ヌートリア

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ファイル:Myocastor coypus4.jpg
泳ぐヌートリア
兵庫県伊丹市昆陽池公園にて撮影)

ヌートリア(Nutria、中国語 海狸鼠、学名:Myocastor coypus)は、ネズミ目(齧歯目)ヌートリア科に属する(以前はカプロミス科に分類されていた)哺乳類の一種。別名沼狸南アメリカ原産。日本には本来分布していない外来種で、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律では指定第一次指定種に分類されている。

名称

かつての日本では、沼狸(しょうり、ぬまたぬき)、海狸鼠(かいりねずみ)、洋溝鼠(ようどぶねずみ)、舶来溝鼠(はくらいどぶねずみ)などとも呼んだ。

「ヌートリア」とはスペイン語カワウソ(の毛皮)を意味し、原産の南米では本種のことを「Coipo」と呼ぶ。英名でも「Nutria」より「Coypu」の方が一般的である。

分布

南アメリカを原産地とするが、毛皮を取るために移入したものが野生化し、現在、北アメリカヨーロッパ日本を含むアジアに帰化して分布する。

形態

頭胴長40-60 cm、尾長30-45 cm、体重5-9 kgの大型の齧歯類である。水辺の生活に適応しており、泳ぎが得意で5分以上潜水することもある。体つきはドブネズミなどに似るが、耳が小さく、後ろ足の第1指から第4指までには水かきがある[1]。オレンジ色の大きな前歯も特徴的。また、水上でも授乳できるよう、乳首がやや背中寄りについている。

歯式は、1/1・0/0・1/1・3/3=20[2]

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立ちあがったヌートリア
後ろ足に水かきがある
ヌートリアの頭蓋骨と歯

生態

半水性で、池沼や流れの弱い河川の岸辺の土手などに巣穴を掘り、普通は雌雄のペアで生活をする。結氷するような寒冷地では生息できない。

主食はマコモホテイアオイなどの水生植物の葉や地下茎である。明け方と夕方に活発な採餌のための徘徊行動が見られ、日中は巣穴で休息していることが多い。雌は定住的で、雄に比べて行動範囲は狭い。若い個体は新しい縄張りを求めて移出する。

季節を問わず繁殖し、年に2、3回出産をする。妊娠期間は約4ヶ月で、平均5匹の子を産む。十分に発達してから産まれるため、丸一日後には泳げるようになり、3日後くらいには早くも成体と同じ餌を摂り始める。その後約半年で性成熟する。寿命は5-8年程度。

生態はマスクラットによく似ており、形態も類似しているため、混同されることがある[3]

利用

毛皮

ヌートリアは丈夫で育てやすく、柔らかい上質な毛皮が安価に入手できるため、第二次世界大戦頃には、軍隊の防寒服用として世界各国で飼育された。

日本では1939年フランスから150頭が輸入され、飼育が奨励された。このころは軍隊の「勝利」にかけて「沼狸」(しょうり)と呼ばれ、1944年ごろには、日本全国で4万頭が飼育されていた[4]

中国では1953年、当時のソビエト連邦から毛皮と展示目的に移入され、農村経済の自由化が始まった1980年ごろには、毛皮が採れると多くの農民が飼育したが、管理の悪さによって、死亡率が高く、毛皮の品質も悪く、利益が出ないまま、多くは飼育放棄に至った。

生肉にはタンパク質20%-21%、脂肪4%-10%が含まれている。中国、特に広東省広西チワン族自治区広東料理では、「野味」と呼ばれる各種野生動物の料理(ジビエ)が珍重されており、ヌートリアも省区内や江西省などで飼育されたものであるが食用にされている。料理店では「鼠」という字を避けて、「海龍」と呼ばれる場合がある。炒め物揚げ物にする例が多い。1965年ごろ、広州動物園の中にあった鶯園という野味料理店では酢豚を応用した「糖醋海狸鼠」という料理が出されていて、イノシシに似た食味であったという[5]

外来種問題

日本では、第二次世界大戦終戦後、毛皮の需要が激減したことに伴い、飼育されていたものの多くが野外に放逐された[6]。また、1950年代の毛皮ブームでは本種の飼育が流行したが、その後の毛皮価格の暴落に伴い、このときも多数が野に放たれ、野生化している。これらの子孫が各地で定着し、アライグマと同様に野外繁殖が問題となっている岐阜県可児川をはじめとした東海より西の西日本各地(広島県岡山県大阪府京都府島根県香川県近畿東海の各府県)に分布が拡大している[4]茨城県千葉県埼玉県神奈川県滋賀県石川県福岡県などでも記録はあるが、継続的な生存情報はない[3]

日本では侵略的外来種として問題になっており、イネオオムギ、葉野菜などに対する食害のほか、絶滅危惧種に指定されているベッコウトンボの生息地を壊滅させる[3]など、在来種の生態系への影響も深刻である。さらに、本種の巣穴は複雑に入り組んでいて深く、水田の畦や堤防が破壊される原因にもなっている[6]。住宅の庭先への侵入や漁網を食い破る被害も少ないながら発生している[7]

2005年6月には、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)によって特定外来生物に指定されており、50を超える地方自治体が同法に基づく防除計画を策定している[8]。ただし、同じく特定外来生物のアライグマと比べて、防除体制はあまり進んでいない[9]。兵庫・島根・岡山の3県では2005年度に4500万円を超える被害に遭い、約3000頭を駆除したが、個体数の減少には至っていない[4]世界の侵略的外来種ワースト100日本の侵略的外来種ワースト100に選定されている。

イギリスでも1920年代の毛皮用として導入され、1950年代には20万頭以上まで増加した[4]。その後、10年がかりで約100万頭を駆除し、1989年に根絶に成功した[6]。寒冷下では尾の凍傷から感染し死に至ることがしばしばある。これが原因でスカンディナビアでは絶滅している。

脚注・参考文献

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関連項目

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  • 3.0 3.1 3.2 テンプレート:Cite book
  • 4.0 4.1 4.2 4.3 テンプレート:Cite book
  • 大島徳弥、『百味繚乱―中国・味の歳時記』pp107-109、1969年、東京、文化服装学院出版局
  • 6.0 6.1 6.2 テンプレート:Cite book
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  • 「巨大ネズミ被害を防げ "食欲旺盛"ヌートリア 50超す自治体が対策」 『産経新聞』 2009年12月28日付夕刊、大阪本社発行4版、1面。
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