途中下車
途中下車(とちゅうげしゃ)とは、乗車券の券面に表示された発着区間内の途中駅で前途区間が有効のまま下車して出場すること[1]。
目次
概要
有人駅においては、改札口を出ることで出場となるが、無人駅および有人駅の無人時間帯では、列車から下車しホームに降りた時点で出場となる。
使用する乗車券の区間内に途中下車が可能な駅があるかどうかは鉄道事業者や乗車券によって異なる。途中下車できない駅で下車した場合、乗車券は前途無効となり回収される。この場合は「途中駅での下車」ではあっても、運送約款に定められた「途中下車」ではない。途中下車が可能な駅がない乗車券に記載されている文言は「下車前途無効」であり、「途中下車前途無効」ではない。また、改札口を出ることなく列車を乗り換えるのは「途中駅での下車」ではなく、途中下車でもない。
遠距離逓減制を採用している鉄道会社では、乗車区間ごとに分けて乗車券を購入するのではなく、最終目的地までの乗車券を購入して、途中下車制度を利用したほうが安価になるケースがほとんどであるが、一部例外もある(特にJRにおいては、分割運賃の方が安いケースがまれに見られる)。
なお、日本以外の国や地域では、乗車する列車を指定してその列車のみ有効の乗車券を発行するなど、このような制度が存在しない例も多い。
国鉄・JRの途中下車
鉄道運輸規程13条は、「乗車券ハ其ノ通用区間中何レノ部分ニ付イテモ其ノ効力ヲ有ス但シ特種ノ乗車券又ハ列車ニ付鉄道ガ別段ノ定ヲ為シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ」と定め、権利の分割行使を認めている。JR ではこれを受けて、旅客営業規則(以下、旅規とする)156条において、原則として途中下車を可とし、「別段ノ定」として、以下の条件に該当する乗車券について途中下車を認めない駅を定めている。
- 全区間の営業キロが片道100キロメートルまでの区間の普通乗車券を使用する場合、その区間内の駅(ただし、列車の接続関係等の理由により、旅客が下車を希望する場合で、JRが指定した接続駅を除く)
- 大都市近郊区間(新潟・東京・仙台・大阪・福岡近郊区間)内の駅相互発着(区間外に跨る場合を除く)の普通乗車券を使用する場合、その区間内の駅
- 特定都区市内・東京山手線内発着の乗車券で、券面に表示された特定都区市内又は東京山手線内にある駅
- 回数乗車券を使用する場合、その区間内の駅
JRの乗車券は使用開始後に有効期限が過ぎても券面に示された目的地の駅まで使用することができるが(継続乗車という)、有効期限が過ぎたものは途中下車できない(旅規155条)。
上記に示した場合を除き、乗車券に示された経路内であれば逆戻りをしない限り経路内の任意の駅で何度でも途中下車できる。
特急券は基本的に一列車限り有効で、新幹線など複数列車を乗り継げる特例が存在する場合でも出場すると前途無効となるため、特急券については途中下車の概念は成立しない。
Suicaを始めとするIC乗車券やその他磁気式ストアードフェアシステム乗車券の場合は、入場時は出場駅や利用路線が未確定のため、途中下車の概念がない(定期券を除く)。
また、いわゆる割引切符(特別企画乗車券)では、フリー乗車券の乗降自由なエリアを除き、途中下車が禁止あるいは指定駅のみに制約されているものが多い。途中下車が不可能な駅で下車した場合は、前途を放棄したものとして乗車券が前途無効となり回収されるか、乗車券の使用が認められず改めて正規の運賃・料金を支払うかのどちらかである。
旅規165条では、これらの途中下車を認めない駅(乗車券の発着区間内の全駅である場合は券面に「下車前途無効」、それ以外の場合は「○○市内では途中下車できません」などと表示)で下車した場合は、乗車券を前途無効として回収すると定めている。ただし、旅規157条3項、160条3項、旅客営業取扱基準規程148条2項などで、「大都市近郊区間」駅相互発着の乗車券(途中下車不可)で、「東京付近の特定区間」駅発又は着の乗車券(特定区間内の迂回乗車可)を用いて迂回乗車中の場合に、途中駅で下車したときは、「区間変更」として取り扱うことが定められている(券面額と比較し、不足分を精算する。ただし、多かった場合の払い戻しはない)。これらのケースで前途無効とすると、実際の乗車区間の運賃よりも安価に乗車できることになるので、実乗車区間の運賃を徴収するための措置である。また、特定都区市内・東京山手線内発の乗車券を使用し、出発地と同じ特定都区市内・東京山手線内の別の駅で下車した場合、出発駅からその下車した駅までの運賃を別に支払えば乗車券は無効にならず回収されない(旅規166条)。
駅の構造上、改札を出ないと乗り継げない場合の乗り換えによる出場は、途中下車にあたらない。九州旅客鉄道(JR九州)の折尾駅・新鳥栖駅・筑後船小屋駅・新八代駅、東日本旅客鉄道(JR東日本)の燕三条駅・佐久平駅・古川駅・新花巻駅・八戸駅・浜川崎駅および東海旅客鉄道(JR東海)の三河安城駅が該当する。大阪市内発着の乗車券に限っては西日本旅客鉄道(JR西日本)大阪駅⇔北新地駅の乗り換え入出場も認めている。かつては石巻駅・宇美駅・尼崎駅・宮島口駅・武蔵小杉駅もあったが石巻駅は駅舎統合、宇美駅は勝田線廃止、尼崎駅は福知山線尼崎港支線廃止、宮島口駅は宮島航路の経営分離、武蔵小杉駅は連絡通路の完成により消滅している。
変遷
国鉄において初めて途中下車が認められたのは1889年7月、東海道本線の全通に際してである。50マイル(80キロ)以上の乗車券を所持する旅客は、途中駅で自由に下車して再度乗車することを認めた。当時は列車の速度が遅いことや、車内の設備が貧弱でもあったため、夜に主要駅で下車して宿に宿泊し、翌朝出発する旅行形態が多かったらしい。その後1890年11月途中下車を制度化し、指定駅のみで途中下車できる制度に改めた。当初、全国で17駅を指定しその後拡大した。1916年5月には、指定駅制度を改め、乗車距離に応じて途中下車できる回数を2回から5回までに制限する方式を採用した。この回数制限は1932年8月に撤廃され、今日に至っている。回数制限の撤廃当時は、東京と大阪の電車区間(現行の大都市近郊区間の前身)相互発着の乗車券以外は距離の制限なく途中下車が可能であった。しかし、戦後の1958年10月に21キロ以上の制限が加えられ、1966年3月の運賃改定で31キロ、1969年11月に51キロと段階的に制限が引き上げられた後、1980年4月の運賃改定時に101キロ以上になった。
民営化後は途中下車の制度自体に関する変更はないものの、前述のように乗車区間の営業キロにかかわらず大都市近郊区間内のみを経由する乗車券での途中下車はできないため、東京・大阪近郊区間の拡大、新潟・仙台近郊区間の導入により、営業キロ101キロ以上でも大都市近郊区間に含まれるようになり途中下車できなくなった区間もある。これにより、東京都区内からいわき駅、松本駅のように、最短経路の営業キロが200キロを超える区間でも途中下車ができない事例が出ている。
JR以外の鉄道事業者の途中下車
私鉄・公営などのJR以外の鉄道事業者では、普通乗車券での途中下車を認めていない事業者が多い。途中下車を認めている私鉄においては、乗車駅からの運賃が券面に示された運賃と同一となる駅では途中下車できない場合が多い。
現在も実施している事業者
- 会津鉄道
- 湯野上温泉駅および塔のへつり駅でのみ、特例として途中下車が認められている[2]。
- 野岩鉄道経由東武鉄道との3社連絡の乗車券で営業キロが100kmを超える場合、有効日数が2日間になるので東武鉄道・野岩鉄道含めて乗車駅から同一運賃駅を除き全駅で途中下車が可能になる[3]。
- JR連絡乗車券のJRの距離が101km以上の場合も同様に途中下車が可能になる。
- 青い森鉄道
- 営業キロが100kmを超える普通乗車券で途中下車が可能である[4]。この取り扱いは営業距離が100kmを超えた2010年12月4日より適用された。
- 小田急電鉄
- 新宿駅及び登戸駅並びに新松田駅または小田原駅乗換のJR連絡乗車券で、JRと小田急の合算距離が101km以上の場合、途中下車が出来る。ただし、別々に発券した場合とJR東日本の東京近郊区間発着の場合は途中下車不可。
- 伊豆急行
- 24km以上であり、同一運賃の駅でない乗車券の場合は途中下車ができる。
- JR連絡乗車券のJRの距離が101km以上かつ、大都市近郊区間外(新幹線経由を除く)発着の場合は伊豆急線の乗車距離が24km以下でも途中下車が可能になる。
- 近畿日本鉄道 (近鉄)
- 生駒鋼索線の宝山寺駅のみ、途中下車ができる。なお、生駒鋼索線と他路線との通しの連絡乗車券は現在は発売されていない。
- かつて他路線にも途中下車制度があったが、Jスルー及びスルッとKANSAIの導入に際して迂回乗車を認めることになったことに伴い、2001年2月に途中下車制度を廃止した[5]。廃止以前は、片道100kmを超える乗車券では経路上の任意の駅で、片道100km以下の乗車券では指定駅(大阪上本町駅、大和八木駅など、終着駅以外の近鉄百貨店の最寄り駅が指定されていた)のみで、途中下車が認められており、自動改札機も途中下車に対応していた。ただし、最終下車駅までの運賃と同額の運賃の駅では途中下車できず、その駅で乗車券は回収された。
- 伊予鉄道
- 松山市駅に限り途中下車が認められている[6]。ICい〜カード利用の際も同様に途中下車が可能である。自動改札機を利用すると磁気券・ICい〜カードともに途中下車扱いとはならない。途中下車をする場合は窓口の係員にその旨を伝え、途中下車印を押してもらう(ICカードの場合は途中下車処理をしてもらう)。
- 高松琴平電気鉄道
- 指定した駅で、その駅が乗車券の運賃と同一運賃でない場合は途中下車できる[7]。IruCaの導入や無人化される指定駅が出るといった環境の変化があるものの、現在のところ廃止には至っていない。なお、IruCaでは途中下車は適用されない[8]。
- 西日本鉄道
- 17キロメートルを超え、かつ乗車券の運賃と同一運賃の駅でない場合は途中下車できる[9]。ただし自動改札機を利用しての途中下車はできない。途中下車をする場合は有人通路にて窓口の係員にその旨を伝え、途中下車印を押してもらう。
- 乗車カード(nimoca・相互利用IC)で入場した場合、途中下車は適用されない[9]。カードを使って引き換えた乗車券は現金で購入した乗車券と同様に途中下車が適用される。
現在は実施していない事業者
- 北海道ちほく高原鉄道(2006年4月廃止)
- 分離前のJR時代同様、100キロを超える乗車券で途中下車可能だった。
- 箱根登山鉄道
- 長らく温泉めぐりの客の便を考慮して片道乗車券でも2日間有効とし途中下車可能だったが、2002年4月より規則を変更し、片道は当日のみ有効で、途中の駅で下車した場合は前途無効となった。
- 名古屋鉄道 (名鉄)
- 1970年頃まで途中下車が可能であった。
- 京阪電気鉄道
- 以前、高松琴平電気鉄道と同様に指定した駅での途中下車を認める制度があったが、回数券の磁気化に伴い1995年11月に廃止された[10]。
- 阪急電鉄
- 1970年代後半まで宝塚駅に限り途中下車を認めていた。
近江鉄道や島原鉄道のように、途中下車が無制限に可能な事業者もある。ケーブルカーで中間駅を持つ事業者の中にも、比叡山鉄道のように途中下車が無制限に可能なところもある。
なお、JRとの連絡運輸を行っており、両者の営業キロ合計が101キロ以上で有効が2日以上となる連絡乗車券についてのみ、社線内の駅で途中下車が可能になる場合がある。連絡運輸規則を準用し途中下車を可能としている場合が多いが、不可とする事業者もあり、詳細は事業者ごとに確認が必要である。一例として、同条件のJR連絡乗車券があるアルピコ交通は、社線内駅については途中下車不可である。
JRと同様、一度改札を出ないと乗り換えができない駅で乗り換えのために出場する場合は、途中下車とはみなされない。東京地下鉄(東京メトロ)上野駅・東京都交通局(都営地下鉄)蔵前駅他、京成電鉄の京成高砂駅(京成本線⇔京成金町線)、近畿日本鉄道の近鉄四日市駅(近鉄名古屋線・近鉄湯の山線⇔近鉄内部線)及び田原本駅・西田原本駅、大阪市交通局(大阪市営地下鉄)の東梅田駅・梅田駅・西梅田駅、福岡市交通局(福岡市地下鉄)の天神駅・天神南駅などがこれに該当する。ただし、自動改札やストアードフェアシステムの普及に伴い、出場時間に30分などの時間制限が設けられていることが多い。時間切れになると乗車券は前途無効となり、ストアードフェアシステムカードはその駅で運賃計算が打ち切られる。
定期券による途中乗降
定期乗車券については、日本ではすべての鉄道事業者が区間内の途中乗降を認めている。日本以外の諸国では、「定期券は決められた区間を決められた目的で乗車するために運賃を割引いて発行するものであって、それ以外の目的で乗車する場合は、改めて切符を買い直す必要がある」という趣旨から、定期乗車券で途中乗降を認めない例もドイツ鉄道 (DB) などにあるが、日本においては、名古屋市交通局(名古屋市営地下鉄)がかつて通学定期乗車券についてこれを認めていなかったのが唯一の例とされる。
1957年に制定された名古屋市高速電車乗車料条例施行規程には、「指定した通用区間内における途中乗降は通学定期を除き、制限しないものとする」という条項が存在した。通学定期券については「途中乗降無効」という取扱をし、区間内の途中下車及び途中乗車を認めず、定期券による乗り越しは「別途乗車」扱いで乗車駅からの運賃を徴収していた。この規制は1973年に撤廃された。
脚注
関連項目
外部リンク
- きっぷに関するご案内 途中下車 - JR東日本