秦郁彦

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テンプレート:Infobox 学者 秦 郁彦(はた いくひこ、1932年昭和7年)12月12日 - )は、日本歴史学者、現代史家。元千葉大学法経学部教授、元日本大学法学部教授法学博士東京大学、1974年)。

略歴

山口県田布施町出身。鉄道省の技術官吏である父は太平洋戦争中に陸軍司政官としてフィリピン北部のカガヤン州における鉄道建設に従事しで戦死した[1]テンプレート:要出典

研究

専攻は、日本の近現代史第二次世界大戦を中心とする日本の軍事史。その他、昭和史に数多くの著作がある。慶大教授の池井優は秦の著書『日中戦争史』および『軍ファシズム運動史』を、この分野における古典的名著であると評価した。[2]

日本国際政治学会太平洋戦争原因究明部による共同プロジェクトに参加し、研究の成果は後に『太平洋戦争への道』として出版された。同書は開戦に至る日本外交を描いており、1987年の新装版刊行に際しての朝日新聞社の書評では「開戦外交史の通史としてこれをしのぐものは現れていない」と評価された。近現代史に関わる多くの事典の編纂でも知られる。東京大学出版会より刊行した『日本陸海軍総合事典』を、歴史学者の佐々木隆は日本近代史・軍事史研究必携の事典と評価した。[3]

ジョン・W・ダワーの「敗北を抱きしめて」、アルヴィン・D・クックスの「ノモンハン」の献辞において長年に渡る共同研究者として名が挙げられている。

南京事件

南京事件については自著『南京事件』において、日本軍の不法行為による犠牲者数を「3.8万-4.2万人」とし、以後も被虐殺者数は約4万人程度と推定している。2007年に出した同著の増補版では、「4万の概数は最高限であること、実数はそれをかなり下まわるであろうことを付言しておきたい」と追記しており、週刊新潮2007年12月27日号では、「だいたい4万人」とコメントしている。

百人斬り競争については、行ったとされる旧日本陸軍少尉が故郷鹿児島県において地元の小学校や中学校で捕虜殺害を自ら公言していたことを調べ上げて、1991年に日本大学法学会『政経研究』42巻1号・4号にて発表している。

慰安婦

日本軍による朝鮮半島における慰安婦強制連行の可能性については否定的である。1999年、それまでの議論や様々な資料を広く参照し、おもに時代背景やその変化などから慰安所制度や慰安婦の実態を明らかにすることを試みた著書「慰安婦と戦場の性」を出版した。

1992年3月、済州島において慰安婦狩りをおこなったとする吉田証言について現地調査を行い、そのような事実が存在しなかったことを明らかにした[4]オランダ人女性を慰安婦として徴用した白馬事件や、フィリピン人女性を慰安婦として徴用した問題などについてはこれを認めている[5]

2007年3月5日首相安倍晋三参議院予算委員会において「狭義の意味においての強制性について言えば、これはそれを裏付ける証言はなかったということを昨年の国会で申し上げたところでございます。」と答弁した。秦はこの答弁について、「現実には募集の段階から強制した例も僅かながらありますから、安倍総理の言葉は必ずしも正確な表現とはいえません。「狭義の強制は、きわめて少なかった」とでも言えば良かったのかもしれませんが、なまじ余計な知識があるから、結果的に舌足らずの表現になってしまったのかもしれません(苦笑)。」とコメントしている[6]

2014年、慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話の政府による検証チームのメンバーとなる。

その他

東條英機は、仮に東京裁判の代わりに日本人による裁判が設けられていたとしても、当時の法律に則りチャハル作戦における捕虜殺害、憲兵を用いた弾圧等を罪状として有罪となっただろうと著作『現代史の争点』で主張している。また、昭和天皇靖国神社に参拝しないようになった理由は「A級戦犯合祀」であると主張して、首相三木武夫の「私的参拝発言」原因説を唱える岡崎久彦渡部昇一櫻井よしこらを『諸君!』誌上や産経新聞「正論」欄で批判している。

張作霖爆殺事件に関しては、一次史料に基づく先行研究に依拠して河本大作大佐を中心とする日本陸軍の犯行であることは明らかであるとし、「張作霖爆殺はコミンテルンの仕業」との説を陰謀論にすぎないと批判している。この説は当初「近年開示されたソ連政府の機密文書から判明したこと」とのふれこみで日本に紹介されたが、産經新聞モスクワ支局長の内藤泰明記者によれば、この説を最初に主張したドミトリー・プロホロフは既出の文献を総合して書いたもので、「旧ソ連共産党や特務機関に保管されたこれまで未公開の秘密文書を根拠としているわけではない」と認めたとしている[7]

家永三郎を『変節組』と批判し、家永教科書裁判においては、国側証人として出廷した。

1990年12月号の文藝春秋において公表された「昭和天皇独白録」について、翌月号の座談会で伊藤隆児島襄半藤一利とこの資料の評価を行った。秦は、「独白録」は昭和天皇の戦犯訴追を回避するためにGHQに提出することを念頭に作られた弁明書であり英語版も存在するはずであると主張し、政治的な背景を持たない率直な内輪話の記録に過ぎないとする伊藤、児島と対立した。伊藤は「秦さんのいう英語版が出てきたらカブトを脱ぎますがね(笑)」、児島は「せいぜい秦さんにお探しいただきましょう(笑)」とコメントしている。後に英語版が実際に発見されている[8]

2006年7月に日本経済新聞社紙上で、昭和天皇がA級戦犯の靖国神社合祀に強い不快感を示した記述が含まれる富田メモの存在が報道された。秦はこの真偽を評価する研究委員会委員をつとめ、このメモが本物であると認定した。

評価

肯定
  • 嶋津格は、秦の著書『慰安婦と戦場の性』の裏表紙で「このような結論を導くに際して、秦は、自らが国内外にわたって収集、調査した資料を駆使する歴史学的態度を堅持している。そして、その結果生まれた本書は、総合性の上で、既存の類書の水準を超えた、「慰安婦」及び「慰安婦問題」の百科全書ともいうべき力作になった。これでやっと、冷静な遠近法の中で慰安婦問題を語る土壌が作られたのではないか」との賛辞を寄せている[9]
否定
  • アジア女性基金資料委員会の委員を秦がつとめた際の和田春樹との論争については、和田春樹を参照。
  • 林博史は、『慰安婦と戦場の性』における資料の引用に際して、出典を示していないものがある、数値を誤っている、証言の一部分だけを抜き取って都合よく引用している、などとして批判している[10]
  • 永井和は、1998年になって自由主義史観を教材対象とするときにこの問題を調べ始め、この問題の中心はいわゆる広義の強制の責任問題であり、それを『もっぱら「強制連行」の有無を争う』ことに絞ろうとする自由主義史観派が対立の因であり、それに実証的な立場のはずの学者(秦)が協力的だったと批判している[11]。また自身のブログで、『慰安婦と戦場の性』について、秦が「おそらく、(略)大多数を占めるのは、前借金の名目で親に売られた娘だったかと思われるが、それを突きとめるのは至難だろう」とする結論については支持しつつも、結論に至る論証の手続きについて実証史家としては問題がある、などとしている[12]
  • 前田朗は、上記著作には国連組織への初歩的な間違いや憶測に基づいている記述が多いとも述べ、秦の手法に対して方法論的な疑問を提示している[13]。これに対する秦の反論が「前田朗氏への反論」(『戦争責任研究』 2000年夏季)。

その他

歴史の効用として「教訓」「説得の技術」「エンターテイメント」の3つがあるという意見を持つ。

両切りの缶入りピースを愛好する喫煙者である[14]

受賞歴

著書

単著

  • 『日中戦争史』(河出書房新社、1961年、増訂版1972年、復刻新版2011年/新装版・原書房、1979年)
  • 『軍ファシズム運動史――3月事件から2・26後まで』(河出書房新社、1962年、増訂版1972年、復刻新版2012年/新装版・原書房、1980年)
  • 『実録第二次世界大戦――運命の瞬間』(桃源社、1968年)
  • 『太平洋国際関係史―日米および日露危機の系譜 1900-1935』(福村出版、1972年)
  • 『昭和財政史 終戦から講和まで(3) アメリカの対日占領政策』(大蔵省財政史室編、東洋経済新報社、1976年)
  • 『太平洋戦争六大決戦―なぜ日本は敗れたか』(読売新聞社、1976年)
  • 『史録日本再軍備』(文藝春秋、1976年)
  • 『八月十五日の空―日本空軍の最後』(文藝春秋、1978年/文春文庫、1995年)
  • 『太平洋戦争航空史話』(全2巻.冬樹社、1980年/光風社出版、1984年/中公文庫、1995年)
  • 『昭和史の軍人たち』(文藝春秋、1982年/文春文庫、1987年)
  • 『官僚の研究―不滅のパワー・1868-1983』(講談社、1983年)
  • 『裕仁天皇五つの決断』(講談社、1984年)
    • 昭和天皇五つの決断』(文春文庫、1994年)
  • 『実録太平洋戦争―六大決戦』(光風社出版、1984年/光風社選書、1995年)
    • 『太平洋戦争六大決戦』(中公文庫、1998年)
  • 『実録第二次世界大戦―運命を変えた、六大決戦』(光風社出版、1984年/光風社選書、1995年)
    • 『第二次世界大戦―鋼鉄の激突』(中公文庫、1998年)
  • 『昭和史を縦走する―柳条溝事件から教科書問題まで』(グラフ社、1984年)
  • 『南京事件―「虐殺」の構造』(中公新書、1986年、増補版2007年)
  • 『第二次大戦航空史話』(全3巻.光風社出版、1986年/中公文庫、1996年)
  • 『昭和史の謎を追う』(全2巻.文藝春秋、1993年/文春文庫、1999年)
  • 盧溝橋事件の研究』(東京大学出版会、1996年)
  • 『日本人捕虜―白村江からシベリア抑留まで』(原書房、1998年)
  • 『現代史の争点』(文藝春秋、1998年/文春文庫、2001年)
  • 『現代史の光と影―南京事件から嫌煙権論争まで』(グラフ社、1998年)
  • 『慰安婦と戦場の性』(新潮選書、1999年)
  • 『なぜ日本は敗れたのか―太平洋戦争六大決戦を検証する』(洋泉社新書y、2001年)
  • 『現代史の対決』(文藝春秋、2003年/文春文庫、2005年)
  • 旧制高校物語』(文春新書、2003年)
  • 漱石文学のモデルたち』(講談社、2004年/中公文庫、2013年)
  • 『歪められる日本現代史』(PHP研究所、2006年)
  • 『統帥権と帝国陸海軍の時代』(平凡社新書、2006年)
  • 『現代史の虚実―沖縄大江裁判・靖国・慰安婦・南京・フェミニズム』(文藝春秋、2008年)
  • 『靖国神社の祭神たち』(新潮選書、2010年) 
  • 『病気の日本近代史 幕末から平成まで』(文藝春秋、2011年) 
  • 『昭和史の秘話を追う』(PHP研究所、2012年)
  • 『陰謀史観』(新潮新書、2012年)

共著

  • 袖井林二郎)『日本占領秘史 下巻』(朝日新聞社、1977年/早川書房ハヤカワ文庫]、1986年)
  • 坂本多加雄半藤一利保阪正康)『昭和史の論点』(文藝春秋[文春新書]、2000年)
  • 半藤一利横山恵一)『太平洋戦争―日本海軍戦場の教訓』(PHP研究所、2001年/PHP文庫、2003年)
  • (半藤一利・横山恵一・戸高一成)『歴代海軍大将全覧』(中央公論新社中公新書ラクレ]、2005年)
  • (半藤一利・原剛・横山恵一)『歴代陸軍大将全覧 明治編』(中央公論新社[新書ラクレ]、2009年)
  • (半藤一利・原剛・横山恵一)『歴代陸軍大将全覧 大正編』(中央公論新社[新書ラクレ]、2009年)
  • (半藤一利・原剛・横山恵一)『歴代陸軍大将全覧 昭和篇 満州事変・支那事変期』(中央公論新社[新書ラクレ]、2010年)
  • (半藤一利・原剛・横山恵一)『歴代陸軍大将全覧 昭和篇 太平洋戦争期』(中央公論新社[新書ラクレ]、2010年)
  • (伊沢保穂)『日本海軍戦闘機隊-戦歴と航空隊史話』(大日本絵画、2010年)
  • (半藤一利・保阪正康・井上亮)『「BC級裁判」を読む』(日本経済新聞出版社、2010年)
  • (半藤一利・原剛・松本健一・戸高一成)『徹底検証 日清・日露戦争』(文藝春秋[文春新書]、2011年)
  • (半藤一利・戸高一成)『連合艦隊・戦艦12隻を探偵する』(PHP研究所、2011年)

編著

  • 『戦前期日本官僚制の制度・組織・人事』(戦前期官僚制研究会編、東京大学出版会、1981年)
  • 『世界諸国の制度・組織・人事 1840-1987』(東京大学出版会、1988年/増補版、2001年)-2000年までを追加した
  • 『真珠湾燃える(上・下)』(原書房、1988年)
  • 『日本陸海軍総合事典』(東京大学出版会、1991年/第二版、2005年)
  • 『ゼロ戦20番勝負』(PHP研究所[PHP文庫]、1999年)
  • 『日本官僚制総合事典 1868-2000』(東京大学出版会、2001年)
  • 『検証・真珠湾の謎と真実-ルーズベルトは知っていたか 』(PHP研究所、2001年)
  • 『太平洋戦争のif「イフ」-絶対不敗は可能だったか?』(グラフ社、2002年/中公文庫、2010年)
  • 『日本近現代人物履歴事典』(東京大学出版会、2002年)
  • 『昭和史20の争点 日本人の常識』(文藝春秋、2003年/文春文庫、2006年)
  • 『沖縄戦「集団自決」の謎と真実』(PHP研究所、2009年)

共編著

  • 日本国際政治学会太平洋戦争原因究明部編『太平洋戦争への道 第4巻 日中戦争 下』(朝日新聞社、1963年)
  • 日本国際政治学会太平洋戦争原因究明部編『太平洋戦争への道 第6巻 南方進出』(朝日新聞社、1963年)
  • 三宅正樹藤村道生義井博)『昭和史の軍部と政治(全5巻)』(第一法規出版、1983年)

監修

  • 『連合艦隊海空戦戦闘詳報(全18巻・別巻2巻)』(アテネ書房、1996年)

共監修・共著

訳書

  • デイヴィッド・カーン『暗号戦争』(共訳.早川書房、1968年/ハヤカワ文庫、1978年)
  • ウォルター・ロード『南太平洋の勇者たち――ソロモン諜報戦』(早川書房、1981年)

論文

脚注

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関連項目

外部リンク

テンプレート:Normdaten
  1. テンプレート:Cite book
  2. 著書『日中戦争史』復刊の際のパンフ(池井優慶大教授)より
  3. 史学雑誌102-3、1993年3月、佐々木隆による同書の新刊紹介。
  4. テンプレート:Cite news
  5. 『慰安婦と戦場の性』新潮社 ISBN 4106005654
  6. 『諸君!』2007年7月号 秦郁彦、大沼保昭荒井信一「激論 「従軍慰安婦」置き去りにされた真実」
  7. 『正論』2006年4月号
  8. テンプレート:Cite book
  9. 『慰安婦と戦場の性』裏表紙推薦文
  10. 秦郁彦『慰安婦と戦場の性』批判」 『週刊金曜日』 290号 1999年11月5日 - 林博史研究室 論文ページ
  11. 永井和 日本軍の慰安所政策について『二十世紀研究』創刊号、2000年
  12. 2007-04-15 従軍慰安婦問題を論じる - 永井和の日記 - 掲示板への投稿から―その2― - 従軍慰安婦問題を論じる - 永井和の日記
  13. 前田朗 『秦郁彦の「歴史学」とは何であるのか?』 (日本の戦争責任資料センター『戦争責任研究』 2000年春季)
  14. 日本の論点』文藝春秋1999
  15. 文藝春秋 80周年記念出版 世界戦争犯罪事典