三島由紀夫賞
テンプレート:出典の明記 三島由紀夫賞(みしまゆきおしょう)は、新潮社が主催する三島由紀夫を記念した文学賞。略称は「三島賞」。新潮社は新潮社文学賞(1954-67年)、日本文学大賞(1969-87年)を主催してきたが、それに代わるものとして1988年に創設された。
三島は新潮社と付き合いが深く、書き下ろしの小説を何冊も出し、晩年は『豊饒の海』四部作を『新潮』に連載した。没後は新潮社から全集が出され、小説と戯曲の多くが新潮文庫に収録された。新潮社が芥川賞・直木賞と同種のカテゴリーを要求しつつ新しい才能を求めるべく打ち出したのが、本賞と山本周五郎賞である。
選考
対象は小説、評論、詩歌、戯曲の「文学の前途を拓く新鋭の作品一篇」としている。2013年時点では、候補作・受賞作のほとんどは小説作品である。
選考会は5月中旬頃。選考委員は任期制で4年ごとに入れ替わることになっているが、実は再任が可能である。このため、宮本輝は20年も選考することになり、同一人物が長期間審査する批判を免れることはなかった。東浩紀の『存在論的、郵便的 ジャック・デリダについて』は、「評論ではなく論文である」という選考委員の指摘から受賞にいたることがなかったが、『クォンタム・ファミリーズ』は「小説」であったため受賞が可能であった。
芥川賞に比べ、純文学以外のジャンル出身作家の受賞もある(舞城王太郎、古川日出男など)。また、中堅作家が受賞することもある(矢作俊彦など)。なお、三島賞を受賞した作家が芥川賞の候補になったことはあったが、すでに芥川賞を受賞した作家が三島賞の候補になった例は2014年時点ではない。
受賞作
第1期
第1回(1988年)
- 受賞作:高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』
- 候補作:井口時男『物語論/破局論』、朝吹亮二『OPUS』、松浦理英子『ナチュラル・ウーマン』、小林恭二『ゼウスガーデン衰亡史』、中沢新一『虹の理論』、佐伯一麦『雛の棲家』、岩森道子『雪迎え』、高瀬千図『嵐の家』、島田雅彦『未確認尾行物体』、山田詠美『風葬の教室』、吉本ばなな『キッチン』(海燕新人文学賞、芸術選奨新人賞受賞)
- 解説:最終候補に全12作が残る大混戦で花々しく幕が開け、票はばらけた。大江と江藤が高橋に入れる。高橋は賞金の100万円を全額日本ダービーにつぎ込み、一瞬にして使い果たす。
第2回(1989年)
- 受賞作:大岡玲『黄昏のストーム・シーディング』
- 候補作:富岡幸一郎『内村鑑三 偉大なる罪人の生涯』、いとうせいこう『ノーライフキング』、中村和恵『内陸へ』、長野まゆみ『少年アリス』、島弘之『感想というジャンル』、佐藤泰志『そこのみて光り輝く』
第3回(1990年)
- 受賞作:久間十義『世紀末鯨鯢記』
- 候補作:荻野アンナ『ドアを閉めるな』、島田雅彦『夢使い レンタルチャイルドの新二都物語』、鷺沢萠『果実の船を川に流して』、奥泉光『滝』、比留間久夫『YES・YES・YES』(文藝賞受賞作)
第4回(1991年)
- 受賞作:佐伯一麦『ア・ルース・ボーイ』
- 候補作:松村栄子『僕はかぐや姫』、矢作俊彦『スズキさんの休息と遍歴』、いとうせいこう『ワールズ・エンド・ガーデン』、芦原すなお『青春デンデケデケデケ』(文藝賞受賞作)、奥泉光『葦と百合』
- 解説:同年7月、芦原は『青春デンデケデケデケ』で直木賞を受賞した。
第2期
選考委員:石原慎太郎、江藤淳、高橋源一郎、筒井康隆、宮本輝(中上は1992年死去)
第5回(1992年)
第6回(1993年)
- 受賞作:車谷長吉『塩壺の匙』、福田和也『日本の家郷』
- 候補作:伊藤比呂美『家族アート』、奥泉光『ノヴァーリスの引用』(野間文芸新人賞受賞)、楡井亜木子『チューリップの誕生日』、保坂和志『草の上の朝食』
第7回(1994年)
- 受賞作:笙野頼子『二百回忌』
- 候補作:伊達一行『妖言集』、松浦理英子『親指Pの修行時代』(女流文学賞受賞)、別唐晶司『メタリック』、島弘之『小林秀雄 悪を許す神を赦せるか』、柳美里『Green Bench』
第8回(1995年)
- 受賞作:山本昌代『緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道』
- 候補作:飯嶋和一『雷電本紀』、保坂和志『猫に時間の流れる』、阿部和重『アメリカの夜』(群像新人文学賞受賞作)、三浦俊彦『蜜林レース』、山城むつみ『文学のプログラム』
第3期
選考委員:青野聰、石原慎太郎、江藤淳(第10回は欠席。第10回まで)、筒井康隆、宮本輝
第9回(1996年)
- 受賞作:松浦寿輝『折口信夫論』
- 候補作:石黒達昌『94627』、水村美苗『私小説 from left to right』(野間文芸新人賞受賞)、角田光代『学校の青空』、辻仁成『アンチノイズ』、野中柊『ダリア』
第10回(1997年)
- 受賞作:樋口覚『三絃の誘惑 近代日本精神史覚え書』
- 候補作:茂田真理子『タルホ/未来派』、阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』、赤坂真理『蝶の皮膚の下』、町田康『くっすん大黒』(ドゥマゴ文学賞、野間文芸新人賞受賞)
- 解説:茂田は江藤の弟子であり修士論文だったため江藤は欠席した。
第11回(1998年)
第12回(1999年)
- 受賞作:鈴木清剛『ロックンロールミシン』(河出書房新社)、堀江敏幸『おぱらばん』(青土社)
- 候補作:東浩紀『存在論的、郵便的 ジャック・デリダについて』(サントリー学芸賞受賞)、大塚銀悦『久遠』、辻征夫『ぼくたちの(俎板のような)拳銃』、赤坂真理『ヴァニーユ』
- 解説:筒井は東の『存在論的、郵便的』を絶賛するが、他の委員から「難解過ぎて分からない」「学術書を文学賞の候補に入れるのはおかしい」と拒否される。
第4期
選考委員:島田雅彦、高樹のぶ子、筒井康隆、福田和也、宮本輝
第13回(2000年)
- 受賞作:星野智幸『目覚めよと人魚は歌う』(『新潮』2000年4月号)
- 候補作:角田光代『東京ゲスト・ハウス』、デビット・ゾペティ『アレグリア』、伊井直行『服部さんの幸福な日』、宮沢章夫『サーチエンジン・システムクラッシュ』
第14回(2001年)
- 受賞作:青山真治『ユリイカ EUREKA』(角川書店)、中原昌也『あらゆる場所に花束が……』(『新潮』2001年4月号)
- 候補作:大鋸一正『緑ノ鳥』、佐川光晴『生活の設計』(新潮新人賞受賞作)、黒川創『もどろき』、堂垣園江「ベラクルス」(『群像』2001年2月号)
第15回(2002年)
- 受賞作:小野正嗣「にぎやかな湾に背負われた船」(『小説トリッパー』2001年秋号)
- 候補作:横田創『裸のカフェ』(『群像』2001年8月号)、舞城王太郎「熊の場所」(『群像』2001年9月号)、阿部和重『ニッポニアニッポン』、平出隆『猫の客』、綿矢りさ『インストール』(河出書房新社 文藝賞受賞作)
第16回(2003年)
- 受賞作:舞城王太郎『阿修羅ガール』(新潮社)
- 候補作:嶽本野ばら『エミリー』、有吉玉青『キャベツの新生活』、黒田晶『世界がはじまる朝』、佐藤智加『壊れるほど近くにある心臓』、野中柊「ジャンピング・ベイビー」(『新潮』2003年4月号)
- 解説:覆面作家・舞城は公の場に出たくないため、授賞式を欠席。島田は「失礼だ」と不快感を示す。
第5期
選考委員:第4期と同じ
第17回(2004年)
- 受賞作:矢作俊彦『ららら科學の子』(文藝春秋、『文學界』連載)
- 候補作:いしいしんじ『プラネタリウムのふたご』、安達千夏 「おはなしの日」(『すばる』2003年12月号)、嶽本野ばら『ロリヰタ。』、鹿島田真希「白バラ四姉妹殺人事件」(『新潮』2004年3月号)
- 解説:「レベルが違う」「近代日本文学の傑作」と賞賛され、矢作が満場一致で受賞。「新人賞である筈の三島賞に、なぜベテランの矢作が候補に挙がるのか」との疑問も出た。受賞の記者会見で矢作は「文学に新人やベテランとの区分は、特に重要ではない」と答える。
第18回(2005年)
- 受賞作:鹿島田真希「六〇〇〇度の愛」(『新潮』2005年2月号)
- 候補作:中村文則「悪意の手記」(『新潮』2004年5月号)、青木淳悟「クレーターのほとりで」(『新潮』2004年10月号)、本谷有希子 「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」(『群像』2004年12月号)、三崎亜記 『となり町戦争』(集英社、小説すばる新人賞受賞作)、黒川創「明るい夜」(『文學界』2005年4月号)
第19回(2006年)
- 受賞作:古川日出男『LOVE』(祥伝社)
- 候補作:いしいしんじ 『ポーの話』、西村賢太『どうで死ぬ身の一踊り』、宮崎誉子『少女@ロボット』、前田司郎「恋愛の解体と北区の滅亡」(『群像』2006年3月号)
- 解説:筒井は「見せかけの新しさ」と古川を批判し、「もっとも面白く読めた」といしいを推した。福田は「退屈の一言」といしいを最も低く評価、「頭一つ抜けている」と前田を推した。その前田には福田以外、全員が×をつけた。票が割れ、最後に福田、島田、宮本が古川を推し受賞が確定。
第20回(2007年)
- 受賞作:佐藤友哉(最年少受賞)『1000の小説とバックベアード』(新潮社)
- 候補作:西川美和 『ゆれる』(自作脚本を小説化したもの)、本谷有希子『生きてるだけで、愛。』、柴崎友香『また会う日まで』、いしいしんじ『みずうみ』
- 解説:宮本輝を除く4人の選考委員が票を入れ受賞決定。宮本は「文字だけで書かれたドタバタコミック」と酷評。メフィスト賞出身の作家としては舞城王太郎以来二人目。
第6期
第21回(2008年)
- 受賞作:田中慎弥『切れた鎖』(新潮社)
- 候補作:本谷有希子『遭難、』、藤谷治『いつか棺桶はやってくる』、日和聡子『おのごろじま』、前田司郎『誰かが手を、握っているような気がしてならない』、黒川創『かもめの日』(読売文学賞受賞)
第22回(2009年)
- 受賞作:前田司郎『夏の水の半魚人』(扶桑社)
- 候補作:村田沙耶香『ギンイロノウタ』(野間文芸新人賞受賞)、天埜裕文『灰色猫のフィルム』、いしいしんじ『四とそれ以上の国』、青木淳悟『このあいだ東京でね』
第23回(2010年)
- 受賞作:東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社)
- 候補作:長島有里枝『背中の記憶』(講談社エッセイ賞受賞)、円城塔『烏有此譚』(野間文芸新人賞受賞)、山崎ナオコーラ『この世は二人組ではできあがらない』、村田沙耶香『星が吸う水』
- 解説:エッセイが候補になった。
第24回(2011年)
- 受賞作:今村夏子『こちらあみ子』(筑摩書房)
- 候補作:伊佐山ひろ子『海と川の匂い』、中森明夫『アナーキー・イン・ザ・JP』、大澤信亮『神的批評』、柴崎友香『ビリジアン』、本谷有希子『ぬるい毒』(野間文芸新人賞受賞)
第7期
選考委員:川上弘美、高村薫、辻原登、平野啓一郎、町田康
第25回(2012年)
第26回(2013年)
- 受賞作:村田沙耶香『しろいろの街の、その骨の体温の』(朝日新聞出版)
- 候補作:松田青子『スタッキング可能』、黒川創『暗殺者たち』、いとうせいこう『想像ラジオ』(野間文芸新人賞受賞)、小山田浩子『工場』(織田作之助賞受賞)
第27回(2014年)
- 受賞作:本谷有希子『自分を好きになる方法』(講談社)
- 候補作:岩城けい『さようなら、オレンジ』(大江健三郎賞受賞)、上田岳弘『太陽 』、小林エリカ『マダム・キュリーと朝食を』、坂口恭平『徘徊タクシー』
関連項目
いずれも非公募の純文学新人賞。
外部リンク
- 三島由紀夫賞(公式)