獣医師
獣医師(じゅういし、英語:veterinarian)は、ヒト以外の動物の医師。
目次
概要
日本で獣医師になるためには、獣医学系大学を卒業して農林水産省が実施する獣医師国家試験に合格し、獣医師免許を取得しなければならない。獣医師の総数は3万5379人である(平成22年12月31日時点)。
獣医師でない者が、飼育動物(牛・馬・豚・めん羊・山羊・犬・猫・鶏・うずら・その他獣医師が診察を行う必要があるものとして政令で定めるものに限る)の診療を業務としてはならない業務独占資格でもあり、獣医師でない者が「獣医師」[1]の名称を使用したり、「動物医」・「家畜医」・「ペット医」等の紛らわしい名称も用いたりしてはならない名称独占資格でもある。 獣医師法では、動物の診療や保健衛生指導などを通して、次の三つに寄与することが使命とされている。
また、獣医師資格を保有していても所定の届出を行っていない場合は臨床に携わることができない。具体的には、獣医師が飼育動物の診療の業務を行うため、診療施設を開設した場合は獣医療法第3条により、その開設の日から十日以内に、当該診療施設の所在地を管轄する都道府県知事に農林水産省令で定める事項を届け出なければならない。また、往診のみによって診療を行う獣医師については、獣医療法第7条によりその住所を診療施設とみなして、第3条の規定が適用される。
臨床獣医師
- 小動物臨床獣医師
- 住宅地等で自ら動物病院など小動物診療施設を開設、または既存の小動物診療施設に雇用されて勤務し犬、猫、エキゾチックアニマルなどを対象として診療行為を行なう小動物臨床、いわゆるペット病院の獣医師。
- 都市部で生活する人々の多くにとって、単に「獣医師」というとこのような小動物臨床の獣医師だけを連想しがちだが、獣医師免許を持つ者全体のうち小動物臨床の獣医師が占める割合は、都道府県別で最も高い東京都でも約6割程度でしかない。日本全国で見た場合でも全体の4割程度しかなく、残りは、これ以降記述されている各分野の獣医師である。
- なお獣医師は診療した場合、診療簿(医師の診療録にあたる)にその事実を記載しなければならない。
- 産業動物臨床獣医師
- 農村地域等で自ら診療施設を開設するか農業共済組合または農業協同組合等に勤務して周辺の畜産農家に往診し、牛や豚・鶏などの産業動物を対象とする診療行為のほか、ワクチン接種及び消毒など伝染病予防の衛生指導といった予防衛生業務を行なう獣医師。最近では動物福祉や畜産物のトレーサビリティに関する指導を行う例もあり、企業形態の畜産農場に雇用されて勤務している者もこの範疇に入る。
- 農村地域で自ら診療施設を開設した産業動物臨床の獣医師が、往診先の農家で飼われているペットの診療を行なうことは法的に何ら問題ないため、近隣に小動物臨床獣医師がいないような地域ではそのようなケースも意外と多い。しかし近年では畜産農家の戸数及び家畜の飼養頭羽数の減少、獣医大学における女子学生の増加などにより、従事者の減少が深刻化している。
- その他の臨床獣医師
- 競馬及び動物園関連分野は、関係施設の数や従事者の需要そのものが少ないことから、就職が困難とされている。テンプレート:要出典範囲
「診療をしない」獣医師
公務員や民間企業の社員としての獣医師である。公務員については大きく国家公務員と地方公務員に分けられ、更に所属の違いによって本省庁と出先機関に分けられる。
- 国家公務員であれば農林水産省や厚生労働省、地方公務員であれば各都道府県や市町村の本省庁や各出先機関に勤務しそれぞれの施策・業務に従事する。このうち、本省庁では予算や法律の執行及び政策立案などの事務的業務が大部分を占めるため、現場で動物を触るどころか見ることすらほとんど無い。執務中の服装も、見た目には普通の会社員と何ら変わりはない。
国家公務員としての獣医師
獣医職としての採用がある省は厚生労働省および農林水産省の2つ。獣医系技術職員はⅠ種相当の行政官(準キャリア)として採用される。幹部候補として、早い昇進が約束されている。
活躍の場所は本省、全国の空港や海港に設けられた「検疫所」や「動物検疫所」などである。なお検疫所は厚生労働省、動物検疫所は農林水産省の所管である。
- 「検疫所」は人の伝染病(感染症)の海外から日本国内への流入、及び日本国内から海外への流出を未然に防ぐ重要な機関であり、獣医師職員はこのうち輸入食品の確認検査の業務を担当している。
- 「動植物検疫所」では輸出入される生きた動物、食品以外の動植物製品に由来する伝染病・感染症の流出・流入を未然に防ぐ業務をしている。
地方公務員としての獣医師
「公務員の獣医師(行政獣医師)」の活躍の場は、公衆衛生行政(厚生労働省の法令を所管;保健所、食肉衛生検査所など)と農林水産行政(農林水産省の法令を所管;家畜保健衛生所など)に大別される。公務員全体として見た場合の職域は広くないため、国家公務員などと比較すると昇進は遅い。
採用時点でどちらかに属することとなり、それ以降これらの間で人事異動をする機会は多くはないが、業務の性質上人事異動を避けて通ることは出来ないため、どこへ異動してもすぐに異なる業務に従事できなければならない(例:本庁⇔出先機関(保健所、動物管理施設など))ため、常に高度な獣医学的知識と技術を要求される。また業務内容により根拠法令も多岐にわたることから、これら法令を含めた幅広い視野と知識並びに一般常識が同時に要求される。また、他分野を専門とした職員との連携も大切である。
なお、公立の動物園・水族館などを除いて動物の診療に従事することは非常に少ない。
- 「各都道府県庁」の畜産行政事務及び公衆衛生(と畜場や動物愛護法)行政事務を中心に、一部の県では林業の鳥獣保護及び狩猟許可行政事務や、水道行政事務(ネズミなどの駆除)に関わる者も少数ながら存在する。捕鯨が盛んだった時期は、近海捕鯨県の水産課(和歌山県や高知県)にも配属されていた。
- 「食肉衛生検査所」からと畜場へ出向き、食肉の検査を通じて食用の家畜の病態調査やO157・BSEなどの人獣共通感染症対策及び残留抗生物質対策に従事する者(と畜検査員)。
- 「保健所」において、食品衛生監視業務、環境衛生監視業務、薬事監視業務に従事する者(食品衛生監視員,環境衛生監視員および薬事監視員)。動物愛護施設が別にない場合は動物管理業務を含む。また、人獣共通感染症の専門家として感染症予防法に基づく業務にも従事する。
- 「動物愛護施設(自治体により名称は異なる)」において、狂犬病予防法や動物愛護法にもとづき保護された犬猫ほかの動物の管理・殺処分・譲渡、動物愛護普及啓発業務、及び動物取扱業や特定動物飼育施設の監視業務に従事する者(狂犬病予防員及び動物監視員)。なお化製場等に関する法律にもとづく届出は、通常保健所の所管であるが、動物愛護施設で取り扱う場合もある。
- 「衛生研究所(自治体により名称は異なる)」等の試験研究機関において、研究員として主に人の感染症や食品衛生に関する研究・検査業務に従事する者。
- 「家畜保健衛生所」において、BSEや口蹄疫ならびに高病原性鳥インフルエンザをはじめとする家畜の感染症など、生産性に悪影響を及ぼす各種疾病の検査・診断業務及び予防対策に従事する者(家畜防疫員)。
- 「動物園や水族館」にて展示動物の診療を行なう獣医師であっても、その経営母体が都道府県や市町村などの地方公共団体であれば、同様に地方公務員となる。
- 「畜産試験場」において、家畜の改良増殖に従事する者。
- 「林業試験場」において、狩猟の監視・許可や野生動物の保護に従事する者(特に、関東地方の林業試験場に多く配属されている)。
- 「水産試験場」において、魚類をはじめとする水産動物・植物の改良増殖に従事する者(2010年8月現在、水産試験場における獣医師は三重県水産研究所以外には配属されていない)。
地方公務員獣医師の不足問題
食の安心・安全や、BSE・鳥インフルエンザなどの動物由来感染症に世間の注目が集まるとともに公務員獣医師、特に地方公務員獣医師の仕事量は年々増加している。しかし肉体・精神ともに過酷な業務が多く、大半の都道府県における給与体系が事務職と同一であるなど待遇面の改善が遅れているため、新卒の獣医学生の多くが小動物臨床を志望する傾向が年々強まっている。そのため東京都・神奈川県・大阪府などを除いた多くの県が定員割れであり、さらには団塊世代の大量退職による深刻な公務員獣医師の不足が生じている。
民間企業の獣医師
民間企業のうち、乳業・食肉・家畜飼料等の関連企業では営業や品質管理、製薬関連企業及び独立行政法人を含む各種の研究施設では、研究や検査のほかに実験動物の生産や管理を行う獣医師も置かれる。また、慢性的な獣医師不足はこれら研究施設を悩ませている。
公務員の多くと同様に臨床業務に携わる事は無いが、テンプレート:要出典範囲
ただし公務員と違って、企業によっては必ずしも獣医師免許を必要としない場合もある。
関連法規
- 獣医師法
- 獣医療法
- 薬事法
- 毒物及び劇物取締法
- 覚せい剤取締法
- 麻薬及び向精神薬取締法
- 動物の愛護及び管理に関する法律
- 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律
- 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律
- 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律
- 家畜伝染病予防法
- 牛海綿状脳症対策特別措置法
- 牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法
- 飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律
- 家畜保健衛生所法
- 家畜改良増殖法
- 家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
- 狂犬病予防法
- と畜場法
- 食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律
- 化製場等に関する法律
- 食品安全基本法
- 食品衛生法
- 家畜商法
著名な獣医師・獣医学博士
日本
日本以外
- 獣医師 ピーター・ドハーティー
- オーストラリア クイーンズランド大学獣医学部卒業
- 病理学に専攻をかえイギリス エジンバラ大学で医学博士号を取得
- 1996年 ノーベル生理学・医学賞受賞(細胞性免疫制御の特異性)
- 獣医学博士 ワンガリ・マータイ
獣医師を題材にした作品
- 小説・エッセイ等
- コミック
関連項目
脚注
- ↑ 「獣医師」と呼称するのが正式であり、単に「獣医」と言うのは不正確である。