分子軌道法
量子化学において、分子軌道法(ぶんしきどうほう、テンプレート:Lang-en-short)、通称「MO法」とは、原子に対する原子軌道の考え方を、そのまま分子に対して適用したものである。1953年にジョン・ポープル、テンプレート:仮リンク、テンプレート:仮リンクらにより理論が作られた。
分子軌道法では、分子中の電子が原子間結合として存在しているのではなく、原子核や他の電子の影響を受けて分子全体を動きまわるとして、分子の構造を決定する[1]。
分子軌道法では、分子は分子軌道を持ち、分子軌道波動関数<math> \psi_j^{MO} \ </math>は、既知のn個の原子軌道<math>\chi_i^{AO} </math>の線形結合(重ね合わせ)で表せると仮定する[2]。
- <math> \psi_j^{MO} = \sum_{i=1}^{n} c_{ij} \chi_i^{AO} </math>
ここで展開係数<math> c_{ij}</math>について、基底状態については、時間依存しないシュレーディンガー方程式にこの式を代入し、変分原理を適用することで決定できる。この方法はLCAO近似と呼ばれる。もし<math>\chi_i^{AO} </math>が完全系を成すならば、任意の分子軌道を<math>\chi_i^{AO} </math>で表せる。
またユニタリ変換することで、量子化学計算における収束を速くすることができる。分子軌道法はしばしば原子価結合法と比較されることがある。
概説
原子軌道に対応して、分子全体に広がる一電子空間軌道関数である分子軌道によって、分子を構成する個々の電子の状態が記述されると考える。この分子軌道を計算して、分子の電子状態を求める方法が分子軌道法である。
原子軌道の線形一次結合 (Linear Combination of Atomic Orbitals) によって分子軌道 (MO) を近似する方法は、「LCAO分子軌道法」あるいは「LCAO法」あるいは「LCAO MO」と呼ばれる(「LCAO法」の項も参照)。
歴史
1927年に原子価結合法が成立した後、フリードリッヒ・フント、ロバート・マリケン、ジョン・クラーク・スレイター、ジョン・レナード-ジョーンズらによって開発された[3]。分子軌道理論はもともと「フント-マリケン理論」と呼ばれていた[4]。「軌道」という名前は1932年にマリケンによって導入された[4]。1933年には分子軌道法は、有効な理論であると受け入れられるようになった[5]。ドイツの化学者エーリヒ・ヒュッケルによると、分子軌道法の最初の定量的な利用は1929年のレナード-ジョーンズによって成された[6]。分子軌道波動関数の正確な計算は、1938年にテンプレート:仮リンクが水素分子について行った[7]。1950年には、分子軌道は「自己無撞着場ハミルトニアンの固有関数(波動関数)」として厳密に定義され、分子軌道法は厳密でつじつまが合うものになった[8]。この厳密なアプローチは分子におけるハートリー-フォック法として知られている。分子の計算において、分子軌道は原子軌道基底の観点で拡張され、ルーターン方程式が開発された[9]。これは多くの非経験的分子軌道法の発展につながった。またそれとは別に、半経験的分子軌道法として知られる方法で導かれた経験的なパラメーターを用いる多くの近似法でも分子軌道法は適用される[10]。
分類
分子軌道 (MO) は、シュレディンガー方程式を解くことによって得られる。この際用いる近似の程度によって、分子軌道法は大きく次の三つに分類できる。