グレート・ギャツビー
テンプレート:Redirect テンプレート:基礎情報 書籍 テンプレート:Portal 『グレート・ギャツビー』(The Great Gatsby)は、アメリカの作家F・スコット・フィッツジェラルドが執筆し1925年4月10日に出版された小説。フィッツジェラルドの代表作であると同時に、現在ではアメリカ文学を代表する作品の一つであると評価されており[1]、Modern Libraryの発表した英語で書かれた20世紀最高の小説では2位にランクされている。
目次
執筆と出版の過程
作品の舞台となったウェスト・エッグはニューヨークに実在する高級住宅地、グレート・ネックをモデルにしており、フィッツジェラルド自身も居住していたことがある。 テンプレート:節stub
あらすじ
1922年のアメリカ。中西部出身のニック・キャラウェイは、イェール大学を卒業後ほどなくして戦争に従軍し、休戦ののち故郷へと帰ってきた。しかしそこに孤独感を覚えた彼は証券会社で働くことを口実に、ニューヨーク郊外のロング・アイランドにある高級住宅地ウェスト・エッグへと引っ越してくる。隣の大邸宅に住んでいる人物は毎夜豪華なパーティーを開いている。青みを帯びた庭園には男たちや女たちが蛾のように集まって、ささやきやシャンパンや星明かりの下を行き交った。その屋敷の主がジェイ・ギャツビーという人物であると知り、興味を持つ。ある日、ニックはギャツビーのパーティーに招かれる。しかし、そのパーティーの参加者のほとんどがギャツビーについて正確なことを知らず、彼の過去に関して悪意を含んだ噂ばかりを耳にする。やがてニックはギャツビーが5年もの間胸に秘めていたある想いを知ることになる。
登場人物
- ジェイ・ギャツビー(Jay Gatsby) - 本作の主人公。陸軍の将校を経験した後、禁酒法時代のアメリカにおいて酒の密輸に手を染め、若くして富を得る。とはいえ、その多くは謎に包まれており、さまざまな流言飛語が飛びかっている。
- ニック・キャラウェイ(Nick Carraway) - 本作の語り手。登場時29歳(作品の最後で30歳になる)。イェール大学を卒業し、証券会社で働いている。ギャツビーの大邸宅の隣に住んでいる。物静かな好青年。
- デイジー・ブキャナン(Daisy Buchanan) - トムの妻。天真爛漫だが軽薄で俗物的。若かりし頃は、その美しさで近隣の若者や駐屯している軍人からアイドル扱いされていた。ニックのまたいとこの子供。
- トム・ブキャナン(Tom Buchanan) - ニックとは友人関係。現在はデイジーの夫で30代。シカゴ出身の大金持ち。壮健な肉体を誇り、傲慢で横柄な男性。
- ジョーダン・ベイカー - プロゴルファーでデイジーの古くからの親友。中性的な美女。
- ジョージ・ウィルソン - カーガレージのオーナー。大得意であるトムには頭があがらない。素朴な正直者。
- マートル・ウィルソン - ジョージの妻。美人ではないが肉感的な魅力に富む。男性的な魅力に溢れるトムとの不倫を楽しむ。
評価
- 出版当初は批評家や編集者から好意的な評価を得た。たとえば、のちにノーベル文学賞を受賞する詩人・批評家のT・S・エリオットは、「ヘンリー・ジェイムズ以後のアメリカ小説が踏み出した新たなる一歩」と称賛している。しかし、初版の売上は2万部程度であり、商業的に成功した作品とは言えなかった。本作品がアメリカ文学のみならず、世界の近代文学における古典として評価されたのは、フィッツジェラルドの死後から数十年を経た後であり、再評価にいたるまで絶版になっていた時期もある。
- 『老人と海』などで知られ、ノーベル文学賞を受賞してもいるアーネスト・ヘミングウェイは、作家としての下積み生活を送っていたパリ滞在中の思い出をつづったエッセイ『移動祝祭日』のなかで、『グレート・ギャツビー』について次のように書いている。
- 「……(フィッツジェラルド本人の奇矯な振る舞いや欠点について忌憚なく辛辣に語った後に彼は語る)……最後まで読み終わったとき、私は悟ったのだった、スコットが何をしようと、どんな振る舞いをしようと、それは一種の病気のようなものと心得て、できる限り彼の役に立ち、彼の良き友人となるように心がけねばならない。スコットには素晴らしい友人がたくさんいた。私が知っている誰よりも大勢いた。しかし、彼の役に立とうが立つまいが、私もまた彼の友人の輪の新たなる一員となろう。そう思った。もし彼が『グレート・ギャツビー』のような傑作を書けるのなら、それを上回る作品だって書けるにちがいない……」
- 自ら翻訳している村上春樹は自著『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』(中公文庫)で高貴さ・喜劇性・悲劇性をたっぷりともつ作劇術「アメリカン・ドラマツルギー」を20世紀の初頭に出現した巨大な大衆社会にすっぽりと適合させ、アメリカ文学の新しい方向性を切り開く先駆となった」といい、「過不足のない要を得た人物描写、ところどころに現れる深い内省、ヴィジュアルで生々しい動感、良質なセンチメンタリズムと、どれをとっても古典と呼ぶにふさわしい優れた作品となっている」という。
影響
- J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』でもこの本が登場する。サリンジャーの同作は、『グレート・ギャツビー』との共通点も多いトルーマン・カポーティの『ティファニーで朝食を』などの作品とともに、「イノセンス(無垢)」をテーマにしたアメリカ文学の系譜のなかでも高く評価されている。現在では両作ともに世界中の読者から愛読されている。
- 村上春樹の『ノルウェイの森』でも主人公がよく読んでいる本として登場する。村上は『グレート・ギャツビー』を自分が最も影響を受けた作品の一つに挙げており、本作の日本語訳も手がけている。
- マンダムの男性化粧品ブランド「ギャツビー」の由来にもなっている。
主な日本語訳
- 『華麗なるギャツビー』 大貫三郎訳 角川文庫 改版1989年 ISBN 4042155014、初版は『夢淡き青春 グレート・ギャツビィ』1957年。
- 『華麗なるギャツビー』 佐藤亮一訳 講談社文庫 1974年(品切)
- 『華麗なるギャツビー』 橋本福夫訳 ハヤカワ文庫 1974年(品切)
- 『華麗なるギャツビー』 守屋陽一訳 旺文社文庫 1978年(品切)
- 『グレート・ギャツビー』 村上春樹訳 新書版:中央公論新社 2006年 ISBN 4124035047
- 『グレート・ギャッツビー』 小川高義訳 光文社古典新訳文庫 2009年 ISBN 978-4334751890
他メディア化
映画化
原題はいずれも“The Great Gatsby”。
- 『或る男の一生』(1926年、監督:ハーバート・ブレノン、主演:ワーナー・バクスター)
- 『暗黒街の巨頭』(1949年、監督:エリオット・ニュージェント、主演:アラン・ラッド)
- 『華麗なるギャツビー』(1974年、監督:ジャック・クレイトン、主演:ロバート・レッドフォード)
- 『華麗なるギャツビー』(2000年、監督:ロバート・マーコウィッツ、主演:トビー・スティーヴンス)
- 『華麗なるギャツビー』(2013年、監督:バズ・ラーマン、主演:レオナルド・ディカプリオ)
舞台化
テンプレート:Main 1999年に、メトロポリタン歌劇場の音楽監督のジェームズ・レヴァインのデビュー25周年を記念し、同劇場でオペラ化された作品が上演された。
日本では、宝塚歌劇団によって舞台化されている。詳細は別項「宝塚歌劇団によって舞台化された作品の一覧」を参照。
その他
当時のアメリカは、連邦禁酒法が施行されていたにもかかわらず、作中では飲酒する場面が何度も登場する。これは、連邦禁酒法では製造・販売は禁止されていたが、飲酒自体は禁止されていなかったことによる。
学術的参考文献
- リチャード・リーハン『「偉大なるギャツビー」を読む - 夢の限界』、伊豆大和訳、旺史社、1996年9月(原書1990年)。
- 野間正二『「グレート・ギャツビー」の読み方』、創元社、2008年9月。
- 杉野健太郎「ギャツビー、アメリカ人になる - 『グレート・ギャツビー』はなぜグレートか」、『カウンターナラティヴから語るアメリカ文学』(伊藤詔子監修、新田玲子編、音羽書房鶴見書店、2012年10月)所収。
- 長瀬恵美『「グレート・ギャツビー」の言語とスタイル』、大阪教育図書、2013年1月。
- 杉野健太郎「アダプテーションをめぐるポリティクス - 『華麗なるギャツビー』の物語学」、『交錯する映画 - アニメ・映画・文学』、映画学叢書(加藤幹郎監修、杉野健太郎編、ミネルヴァ書房、2013年3月)所収。
外部リンク
- The Great Gatsby, from Project Gutenberg Australia
脚注
- ↑ 村上春樹は『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』(中央公論新社)pp.193-197のなかで、アメリカ文学史で最もアメリカらしい小説を3つあげると『白鯨』『グレート・ギャツビー』『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を人はあげるであろう。3つに共通しているのは、主人公が1)志において高貴であり、2)行動スタイルにおいては喜劇的であり、3)結末は悲劇的である、という点であると指摘している。「その高貴さ・喜劇性・悲劇性はたっぷりとーーいささか危ういまでにたっぷりと拡大されている。こういった作劇術を「アメリカン・ドラマツルギー」と呼ぶことができる」という。