化学反応
テンプレート:出典の明記 化学反応(かがくはんのう、英語:chemical reaction)とは、原子間の結合の生成、あるいは切断によって異なる物質を生成する現象のことである。 化学変化 (chemical change) と同義である。 一般に化学の領域、分野で扱われる。 化学反応は、一個の分子内で起こる場合もあれば、同種あるいは異種の分子間で起こる場合もある。
反応する物質を反応物あるいは基質 (substrate)、反応によって生ずる物質を生成物 (product) と呼ぶ。
化学反応に伴う反応熱は、核反応に伴う反応熱よりも一般には低い。だが三態間の状態変化のような物理変化に伴う熱よりは高い。 外部からの刺激により(熱や電気など)、化学変化は起きる。
例
古代以前に人類が認識していた様々な変化の中で、化学変化であるものには次の例がある。これらは日常世界で人が認識できる化学変化の実例でもある。古代以前から、これらの変化では物の材質が変化すると認識されていたと考えられる。
なお、呼吸、消化、その他の生命現象の大部分は化学変化に他ならないが、フリードリヒ・ヴェーラーにより初めて無機化合物から有機化合物が合成されるまでは、生命に関する化学変化には生命力が関与しているとして、無機的な化学変化とは区別する考えもあった。また腐敗や発酵に生物が関与していることは、ルイ・パスツールの研究により初めて明確に認識された。
表記
テンプレート:See also 化学反応は化学反応式で表される。
左辺に反応物 (reactant)、右辺に生成物 (product) を示し、右向き矢印で式とする。
- Reactant(s) <math> \longrightarrow </math> Product(s)
可逆反応を強調したい場合は両向き矢印を使用する。
- Reactant(s) <math> \overrightarrow\longleftarrow </math> Product(s)
種類
化学反応は電子の移動にともなって結合の切断と生成が行われる。化学結合と電子の移動方法に着目して化学反応を分類すると、イオン反応 (ionic reaction)、ラジカル反応 (free-radical reaction)、ペリ環状反応 (pericyclic reaction) に大別される。ある化学種がもうひとつの化学種と結合をつくる反応について考えると、イオン反応は、一方の化学種から電子対が供与されて新しい結合性軌道が生成する化学反応で、電子求引性や電子供与性など原子間の電荷の偏りにより反応の方向が支配される。ラジカル反応は、双方の化学種から1電子ずつ電子が供与されて新しい結合性軌道が生成する化学反応である。ペリ環状反応は、化学種のπ軌道からσ軌道へ、環状の遷移状態を経て転化することで2ヶ所以上に新たな結合が生成する化学反応である。切断は結合の逆反応にあたる。
反応機構や、反応物と生成物の構成の違いで化学反応を考える場合、置換反応、付加反応、脱離反応、転位反応などに分類される。
加水分解、脱水反応、付加重合、縮合重合(縮重合)、酸化反応、還元反応、中和反応は化学反応の用途を意識した分類で、上記 4 反応機構の一つあるいは複数から構成される。
ほかにも光反応や重合反応など、反応の特性に応じた分類も存在する。
化学反応論
化学反応を説明付ける理論は、化学反応事例が集積から導出される経験則とそれを物理学的に説明づける物理化学理論が構築されることにより進展して行く。それ故、物理学の展開と歩調を合わせて化学反応論も段階を経て発展して行った。
18世紀から19世紀に元素がアントワーヌ・ラヴォアジエやジョン・ドルトンらに発見されるのと同時に、化学反応する反応物と生成物との重量比に関して法則性が見出されている。これら化学反応に関与する成分の量的関係に関する理論は、化学量論として体系付けられている。化学量論は一般には経験則である定比例の法則、倍数比例の法則として知られている。
19世紀後半に定量分析法が確立し20世紀にかけて発展することで化学物質の変化量が測定できるようになると、化学平衡や反応の進行する速度について、反応速度式として定式化され物質量やモル濃度そして温度が化学反応の成分量やその変化量に強く影響を及ぼすことが明らかとなった。熱力学により分子(あるいは)原子に共通な振る舞いが物理学的に説明付けられる様になり、化学平衡や反応速度について物理化学的な理論が確立されるに至った。化学反応における成分量の決定因子とその変化の早さは、化学ポテンシャルで代表される広義の熱力学と反応速度論により体系付けられる。化学ポテンシャルは熱力学第二法則を物理化学的に解釈した指標であり、反応(あるいは平衡)の進行方向を決定付ける。反応速度論により、反応速度が物質量や温度により受ける影響を分子などの微視的な振る舞いとして説明づけられるようになった。
反応速度論、特に遷移状態理論により化学反応を熱力学や統計力学のような集団についての理論ではなく、反応物の分子同士の作用として理論付けることが可能になった。今日では反応の種類ごとに分子構造と化学反応を関連付ける反応機構モデルを構築することで化学反応が研究される。
反応機構モデルを構築する基礎原理として、電子が帰属する価電子または共有結合の移動として化学結合を扱い、半経験的原理として有機電子論が体系付けられた。有機電子論やHSAB則において経験的に仮定された電子対の振る舞いは量子化学の分子軌道法で定式化することが可能である。また、ペリ環状反応等いくつかの立体特異的な反応機構は古典的な電子の振る舞いでは説明づけることはできず、分子軌道の結合規則に関する原理を扱うフロンティア軌道理論により反応機構が説明付けられる。
以上のようにして構築された反応機構は化学反応動力学・分子動力学の手法によりモデルの妥当性や反応の振る舞いについて検証されるが、コンピュータの演算性能の急速な拡大と計算化学的手法の発展により、今日では簡単な系であればコンピュータ・シミュレーションで化学反応を予測することも可能である。
有機反応に影響する因子
実際に反応を行う、あるいは反応系を開発する場合、その反応を取り巻くさまざまな因子・条件の影響により、速度や成否が左右されることは少なからずある。この節では、特に有機反応について影響を考慮すべき因子・条件を、定性的、経験的な観点から概説する。反応機構は反応により多様であるため、以下の議論にあてはまらない例ももちろんある。詳細が分かっている反応については、反応速度式なども考慮に入れより定量的な考察を行うべきである。
- 温度 – 多くの反応は、より高い温度で行えば、系により多くのエネルギーが与えられるために速度が増加する。一般に、反応温度が 10 ℃ 上がれば反応速度は約2倍になる、というのが目安とされる。ただし、副反応を誘発する、中間体が分解する、反応の暴走を招く、など、温度を上げた結果として反応が失敗することもある。
- 濃度 – 多次反応の場合、反応混合物の濃度が高くなると、反応物同士の衝突の頻度が増すことによって反応が起こる確率が高くなり、速度が増加する。連鎖反応の場合は顕著となる。大員環合成などの場合では、分子内反応を分子間反応に対して優先させるために、しばしば高希釈下条件で行われる。また、0次、1次反応では濃度の効果は系の温度変化へ影響するだけにとどまる。濃度を調整する場合についても、副反応や暴走など、温度の調整の際と同様の問題を考慮する必要がある。
- 圧力 – 通常、気体が関与する反応は、圧力を上げると速くなる。気体の場合では圧力の上昇は事実上濃度の増加に等しいため、濃度と同様の議論も成り立つ。始原系と生成系でモル数が異なる場合は、平衡状態に達したときの各化合物の割合に圧力が影響する。
- 光 – 光はエネルギーの一形態である。また、反応の経路に影響を及ぼすこともある。反応によっては、副反応を防ぐために遮光しなければならないものもある。光を積極的に利用する光反応では、用いる光の波長や強さを考慮しなければならない。
- 触媒 – 反応に触媒を加えると、より活性化エネルギーの低い反応経路をとることができるようになり、正反応・逆反応の速さがともに増加する。触媒反応は当量反応とは異なり、触媒サイクルを円滑に回転させるため、触媒の活性化と安定化について考える必要がある。
- 表面積 – 不均一系触媒などを用いた表面反応においては、表面積が大きくなると反応速度も増加する。体積に対する表面積の割合が増せば反応の起こる位置が増え、反応はより速く起こる。固-液、気-液などの複相系、水層-油層などの複層系でも同様に、異なる相/層が接触する地点、あるいはその近傍で反応は起こるため、表面積や撹拌が重要になる。
関連項目