温度
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テンプレート:物理量 温度(おんど)とは、寒暖の度合いを数量で表したもの。具体的には物質を構成する分子運動のエネルギーの統計値。このため温度には下限が存在し、分子運動が止まっている状態が温度0K(絶対零度)である。ただし、分子運動が0となるのは古典的な極限としてであり、実際は、量子力学における不確定性原理から、絶対零度であっても、分子運動は0にならない(止まっていない)。
温度はそれを構成する粒子の運動であるから、化学反応に直結し、それを元にするあらゆる現象における強い影響力を持つ。生物にはそれぞれ至適温度があり、ごく狭い範囲の温度の元でしか生存できない。なお、日常では単に温度といった場合、往々にして気温のことを指す。
目次
定義
歴史上様々な温度の定義があったが、現在の温度の定義は、平衡状態における分子の運動エネルギーを、エントロピーという統計値で微分したものである。しかし、真の意味での平衡状態は自然界では少ない。必要に迫られて非平衡状態、計測上の便宜的な定義もなされている。現時点で、非平衡状態での温度の定義は、本来の意味で定義できないこともあり、途上段階である。
また温度は、非常に計りにくい物理量の一つである。これは、温度とは統計値であるため、分子数が少ない場合(低密度状態、または非常に狭い範囲を対象にする場合)には、統計的に値が安定せず、意味が無くなるという問題である。もう一つは、非常に大量の数の分子の運動状態を一個一個観測することは現在の技術では不可能であり、代わりに間接計測を行っていることに起因している。計測の方法として、計測対象となる物体から放射される電磁波を計測する方法や、長い時間をかけて計測プローブを計測対象となる物体に接触させ熱平衡状態にさせてから計る方法がある。どちらの方法も、何らかの計測上の問題を抱えている。
しかし、近年の高速温度測定装置では、対象物の大きさ数十ミクロン、測定時間は数ミリ秒程度で測定可能となっており、物理現象を捕らえる一つの手段としての有効性が向上してきている。
温度の物理学史
物体の寒暖の度合いを定量的に表そうという試みを初めて行ったのはガリレオ・ガリレイと考えられている(異説もある)。 ガリレイは空気の熱膨張の性質を利用して物体の温度を計測できる装置を作成した。 すなわち温度計である。 ガリレイの作った温度計は気圧などの影響を受けてしまうために実際に温度を定量的に表すには及ばなかったが、このように物質の温度による性質の変化を利用して、寒暖の度合いを定量的に表そうという試みは以後も続けられた。 初めて目盛付き温度計により数値によって温度を表現しようとしたのはオーレ・レーマーである。 レーマーは水の沸点を60度、水の融点を7.5度とする温度目盛を作成した。 温度目盛を作成するにはこのように任意の2点の定義定点が必要となる。 多くの独自の温度目盛りが作成されたが、日常的にはアンデルス・セルシウスによって作成された摂氏温度目盛、ガブリエル・ファーレンハイトによって作成された華氏温度目盛が主に使用されている。
かつては温度と熱というのはほとんど同じ概念を示していた。 温度と熱の違いにはじめて気が付いたのはジョゼフ・ブラックと考えられている。 彼は氷が融解している最中は熱を吸収しても温度が変化しないこと(潜熱)を発見した。 また温度の違う同質量の水銀と水を混ぜる実験を行い、それぞれ水と水銀の温度変化にある定数を掛けた値が常に等しくなることを発見した。 すなわち熱容量の概念を発見した。熱の移動量=熱容量×温度変化となる。 これらの実験により温度と熱が別物であることが確立した。
その後、19世紀に入ると効率の良い熱機関の開発の要請から熱力学の構築が進んでいった。 ニコラ・レオナール・サディ・カルノーは熱機関の効率には熱源と冷媒の間の温度差によって決まる上限があることを発見した。 このことから熱力学第二法則についての研究が進んでいった。 熱力学第二法則によれば外部から仕事がなされない限り、熱エネルギーは温度の高い物体から温度の低い物体にしか移動しない。 すなわち温度とは熱エネルギーが自然に移動していく方向を示す指標であるといえる。
ウィリアム・トムソンはカルノーサイクルで熱源と冷媒に出入りする熱エネルギーから温度目盛が構築できることを示した。 これを熱力学温度目盛という。 熱力学温度においては1つの定義定点はカルノーサイクルの効率が1となる温度であり、これは摂氏温度目盛で表せば-273.15℃である。 熱力学第二法則によれば、この温度に到達するには無限の仕事が必要となり、それより低い温度は存在しない。そのため、この温度を絶対零度ともいう。熱力学温度目盛ではこの絶対零度を原点(0 K)としている。 温度の下限の存在はトムソン以前にシャルルの法則から、あらゆる気体の体積が0となる温度として考えられていた。
原子、分子レベルにおける温度の意味については、ジェームズ・クラーク・マクスウェルの気体分子運動論によって初めて明らかとなった。 気体分子の速度の分布はマクスウェル分布に従い、この分布関数の形状は温度に依存している。 特に気体分子の平均運動エネルギーは3/2 kT(k:ボルツマン定数、T:熱力学温度)となり、温度に比例する。 すなわち温度は分子運動の激しさを表す数値でもある。 このためプラズマ中のイオンや電子の持つ平均運動エネルギーを温度で表現することがある。 この時は通常平均運動エネルギー = kTとなる温度Tによって表現する。
ルートヴィッヒ・ボルツマンはこのマクスウェルの考え方を発展させ統計熱力学を構築した。 統計熱力学では、あらゆる形態のエネルギーにこの考え方が拡張されている。 温度が高いほど高いエネルギーを持つ原子や分子の割合が大きくなり、原子や分子の持つ平均エネルギーの大きさも増加する。 このように統計熱力学において温度は分子のエネルギー分布の仕方を表す指標である。
量子論が確立してくると、古典的な統計熱力学は量子統計の近似であることが明らかとなった。 古典論においては0 Kにおいてあらゆる粒子は運動を停止した最低エネルギー状態をとることになるが、量子論においては粒子は0 Kにおいても零点エネルギーを持ち静止状態とはならない。 また、ボース粒子のエネルギー分布はボース・アインシュタイン分布、フェルミ粒子のエネルギー分布はフェルミ・ディラック分布となる。 フェルミ粒子においてはパウリの排他原理により、絶対零度においても古典論では数万 Kにも相当するような大きなエネルギーを持つ粒子が存在し、温度を古典論のように単純に粒子のエネルギーの大きさの目安とすることはできない。 しかし、温度が分子のエネルギー分布の仕方を表す指標であることは古典統計と変わっていない。
温度の単位と種類
国際温度目盛(ITS-90)
国際単位系においては温度には熱力学温度を使用し、単位としてケルビンを使用することになっている。しかし熱力学温度は理想化された系の性質から定義される温度であるから、実際に計測することは容易ではない。そこで熱力学温度と実用上一致し、測定しやすい温度として国際温度目盛(こくさいおんどめもり、ITS、International Temperature Scale)が定められている。現在使用されている温度目盛は1990年に定められたものでITS-90と呼ばれている。国際温度目盛はある領域の温度を測定する計測方法とそれを校正するための定義定点からなる。
計測方法
- 0.65 K - 5.0 K : ヘリウムの蒸気圧と温度の関係式によって定義される。
- 3.0 K - 24.5561 K : ヘリウム3またはヘリウム4の定積気体温度計によって計測される。
- 13.8033 K - 1,234.93 K : 白金抵抗体の273.16 Kでの抵抗値との抵抗比によって計測される。
- 1,234.93 K : 放射温度計のある波長での放射密度によって計測される。
定義定点
- ヘリウムの蒸気圧点:3 K - 5 Kでの値を校正に使用
- 平衡水素の三重点:13.8033 K
- 平衡水素の蒸気圧点:17.035 Kと20.27 K付近の値が定義されている
- ヘリウム気体温度計の示度:17.0 Kと20.3 K付近の値を校正に使用
- ネオンの三重点:24.5561 K
- 酸素の三重点:54.3584 K
- アルゴンの三重点:83.8058 K
- 水銀の三重点:234.3156 K
- 水の三重点:273.16 K (熱力学温度目盛のもう一つの定義定点)
- ガリウムの標準気圧下(10,1325 Pa)の融解点:302.9146 K
- インジウムの標準気圧下の凝固点:429.7485 K
- スズの標準気圧下の凝固点:505.078 K
- 亜鉛の標準気圧下の凝固点:692.677 K
- アルミニウムの標準気圧下の凝固点:933.473 K
- 銀の標準気圧下の凝固点:1,234.93 K
- 金の標準気圧下の凝固点:1,337.33 K
- 銅の標準気圧下の凝固点:1,357.77 K
温度測定法
測定方法には物体に直接触れて測る接触式と、触らずに測る非接触式がある。
接触式は、膨張式と電気式、計数式等があり、膨張式は、気圧温度計や蒸気圧温度計など温度変化による気体の圧力変化を測るものや、水銀温度計のような液体の長さを測るもの、固体の変形を測るバイメタル式がある。 電気式は、温度によって抵抗率が変わる原理を利用した白金抵抗温度計や熱電対など金属線を用いるもの、サーミスタやダイオードなど半導体を用いるものがある。 温度変化を共振周波数変化として計測できる水晶温度計は計数式に分類され、この他にもサーモペイントや液晶も接触して温度変化を測定できる。
非接触式は、検出波長によって2種類に分かれる。ひとつは、約2µm - 5µmの短波長の赤外線を検出波長帯とする量子型。もうひとつは、約8 - 14µmの長波長の赤外線を検出波長帯とする熱型。それぞれの検出波長帯は、大気による赤外線の減衰が小さい波長帯にあたり、量子型は検出素子にInSb(インジウムアンチモン)、InAs(インジウムヒ素)などを使い、熱型はマイクロボロメータを使っている。 非接触式の温度計としては代表的なものとして、赤外線サーモグラフィがある。
温度の影響
温度は化学反応の速度に大きな影響を持ち、大まかには10℃温度が上昇すると反応速度は倍増するとも言う。
したがって、それを元にするあらゆる現象、分野で言えば化学と生物学の現象に関して、温度は強い影響を持つ。この分野の観察や実験においては、もっとも基礎的なデータの一つとしてそれを記録する必要があり、あるいは温度を調整することが実験を成立させる重要な条件となる。
また、生物や医学関連で組織や検体をとりあえず冷蔵するのもこれに基づき、温度を下げることでその内部での化学変化の速度を抑える意味がある。
体感としての温度
テンプレート:See also 我々には温度を感覚として受け取る能力がある。一般には気温の上下を寒暖という。気温が常温より高い場合には暖かい、さらに高い場合には暑いという。常温より低い場合、寒いが使われる。また、接触した対象の温度に関しては高温を熱い、低温を冷たいと表現する。また、ヒトが感じる温度感覚は、必ずしも温度そのものだけでは決まらず、風や湿度にも影響を受ける。これらを勘案したものを体感温度という。
温度差
- 「温度差」(おんどさ):文字通り二つの物質における温度の違いのその量の差であるが、1990年代初め頃から日本では一つの物事や案件に対して複数の関係者間での熱意、考え方や思惑などの違い、価値観の違いの比喩として「温度差」と表現することがある。[1] これはそれぞれの関係者の考え方や思惑などを、熱い思いと冷めた思いと捉え、その違いを物理的な温度の違いとして例えた言葉である。