プライベート・ライアン
テンプレート:Infobox Film プライベート・ライアン(原題:Saving Private Ryan)は、アメリカで1998年に公開された戦争映画。第二次世界大戦時のノルマンディー上陸作戦を舞台に、1人の兵士の救出に向かう兵隊たちのストーリー。監督はスティーヴン・スピルバーグで主演はトム・ハンクス。救出されるライアン役をマット・デイモンが演じている。製作・配給はドリームワークスとパラマウント。原題の"Saving Private Ryan"とは、「ライアン2等兵の救出」という意味[1]。
アカデミー賞では11部門にノミネートされ、興行面でも全世界で大きな成功を収めた。
目次
キャッチコピー
- 「選ばれた精鋭は8人── 彼らに与えられた使命は 若きライアン2等兵を救出する事だった……」
- 「ノルマンディ大激戦の陰に 選ばれた8人の兵士達による たった一人の新兵を救出する作戦があった……」
ストーリー
テンプレート:不十分なあらすじ 1944年6月6日「史上最大の作戦」ノルマンディー上陸作戦。掩蔽壕の機関銃座から猛烈な銃撃を受けながらもオマハ・ビーチ上陸作戦を生き残った米軍第5軍第2レンジャー大隊C中隊隊長のミラー大尉(トム・ハンクス)の下に、米第7軍第101空挺師団第506パラシュート歩兵連隊第1大隊B中隊に所属するジェームス・ライアン2等兵(マット・デイモン)をノルマンディー戦線から探し出し無事帰国させよ、という任務が下った。ライアン家の4人兄弟はジェームス以外の3人の兄弟が戦死し、彼が唯一の生存者であった。息子たちの帰国を本国で待つ母親に息子全員の戦死の報せが届くのはあまりに残酷だ。たった一人だけでも生かし、母親の下に息子を返してやりたいという軍上層部の配慮だった。ミラーは兵士一人を救出するために部下の命を危険にさらす任務に乗り気ではなかったが、危険極まりない敵陣深く進入し、ジェームス・ライアンを救出するための捜索を始める。
製作
スティーヴン・スピルバーグ監督による『太陽の帝国』、『1941』、『シンドラーのリスト』以来4作目となる第二次世界大戦をテーマにした作品。スピルバーグは後に、第二次大戦でB-25の無線士として太平洋戦線に参加していた“父 アーノルド・スピルバーグに捧げた”、と語っている。本作はフィクションであるが、基になったナイランド兄弟のエピソードは存在する(詳細は後述)。約3時間にも及ぶ長編映画にもかかわらず、わずか60日間という凄まじい早撮りで作品を完成させた。
撮影に入る前、トム・ハンクスをはじめとした出演者たちは、リアルな演技をするために元海兵隊大尉のデイル・ダイの協力の下、ブートキャンプ同等の訓練を10日間受けさせられた。その間は教官がいきなり俳優達に向かって発砲(空砲)したり、当時の兵士達が持ち歩いていた道具と装備を全て背負わせて延々と行軍させたりと内容的にとても厳しいものであった。ライアン2等兵役のマット・デイモンはこの新兵訓練の参加メンバーから意図的に外された。これは10日間の過酷な訓練を通じて救出隊のメンバーにマット・デイモン=ライアン2等兵に対する反感を植えつけるためであった。俳優らは2週間にも及ぶ戦闘場面の撮影に酷使され、疲労の色も濃く、撮影当初の和んだ気分も消えて荒んでいた上に、現場の進行を知らない新進気鋭のデイモンが新兵よろしく撮影途中に現場到着した時には、当初の意図通り剣呑な雰囲気となり、それらとの相乗効果でリアルで緊迫した演技へと集約され、作品テーマの一部に組み込まれる。
ロケはイギリスで行われたが、冒頭の“Dデイ”におけるオマハ・ビーチ上陸作戦のシーンはアイルランドで撮影された。実際のオマハ・ビーチは歴史的に保護されているだけでなく、開発もされてしまっていたため、プロダクション・デザイナーのトム・サンダースは何週間もの調査を行ってロケ地を探し、よく似た浜をアイルランドで発見した。アイルランド陸軍はエキストラとして250名の兵士を貸し出した。現役の兵士であることから統制がとれており、大人数にもかかわらず撮影はスムーズに進行した。この兵士達の大半はメル・ギブソンの『ブレイブハート』にも出演していた。また、冒頭とラストのノルマンディー墓地は実際の場所で撮影されている。
リアルな映像をものにするため、撮影には三脚を使わずハンディカメラが多用された。敵の攻撃を受け手足が吹き飛ぶ、内臓が飛び出る、炎に包まれて爆死するなど、戦場の現実を生々しく描き、これまでになかった戦争映画として高い評価を受けた。特に、冒頭から始まり約20分間にも及ぶオマハ・ビーチにおけるノルマンディー上陸作戦を描く戦闘シーンは、映画史に残る20分間として知られる。
機関銃の銃声は本物の銃声を録音して使用している。現地リエナクター(歴史再現家)達の手によって、米軍やドイツ軍の武装親衛隊の軍装には実物や正確なレプリカが用いられ、兵器・車両は可能な限り実物が使用されている(ケッテンクラートなど)。後半に登場する2輌のティーガー戦車は、ソ連製戦車T-34-85を改造して作られた。また、自走砲のうち1輌は、ドイツ軍のマルダーIIIH型と似ているが、同じ足回りを持つスウェーデン軍のSav m/43である[2]。最後の戦闘シーンの締めくくりには、M4中戦車役のグリズリー巡航戦車もチラリと姿を見せている。これらの車両は『バンド・オブ・ブラザース』にも転用されている。
スピルバーグとトム・ハンクスはその後も、共同でテレビ向けのミニ・シリーズ『バンド・オブ・ブラザース』や『ザ・パシフィック』を制作し、第二次世界大戦についての興味を追求し続けている。
ナイランド兄弟
この映画のストーリーはナイランド兄弟の逸話が基になっている。
ライアン二等兵のモデルとなったフレデリック・ナイランド三等軍曹には、エドワード、プレストン、ロバートの三人の兄がいた。フレデリックはDデイ初日に、輸送機パイロットのミスで予定の降下地点からかなり離れた内陸地点に降下してしまい、なんとか原隊に復帰したところ、部隊の従軍牧師から3人の兄全員が戦死したと告げられた。国防省のソウル・サバイバー・ポリシー(巡洋艦「ジュノー」に勤務していたサリヴァン兄弟が、ジュノー撃沈によって全員死亡したことを受けて制定されたルール)に基づいてフレデリックは前線から引き抜かれ、本国に送還されることとなった。
フレデリック本人はそれほど帰国したかったわけではなかったらしく、しばらくは部隊と行動を共にしていたが、従軍牧師が書類を提出してしまったため、上層部に認可された後は帰国するしかなかった。帰国後、彼は終戦までニューヨーク州で憲兵として勤務していた。
映画と違い、フレデリックが原隊に自力で復帰した事からも分かるように、救出隊が組織されたと言う事実はない。また、母親のナイランド夫人は実際には未亡人ではなかったが、息子3人の死亡通知を同時に受け取ったと言うのは史実らしい。ちなみに長兄エドワードは実際には戦死しておらず、ビルマの日本軍捕虜収容所に収監されていたが英軍に救出され、その後、無事帰国し、母親との再会を果たしている。
キャスト
- ジョン・H・ミラー(John H. Miller):トム・ハンクス
- アメリカ陸軍大尉。第2レンジャー大隊C中隊隊長。地形を活かした戦術を巧みに考案する優秀な士官。着任する前の経歴が全く不明で、中隊内で大きな謎となっている。
- マイケル・ホーヴァス(Michael Horvath):トム・サイズモア
- 一等軍曹。ミネアポリス出身。愛称マイク。ミラーの右腕的存在で、部下には厳しい。やや肥満体で走るのが遅い。北アフリカ以来の戦歴を持つ。「Horvath」は、ハンガリー系に多いラストネーム。小説版では「ホーヴァート」と表記されている。
- リチャード・ライベン(Richard Reiben):エドワード・バーンズ
- 一等兵。自動小銃手。ブルックリン出身で、口が悪く、直情的で気が短い。救出隊の中で最もライアンを嫌っていた。小説版では「レイベン」と表記されている。
- ダニエル・ジャクソン(Daniel Jackson):バリー・ペッパー
- 二等兵。卓越した技術を持つ狙撃手。信心深く、射撃の際には必ず祈りを口にする。左利き。
- スタンリー・メリッシュ(Stanley "Fish" Mellish):アダム・ゴールドバーグ
- 二等兵。小銃手。ヨンカーズ出身のユダヤ系で、その出身からドイツ軍を嫌っている。口髭が特徴。
- エイドリアン・カパーゾ(Adrian Caparzo):ヴィン・ディーゼル
- 二等兵。小銃手。イタリア系の大柄な人物。シカゴ出身。人情味溢れる性格。
- アーウィン・ウェイド(Irwin Wade):ジョバンニ・リビシ
- 四等特技兵。衛生兵。サンディエゴ出身。ミラーとホーヴァスとは最も付き合いが長い。隊では数少ない人当たりの良い青年。エンドクレジットでは「T/4 Medic Wade」と表記されており、「T/4」は「四等特技兵」の略で、「Medic」は「衛生兵」の意である。四等特技兵は、軍曹より下、伍長より上に相当するアメリカ陸軍の階級である[3]。
- ティモシー・E・アパム(Timothy E. Upham):ジェレミー・デイビス
- 伍長(五等特技兵)。ボストン出身。救出隊の中では最年少。もともと第2レンジャー大隊の一員ではなく第29歩兵師団所属。地図作成や情報処理を担当していた。ドイツ語とフランス語が話せるため、通訳としてミラーの分隊に加わる。実戦経験は無く、敵兵であっても殺害することを極力避ける傾向にある。エンドクレジットでは「Corporal Upham(アパム伍長)」と表記されているが、「特技兵(Technician)」を意味する「T」の文字が入った五等特技兵(T/5)の階級章を付けているので、正確には伍長より階級は下になる[4]。
- ジェームズ・フランシス・ライアン(James Francis Ryan):マット・デイモン(青年時)、ハリソン・ヤング(壮年時)
- 二等兵→一等兵(?)[5]。第101空挺師団第506パラシュート歩兵連隊第1大隊所属[6][7]。アイオワ州ペイトンの農家出身で、4人兄弟の末っ子。3人の兄が全員死亡したため本国へ送還されることになる。
- WWII Ranger Patch.svg
レンジャー大隊
(WWII当時) - US 101st Airborne Division patch.svg
- 29th ID SSI.svg
- 82nd airborne.png
日本語吹替
役名 | |||
---|---|---|---|
俳優 | ソフト版 | テレビ朝日版 | |
ジョン・H・ミラー大尉 | トム・ハンクス | 江原正士 | 山寺宏一 |
マイケル・ホーヴァス一等軍曹 | トム・サイズモア | 塩屋浩三 | 石田圭祐 |
リチャード・ライベン一等兵 | エドワード・バーンズ | 後藤敦 | 山路和弘 |
ダニエル・ブーン・ジャクソン二等兵 | バリー・ペッパー | 堀内賢雄 | 井上倫宏 |
スタンリー・メリッシュ二等兵 | アダム・ゴールドバーグ | 樫井笙人 | 大滝寛 |
エイドリアン・カパーゾ二等兵 | ヴィン・ディーゼル | 山野井仁 | 安井邦彦 |
アーウィン・ウェイド衛生兵 | ジョバンニ・リビシ | 家中宏 | 内田夕夜 |
ティモシー・E・アパム伍長 | ジェレミー・デイビス | 二又一成 | 小森創介 |
ジェームズ・フランシス・ライアン二等兵 | マット・デイモン | 平田広明 | 草尾毅 |
フレッド・ハミル大佐 | テッド・ダンソン | 谷口節 | |
ウォルター・アンダーソン中佐 | デニス・ファリーナ | 有本欽隆 | |
ウィリアム・ヒル軍曹 | ポール・ジアマッティ | 宝亀克寿 | |
ジョージ・マーシャル将軍 | ハーヴ・プレスネル | 川久保潔 | 加藤精三 |
スチームボート・ウィリー | ジョーグ・スタドラー | 松本大 | |
フレッド・ヘンダーソン伍長 | マックス・マーティーニ | 仲野裕 | |
トインビー | ディラン・ブルーノ | 永井誠 | |
トラスク | イアン・ポーター | 古田信幸 | |
ライス | ゲリー・セフトン | 中田和宏 | |
ジェームズ・フレデリック・ライアン | ネイサン・フィリオン | 成田剣 | |
デウィンド中尉 | リーランド・オーサー | 中博史 | |
空挺兵オリバー | デヴィッド・ヴェーグ | 大川透 | |
空挺兵マンデルソン | ライアン・ハースト | 桜井敏治 | |
空挺兵ジョー | ニック・ブルックス | 浜田賢二 | |
大尉 | デヴィッド・ウォール | 宝亀克寿 | |
マック大佐 | ブライアン・クランストン | 仲野裕 | |
マーガレット・ライアン | アマンダ・ボクサー | 定岡小百合 | |
年老いたライアン | ハリソン・ヤング | 中博史 | 稲垣隆史 |
翻訳 | rowspan=3 テンプレート:N/a | 岸田恵子 | 平田勝茂 |
演出 | 伊達康将 | 福永莞爾 | |
監修 | 田岡俊次 |
- テレビ朝日版 - 初放送2002年2月10日 『日曜洋画劇場』
スタッフ
- 監督:スティーヴン・スピルバーグ
- 脚本:ロバート・ロダット、フランク・ダラボン
- 製作:イアン・ブライス、マーク・ゴードン、ゲイリー・レヴィンソン、スティーヴン・スピルバーグ
- 撮影監督:ヤヌス・カミンスキー
- プロダクションデザイナー:トーマス・E・サンダース
- 編集:マイケル・カーン
- 衣裳デザイン:ジョアンナ・ジョンストン
- 音楽:ジョン・ウィリアムズ
- 日本語字幕:戸田奈津子
テレビ放映
冒頭の上陸作戦において、四肢が吹き飛ぶ、内臓がはじけ飛ぶ、被弾により内臓がはみ出した兵士が「ママー!」と叫ぶ、片手を無くした兵士が下を向いてうろうろと歩き自分の手を見つけて拾うといった描写があるため、テレビ放送時には該当部分はカットされると予想されていたが、テレビ朝日が『日曜洋画劇場』枠で地上波放送した際には、冒頭に刺激的な表現があることと児童の視聴への注意を呼びかけるテロップを表示し、カットされることなく放送された。
受賞
小説
映画脚本を基にマックス・A・コリンズによって小説化され、伏見威蕃の翻訳で新潮社より出版された。物語の大筋はほぼ同じであるが、細かな部分が映画とは異なる。映画ではほとんど明かされることのなかったミラー大尉の心情なども描写されている。
映画と小説の差異
- ミラー大尉は初めからM1トンプソンを防水用のビニールに入れて携行している。しかし小説版ではミラー大尉は上陸前はM1ガーランドを携行しているが上陸の途中に失ってしまい、上陸後にホーヴァス軍曹からM1トンプソンを渡される。
- ラメルに進攻してくるドイツ軍の戦車が、小説ではケーニッヒスティーガー[8]とパンター[9]である。
誤訳・設定の誤り
- P.98では「101の二等兵だが・・・三人の兄が死に、末の弟がうちに帰る切符を手にした」と、二等兵(プライベート)、P.264で捜索隊に発見される時の自己紹介の際に(ミラー)「おれたちを救ってくれてありがとう。ところで名前は?」、(ライアン)「ライアン上等兵ですが・・・大尉?(略)」とライアン上等兵と名乗っている。「上等兵」と訳されることの多い「プライベート・ファーストクラス(Private First Class)」は、一等兵の上の階級である。
- P.208「護送しているのは、101の青と赤の肩章をつけた空挺隊員たちだった。」とあるが、第101空挺師団の肩章は「スクリーミングイーグル」で、青と赤の肩章の空挺部隊は第82空挺師団である。
- ケーニッヒスティーガーとパンターのエンジン音の描写を「ディーゼル・エンジンの太く低い響き」(P.296他)としているが、両戦車ともにガソリンエンジンである。
- P.230の訳注でFG42をMG42の空挺仕様としているが、実際には全く別の銃である。
脚注
参考文献
外部リンク
テンプレート:スティーヴン・スピルバーグ監督作品 テンプレート:ゴールデングローブ賞 作品賞 (ドラマ部門) 1981-2000テンプレート:Link GA
テンプレート:Link GA- ↑ 「プライベート」(Private)とは、アメリカ陸軍の階級名称で、日本語表記では「二等兵」および「一等兵」と訳される。袖に階級章があれば「一等兵」で、無ければ「二等兵」と訳すが文献により異なる。英語表記では「二等兵」・「一等兵」ともに「プライベート」である。また、ジェームス・ライアンの袖の階級章は、縫い付けたものではなく黒いインクで染めているので、パラシュート降下前後に昇進したものと考えられる(参考文献 - 田中昭成『ウォームービー・ガイド』P.422 - 423)。よって発見時の階級は、"PV2"と略称される「プライベート」である。DVDのパッケージの解説、およびallcinema・キネマ旬報では「ジェームズ・ライアン2等兵」としている
- ↑ 劇中ではこの“模造マルダーIII”を「パンサー戦車2輌」と呼んでいる。日本語吹き替えのセリフではそのまま訳されているが、字幕では劇中にあわせて「自走砲」と訳されている
- ↑ 参考文献 - 田中昭成『ウォームービー・ガイド』P.424 - 426
- ↑ 参考文献 - 田中昭成『ウォームービー・ガイド』P.424 - 426
- ↑ 袖の階級章が黒インクで書かれている。よって作戦直前、もしくはパラシュート降下後に昇級したと推察できる。(参考文献 - 田中昭成『ウォームービー・ガイド』P.422 - 423)
- ↑ 第506パラシュート歩兵連隊 - ヘルメットマーキングがスペードであることからも確認できる。小貝哲夫 『第二次大戦から現代まで 米軍軍装入門』P.174「第101空挺師団のヘルメットマーキング」
- ↑ 田中昭成『ウォームービー・ガイド』P.401 - 403
- ↑ ケーニッヒスティーガー - P.298に「重量六十八・六トンという巨大なケーニッヒスティーガー重戦車が、轟音と金属のきしむ音とともに、ぬっと現われた。」とある。ティーガーIの重量は57トンなので、明らかにケーニッヒスティーガー(ティーガーII)である
- ↑ パンター戦車 - P.299「その二輌のうしろを、重量四十五トンのより小さなパンター戦車がガタガタと走っていた。」と車輌重量がV号戦車パンターと一致する