エアバスA340
エアバスA340 (Airbus A340) は1980年代後半にA330とほぼ同時期に開発が始められたエアバス社の長距離ワイドボディ旅客機である。胴体や翼など、基本的な構造はA330と共通である。A300から始まったエアバスの歴史において、初のエンジン4基を搭載した4発機。
目次
開発
エアバスは1980年代前半より、A300やA310の後継機の研究を行っていた。基本となるコンセプトは、A300と同一断面の胴体を用い、航続距離や就航路線に応じて、ETOPSの制約により長時間の洋上飛行はできないがコストの安い双発の中長距離機A330と、システムがやや複雑で高価になるが大洋を横断できる四発の長距離機A340の2機種を同時に開発することであった。1987年6月に航空会社より発注が得られたために、開発が本格化し、双発型はA330, 四発型はA340と命名された。A340-300の初飛行は1991年10月25日、A340-200の初飛行は1992年4月1日で、1993年に就航した。
各型式
A340-200/300
ボーイング社の747-400では提供座席数が多すぎる路線をターゲットとして、より経済的な機材を目指しA330と同時に計画されたのがA340-200/300である。基本型はA340-200で、最大離陸重量はほぼ同一にしているために胴体延長型のA340-300は航続距離が短くなっている。A340-200を最初に受領したのはルフトハンザドイツ航空、-300を最初に受領したのはエールフランスである。-200の最終号機はブルネイ政府(現在はサウジアラビア政府で運航)、-300の最終号機はフィンランド航空にそれぞれ引き渡された。
A340-500/600
A340-200/300をさらに長距離化あるいは大収容力化を計画した機体である。胴体断面は200/300で使用したものを使用し、翼とエンジンは変更された。A340-500はA340-300から主翼前方へ0.53 m, 後方へ1.07 m延長され、A340-600はA340-300から主翼前方へ5.88 m, 後方へ3.2 m延長された。これに伴い燃料搭載容量も増加したが、最大離陸重量はほぼ同一であるため、200/300の関係と同様に胴体の長いA340-600の方がA340-500と比較して航続距離は短いが、A340-300よりは長く飛行できる。
A340-600はボーイング777-300と同様に、客室部はシングルデッキながら座席の配置によっては2階建ての747-400に匹敵する座席数を持つこともある。また、2009年11月にボーイング747-8F(貨物型)がロールアウトするまで民間航空機では、世界最長であった。
-500の初号機は2003年11月22日にエミレーツ航空へ、-600の初号機は2002年7月26日にヴァージン・アトランティック航空へそれぞれ引き渡された。A340-500型機は、民間旅客機のノンストップ路線としては世界最長であった、シンガポール航空のシンガポール (SIN) - ニューアーク (EWR) 路線に投入されていた(区間距離15345km、所要時間18時間30分)。しかし、シンガポール航空がA380とA350を導入するため、2013年11月23日に同路線を運休[1]、エアバスが引き取る形で[2]2013年中に全機退役した。
エンジン
エンジンは各型とも1種類で、-200と-300にはCFMインターナショナル製のCFM56-5C4, -500にはロールス・ロイス製トレント553型、-600には同トレント556型ターボファンエンジンが採用されている。4発機のためA330やライバル機種であるボーイング777などと比べると最大離陸重量に対する総推力比は低い。これはエンジンの総推力を決定する要因となる離陸滑走路長が離陸決心速度到達時点での1発停止を前提としており、1発停止で50 %の推力喪失になる双発機に対して4発機では25 %の推力喪失であるため条件が緩くなるためである。
翼
主翼は-200/-300と-500/-600で異なるものが使われている。前者は翼幅が60.3 m, 翼面積361.6 m2でA330と共通したもので、後者は63.45 m, 439.4 m2である。二種の主翼の構造は全く別ではなく、-200/300の主翼翼形の最大厚の部分にプラグを挿入して翼断面に平行部分を作る方式で-500/600の主翼を作成しており、プラグが翼端部ほど細くなっているために後退角が30度から31.1度へと増大している。そのため動翼の構造や制御系配線などはほとんど変更を行なわずにすんでいる。後退角が若干大きくなることと平均翼厚比が小さくなって衝撃波発生速度が高くなったため、標準巡航速度はM 0.82から0.83へと増加している。しかしそれでも巡航速度はボーイング777のM 0.84より遅い。垂直尾翼は先端部が延長されたA330-200のものを装備している。
操縦装置およびフライトデッキ
操縦装置とフライトデッキはA320以降のエアバス機の標準となった、サイドスティックとフライ・バイ・ワイヤを採用、計器類もグラスコックピットになっており、これもA330と同様である。当初はモニタ装置にCRTディスプレイが用いられていたが、後に液晶ディスプレイが用いられるようになった。最新のA340およびA330はA320では機械式計器であった予備計器もモニタ化され、機械式計器で残っているのはBrake Hyd ACCUM, ALT Brake Press, TRIPLE INDのみである。
エアバス他機と共通性の高い操縦システムにより確立された相互乗員資格はA340でも認められており、エアバスの説明によれば、A340の操縦資格を持つパイロットがA330資格を得るのに必要な訓練期間は最短で1日である。
その他
-600は全長とホイールベースが長くなっているため、タクシングを支援するためのカメラが垂直尾翼と首脚後方に装着されており、この映像は操縦席のECAMS(主要計器を表示するモニタ)で確認することができる。
仕様
-200型 | -300型 | -500型 | -600型 | |
---|---|---|---|---|
全長 | 59.4 m | 63.6 m | 67.9 m | 75.30 m |
全高 | 16.7 m | 16.7 m | 17.1 m | 17.1 m |
全幅 | 60.3 m | 60.3 m | 63.45 m | 63.45 m |
キャビン幅 | 5.28 m | |||
主翼面積 | 361.6 m2 | 361.6 m2 | 439.4 m2 | 439.4 m2 |
航続距離 | 14,800 km | 13,500 km | 16,000 km | 13,900 km |
最大離陸重量 | 275.0 t | 271.0 t | 365.0 t | 366.0 t |
最大燃料容量 | 155,040 リットル | 141,500 リットル | 214,810 リットル | 194,880 リットル |
貨物室容量 | 100.2 m³ | 162.8 m³ | 153.9 m³ | 207.6 m³ |
基本座席数 | 261(3クラス仕様) | 295(3クラス仕様) | 313(3クラス仕様) | 380(3クラス仕様) |
乗員 | 2人 | |||
後退角 | 30° | 31.1° | ||
車輪間隔 | 23.24 m 76 ft 3 in |
25.60 m 84 ft 0 in |
27.59 m 90 ft 6 in |
32.89 m 107 ft 11 in |
無荷重量 | 129,000 kg 284,396 lb |
129,275 kg 295,503 lb |
170,400 kg 375,668 lb |
177,000 kg 390,218 lb |
巡航速度 | M .82 (484 kn, 896 km/h, 557 mph) | M .83 (490 kn, 907 km/h, 564 mph) | ||
最大離陸重量時の離陸滑走距離 | 2,990 m 9,810 ft |
3,000 m 9,840 ft |
3,050 m 10,000 ft |
3,100 m 10,170 ft |
貨物積載数 | 18 LD3s/6 pallets | 30 LD3s/10 pallets | 32 LD3s/11 pallets | 42 LD3s/14 pallets |
巡航高度 | 11,887 m (39,000 ft) | |||
エンジン (4x) | CFM56-5C2 (138.78 kN) CFM56-5C3 (144.57 kN) CFM56-5C4 (151.25 kN) |
CFM56-5C2 (138.78 kN) CFM56-5C3 (144.57 kN) CFM56-5C4 (151.25 kN) CFM56-5C4P (149.9 kN) |
ロールス・ロイス トレント 553/556 (236/249 kN) |
ロールス・ロイス トレント 556/560 (249/260 kN) |
エンジンの仕様
機種 | 認定日 | エンジン |
---|---|---|
A340-211 | 1992年12月22日 | CFM 56-5C2 |
A340-212 | 1994年5月14日 | CFM 56-5C3 |
A340-213 | 1995年12月19日 | CFM 56-5C4 |
A340-311 | 1992年12月22日 | CFM 56-5C2 |
A340-312 | 1994年5月14日 | CFM 56-5C3 |
A340-313 | 1995年5月16日 | CFM 56-5C4 |
A340-541 | 2002年12月3日 | RR Trent 553-61 / 553A2-61 |
A340-542 | 2007年2月15日 | RR Trent 556A2-61 |
A340-642 | 2002年5月21日 | RR Trent 556-61 / 556A2-61 |
A340-643 | 2006年4月11日 | RR Trent 560A2-61 |
問題点そして生産終了
A340-500/600に関しては当初機体重量が設計時の想定を上回っていた。これは主翼製造を担当したBAeの重量見積もりのミスによるものであり、-500/600の製造7号機以降は複合材の使用範囲を広げ軽量化した主翼を提供してこの問題は一応解決された。
2007年4月に欧州内のメディアで-600の貨物搭載量の制限に関する問題が報じられた。A340の原設計では-600までの胴体のストレッチは想定しておらず、主翼前後を均等に延長すると主脚の長さが足りず、離着陸時に尻もちをつく可能性がある。そのため-600の胴体ストレッチは主翼前方にやや偏ったものとなり、結果として重心も前方に偏り、巡航時のトリム抵抗が大きくなる素地があった。それに加え、機体前方のキャビンには重装備のファースト・ビジネスクラスが設置されるため、貨物や乗客を載せない状態ではさらに重心が前進する傾向が出て、水平尾翼内トリムタンクで修正しきれない事態となってきた。これによりエアバス社は前方貨物室の積載量を制限するよう勧告することとなった。なお、胴体延長が主翼前後で均等である-500型機ではこの問題は発生していない。
-500/600型機については、装備エンジンのトレント500の巡航燃費率がGE 90-115Bに比較すると公表されている数字で9 %近く悪いため、長距離飛行ではより多くの燃料を搭載する必要があるという問題が燃料価格の高騰によって目立ってきた。また、燃料供給システムなどのサブシステムのマイナートラブルも散見されている。
A340-200/300はボーイング777やMD-11、ボーイング747などより巡航速度が若干遅いため、飛行する航空路があらかじめ分離されるという処置が取られている。またA340の非力さが大きな遅れにつながることが往々にしてある。これらのデメリットや、また双発機に比べてエンジンの整備に時間と労力がかかる4発機であること、エンジンの燃費率が最新の双発機に比べれば劣ることなどから、-600型機を3機導入していたキャセイパシフィック航空は海南航空へ放出し、代わりに同規模のボーイング777-300ERを導入したり、エミレーツ航空は-600型機の重量増大型の受領を拒否し発注をキャンセルしている(但し、-500型機は受領)。他にもエア・カナダ、タイ国際航空、オーストリア航空などがA340からボーイング777への移行を進めている。これらのように、世界の航空会社各社は「エアバスA340よりボーイング777」と興味を示すようになり、ライバルのボーイング777に対して市場面で劣勢に立たされることとなった。このような事情によって、2005年以降はA340型機に対する受注はほとんど途絶えた状態となった。
エアバスは対抗策としてA350(初期構想)のアルミニウム・リチウム合金の構体を利用することにより胴体を8t軽量化、エンジンをA350向けトレント1700のファンを小型化してトレント500と同直径としたトレント1500によって巡航燃費率を10%低減し、他にもさまざまな小改良を加えたA340-600の大規模改良型を構想し発表している。これによりボーイング777-200LR/300ERと対等以上の経済性を発揮できるとした。しかし、A350計画がA350XWB計画へと移行し、A340-600と同規模のA350XWB-1000もローンチされたことからこの構想は実現することなく消滅している。
エアバスは2011年11月10日にA340型機の生産を中止すると発表した[3]。これによりエアバス社で生産されている四発エンジン旅客機は、A380のみとなった。
運用者一覧
- ルフトハンザドイツ航空 (50)
- スイス国際航空 (15)
- スカンジナビア航空 (6)
- イベリア航空 (36)
- エールフランス (16)
- ヴァージン・アトランティック航空 (25)
- エアアジア X (2)
- エミレーツ航空 (18)
- エティハド航空 (11)
- キャセイパシフィック航空 (14)
- タイ国際航空 (10)
- 南アフリカ航空 (23)
- トルコ航空 (9)
- エア タヒチ ヌイ (5)
- エジプト航空 (3)
- TAMブラジル航空 (2)
- フィンランド航空 (7)
- 中国東方航空 (5)
- アルゼンチン航空(11)
- マダガスカル航空(2)
- モーリシャス航空(6)
- ナミビア航空(2)
- アリクエア(2)
- 海南航空(3)
- ラン航空(4)
- フィリピン航空(4)
- カタール航空(4)
- ナミビア航空(2)
- スリランカ航空(6)
- TAPポルトガル航空(6)
備考
日本の航空会社では、全日本空輸が5機を欧州路線用にオプション発注したが、同時期に発注したボーイング777のワーキングトゥゲザーにボーイング社から招聘されたためにキャンセルし、エアバスA321に変更した。日本航空にも1990年代後半にDC-10・MD-11の代替機としてエアバス側からA330とセットで提案されたことがあったが、最終的にはボーイング777・ボーイング767の追加導入となり合意には至らなかった。このためA340は日本の航空会社からの発注が1機もないまま生産中止となった。しかし、多くの日本国外の航空会社により日本への路線が運航されている。
エアバス社では、今後の市場動向により同じ4発エンジンを導入するならA380が魅力(またはコストを抑制させるなどの観点からは2発エンジンのA330が適正)という観点から同型式の生産を終了すると発表した。
競合機種
主な事故・事件
2014年6月現在までに、A340に関して以下の5件の機体損失事故が発生しているが、死亡者の出た事故は起きていない[4]。
- 1994年1月20日、パリのシャルル・ド・ゴール国際空港にて、整備を受けていたエールフランスのA340-200から火災が発生し、全損した[5]。
- 2001年7月24日、バンダラナイケ国際空港に駐機中だったスリランカ航空のA340-300が、武装勢力タミル・イーラム解放のトラによる襲撃により破壊された[6]。
- 2005年8月2日、エールフランスのA340-300が、雷雨の中、トロント・ピアソン国際空港へ着陸を試みたところ、滑走路をオーバーランして大破炎上した。乗客297名と乗員12名のうち、乗員2名と乗客20名が重傷を負ったが、死亡者はなかった[7][8]。
- 2007年11月9日、イベリア航空のA340-600が、エクアドルのマリスカル国際空港への着陸時に降着装置のタイヤが破裂し、滑走路からオーバーランした。機体は左に傾いて損傷し、左翼の2基のエンジンが地面に接触した。乗客・乗員333人は全員救出され、重傷者はいなかった。機体は修理が困難と判断され、解体された[9]。
- 2007年11月15日、トゥールーズ・ブラニャック空港にあるエアバスの施設にて、エティハド航空に納入する予定であったA340-600の新造機に対してエンジンテストを実施していたところ、機体が動き出してコンクリート壁に衝突し、職員5名が負傷した[10][11]。
脚注
関連項目
外部リンク
- エアバス・ジャパン株式会社
- Airbus - Aircraft families - indexh(英語版)
- Details on the Airbus family of aircraft
- History and pictures of the Airbus A340-300
- Aircraft-Info.net - Airbus A340-200
- Airbus A340 Production List
- Quito Crash 9th November 2007
- テンプレート:Google video
テンプレート:Airbus aircraft テンプレート:Airbus A3xx timeline
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ エアバス:大型旅客機「A340」生産中止-燃費でボーイングに敗北 - Bloomberg.co.jp 2011年11月11日
- ↑ 引用エラー: 無効な
<ref>
タグです。 「ASN-statistics
」という名前の引用句に対するテキストが指定されていません - ↑ テンプレート:ASN accident
- ↑ テンプレート:ASN accident
- ↑ テンプレート:ASN accident
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ テンプレート:ASN accident
- ↑ テンプレート:ASN accident
- ↑ テンプレート:Cite web