された。
- ↑ 豪華本スーパーデラックス版では「ヤマトから学ぶべきものはもう何もない」ので参加する気がまったくなかったことが記述されている。
- ↑ 少なくとも1982年2月アップのシナリオ案の段階では2205年表記である(『スーパーデラックス版‘宇宙戦艦ヤマト完結編’』76頁)。この時点では、ディンギルの名がバルカンであるなど実際の作品とは異なる部分もあるものの、銀河の大異変が発生してガルマン・ガミラス、ボラー両国が壊滅、アクエリアスが接近するなどの基本部分はすでに出来上がっている。
- ↑ ここまでくると古代も雪も大人であり、艦を指揮する立場から感情をあらわにする演出は難しくなっていた。
- ↑ この変更のため、『宇宙戦艦ヤマトIII』の設定年代は資料により西暦2202年や2205年など記述が異なる。またこれ以外にも、『新たなる旅立ち』では赤ん坊だったサーシャが、その次作である『ヤマトよ永遠に』でわずか1年で成人になる、『ヤマトIII』のガルマン・ガミラス帝国が1年で建国したりなど、制作者の都合よる変更や都合のいい方に持っていく、ご都合主義的な設定変更が頻繁におこなわれ、結果として築き上げたリアルな世界観を自ら破壊するに至り、作品を支えてきたファンも激減していくことになる(宇宙戦艦ヤマトの放映と影響を参照)。
- ↑ 『スーパーデラックス版‘宇宙戦艦ヤマト完結編’』(ウエストケープ・コーポレーション)26頁。銀河系内に2大国家が健在なままではやりづらいと述べている。
- ↑ 『宇宙戦艦ヤマトIII』最終回でのテロップより。
- ↑ この事に関して、『完結編』のスタッフで『宇宙戦艦ヤマト2199』の総監督を務めた出渕裕が「冒頭に衝突する二つの銀河とあるが、銀河の直径は約10万光年あり、衝突には10万光年かかる。あれは衝突ではなく、他世界解釈で『もう一つの銀河』が重なりあったとし、もう一つの銀河にはヤマトが旅立てなかった赤い地球がある。そしてそこには発進できなかったヤマトが眠っていて、艦長室に沖田艦長がいる。それだったら登場しても可笑しくない」と進言したが採用されなかったと『月刊モデルグラフィックス』2014年3月号のP31で語っている。