アルカロイド

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単一のアルカロイドとして初めて単離された物質は、ケシPapaver somniferum)から抽出されたモルヒネである(1804年)[1]

アルカロイド (Alkaloid) は窒素原子を含み、ほとんどの場合塩基性を示す天然由来の有機化合物の総称である。一部のアルカロイドには中性[2]や弱酸性[3]を示すものもある。また、似た構造を有する一部の合成化合物もアルカロイドと呼ばれる[4]炭素水素窒素に加えて、アルカロイドは酸素硫黄、その他稀に塩素臭素リンといった元素を含む[5]

かつては植物塩基(テンプレート:Lang-en)という訳語も用いられた。この訳語が提唱されたのは1818年である。現在、近似種を含め約数千種があるといわれている。その元祖と言われているのは、ドイツの薬剤師ゼルチュネルが1804年(1805年という記述もある)にアヘンから分離抽出したモルフィン、つまりモルヒネであるとされている。

アルカロイドは、微生物真菌植物動物を含む非常に様々な生物によって生産され、天然物テンプレート:要曖昧さ回避二次代謝産物とも呼ばれる)の中の一群を成している。多くのアルカロイドはテンプレート:仮リンクによって粗抽出物から精製できる。多くのアルカロイドは他の生物に対して有である。しばしば薬理作用を示し、医薬や娯楽のための麻薬としてや、幻覚儀式において使用される。

アルカロイドとその他の窒素を含む天然化合物との境界は明確ではない[6]アミノ酸ペプチドタンパク質ヌクレオチド核酸アミン抗生物質のような化合物は通常アルカロイドとは呼ばれない[2]環外の位置に窒素を含む天然化合物(メスカリンセロトニンドパミン等)は、通常アルカロイドよりもアミンと呼ばれる[7] しかしながら、一部の著者らはアルカロイドをアミンの特別な場合であると考えている[8][9][10]

名称

ファイル:Meissner alkalod definition article 1819.png
「アルカロイド」の概念を導入した文献。

「アルカロイド」(テンプレート:Lang-de)という名称は、ドイツ人化学者Carl F.W. Meissnerによって1819年に導入された。この単語は後期ラテン語の語幹テンプレート:Lang-la(同じく、「植物の灰」を意味するアラビア語 al-qalwī から来ている)と「〜のような」を意味するギリシャ語の接尾辞-οειδήςに由来する[11]。しかしながら、この用語は1880年代のテンプレート:仮リンクの化学辞典に収録されたO. Jacobsenによる総説記事の出版後になって広く使用されるようになった[12]

アルカロイドを命名する固有の方法は存在しない[13]。多くの個別の名称は、化合物が単離された種あるいは属名に接尾辞 "ine" を付加して作られている[14]。例えば、アトロピンオオカミナスビ(ベラドンナ、学名: Atropa belladonna)から単離され、ストリキニーネマチン(学名: Strychnos nux-vomica L.)の種子から得られる[5]。もし複数のアルカロイドが一つの植物から抽出された場合は、接尾辞の"idine"、"anine"、"aline"、"inine"等がしばしば使われる。また、語幹 "vin" (ニチニチソウ属 (Vinca) 植物から抽出されたことを示す)を含むアルカロイドは少なくとも86種類が存在する[15]

歴史

アルカロイド含有植物は医療ならびに娯楽目的で古代からヒトによって使用されてきた。例えば、少くとも紀元前2000年頃のメソポタミアでは薬用植物が知られていた[16]ホメーロスの『オデュッセイア』では、エジプト女王からヘレネーに与えられた贈り物、『無意識の状態へと導く薬剤』(テンプレート:Lang-la)について記されている[17]。紀元前1世紀から紀元前3世紀に書かれた室内用植物に関する中国の書物にはシナマオウおよびケシの医学的用途について述べられている[18]。また、コカの葉も古代から南米のインディアンによって使用されていた[19]

アコニチンツボクラリンといった毒性アルカロイドを含む植物の抽出物は古代から毒矢に使用されていた[16]

アルカロイドの研究は19世紀に始まった。1804年に、ドイツ人化学者フリードリッヒ・ゼルチュルネルアヘンから「催眠素」(テンプレート:Lang-la)を単離し、この物質をギリシア神話の夢の神モルペウスに敬意を表して「morphium」と呼んだ。ドイツ語やその他の中央ヨーロッパ言語では今でもこれがこの薬の名称である。英語やフランス語で使われる「morphine」という用語は、フランス人物理学者ジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックによって命名された。

初期の発展におけるアルカロイドの化学に対して多大な貢献をしたのは、キニーネ(1820年)およびストリキニーネ(1818年)を発見したフランス人研究者ピエール=ジョセフ・ペルティエおよびジョゼフ・ビヤンネメ・カヴェントゥである。この頃に、キサンチン(1817年)、アトロピン(1819年)、カフェイン(1820年)、コニイン(1827年)、ニコチン(1828年)、コルヒチン(1833年)、スパルテイン(1851年)、コカイン(1860年)を含むその他いくつかのアルカロイドが発見された[20]

初のアルカロイドの完全合成はドイツ人化学者テンプレート:仮リンクによって1886年に初めて達成された。ラーデンブルクは、2-メチルピリジンとアセトアルデヒドを反応させ、得られた2-プロペニルピリジンをナトリウムで還元することによってコニインを作り出した[21][22]。アルカロイドの化学の発展は20世紀の分光法およびクロマトグラフィー法の出現によって加速され、2008年までに12,000種類を越えるアルカロイドが同定されている[23]

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ある種のカエルから単離されるアルカロイドであるブフォテニンインドール核を含んでおり、生物内でアミノ酸のトリプトファンから作られる。

分類

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ニコチン分子はピリジン環(左)とピロリジン環(右)を含む。

アルカロイドの大半はアミノ基イミノ基を持つ。

その他のほとんどの天然化合物の分類群と比較して、アルカロイドは大きな構造的多様性によって特徴付けられ、アルカロイドに関する統一的な分類は存在しない[24]。最初の分類法は歴史的にアルカロイドを共通の天然資源(例えば植物種)によって組み合わせてきた。この分類はアルカロイドの化学構造に関する知識の欠如によって正当化されていたが、現在は時代遅れと考えられている[5][25]。より最近の分類は炭素骨格の類似性(例えばインドール様、イソキノリン様、ピリジン様)あるいは生成前駆体(オルニチンリジンチロシントリプトファン等)に基づいている[5]。しかしながら、これらはどちらとも決めにくい場合には妥協を必要とする[24]。例えば、ニコチンピリジン断片はニコチンアミドに、ピロリジン部位はオルニチンに由来し[26]、ゆえにどちらの分類群にも割り当てることができる[27]

アルカロイドはしばしば以下の主要な群に分類される[28]

真正アルカロイド
真正アルカロイド (true alkaloid) は、複素環窒素を含み、アミノ酸に起源を持つ[29]。代表例はアトロピンニコチンモルヒネである。この分類群には、窒素複素環に加えてテルペン(例: エボニン[30])やペプチド(例: エルゴタミン[31])断片を含むアルカロイドもある。また、アミノ酸起源でないにもかかわらず[32]、ピペリジンアルカロイドであるコニインやコニセインもこの分類群に含まれる[33]
不完全アルカロイド
不完全アルカロイド (protoalkaloid) は、真正アルカロイドと同様に窒素を含み、アミノ酸に起源を持つが[29]、複素環を持たない。例としてはメスカリンアドレナリンエフェドリンがある。
ポリアミンアルカロイド
プトレシンスペルミジンスペルミンの誘導体。
ペプチドおよび環状ペプチドアルカロイド[34]
偽アルカロイド
偽アルカロイド(擬アルカロイド, プソイドアルカロイド, pseudo-alkaloid)は、窒素源がアミノ酸に由来するのではなく、アンモニア性窒素に由来するアルカロイド様化合物である[35]。この分類群は、テルペン様アルカロイドやステロイド様アルカロイド[36]カフェインテオブロミンテオフィリンといったプリンテンプレート:要曖昧さ回避様アルカロイドを含む[37]。一部の著者らはエフェドリンカチノンといった化合物を偽アルカロイドに分類している。これらはアミノ酸であるフェニルアラニンに起源を持つが、窒素原子はアミノ酸からではなくアミノ基転移によって獲得している[37][38]

一部のアルカロイドは分類群に典型的な炭素骨格を有していない。例えばガランタミンおよびホモアポルフィン類はイソキノリン断片を含んでいないが、一般的にイソキノリンアルカロイドとされる[39]

単量体アルカロイドの主要な分類を以下の表に示す。

分類 主要な群 主要合成段階
窒素複素環を含むアルカロイド(真正アルカロイド)
ピロリジン誘導体[40] オルニチンあるいはアルギニンプトレシンN-メチルプトレシン → N-メチル-Δ1-ピロリン[41] クスコヒグリンヒグリン、ヒグロリン、スタキドリン[40][42]
トロパン誘導体[43] アトロピン類
3、6、7位に置換
オルニチンあるいはアルギニンプトレシンN-メチルプトレシン → N-メチル-Δ1-ピロリン[41] アトロピンスコポラミンテンプレート:仮リンク[40][43][44]
コカイン類
2位および3位に置換
コカインエルゴニン[43][45]
ピロリジジン誘導体[46] 非エステル 植物: オルニチンあるいはアルギニンプトレシン → ホモスペルミジン → レトロネシン[41] レトロネシン、ヘリオトリジン、ラブルニン[46][47]
モノカルボン酸エステル インジシン、リンデロフィン、サラシン[46]
大環状ジエステル プラチフィリン、トリコデスミン[46]
1-アミノピロリジジン類(テンプレート:仮リンク テンプレート:仮リンク: L-プロリン + L-ホモセリンN-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プロリン → ノルロリン[48][49] ロリン、N-ホルミルロリン、N-アセチルロリン[50]
ピペリジン誘導体[51] リジンカダベリン → Δ1-ピペリデイン[52] セダミン、ロベリン、アナフェリン、ピペリン[33][53]
オクタン酸 → コニセイン → コニイン [32] コニイン、コニセイン[32]
キノリジジン誘導体[54][55] ルピニン リジンカダベリン → Δ1-ピペリデイン[56] ルピニン、ヌファリジン[54]
シチシン シチシン[54]
スパルテイン スパルテイン、ルパニン、アナヒグリン[54]
マトリン マトリン、オキシマトリン、アロマトリジン[54][57][58]
オルサニン類 オルモサニン、ピプタンチン[54][59]
インドリジジン誘導体[60] リジンα-アミノアジピン酸のδ-セミアルデヒド → ピペコリン酸 → 1-インドリジジノン[61] スワインソニンカスタノスペルミン[62]
ピリジン誘導体[63][64] ピリジンの単純な誘導体 ニコチン酸 → ジヒドロニコチン酸 → 1,2-ジヒドロピリジン[65] トリゴネリン、リシニン、アレコリン[63][66]
多環式非縮合ピリジン誘導体 ニコチンノルニコチンアナバシン、アナタビン[63][66]
多環式縮合ピリジン誘導体 アクチニジン、ゲンチアニン、ペジクリニン[67]
セスキテルペンピリジン誘導体 ニコチン酸イソロイシン[10] エボニン、ヒッポクラテイン、トリプトニン[64][65]
イソキノリン誘導体および類縁アルカロイド[68] イソキノリンの単純な誘導体[69] チロシンあるいはフェニルアラニンドーパミンあるいはチラミン(アマリリスアルカロイドの場合)[70][71] サルソリン、ロホセリン[68][69]
1- ならびに3-イソキノリンの誘導体[72] N-メチルコリダルジン、ノルオキシヒドラスチニン[72]
1- ならびに4-フェニルテトラヒドロイソキノリンの誘導体[69] クリプトスチリン[69][73]
5-ナフチル-イソキノリンの誘導体[74] アンシストロクラジン[74]
1- ならびに2-ベンジル-イソキノリンの誘導体[75] パパベリンテンプレート:仮リンク、センダベリン
クラリン類[76] クラリン、ヤゴニン[76]
パビン類およびイソパビン類[77] アルゲモニン[77]
ベンゾピロコリン類[78] クリプタウストリン[69]
プロトベルベリン類[69] ベルベリンカナジン、オフィオカルピン、メカンブリジン、コリダリン[79]
フタリドイソキノリン類[69] ヒドラスチンナルコチンノスカルピン[80]
スピロベンジルイソキノリン類[69] フマリシン[77]
イペカクアンハアルカロイド[81] エメチン、プロトエメチン、イペコシド[81]
ベンゾフェナントリジン類[69] サングイナリン、オキシニチジン、コリノロキシン[82]
テンプレート:仮リンク[69] グラウシン、コリジン、リロイデニン[83]
プロアポルフィン類[69] プロヌシフェリン、グラジオビン[69][78]
ホモアポルフィン類[84] クレイシギニン、ムルチフロラミン[84]
ホモプロアポルフィン類[84] ブルボコジン[76]
モルヒネ[85] モルヒネコデインテバインシノメニン[86]
ホモモルヒネ類[87] クレイシギニン、アンドロシンビン[85]
トロポロイソキノリン類[69] イメルブリン[69]
アゾフルオランテン類[69] ルフェシン、イメルテイン[88]
アマリリスアルカロイド[89] リコリン、アンベリン、タゼッチン、ガランタミン、モンタニン[90]
テンプレート:仮リンクアルカロイド[73] エリソジン、エリトロイジン[73]
フェナントレン誘導体[69] アテロスペルミニン[69][79]
プロトピン類[69] プロトピン、オキソムラミン、コリカビジン[82]
アリストラクタム[69] ドリフラビン[69]
オキサゾール誘導体[91] チロシンチラミン[92] アンヌロリン、ハルホルジノール、テキサリン、テキサミン[93]
イソオキサゾール誘導体 イボテン酸ムッシモール イボテン酸、ムッシモール
チアゾール誘導体[94] 1-デオキシ-D-キシルロース-5-リン酸 (DOXP)、チロシンシステイン[95] ノストシクラミド、チオストレプトン[94][96]
キナゾリン誘導体[97] 3,4-ジヒドロ-4-キナゾロン誘導体 アントラニル酸あるいはフェニルアラニンあるいはオルニチン[98] テンプレート:仮リンク[99]
1,4-ジヒドロ-4-キナゾリン誘導体 グリコリン、アルボリン、グリコスミニン[99]
ピロリジンおよびピペリジンキナゾリン誘導体 バジシン(ペガニン)[91]
アクリジン誘導体[91] アントラニル酸[100] ルタクリドン、アクロニシン[101][102]
キノリン誘導体[103][104] 2-キノロンおよび4-キノロンのキノリン誘導体の単純な誘導体 アントラニル酸 → 3-カルボキシキノリン[105] クスパリン、エキノプシン、エボカルピン[104][106][107]
三環性テルペノイド フリンデルシンe[104][108]
フラノキノリン誘導体 ジクタムニン、ファガリン、スキンミアニン[104][109][110]
キニーネ トリプトファントリプタミン → ストリクトシジン(with セコロガニン) → コリナンテアール → シンホニノン [71][105] キニーネキニジンシンコニン、シンホニジン[108]
インドール誘導体[86]

テンプレート:See also

非イソプレンインドールアルカロイド
単純なインドール誘導体[111] トリプトファントリプタミンあるいは5-ヒドロキシトリプトファン[112] セロトニンシロシビンジメチルトリプタミン (DMT)、ブフォテニン[113][114]
β-カルボリンの単純な誘導体[115] ハルマン、ハルミンハルマリン、エレアグニン[111]
ピロロインドールアルカロイド[116] フィゾスチグミン(エセリン)、エテラミン、フィソベニン、エプタスチミン[116]
セミテルペノイドインドールアルカロイド
テンプレート:仮リンク[86] トリプトファン → カノクラビン → アグロクラビン → エリモクラビン → パスパル酸 → テンプレート:仮リンク[116] エルゴタミン、エルゴバシン、エルゴシン[117]
モノテルペノイドインドールアルカロイド
テンプレート:仮リンク型アルカロイド[112] トリプトファントリプタミン → ストリクトシジン(with セコロガニン[112] アジマリシン、サルパギン、ボバシン、アジュマリンヨヒンビンレセルピンテンプレート:仮リンク[118][119]ストリキニーネ類(ストリキニーネブルシン、アクアミシン、ボミシン)[120]
イボガ型アルカロイド[112] イボガミンイボガインテンプレート:仮リンク[112]
テンプレート:仮リンク型アルカロイド[112] テンプレート:仮リンクテンプレート:仮リンク、ビンコチン、アスピドスペルミン[121][122]
イミダゾール誘導体[91] ヒスチジンから直接[123] ヒスタミン、ピロカルピン、ピロシン、ステベンシン[91][123]
プリン誘導体[124] キサントシン(プリン生合成において形成)→ 7-メチルキサントシン → 7-メチルキサンチンテオブロミンカフェイン[71] カフェインテオブロミンテオフィリンサキシトキシン[125][126]
側鎖に窒素を有するアルカロイド(不完全アルカロイド)
β-フェネチルアミン誘導体[78] チロシンあるいはフェニルアラニン → ジオキシフェニルアラニン → ドーパミンアドレナリンおよびメスカリンチラミン → 1-フェニルプロパン-1,2-ジオン → カチノンエフェドリンおよびプソイドエフェドリン[10][38][127] チラミンエフェドリンプソイドエフェドリンメスカリンカチノンカテコールアミン類(アドレナリンノルアドレナリンドーパミン[10][128]
コルヒチンアルカロイド[129] チロシンあるいはフェニルアラニンドーパミン → アウツムナリン → コルヒチン [130] コルヒチン、コルカミン[129]
ムスカリン[131] グルタミン酸 → 3-ケトグルタミン酸 → ムスカリン(with ピルビン酸[132] ムスカリン、アロムスカリン、エピムスカリン、エピアロムスカリン[131]
ベンジルアミン[133] フェニルアラニンバリンロイシンあるいはイソロイシン[134] カプサイシンジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン[133][135]
ポリアミンアルカロイド
プトレシン誘導体[136] オルニチンプトレシンスペルミジンスペルミン[137] パウシン[136]
スペルミジン誘導体[136] ルナリン、コドノカルピン[136]
スペルミン誘導体[136] ベルバセニン、アフェランドリン[136]
ペプチド(環状ペプチド)アルカロイド
13員環ペプチドアルカロイド[34][138] ヌンムラリンC型 異なるアミノ酸から[34] ヌンムラリンC、ヌンムラリンS[34]
ジジフィン型 ジジフィンA、サチバニンH[34]
14員環ペプチドアルカロイド[34][138] フラグラニン型 フラグラニン、スクチアニンJ[138]
スクチアニンA型 スクチアニンA[34]
インテゲリン型 インテゲリン、ジスカリンD[138]
アンフィビンF型 アンフィビンF、スピナニンA[34]
アンフィビンB型 アンフィビンB、ロツシンC[34]
15員環ペプチドアルカロイド[138] ムクロニンA型 ムクロニンA [31][138]
疑アルカロイド(テルペンおよびステロイド
ジテルペン [31] リコクトニン型 メバロン酸イソペンテニル二リン酸ゲラニル二リン酸[139][140] アコニチンテンプレート:仮リンク[31][141]
ステロイド[142] コレステロールアルギニン[143] ソラソジン、ソラニジン、ベラルカミン、バトラコトキシン[144]

性質

ほとんどのアルカロイドは分子構造中に酸素を含んでいる。これらの化合物は穏和な条件においては大抵無色の結晶である。ニコチン[145]あるいはコニイン[21] といった酸素を含まないアルカロイドは通常揮発性、無色、油状液体である[146]ベルベリン(黄色)やテンプレート:仮リンク(橙色)のように一部のアルカロイドは着色している[146]

ほとんどのアルカロイドは弱い塩基であるが、一部のアルカロイド、例えばテオブロミンおよびテオフィリン両性である[147]。ほとんどのアルカロイドは水に対する溶解性が低いが、ジエチルエーテルクロロホルム1,2-ジクロロエタンといった有機溶媒には容易に溶解する。しかしながら、カフェインは沸騰水によく溶ける[147]とは、様々な強さで塩を形成する。これらの塩は通常水およびアルコールに可溶でありほとんどの有機溶媒に対する溶解性は低い。例外としては有機溶媒に溶解するスコポラミン臭化水素酸塩や水溶性のキニーネ硫酸塩がある[146]

アルカロイドは植物体内の各種アミノ酸から生合成され、シュウ酸リンゴ酸クエン酸酢酸酒石酸などの有機酸の状態で各々の体内に保持されている(例えばクエン酸塩、リンゴ酸塩など)。それが何らかの要因で分解、分離、もしくは抽出されればアルカロイドと呼べる物質になり、摂取した動物の体内に諸影響を及ぼす。

ほとんどのアルカロイドは苦味を有している。植物は、動物から自身を防御するためにこれらの苦味物質(多くは有毒)を生産する能力を進化により獲得したと考えられている。しかし、動物も同じくアルカロイドを解毒する能力を発達させた[148]。一部のアルカロイドは、アルカロイドを摂取したものの解毒できない動物の子孫に発育障害を起こす。特徴的な例はカリフォルニア・コーン・リリー (Veratrum californicum) の葉に存在するシクロパミンである。1950年代の間、コーン・リリーを食べた羊から産まれた子羊の最大25%が重篤な顔面障害を被った。これらの障害は顎の奇形から単眼症に及んだ。数十年の研究の後、1980年代に、奇形の原因となる物質がアルカロイドである11-デオキシジェルビンと同定され、単眼症 (cyclopia) からシクロパミン (サイクロパミン、cyloapmine, cyclopia + amine) と命名された[149]

自然界での分布

アルカロイドは様々な生物によって作り出される。特に高等植物はおよそ10から25%の種がアルカロイドを含んでいる[150][151]。それゆえに、昔は「アルカロイド」という用語は植物を連想させた[152]。基本的に植物は、体の中に何種類ものアルカロイドを保持している。例えばケシの実から作られるアヘンにはモルヒネコデインなどをはじめとして約20種が含まれる。同一の植物に含まれるアルカロイドは化学的に近い性質を持つものであることが多い。植物がその体内に保持しているアルカロイドの中で、比較的含有量が多いものは主アルカロイド、それに伴う幾種ものアルカロイドが副アルカロイドと呼ばれる。アルカロイドは主に顕花植物、殊に双子葉類の植物に見出される。体内にアルカロイドを含有する植物としては主に、キンポウゲ科ケシ科ナス科ヒガンバナ科マメ科メギ科ユリ科トウダイグサ科ウマノスズクサ科など。

植物のアルカロイド含量は通常数パーセント以内で、植物組織に不均一に分布している。植物の種類に応じて、葉(ヒヨス)、果実あるいは種子マチン)、根(インドジャボク)、樹皮(テンプレート:仮リンク)においてそれぞれ最大濃度が見られる[153]。その上、植物の異なる組織がそれぞれ異なるアルカロイドを含んでいる場合もある[154]

植物以外では、アルカロイドはある種の真菌シビレタケ属 Psilocybeにおけるシロシビン)や動物(ある種のカエルの皮膚におけるブフォテニン)でも見出される[13]。多くの海洋生物もまたアルカロイドを含んでいる[155]。高等動物において受容な役割を果たすアドレナリンおよびセロトニンといった一部のアミンはアルカロイドと構造や生合成が類似しており、アルカロイドと呼ばれることがある[156]

抽出

アルカロイドの構造的多様性のため、天然素材からアルカロイドを抽出する単一の手法は存在しない[157]。ほとんどの手法はほとんどのアルカロイドが有機溶媒に溶解するが水には不溶であるが、それらの塩は逆の傾向を示す特性を利用する。

ほとんどの植物は複数のアルカロイドを含んでいる。それらの混合物が最初に抽出され、次に個別のアルカロイドが分離される[158]。植物は抽出前に徹底的に挽く[157][159]。ほとんどのアルカロイドは生植物内で有機酸との塩の形で存在している[157]。抽出されたアルカロイドは塩のままか塩基へと変化している[158]。塩基抽出は植物材料をアルカリ溶液で処理し、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、ベンゼンといった有機溶媒にアルカロイド塩基を抽出することで達成される。次に、不純物を弱酸に溶解させる。これによってアルカロイド塩基は塩へと変換され、水によって洗い流される。もし必要ならば、アルカロイド塩の水溶液を再びアルカリ性にし、有機溶媒で処理する。この過程を望む純度が得られるまで繰り返す。

酸抽出では、植物材料は弱酸性溶液(例: 酢酸の水溶液、エタノール溶液、メタノール溶液)で処理される。次にアルカロイドを有機溶媒で抽出できる塩基性型へと変換するために塩基が加えられる(もし抽出をアルコールを使って行う場合は、まずアルコールを除去し残渣を水に溶解する)。この溶液を上記のように精製する[157][160]

アルカロイドは、特定の溶媒に対する溶解性の差異や特定の試薬に対する反応性の差異、蒸留を用いて混合物から分離される[161]

生合成

ほとんどのアルカロイドの生物学的前駆体はオルニチンリジンフェニルアラニンチロシントリプトファンヒスチジンアスパラギン酸アントラニル酸といったアミノ酸である[162]ニコチン酸はトリプトファンあるいはアスパラギン酸から合成できる。アルカロイド生合成の経路は数え切れない程あるため、容易に分類することは不可能である[71]。しかしながら、シッフ塩基の合成やマンニッヒ反応を含む様々なアルカロイドの生合成に関与する典型的な反応がいくつかある[162]

シッフ塩基の合成

テンプレート:Main

シッフ塩基は、アミンとケトンあるいはアルデヒドを反応させることで得ることができる[163]。これらの反応はC=N結合を作る一般的な方法である[164]

アルカロイドの生合成において、こういった反応はピペリジンの合成[27]のように分子内でも起こる[162]

マンニッヒ反応

テンプレート:Main

マンニッヒ反応の不可欠な構成要素は、アミンとカルボニル化合物に加えて、アミンとカルボニル化合物との反応で形成されるイオンに対する求核付加反応において求核剤としての役割を果たすカルバニオンである[164]

マンニッヒ反応は分子間、分子内いずれの場合でも進行する[165][166]

二量体アルカロイド

上述の単量体アルカロイドに加えて、単量体アルカロイドの縮合によって形成される二量体三量体テンプレート:要曖昧さ回避四量体アルカロイドも存在する。二量体アルカロイドは通常同じ種類の単量体から以下の機構によって形成される[167]

生物学的役割

アルカロイドを作る生物におけるアルカロイドの役割は未だ不明な点が多い[168]。当初は、アルカロイドは、動物における尿素のように植物における窒素代謝の最終産物であると推測されていた。後に、アルカロイドの濃度が時間とともに変動することが明らかとなり、この仮説は反証された[6]

アルカロイドの既知の機能のほとんどは防御と関連している。例えば、ユリノキが生産するアポルフィンアルカロイドのリリオデニンは寄生性キノコから木を防御している。加えて、植物におけるアルカロイドの存在は昆虫や脊索動物から食べられるのを妨げている。しかしながら、一部の動物はアルカロイドに適応し、自身の代謝系で利用できるものさえある[169]セロトニンドーパミンヒスタミンといったアルカロイド関連物質は動物において重要な神経伝達物質である。アルカロイドはまた植物の生長を制御することが知られている[170]

応用

医学分野

アルカロイド含有植物の医学的使用には長い歴史があり、ゆえに、19世紀に最初のアルカロイドが単離された時、ただちに臨床診療における応用が見出された[171]。多くのアルカロイドはいまだに医薬品として(大抵塩の形で)利用されている。以下に例を示す[6][172]

アルカロイド 作用
アジュマリン 抗不整脈
アトロピンスコポラミンヒオスシアミン 抗コリン
ビンブラスチンビンクリスチン 抗腫瘍
ビンカミン 血管拡張高血圧治療
コデイン 鎮咳去痰薬
コカイン 麻酔薬
コルヒチン 痛風の治療薬
モルヒネ 鎮痛
レセルピン 高血圧治療
ツボクラリン 筋弛緩
フィゾスチグミン アセチルコリンエステラーゼ阻害剤
キニジン 抗不整脈
キニーネ 解熱、抗マラリア
エメチン 抗原虫薬
麦角アルカロイド アドレナリン作動薬、血管拡張、高血圧治療

多くの合成および半合成薬は、薬の主要な作用を増強あるいは変化させ、不要な副作用を低減するよう設計されたアルカロイドの構造修飾体である[173]。例えば、オピオイド受容体アンタゴニストであるナロキソンケシに存在するテバインの誘導体である[174]

農業

様々な比較的低毒性の合成農薬が開発される前は、ニコチンおよびアナバシンの塩といった一部のアルカロイドが殺虫剤として使用されていた。これらの使用はヒトに対する高い毒性によって制限されていた[175]

向精神薬としての使用

アルカロイドを含む植物の生薬やそれらの抽出物、後には純粋なアルカロイドは長い間向精神物質として使用されている。コカインおよびカチノン中枢神経系覚醒剤である[176][177]メスカリンおよび(シロシビンジメチルトリプタミンイボガインといった)インドールアルカロイドの多くは幻覚作用を有する[178][179]モルヒネおよびコデインは強力な麻薬性鎮痛薬である[180]

それ自身は強力な向精神作用を持たないが、半合成向精神薬の前駆体であるアルカロイドも存在する。例えば、エフェドリンおよびプソイドエフェドリンメトカチノンおよびメタンフェタミンの製造に用いられる[181]

アルカロイドの例

脚注

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参考文献

関連項目

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  11. In the penultimate sentence of his article [W. Meissner (1819) "Über Pflanzenalkalien: II. Über ein neues Pflanzenalkali (Alkaloid)" (On plant alkalis: II. On a new plant alkali (alkaloid)), Journal für Chemie und Physik, vol. 25, pp. 377–381] Meissner wrote "Überhaupt scheint es mir auch angemessen, die bis jetzt bekannten Pflanzenstoffe nicht mit dem Namen Alkalien, sondern Alkaloide zu belegen, da sie doch in manchen Eigenschaften von den Alkalien sehr abweichen, sie würden daher in dem Abschnitt der Pflanzenchemie vor den Pflanzensäuren ihre Stelle finden." (In general, it seems appropriate to me to impose on the known plant substances not the name "alkalis" but "alkaloids", since they differ greatly in some properties from the alkalis; among the chapters of plant chemistry, they would therefore find their place before plant acids [since "Alkaloid" would precede "Säure" (acid)].)
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  13. 13.0 13.1 Hesse, p. 5
  14. 接尾辞 "ine" はギリシャ語の女性父称を作る接尾辞であり、「〜の娘」を意味する。すなわち、アトロピンは「Atropa(ベラドンナ)の娘」を意味する。[1]
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