フェーズドアレイレーダー
フェーズドアレイレーダー(Phased Array Radar(PAR、パー)、位相配列レーダー)とは平面上に多数の小さなアンテナを備えることで機械的な首振り動作を必要としないアンテナである。パルス・レーダー、パルス・ドップラー・レーダー等のアンテナとして用いられる。更に受信信号をデジタル処理することによって多数の受信ビームを作り、方位・距離を測定するDBF(デジタル・ビーム・フォーミング)にも応用される。
従来のレーダーのようにアンテナを上下左右に動かすのではなく、平面上の多数の小さなアンテナからそれぞれ放射する電波の位相を電気回路で制御することで、これらのアンテナからの電波を合成して、旋回・俯仰する走査方法を用いて観測するレーダーである。そのためレーダーアンテナに機械的な駆動装置の必要がない[1]。平面上の小さなアンテナのそれぞれに電波送受信機が実装されているものがアクティブ式(Active Phased Array Radar(APAR、アーパー)、能動型位相配列レーダー )で、小さなアンテナの裏側に位相変換器と呼ばれる仕組みが電波を分配する役割の導波管に隣接して備わっていて、これらがただ1つの電波送受信機からの電波を分配しながらそれぞれのアンテナに合わせた分の位相をずらすものがパッシブ式である。パッシブ式の受信は送信の逆方向となるだけである。アクティブ式はパッシブ式に比べて高い技術力が要求されるが、パッシブ型に比べて小型化が可能である。 テンプレート:Main2
アメリカ軍では、フェイズド・アレイ・レーダーと言えば、パッシブのことを指し、アクティブのものはAESA(Active Electronically Scanned Array、エーイサ、能動電子走査配列)と呼んでいる。 AESAに対してパッシブのものをPESA(passive electronically scanned array)と呼ぶ。
フェーズドアレイレーダーの一覧
艦船用
- アメリカ海軍初の艦載用フェーズドアレイレーダー(パッシブ式)。特徴的な大型の四角型艦橋の前後左右4面それぞれにテンプレート:仮リンクとテンプレート:仮リンクの2種類のフェーズドアレイレーダーが設置されている。
- 原子力ミサイル巡洋艦「ロングビーチ」と原子力空母「エンタープライズ」に搭載されていたが、整備性や信頼性に問題があったため1980年代には両艦から撤去され、その代替として従来型のAN/SPS-48 3次元レーダーとAN/SPS-49 2次元レーダーが搭載された。
- イージスシステム用の艦載パルス・レーダー(パッシブ式)。アメリカ海軍のタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦・アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦、海上自衛隊のこんごう型・あたご型護衛艦、スペイン海軍のアルバロ・デ・バサン級フリゲート、ノルウェー海軍のフリチョフ・ナンセン級フリゲート、韓国海軍の世宗大王級駆逐艦に搭載。
- アメリカ海軍のズムウォルト級ミサイル駆逐艦、ジェラルド・R・フォード級航空母艦に搭載されているアクティブフェーズドアレイレーダー。複数の周波数帯(SバンドおよびXバンド)で動作するデュアルバンドレーダー(DBR: Dual Band Radar)である。
テンプレート:UK/テンプレート:Flagicon イタリア/テンプレート:Flagicon フランス
- フランス海軍のフォルバン級駆逐艦と、イタリア海軍のアンドレア・ドーリア級駆逐艦・カルロ・ベルガミーニ級フリゲート・軽空母「カヴール」に搭載されているパッシブフェーズドアレイレーダー。
- ドイツ海軍のザクセン級フリゲート、オランダ海軍のデ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲート、デンマーク海軍のアイヴァー・ヒュイトフェルト級フリゲートに搭載されているアクテイブフェーズドアレイレーダー。4面でイージスより多い同時32目標に対応可能で、イルミネーター(送信機)としても1面で8目標を照射可能な「射撃指揮・照射兼用レーダー」である。
- ヨーロッパ各国の防空艦や韓国海軍の独島級揚陸艦に搭載されている長距離捜索用アクティブフェーズドアレイレーダー。ヨーロッパ各国が防空艦用に開発した射撃指揮レーダー(上記のEMPAR、SAMPSON、APAR)は捜索距離に問題があるため、それを補完するために搭載されている。
- フランス海軍のアキテーヌ級駆逐艦、シンガポール海軍のフォーミダブル級フリゲートに搭載されている多用途パッシブフェーズドアレイレーダー。
- 海上自衛隊の艦載用パルス・レーダー。捜索・射撃指揮用と後に追加された照射用の二種で構成される。ひゅうが型護衛艦とあきづき型護衛艦に搭載されている(アクティブ式・射撃管制装置として制式化)。派生型としてFCS-3から照射用レーダーと射撃管制機能を取り除き、機能を対空捜索と航空管制に限定したOPS-50があり、いずも型護衛艦に搭載されている。
- (NATOコードネーム: スカイ・ウォッチ)
- アドミラル・クズネツォフとバクーに搭載される艦載用フェーズドアレイレーダー。また、マルスパッサートの簡易型としてフォールム-2Mが存在し、こちらはワリヤーグに搭載された。
航空機用
- アメリカ空軍のF-15用のパルス・ドップラー・レーダー(アクティブ式)。(V)2は一部のMSIP-2改修機に搭載される。(V)3はF-15の近代化改修(ゴールデンイーグル)とシンガポール空軍のF-15EおよびF-15SEに搭載される。
- アメリカ空軍のF-22用のパルス・ドップラー・レーダー(アクティブ式)。
- アメリカ海軍のF/A-18E/F用のパルス・ドップラー・レーダー(アクティブ式)。Block 2以降の機体に搭載され、搭載機は本レーダーを用いた簡易的な電子妨害を行うことも可能となる。
- F-35に搭載されるパルス・ドップラー・レーダー(アクティブ式)。
- アメリカ空軍のF-15Eに搭載される予定のパルス・ドップラー・レーダー(アクティブ式)。AN/APG-79をベースに改良し、射程拡大、目標同時追跡能力等の強化などが見込まれている。2014年初期作戦能力獲得予定。
- B-1B用のレーダー (アクティブ式) 。
- B-2の近代化改修で搭載されるレーダー (アクティブ式) 。
- E-8に搭載されているレーダー (パッシブ式)。
- SABRは、ノースロップ・グラマン社がプライベートで開発中のAESA。フル機能を備え、容易に既存のF-16へ搭載改修が可能としている。米空軍のF-16や台湾空軍が保有しているF-16A/B Block 20が当該レーダーでアップデートされる予定である[2]。
- RACRは、レイセオン社が開発中のAESA。SABRと同じくフル機能を備え、容易にに搭載改修が可能としている。F/A-18A~D、EA-18G用とF-16用の2種類がある[3]。韓国空軍が保有しているF-16C/D Block 52 (KF-16)が当該レーダーでアップデートされる予定である。
- ノースロップ・グラマンが開発したAESAレーダーポッド。搭載機のレーダーを補完する機能を持つ。
- 航空自衛隊のF-2用のパルス・ドップラー・レーダー(アクティブ式)。世界で初めて量産戦闘機に装備されたアクティブ式フェーズドアレイレーダーである。発展型としてJ/APG-1を改修し探知距離を延長したJ/APG-2が存在する。
- 気球用捜索レーダー(アクティブ式)。
- 空中早期警戒管制 (AEW&C) 機用にIAIが開発したレーダーシステム (アクティブ式) 。ボーイング B707に搭載されている。
- EL/M-2075の発展型。ガルフストリームG550 CAEWに搭載されている。
テンプレート:Flagicon イギリス/テンプレート:Flagicon ドイツ/テンプレート:Flagicon イタリア/テンプレート:Flagicon スペイン
- ユーロファイターのトランシェ3Bより搭載予定のレーダー (アクティブ式) 。首振り機構を持つ。
テンプレート:Flagicon イギリス/テンプレート:Flagicon ドイツ/テンプレート:Flagicon フランス
- ユーロファイターとラファール用の代替レーダー (アクティブ式) 。
テンプレート:Flagicon イタリア/テンプレート:Flagicon スウェーデン
- グリペンNGに搭載されるレーダー (アクティブ式) 。首振り機構を持つ。
- ヘリコプター用搭載用レーダー (アクティブ式) 。
- エリクソンが開発したAEW&Cレーダー (アクティブ式) 。テンプレート:仮リンク、サーブ 2000、サーブ 340に搭載されている。
- (NATOコードネーム:フラッシュダンス)
- ロシア空軍のMiG-31に搭載されるレーダー(パッシブ式)。世界で初めて量産戦闘機に装備されたパッシブ式フェーズドアレイレーダーである。200kmの探知距離と広い走査角を持つ。
- (NATOコードネーム:シードラゴン)
- Su-34に搭載されるフェーズドアレイレーダー (パッシブ式) 。
- テンプレート:仮リンク/テンプレート:仮リンクに搭載されるフェーズドアレイレーダー(パッシブ式)。
- T-50が搭載するアクティブ式のもの。
- MiG-35が搭載するフェーズドアレイレーダー (アクティブ式) 。
- Su-27のレーダー換装用に開発されたフェーズドアレイレーダー (パッシブ式) 。
- MiG-29のレーダー換装用に開発されたフェーズドアレイレーダー (パッシブ式) 。
- Su-30MK3が搭載するフェーズドアレイレーダー (パッシブ式) 。
- Su-27のN001 メーチやMiG-29のテンプレート:仮リンクレーダーのアップグレード用フェーズドアレイレーダー (パッシブ式) 。
- MiG-29UBT及びMiG-21用のアップグレード用フェーズドアレイレーダー (パッシブ式) 。搭載機の関係上この種のレーダーとしてはかなり小型である。
地上用
- 空軍の警戒管制レーダー。
- 陸軍・海兵隊の前線防空レーダー。
- アクティブ式。
- アクティブ式。
- パッシブ式。
- テンプレート:仮リンク
- テンプレート:仮リンク
- AN/MPQ-53およびAN/MPQ-65
- パトリオットミサイルのレーダー(アクティブ式)。
- テンプレート:仮リンクの管制レーダー(アクティブ式)。
- 防衛庁(現・防衛省)が開発した地上設置型の警戒管制レーダー。旧称「FPS-XX」。将来警戒型で、ミサイル防衛の要となる。直径18mのドームに亀甲模様が刻まれた特異な形状から、通称「ガメラレーダー」とも呼ばれる。(アクティブ式)。
- アクティブ式。
ミサイルシーカー
以下のミサイルではスタンドオフレンジや自立誘導距離などの性能向上のためシーカー部にAESA方式のアンテナを搭載している。
気象用
- 気象観測レーダー(気象庁)
- 2014年度配備予定。Xバンドを使い、10秒で全天を走査する(10秒かかる理由は、レーダー本体では水平方向の走査が構造上できず、アンテナを機械的に回転させて水平方向の走査を行うからである。)[4]。情報量が1カ所100Mbpsとなるので情報処理技術の開発が求められている[5][6]
脚注
- ↑ レーダービームで空中を走査するのには機械的な駆動装置を必要としないが、航空機用レーダーの中でもCAPTOR-Eのように新型のものでは、側方や上下の探知角を広げるために機械的な駆動装置によってゆっくりと首振り動作を行うものが現われている。
- ↑ ノースロップグラマン公式 テンプレート:En icon
- ↑ レイセオン公式 テンプレート:En icon
- ↑ 128本のスロットアレイアンテナによる「デジタルビームフォーミング(DBF)」である。横倒しにした長さ2mのスロットアンテナを縦方向に128本並べ(サイズは約2m×2m、ビーム幅は約1度)、縦方向(仰角方向)に電子走査を行う1次元FAアンテナであり、解像度は1°である。半径15~60km、高度14kmまで観測できる。
- ↑ 日本初 「フェーズドアレイ気象レーダ」を開発情報通信研究機構2013年8月31日
- ↑ 「レーダー、竜巻検知速く」日本経済新聞2013年9月17日
関連項目