佐伯一麦
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テンプレート:Infobox 作家 佐伯 一麦(さえき かずみ、1959年7月21日 - )は日本の小説家。本名は佐伯 亨。私小説の書き手として知られる。現在は郷里の仙台市在住。
筆名の「一麦」は、敬愛する画家ゴッホが麦畑を好んで描いたことにちなむ。
来歴・人物
1959年、宮城県仙台市に生まれる。宮城県仙台第一高等学校卒業後に上京し、週刊誌記者や電気工など様々な職業を経験する。1984年、『木を接ぐ』により作家デビューしてからしばらくの間は電気工と作家活動とを両立させる。1990年、電気工時代の経験をもとに作品集『ショート・サーキット』を書く。
1991年、『ア・ルース・ボーイ』で若くして父親になってしまう青年を描く。その後、草木染め作家の女性と結婚し、10数年の都会生活(1980年代末には茨城県古河市に勤務したこともある)を終えて、仙台市へ移住する。1997年、『遠き山に日は落ちて』で東北の町での妻との生活を描く。同年より、妻の留学に付き添いノルウェーに1年間滞在する。2007年、この経験を元に『ノルゲ Norge』を書く。電気工をしていた20代にアスベストの被害で肋膜炎にかかり、以後、喘息の持病を抱えながら執筆を行なっている。2007年にはアスベストの被害を追ったルポルタージュ『石の肺』を刊行した[1]。
2010年からは大佛次郎賞(第37回から)と野間文芸賞(第63回から)の選考委員を務めている。
2011年の東日本大震災は、大年寺近くの高台にある集合住宅で経験し、停電、断水し、部屋がめちゃめちゃになり、2日がかりで片付けた。そのとき見た変わり果てた海の風景に衝撃を受けたという[2]。
受賞
- 1984年、『木を接ぐ』(『雛の棲家』に所収)により第3回海燕新人文学賞を受賞
- 1990年、『ショート・サーキット』により第12回野間文芸新人賞を受賞
- 1991年、『ア・ルース・ボーイ』により第4回三島由紀夫賞を受賞
- 1997年、『遠き山に日は落ちて』により第1回木山捷平文学賞を受賞
- 2004年、『鉄塔家族』により第31回大佛次郎賞を受賞
- 2007年、『ノルゲ Norge』により第60回野間文芸賞を受賞
- 2013年、『還れぬ家』により第55回毎日芸術賞を受賞
- 2014年、『渡良瀬』により第25回伊藤整文学賞を受賞
映画化
- 1996年、『一輪』を基にしたVシネマ『F.ヘルス嬢日記』(東映ビデオ)が公開される。
- 『ア・ルース・ボーイ』の映画化が奥山和由製作、小嶺麗奈主演で企画され、作品も完成していたが、奥山と製作会社の松竹との関係が悪化したために公開が頓挫する。1999年、仙台市の太白図書館開館記念行事の中でのみ公開された。
テレビドラマ化
著書
小説
- 『雛の棲家』(福武書店、1987年)
- 『ショート・サーキット』(福武書店、1990年、のちに福武文庫、講談社文芸文庫)
- 『一輪』(福武書店、1990年、のちに新潮文庫)
- 『ア・ルース・ボーイ』(新潮社、1991年、のち新潮文庫)
- 『木の一族』(新潮社、1994年、のち文庫)
- 『遠き山に日は落ちて』(集英社、1996年、のちに集英社文庫)
- 『少年詩篇』(新潮社、1997年、のちに「あんちゃん、おやすみ」として新潮文庫)
- 『川筋物語』(朝日新聞社、1998年、のちに朝日文庫)
- 『まぼろしの夏 その他』(講談社、2000年)
- 『マイ シーズンズ』(幻冬舎、2001年)
- 『無事の日』(集英社、2001年)
- 『鉄塔家族』(日本経済新聞社、2004年、のちに朝日文庫)
- 『草の輝き』(集英社、2004年)
- 『ノルゲ Norge』(講談社、2007年)
- 『ピロティ』(集英社、2008年)
- 『誰かがそれを』(講談社、2010年)
- 『還れぬ家』(新潮社、2013年)
- 『光の闇』(扶桑社、2013年)
- 『渡良瀬』(岩波書店、2013年)
- 『日和山 佐伯一麦自選短篇集』(講談社文芸文庫、2014年)
- 『空にみずうみ』(読売新聞連載、2014年)
随筆など
- 『蜘蛛の巣アンテナ』(講談社、1998年)
- 『読むクラシック―音楽と私の風景』(集英社新書、2001年)
- 『散歩歳時記』(日本経済新聞社、2005年)
- 『石の肺―アスベスト禍を追う』(新潮社、2007年、のち「石の肺―僕のアスベスト履歴書」新潮文庫)
- 『芥川賞をとらなかった名作たち』(朝日新書、2009年)
- 『からっぽを充たす』(日本経済新聞社、2009年)
- 『仙台闊歩新書 「杜の日記帖」』(プレスアート、2010年)
- 『震災と言葉』(岩波ブックレット、2012年)
- 『旅随筆集 麦の冒険』(荒蝦夷、2012年)
- 『月を見あげて』(河北新報出版センター、2013年)
共著
- 『遠くからの声』(古井由吉共著、新潮社、1999年)
- 『往復書簡 言葉の兆し』(古井由吉共著、朝日新聞出版、2012年)
脚注
- ↑ 『東京新聞』2007年4月7日 Webバックナンバー
- ↑ 『佐伯一麦さん 連載小説開始 震災3年 杜の都の日常』2014年6月17日読売新聞朝刊29面