脂肪
テンプレート:出典の明記 脂肪(しぼう、テンプレート:Lang-en-short)とは脂(あぶら)ともいい、動植物に含まれる栄養素の一つ。通常、脂肪酸のグリセリンエステルの中性脂肪であることが一般的である。有機栄養素のうち糖質(炭水化物)、たんぱく質、脂肪は、多くの生物種で栄養素であり、「三大栄養素」とも呼ばれている。
常温で液体の油脂は油 (oil) であるが、栄養学における脂肪は固体と液体の両方を含む油脂のことを指す。
概要
脂肪のカロリーは9kcal/gであり、炭水化物、タンパク質の4kcal/gよりも単位重量あたりの熱量が大きく、哺乳類をはじめとして動物の栄養の摂取や貯蔵方法として多く利用されている。
食物から摂取したり、体内で炭水化物から合成された脂肪は肝臓や脂肪組織に貯蔵される。脂肪からエネルギーを得るときには、モノグリセリド(かつてはグリセリンとされていた)と脂肪酸に加水分解してから、脂肪酸をβ酸化代謝によりさらにアセチルCoAに分解する。
安静時や強度の低い運動時には脂肪の方が糖よりも多く使われている。血糖やグリコーゲンは利用しやすいが貯蔵量は多くはないので安静時などではあまり多くは使われず、強度の高い運動時などに糖が優先的に使われるようになる[1]。
エネルギーの貯蔵と生存
成人では基礎代謝量は1日およそ1600キロカロリーであるが、栄養摂取量が減少すると1200キロカロリーに落ち、延命を図ろうとする生理的反応が起こる。栄養が欠乏するとまず筋肉が分解されたんぱく質として利用され、次に脂肪がエネルギーとして利用される。これにより、水分の補給があれば絶食状態で1~2ヶ月程度生存でき、この限界を越えれば餓死に至る。ただし、肥満の人(脂肪の貯蓄の多い人)はこれより長く生存できる。痩せた人(脂肪の貯蓄の少ない人)はこれより短めで死に至ると考えられる。餓死は体内の脂肪を使い切った後に起こるものであり、(水分の補給があれば)肥満状態の人間が餓死することは無い。肥満の場合、まずは脂肪を使い切る期間を経た上で餓死に向かう。脂肪量によっては3~4ヶ月以上かかることもある。水だけで3ヶ月以上生存するというのは信じ難いかも知れないが、同じ哺乳類である熊などは脂肪を蓄えた状態で冬眠して数ヶ月すごすので決して無理な数字ではない。仮に、体重70kg、体脂肪率20%とし、脂肪のカロリーを9kcal/g、低下した基礎代謝を1200kcal/日とすると、70 kg x 0.2(体脂肪率)x 9 kcal/g / 1200 kcal/日 = 105日、となり3ヶ月半ほど生存することができる。ただしあくまで生存が可能であるというだけで、健康な状態を維持することは不可能に近い。
食物要素 | 目標(総エネルギー%) | |
---|---|---|
総脂肪 | 15-30% | |
飽和脂肪酸 | 10%未満 | |
多価不飽和脂肪酸(多価不飽和) | 6-10% | |
ω-6脂肪酸(多価不飽和) | 5-8% | |
ω-3脂肪酸(多価不飽和) | 1-2% | |
トランス脂肪酸 | 1%未満 | |
一価不飽和脂肪酸 | 差分 |
摂取バランス
タンパク質(Protein)・脂肪(Fat)・炭水化物(Carbohydrate)のカロリーベースでの摂取バランスのことを、それぞれの頭文字をとってPFCバランスという。この中で、脂肪の比率を25~30%以下に抑えることが、生活習慣病を予防するための食生活指針の考えの一つとなっている。炭水化物は一般的に60%前後ともっとも多く必要だと考えられており、日本の食生活指針では炭水化物を主に提供する食品を主食としている[3]。
一日のエネルギー必要量は、男性では2660(kcal)、女性では1995(kcal)であり、脂肪のエネルギー量は9 kcal/gであり、仮に20%の値を当てはめると、以下のとおりとなる。
- 男性では、2660 kcal/日 x 0.2 / 9 kcal/g =60 g/日(植物油大匙4杯/日に相当)
- 女性では、1995 kcal/日 x 0.2 / 9 kcal/g =45 g/日(植物油大匙3杯/日に相当)
望ましい摂取割合
厚生労働省によると、脂質所要割合は、脂肪エネルギー比率で成人で20-25%の範囲が望ましい。飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の望ましい摂取割合は、おおむね3:4:3であり、ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の比は、健康人では4:1程度である[4]。
脂肪の過剰な摂取・蓄積のリスク
脂肪の過剰な蓄積は、肥満や脂質異常症等のメタボリック症候群をもたらし、動脈硬化症や心臓病のリスク要因となる。詳細は、肥満#皮下脂肪型肥満からなりやすい病気、脂質異常症#脂質異常症に由来する疾患を参照のこと。
高脂肪食など脂肪の過剰な摂取は、腸内でのリトコール酸などの二次胆汁酸の増加を招き、DNA傷害や酸化ストレス、細胞毒性などにより大腸がんなどの疾病のリスクとなる[5]テンプレート:信頼性要検証。乳がんの発生には女性ホルモン(エストロゲン)が関与し、高脂肪食、肥満も関与する。これは特に閉経後の女性で、脂肪組織でエストロゲンが作られるからである。
化学
テンプレート:Main 化学では常温で固体の油脂をいう。純粋な脂肪は無味無臭無色であるが、天然のものは不純物が溶けているために色が付いている。脂肪と水酸化カリウムや水酸化ナトリウムとを反応させると加水分解により高級脂肪酸塩(石鹸)が得られる。この反応をケン化(鹸化)という。脂肪族化合物とは、有機化合物のうち炭素原子の環状配列をもたないものをいう。脂肪中に含まれるので名づけられた。鎖式化合物ともいう。
各種脂肪の特徴
テンプレート:Main 動物の体内に主に含まれている脂肪を動物性脂肪という。動物性脂肪は飽和脂肪酸を多く含むので融点が高い。魚類の脂肪には多量の不飽和脂肪酸を含むものが多い。
植物に含まれている脂肪を植物性脂肪という。植物性脂肪は不飽和脂肪酸を多く含むので融点が低い。このため、菜種油のように常温で液体なものが多い。ただ、ココナッツ油やカカオバターのように飽和脂肪酸を大量に含む油もある。
脚注
関連項目
テンプレート:Biochem-stub- ↑ 新たな乳酸の見方、八田 秀雄、学術の動向、Vol. 11 (2006) No. 10
- ↑ Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases, 2003
- ↑ 『食事バランスガイド 厚生労働省・農林水産省決定 フードガイド(仮称)検討会報告書』(PDF) 第一出版、2005年12月。ISBN 4-8041-1117-4。
- ↑ 第6次改定日本人の栄養所要量について (厚生労働省)
- ↑ 加藤範久 広島大学 大腸がんの危険因子である2次胆汁酸を減少させるポリフェノールを発見 (大学院生物圏科学研究科)