法人
テンプレート:出典の明記 法人(ほうじん、テンプレート:Lang-de-short、テンプレート:Lang-fr-short、テンプレート:Lang-en-short)とは、自然人以外で、法律によって「人」とされているものをいう。「人」とは、法律的には、権利義務の主体たる資格(権利能力)を認められた存在をいう。つまり法人は、自然人以外で、権利能力を認められた存在ということになる。
日本においては、法人は、一般社団・財団法人法や会社法などの法律の規定によらなければ成立しない(法人法定主義、民法33条)。
目次
法人の法的主体性
法人の人権享有主体性、権利能力、行為能力については各種の議論がある。
- 法人の人権享有主体性
- 日本国憲法には、法人が人権の享有主体になるかどうかの規定がない。この問題について、最高裁判所は、八幡製鉄事件において、憲法第3章の保障する権利は性質上可能な限り内国の法人に保障されると判示した(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁)。
- 法人の権利能力
- 法人には権利能力が認められる。これこそが、法人が法人たる所以である。もっとも、その範囲が問題となる。日本の民法は、法人の権利能力に対しては極めて謙抑的な態度をとり、民法第34条において「法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」と規定している。これは、英米法におけるUltra Viresの法理によるものである。判例は、同条のいう「目的の範囲」を柔軟に解釈している。 八幡製鉄事件の判決では、定款に定めた目的の範囲内で権利能力があるが、目的の範囲内とは、明示されたものだけではなく、定款の目的を遂行するのに必要ならすべての行為が含まれるとした。
- 法人の行為能力
- 法人が単独で法律行為を行うことができるかどうかを法人の行為能力という。これは、法人擬制説と法人実在説で結論が異なる。法人擬制説では、法人とは法が特に擬制した権利義務の帰属点に過ぎないから、行為能力を認める必要はなく、代理人たる理事の行為の効果が法人に帰属するという構成をとる。対して、法人実在説では、法人は自ら意思を持ち、それに従い行為するのであり、法人の行為能力が認められるということになる。
法人の設立と監督
法人を設立するための要件は、法人の種類によって細かく分かれているが、これは、国家がどの程度法人を監督するか、という法政策の問題である。すなわち、国家による監督が必要な活動であれば特許主義や許可主義を採用することになる(法人の活動が不適切な場合には法律を改廃したり、主務官庁が許可を取り消したりする)。逆に,国家が法人の設立にまったく干渉する必要はないと考えれば、自由設立主義を採用することになる(日本においてこれは認められていない)。
日本法により設立される法人について、国家の干渉度が強い順に並べると、次のようになる。
- 特許主義
- 特殊銀行、都市基盤整備公団・国民生活金融公庫などの公社・公団・公庫、独立行政法人等。
- 許可主義
- 設立は、主務官庁の裁量による。
- 民法が規定していた旧公益法人(社団法人・財団法人)。
- 認可主義
- 設立は、法定要件を備えての、主務官庁の認可による。主務官庁は、法人格付与に裁量権を持たない。
- 学校法人・医療法人・社会福祉法人・生活協同組合・農業協同組合・健康保険組合・中小企業等協同組合・地縁による団体。
- 認証主義
- 設立は、所轄庁の認証による。認可主義より簡易である。
- 特定非営利活動法人(NPO法人)・宗教法人。
- 準則主義
- 要件を具備すれば当然に法人となる。普通、登記・登録が必要である。
- 一般社団法人、一般財団法人、会社、労働組合、弁護士会、マンション管理組合法人。
法人の分類
社団法人(広義)と財団法人(広義)
法人は、大きく社団法人(広義)と財団法人(広義)の二つに分類される。伝統的な説明によれば、人の集合体(社団)に法人格が与えられたものが社団法人であり、財産の集合体(財団)に法人格が与えられたものが財団法人である。
法人化によって人の集合体自体の権利能力が認められれば、その集合体の財産や取引を、個々の構成員の財産や取引から法的に分離することができる。社団法人は、こうしたことを可能にするための法技術である。通常、社団というためには一定の組織性が要求される(権利能力なき社団を参照)が、現実の社団法人の中には、一人会社(株主が一人だけの会社)のように社団性がないものも存在している。
また「人」とは、権利義務の主体であると同時に、「物」ではない、つまり所有権をはじめとする物権の客体ではない存在でもあるから、物を含む財産が法人になれば、他者の権利に属さなくなる。財団法人は、こうしたことを可能にするための法技術であり、その財産は誰かの自由意思によっては処分されず、ただ固定的な規定(設立者の設立時の意思)に従って運用されるものとなる(もっとも、これは本来の制度の理念であり、2008年施行の一般社団・財団法人法は、一般財団法人の定款を評議員会の決議で変更できると定めた)。
営利と非営利、公益と私益(非公益)
法人のうち、 (1)営利を目的とするものを営利法人と呼び、(2)そうでないものを非営利法人と呼ぶ。ここでいう営利とは、法人が外部的経済活動によって得た利益をその構成員(社員)へ分配することを意味している。
(1)営利法人は、構成員への利益分配を予定しているため、常に社団である。財団については、そもそも利益の分配先である構成員が存在しない以上、利益の分配ということはありえず、利益の分配されない営利目的の財団の存在を認める実益がないからである。営利法人といっても、実際に利益を分配する義務まではなく、利益を社員(株主)に配当していない会社も少なくない。
営利社団法人のことを会社といい、会社法は株式会社、合名会社、合資会社、合同会社を定めている。なお、会社法における会社の営利性については論争がある。
(2)非営利法人は、一般法である一般社団・財団法人法により設立される一般社団法人・一般財団法人と、特別法(特定非営利活動促進法など)により設立される社団法人(特定非営利活動法人、労働組合、農業協同組合など多種)・財団法人(共済組合など)がある。一般社団法人・一般財団法人のうち、公益法人認定法により公益性の認定を受けた法人を公益法人(公益社団法人・公益財団法人)という。
なお、一般社団法人・一般財団法人は、事業目的に法律上の限定がないので、営利法人(会社)と同じく多種多様な事業を行うことができる。営利法人ではないから利益を社員に配当することはできないが、役員の報酬や従業員の給与を支払うことはできる。
- 2008年12月の一般社団・財団法人法施行前、一般法としての法人規定を有した民法は、(a)公益を目的とする(狭義の)社団法人・財団法人(旧公益法人、いわゆる民法法人)のみを用意していた。そのため、(b)公益を目的としない社団には、適当な法人形態を提供する一般法が長らく存在せず、ただ各種の特別法に適合する場合のみ(労働組合、農業協同組合、消費生活協同組合、信用組合など)、法人格を取得することができた。また、税制面の優遇もあったため、旧公益法人の設立には主務官庁の許可を必要とし、公益を目的としながら、規模・体制の面や官庁との人的つながりの面から、許可を得られない団体も少なくなかった。このため、事実上法人となるような実体を備えていても、民法法人や特別法の法人となっていない任意団体も存在する(権利能力なき社団)。
- 近年、福祉や文化、国際貢献、環境保護、研究あるいは同好活動、地域活動など、さまざまな非営利の団体活動が活発になり、それらの団体が財産を保有したり、個人・企業・行政を相手に贈与・売買・貸借・雇用・委託等の契約を行う便宜のため、法人格の取得を容易にする以下の特別法が制定された。1998年(平成10年)12月1日に施行された特定非営利活動促進法(NPO法)は、福祉、教育、環境、科学技術振興、経済活性化など一定の活動(特定非営利活動)を目的とする非営利団体に法人格取得の道を開いた。2002年(平成14年)4月1日に施行された中間法人法により、広く非営利・非公益の社団一般が法人格を取得できるようになった。しかし、(b)非公益目的の (2)非営利財団には、特別法がある場合(共済組合など)を除いて、法人格は与えられてはいなかった。
- 2008年12月に一般社団・財団法人法が施行されたことで、非営利・非公益の社団・財団が一般的に法人格を取得することができるようになり、法人格を取得できない不都合が広く解消された。もっとも、同法の施行によって権利能力なき社団・財団が認められなくなったり、姿を消したわけではない。
法人の種類
商法、各種業法での分け方
営利法人
非営利法人
- 一般社団法人・財団法人
- 特例民法法人(民法により社団法人・財団法人として設立された公益法人)
- 学校法人(私立学校法)
- 宗教法人(宗教法人法)
- 医療法人(医療法)
- 社会福祉法人(社会福祉法)
- 職業訓練法人(職業能力開発促進法)
- 特定非営利活動法人(特定非営利活動促進法)
- 協同組合
- 相互会社(保険業法に基づくもの)
- 特別の法律により設立される法人
- 認可金融商品取引業協会・投資者保護基金・金融商品会員制法人[1]・自主規制法人(金融商品取引法)
- 管理組合法人(建物の区分所有等に関する法律)
- マンション建替組合(マンションの建替えの円滑化等に関する法律6条)
- 土地区画整理組合(土地区画整理法)
- 防災街区計画整備組合(密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律41条1項)
- 住宅街区整備組合(大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法40条)
- 市街地再開発組合(都市再開発法8条1項)
- 土地改良区・土地改良事業団体連合会(土地改良法)
- 商工会(商工会法)
- 商工会議所(商工会議所法)
- 商店街振興組合、商店街振興組合連合会(商店街振興組合法2条1項)
- 農住組合(農住組合法3条1項)
- 森林組合、生産森林組合、森林組合連合会(森林組合法)
- 共済組合(国家公務員共済組合法、地方公務員共済組合法)
- 健康保険組合(健康保険法)
- 国民健康保険組合(国民健康保険法)
- 企業年金基金(確定給付企業年金法9条1項)
- 国民年金基金(国民年金法)
- 勤労者財産形成基金(勤労者財産形成促進法7条の6第1項)
- 漁船保険組合(漁船損害等補償法)
- 船主責任相互保険組合・小型船相互保険組合(船主相互保険組合法)
- 信用保証協会(信用保証協会法)
- 鉱工業技術研究組合(鉱工業技術研究組合法)
- たばこ耕作組合(たばこ耕作組合法)
- 酒造組合・酒販組合(酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律)
- 都道府県農業会議(農業委員会等に関する法律)
- 水害予防組合(水害予防組合法)
- 負債整理組合(農村負債整理組合法)
公的法人
- 公法人(公共団体):公の事務を行うことを目的とする法人、又は、公法に規定された法人をいう。
- 独立行政法人等
- その他の法人
法人本質論
法人の本質には、種種の学説がある。有名なものとしては、「法人擬制説」「法人実在説」がある。もっとも、近年はこの論点自体への疑問も提示されている。法人の本質の問題は、本質認識の問題であることに注意しなければならない。身近な例では、被服系産業の会社における法人の認識が揚げられる。いわゆるファッションデザイナーが役員の場合、また、被用者の場合でも、当該ファッションデザイナーが法人と等価に認識されるのが一般的であるが、いずれの場合でも個人が法人と等価に認識される。このような場合を含みいかなるものを法人の本質とするかが問題なのである。
- 法人擬制説
- 法人擬制説(ほうじんぎせいせつ)は、もともと法的主体は1人1人の個人だけであり、法人は法によって個人を擬制していると考えるものである。いかなる実体が法人として認められるかは法の裁量による。法人の設立には、政府の関与が大きい特許主義や許可主義をとることを主張する。対立する説としては、法人実在説がある。
- 法人実在説
- 法人実在説(ほうじんじつざいせつ)は、個人のほかにも社会的になくてはならないものとして活動する団体があり、その団体は法的主体であると考えるものである。法的主体として考え得るものを広く法人として認めようとする。法人の設立には、政府の関与が小さい準則主義をとることを主張する。対立する説としては、法人擬制説がある。