ライ麦畑でつかまえて
テンプレート:Portal 文学 『ライ麦畑でつかまえて』(ライむぎばたけでつかまえて, 英:The Catcher in the Rye)は、J・D・サリンジャーが1951年に発表した小説である。
目次
タイトル
原題 The Catcher in the Rye は、物語の中で子どもが歌うロバート・バーンズの詩
- "If a body meet a body Comin' through the rye"[1]
を、主人公が
- "If a body catch a body comin' through the rye"
と聞き間違えたところから来ている。
日本でのタイトルは、
- 1952年の橋本福夫訳では『危険な年齢』(版元ダヴィッド社の命名による邦題)
- 1964年の野崎孝訳では『ライ麦畑でつかまえて』 白水社、のち白水Uブックス
- 1967年の英潮社版繁尾久対訳では『ライ麦畑の捕手』
- 2003年の村上春樹訳では 『キャッチャー・イン・ザ・ライ』、白水社。
訳者解説は、柴田元幸共著『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』(文春新書、2003年)。
内容
大戦後間もなくのアメリカを舞台に、主人公のホールデン・コールフィールドが3校目に当たるボーディングスクールを成績不振で退学させられたことをきっかけに寮を飛び出し、実家に帰るまでニューヨークを放浪する3日間の話。
自身の落ちこぼれ意識や疎外感に苛まれる主人公が、妹に問い詰められて語った夢:<自分は、広いライ麦畑で遊んでいる子どもたちが、気付かずに崖っぷちから落ちそうになったときに、捕まえてあげるような、そんな人間になりたい...>が作品の主題となっている。このクライマックスシーンを導くために主人公の彷徨のストーリーが積み重ねられている。
特徴と影響
1945年発表の短篇「気ちがいのぼく」(原題:I'm Crazy)を詳細に書いた内容となっており、主人公がニューヨークを放浪して家に帰った後、いくらか月日が経過してから「君」に語りかける構造になっている。くだけた口語体で主観的に叙述されているため、事実とは異なると思われる誇張表現や支離滅裂な文体が散見される。今では、その当時の若者言葉を記録している本として、参考文献にされている。その独自な文体に加え、欺瞞に満ちた大人たちを非難し、制度社会を揶揄する主人公に共感する若者も多い。
しかし攻撃的な言動、アルコールやタバコの乱用、セックスに対する多数の言及、売春の描写などのため、まだピューリタン的道徳感の根強い発表当時は一部で発禁処分を受けている。
若者の熱狂的な支持と体制側の規制は、アメリカの「暗部」の象徴としての役割を負うことになった。ジョン・レノンを射殺したマーク・チャップマンも、レーガン元大統領を狙撃したジョン・ヒンクリーも愛読していた。
アメリカのみならず、全世界の若者に与えた影響ははかりしれず、発表以来60年以上経った今でも版を重ねている。累計発行部数は全世界で6000万部、アメリカで1500万部を超え、2003年時点でも全世界で毎年25万部が売れるという。2002年には野崎訳の累計発行部数が250万部を突破した[2]。
続編騒動
2009年6月1日、「ライ麦畑でつかまえて」の続編と称し、2009年9月にスウェーデンの出版社から発売される予定の作品「60年後 ライ麦畑を通り抜け」(著者は「J・D・カリフォルニア」)に対し、著者であるサリンジャーは出版差し止めを求め、作者と出版社を著作権侵害で提訴した[3][4]。訴状でサリンジャーは、「知的財産を被告に使わせるつもりはない」「続編はパロディーでも批評でも批判でもない」としている。2009年7月1日、ニューヨーク連邦地方裁判所はアメリカ合衆国内での出版差し止めを命じた[5]。
本作が登場または引用される作品
映画
- 『コレクター』1965年
- 『アニー・ホール』1977年 - ダイアン・キートン演じるアニー・ホールの愛読書として登場。
- 『シャイニング』 1980年 - 主人公の妻ウェンディーが昼食を食べながら読んでいる。
- 『恋する女たち』1986年 - 斉藤由貴演じる吉岡多佳子が茶道部の部室で白水Uブックス版を音読している。
- 『陰謀のセオリー』1997年 - 主人公ジェリー・フレッチャー(演:メル・ギブソン)は既に何冊もの『ライ麦畑でつかまえて』の本を持っているにも関わらず、時々この本を買わずにはいられなくなる。実はその理由は、特殊工作員として訓練や洗脳を受けた際に施された、たとえ脱走してもこの本を買うことで所在が明らかになるという一種の拘束策であり、実際劇中ではジェリーが書店でこの本を買った瞬間、書店を対象にした監視システムに発見されている。
- 『ライ麦畑をさがして』2001年 - 家庭や自身の精神に多くの悩みを持ち、『ライ麦畑でつかまえて』を肌身離さず愛読する主人公の少年が、サリンジャーとの出会いを求めて旅する青春映画。
- 『グッド・ガール』 The Good Girl 2002年
- 『小説家を見つけたら』 Finding Forrester 2000年
アニメ・漫画
- 『よみがえる空 -RESCUE WINGS-』 - 第4話と第10話で登場
- 小室みつ子『赤いベスパで』 - 主人公の妹、フィービーが登場する。
- 『彼氏彼女の事情』 - 第4話
- 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』 - ストーリーの根幹を成す「笑い男事件」のモチーフとされている。本文からの引用がなされる他、主人公の服装に酷似した人物が登場したり、野崎訳の白水社版によく似た書影・ページが登場するなど、重要な要素として扱われる。これは当該作品の監督兼脚本を担当した神山健治の少年時代の愛読書であることに由来する。
- 『サウスパーク』 - 第14シーズン第2話「 The Tale of Scrotie McBoogerballs」で登場。
- 『暗殺教室』-第53話で登場。殺せんせーと本校の教師が授業で勧めていた。
シットコム
- ボーイ・ミーツ・ワールド - ショーンが書いた詩のタイトルが「J.D.サリンジャーに捧げる未発表の手書き原稿」というもの。この詩を聞いたコーリーはショーンが書いたものだと気付かず「すぐ有名人を引き合いに出すなんて安易だ。大体、サリンジャーの本なんて『ライ麦畑で捕まえて」だけだろ?最近は全然書いてないじゃないか!」と頓珍漢な批評をして不評を買った。
ゲーム
- 『ラブプラス』ヒロインの一人である小早川凛子の愛読書
音楽
- 渡辺美里 - BOYS CRIED -あの時からかもしれない- の歌詞に現れる
- ガンズ・アンド・ローゼス - 「キャッチャー・イン・ザ・ライ」、アルバム『チャイニーズ・デモクラシー』収録
脚注
- ↑ 曲は『故郷の空』として有名
- ↑ 発行部数は『文學界』2003年6月号「サリンジャー再び」による。
- ↑ サリンジャー氏、「ライ麦畑でつかまえて」続編をめぐり提訴ロイター、2009年6月2日。
- ↑ ライ麦畑「続編はダメ」 サリンジャー氏、差し止め要求朝日新聞、2009年6月2日。
- ↑ 「ライ麦でつかまえて」続編差し止め サリンジャー氏勝訴 産経ニュース 2009.7.2
参考文献
- 渥美昭夫・井上謙治編 『サリンジャーの世界』 荒地出版社、1969年。
- 竹内康浩 『サリンジャー解体新書「ライ麦畑でつかまえて」についてもう何も言いたくない』 荒地出版社、1998年。
- 竹内康浩 『ライ麦畑のミステリー』 せりか書房、2005年。
- 田中啓史 『「ライ麦畑のキャッチャー」の世界』 開文社、1994年。
- 田中啓史 『イエローページ サリンジャー』 荒地出版社、2000年。
- 田中啓史編 『ライ麦畑でつかまえて』 ミネルヴァ書房、2006年。
- ポール・アレクサンダー 『サリンジャーを追いかけて』 DHC、2003年。
- イアン・ハミルトン 『サリンジャーをつかまえて』 文春文庫、1998年。
- ウォーレン・フレンチ編 『サリンジャー研究』 田中啓史訳、荒地出版社。
- ホールデンコールフィールド協会編 『「ライ麦畑」の正しい読み方』 飛鳥新社、2003年。