気球
気球(ききゅう)とは、空気より軽い気体を風船に詰め込む事で浮力を得る、推進に用いる動力を持たない航空機である。推進動力を持つ飛行船と同様に軽航空機(LTA; Lighter-Than-Air)に分類される。
バーナーなどで熱した空気を利用する物を熱気球、水素やヘリウムなどを使用する物をガス気球、ガスと熱した空気の両方を利用する物をロジェ気球と呼ぶ。人間が乗るためには気球の下にバスケットやゴンドラをつける。
移動するための動力は持たない。高度や地形によって向きの異なる風を捕捉することで、ある程度意図した方向へ移動することはできるが、パイロットの技量に左右される部分が大きく確実性が低いため、効率的な旅客や貨物の運搬といった目的には適さない。
積極的に移動するためのエンジンやプロペラなどの推進装置をもつものは飛行船と呼ばれる。ロープなどで固定され一定範囲から動かないようにされているものは繋留気球と呼ばれる。 気球の開発には継ぎ目等の強度を試験する為に縮尺模型に水を入れて試験を行う[1][2]。
目次
歴史
熱気球が発明された1783年以降19世紀までフランスを中心にヨーロッパで気球ブームが起き、遊覧飛行や冒険飛行が頻繁におこなわれた。19世紀半ばに動力を備えた飛行船が、20世紀に飛行機が発明されるとそれらに取って代わられ下火となるが、第二次世界大戦後、熱気球はスカイスポーツ (競技)として復活する。ガス気球は気象観測用のラジオゾンデや、宣伝・広告用のアドバルーンなどとして現代でも利用されている。超長距離の記録飛行の多くにはロジェ気球が用いられてきた。
年表
- 1709年: 神父バルトロメウ・デ・グスマンがポルトガルで熱気球(実用模型)の実験を行うが、異端として告発される。
- 1783年6月5日: モンゴルフィエ兄弟が無人の熱気球の実験成功。
- 1783年8月27日: ジャック・シャルルが水素を使った無人のガス気球の飛行実験に成功。
- 1783年11月: モンゴルフィエ兄弟が熱気球の有人飛行に成功。
- 1783年12月: シャルルがガス気球による有人飛行に成功する。
- 1784年8月24日:スコットランドのジェームズ・タイトラーが熱気球での飛行に成功する。
- 1785年1月: フランス人ブランシャールとアメリカ人ジェフリーズがガス気球でドーバー海峡横断に成功。
- 1785年6月: フランス人ピラートル・ド・ロジェとジュール・ローマンが新型気球(現代のロジェ気球の原点)でドーバー海峡横断を試みたが、上空で気球が爆発し二人とも事故死する。(人類最初の航空事故)
- 1794年: フランス革命戦争中、フランス陸軍がモーブージュにおける戦闘で敵情視察と着弾地点観測のためにガス気球を使用(航空機が戦争に利用された世界初の例)。
- 1803年: イタリアのフランチェスコ・ザムベッカーリがロジェ気球でアドリア海の横断飛行を試みる。
- 1852年: アンリ・ジファールが蒸気機関を搭載した飛行船を製作する。
- 1858年: フランスの写真家ナダールが気球でのパリ上空からの空中写真撮影に成功。
- 1862年: イギリスの気象学者ジェームズ・グレーシャーが8000m以上の高度に到達。
- 1870年~1871年: 普仏戦争において、拠点同士の連絡用として用いられる。パリ包囲戦では、レオン・ガンベタなどが気球を使って街を脱出し、プロイセン軍と戦った。
- 1872年: フランス海軍のアンリ・デュピュイ・ド・ロームが人力飛行船を製作。約10km/hで飛行。
- 1877年: 島津源蔵 (初代)がガス気球で日本初の有人飛行に成功。
- 1903年: ライト兄弟が飛行機による飛行に成功。
- 1897年: スウェーデン人のサロモン・アウグスト・アンドレーが気球で北極海横断を目指すが、消息を絶つ。1930年に遭難が判明。
- 1931年: スイスの気象学者・物理学者オーギュスト・ピカールが密閉されたキャビンを持つ水素気球で、高度約16kmに到達(人類初の成層圏到達)。
- 1944年: 日本が風船爆弾でアメリカ合衆国本土を攻撃。
- 1960年: プロジェクト・エクセルシオにてジョゼフ・キッティンジャーが高度31,330 mのガス気球からパラシュート降下。
- 1961年: アメリカのマルコム・ロス(Malcolm Ross)とビクター・プレイザー(Victor Prather)が到達高度34,668mを達成。
- 1978年: 気球「ダブルイーグルII(ツー)」にてベン・アブラッゾ、マキシー・アンダーソン、ラリー・ニューマンが大西洋横断。
- 1981年11月: アブラッゾが操縦しニューマンと新しくクルーになったロッキー青木、ロン・クラークが乗り組んだ「ダブルイーグルV(ファイブ)」が日本からカリフォルニア州へ飛行し気球による初めての太平洋横断を達成。気球による最長距離絶対世界記録8,382.54 kmを作る。[1]テンプレート:リンク切れ。
- 1984年: ジョゼフ・キッティンジャーが気球による単独での大西洋横断に成功。
- 1991年: 横浜博覧会場から離陸した単独太平洋横断目的のガス気球が日本近海に着水、パイロットの丹羽文雄[3]は死亡。
- 1992年: 風船おじさんこと鈴木嘉和がアメリカを目差し出発し消息を絶つ。
- 1999年: ベルトラン・ピカールとブライアン・ジョーンズがロジェ気球「ブライトリング オービター 3」による無着陸世界一周飛行に成功。
- 2002年5月23日:宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)が無人気球で到達高度53kmを達成。無人気球での世界最高高度記録となる。
- 2002年7月: 米国人のスティーヴ・フォセットがロジェ気球により初の単独気球世界一周飛行に成功。
- 2008年2月: 神田道夫が太平洋横断を目指す途上で消息を絶つ。
- 2012年10月: レッドブル・ストラトスにてフェリックス・バウムガルトナーが到達高度・約128,000フィート(約39,000m)を達成。1961年のロス、プレイザーによる有人気球での公式世界最高高度記録を51年ぶりに更新する。
- 2013年2月26日: エジプト・ルクソールで気球が墜落し、乗客19人が死亡、乗客乗員2人が負傷。気球としては最大の事故。
- 2013年9月20日:宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所が無人気球で到達高度53.7kmを達成。無人気球での世界最高高度記録となる。[4]。
気球の用途
かつては有人飛行によって偵察等に使用されていたが近年ではレジャー関連を除けば気球による有人飛行はパラシュートによる降下訓練等、用途は限られる。無人気球は気象観測やX線や赤外線による天体観測やオゾン層の観測等に使用される。また、一部において酸素よりも塩素と化合しやすいナトリウム蒸気を成層圏で放出することで塩素原子を吸着することによりオゾン層を修復する試みもある[5]。
軍事気球
歴史的に気球は盛んに軍事利用されていた。
観測気球
モンゴルフィエ兄弟以来、もっとも一般的な軍事利用気球。形式としては係留気球が大半を占める。初期の航空機に対してケーブルによる有線電話の確実性と乾板写真撮影時の安定性から、第一次世界大戦頃までは盛んに軍事利用された。イメージから敵戦闘機の攻撃には脆いと思われるが、ゴンドラには機関銃があり、大抵、気球を中心に対空陣地が幾重にも取り囲んであって、時には護衛戦闘機まで配備される上、強力な電動ウインチで急速に昇降するので、実際は観測気球を撃墜するのは至難の業だった。しかし、航空機と無線そして写真機の発達で、第一次大戦後になると有人観測気球は廃れ、無人気球が中心となって行った。
阻塞(そさい)気球
テンプレート:Main 第二次大戦頃まで使用された航空機妨害用の係留気球。爆撃隊の予想進路上に多数配置して攻撃を阻害する。水素ガスを入れて引火し易いようになっており、ナチドイツ空軍は対気球用に機首へワイヤーカッターを装備した爆撃機さえ投入している。英本土航空戦(バトル・オブ・ブリテン)のロンドン上空や、ノルマンディー上陸作戦時の船団護衛に使用された事で有名である。阻塞気球は航空機の進入が低高度であった頃は有効だったが、後に爆撃高度が成層圏に至るまでになると意味を成さなくなった。
気球爆弾
高高度気球
宇宙線やオゾン層、気象観測等の調査の為に高高度気球が用いられる。大気の影響の少ない高高度に長時間滞在できる気球の利点を活かして赤外線やX線による天体観測も行われる。
ゼロ・プレッシャー気球
昼間、太陽光で加熱され内部の浮揚ガスが膨張した場合逆止弁を介してガスを放出する。夜間、浮揚ガスが収縮して浮力が減るとバラストを投下するこれを繰り返すことにより、一定の高度を維持する。日本軍の風船爆弾がこの機構を採用。米本土を爆撃している。
スーパー・プレッシャー気球
浮揚ガスが膨張しても放出しない構造の為に強度の要求水準がゼロプレッシャー気球よりも高い。浮揚ガスを放出しない為に長期間高高度を維持できる[6]。
FNRS-1
FNRS-1はオーギュスト・ピカールの開発した気球である。1931年5月27日、宇宙線やオゾンを研究するために、自らが設計した水素気球に乗ってドイツのアウクスブルク上空16,000 mの成層圏に達した。これは世界初の気球による成層圏到達であり、ピカールはこの業績によりハーモン・トロフィーを獲得した。この気球は直径30mと大型のもので、地上と上空の気圧の差を巧みに利用したものであった。
1932年8月18日にはFNRS-1で自らの高度記録を更新している。彼はその後も気球に乗り続け、計27回の浮上の最高記録は23,000mであった。
その後、ピカールは気球の原理を応用した深々度潜水艇バチスカーフを建造している。
法律における取扱い
テンプレート:See also 気球を航空機としている国が多いが、日本国では「空中障害物」として扱われる。航空法に基づき、気球を飛行・浮遊させる空域によっては、飛行・浮遊させる事が禁止される場合、または飛行・浮遊させる場合に事前に国土交通大臣への届出が必要な場合がある。
気球メーカー
気球に関する作品
- 小説 『気球に乗って五週間』 (著者:ジュール・ヴェルヌ)
- 小説 『ハンス・プファアルの無類の冒険』 (著者:エドガー・アラン・ポオ)
- 児童文学 『おはなしは気球にのって』 (著者:ラインハルト・ユング)
- 楽曲 『気球に乗って』 (歌:THE BOOM、作詞・作曲:宮沢和史)
- 楽曲 『気球にのってどこまでも』 (作詞:東龍男、作曲:平吉毅州)
- ゲーム『風のノータム』(発売元:アートディンク)
- 映画 『気球クラブ、その後』 (監督・脚本:園子温、出演:永作博美、深水元基、長谷川朝晴、川村ゆきえ)
気球のイベント
佐賀インターナショナルバルーンフェスタ
テンプレート:Main 佐賀県で毎年10月下旬から11月上旬にかけての1週間に開催されるアジア最大級の気球のイベント。
バルーンイリュージョン
ツインリンクもてぎで毎年11月に開催される。
参考文献
- 気球の歴史 篠田皎
- 気球の歴史 レナ-ド・コットレル 西山浅次郎
- 気球工学―成層圏および惑星大気に浮かぶ科学気球の技術 ISBN 9784339012262
- 気球をとばす 西村純 ISBN 9784001152043
脚注
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ 気球をとばす 岩波書店
- ↑ 作家の丹羽文雄とは同姓同名の別人。
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ 1999年3/10の朝日新聞夕刊記事
- ↑ 大気球を用いた観測の将来
関連項目
外部リンク
- 無人気球からの映像(高度32kmまで上昇)テンプレート:リンク切れ
- HD balloon near the edge of space, full launch to air sequence - 『無人気球からの映像(高度32kmまで上昇)』の映像記録(上昇時間ノーカット版)cy:Balŵn