近鉄8810系電車

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近鉄8810系電車(きんてつ8810けいでんしゃ)とは、近畿日本鉄道の保有する通勤形電車の1系列。

本稿では、同じ奈良・京都線用として製造された界磁チョッパ制御車、9000系電車9200系電車についても記述する。

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8810系

テンプレート:鉄道車両 1981年(昭和56年)に奈良線京都線用に製造された界磁チョッパ制御を採用した4両編成の電車。2013年現在、8911Fは大阪線に転出。大阪難波京都伊勢中川(大阪線編成)寄りからク8910(偶数) (Tc) +モ8810(偶数) (M) +モ8810(奇数) (M) +ク8910(奇数) (Tc) と編成を組む。

車体

運転台のある妻面は従来車とは異なり切妻に近くし、正面行先表示器は貫通路上部と屋根の間に収め、正面の前照灯の周りをステンレスの板で囲んだデザインが斬新である。界磁チョッパ制御からVVVFインバータ制御に制御方式が変わってもこの正面のデザインは、2000年平成12年)のシリーズ21登場まで長らく使われていた。大阪線1400系の奈良線バージョンと言え、車体幅が2,800mmで裾を絞っているという点、制御装置が日立製作所[1]という点以外はほぼ同一である。なお登場当初、側面には8800系同様の行灯式種別表示が装着されていたが、のちに9000系に準じたデザインの行先表示器に改められている。

主要機器

主電動機は近鉄初の複巻電動機三菱電機MB-3270-A[2]を採用し、1両あたり4基搭載。歯車比は4.72で、これも標準軌線の界磁チョッパ通勤車に共通する。台車は積空比の大きな通勤車用であることを考慮し、空気バネ径を大きくしたダイレクトマウント式空気ばねシュリーレン式台車の近畿車輛KD-88・88Aを採用。パンタグラフは下枠交差形のPT-48。8812F - 8818Fでは電動発電機コンプレッサはTc1に設置されていたが、8820F以降はコンピューター計測による軽量化が推進された関係でコンプレッサがTc2に移設、8826Fは冷房装置の変更により、車体高さが変更され、側面には当初より行先表示器が設置されるといったマイナーチェンジが実施されている。 起動加速度は2.5km/h/sで最高速度110km/h、33‰上り勾配区間・架線電圧10%減・定員乗車条件でも均衡速度90km/hを確保している。

改造・転属

8826Fは1986年から1989年の間は方向転換・改造のうえ、大阪線に転属して使用されていたが、再度奈良線に復帰し仕様を戻して使用されている。

2000年から2007年(平成19年)までに全編成とも車体更新を完了し、8820F以降は5800系シリーズ21と同等の化粧版に交換され、8826Fでは車椅子スペース転落防止幌が設置されている。更新で転落防止幌が設置されなかった8812F - 8824Fにも2007年から2012年にかけて順次設置された。急勾配区間や悪天候時の空転発生を考慮して全編成に増粘着剤噴射装置の取り付けが行われている。2012年から2013年にかけて新型ATS(ATS-SP)設置・デッドマン装置更新、戸締灯の増設工事を完了している。

2004年(平成16年)2月には8812Fが方向転換のうえ大阪線用に改造されて大阪線高安検車区に転配され、2014年4月現在はこの1編成のみ大阪線に所属している他は、全編成が奈良線東花園検車区に配置されている[3]。電算記号は奈良線系統の4連車を意味する「L」を用いて、8800系に続き「FL」が採用され、同系同様に大阪難波・京都寄りのM車を基準としてFL12 - 26(偶数)であった。8826Fは大阪線在籍時代にはFC25と呼ばれていたが、これは兄弟車に相当する同線の1400系が、大阪上本町寄りのM車を基準としてFC01、FC03…となっていたことにならったものである。この例は8812Fにも引き継がれ、転属に際しFL12からFC11へと変更された。

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9000系

テンプレート:鉄道車両 1983年(昭和58年)に登場した8810系の2両編成バージョン。名古屋線1200系を車体幅2,800mmにして、裾を絞ったバージョンである。名古屋寄りからク9100 (Tc) +モ9000 (Mc) と編成を組む(奈良線時代は大阪難波・京都寄りからモ9000 (Mc) +ク9100 (Tc) と編成を組んでいた)。

車体

8810系と異なり全車当初より側面に行先表示器が取り付けられている。なおモ9001のみは、運転席後方の仕切ガラスを、竣工後に遮光性を持たせた黄土色のものへ試験目的で交換され、これが現在もそのまま装着され続けている。このガラスは後に22000系で乗務員室仕切ガラスに本格採用されている。

主要機器

主電動機は1200系と同形のMB-3277-AC、制御装置は8810系と同形のMMC-HTR-20H[4]で、電動発電機はHG-77463、コンプレッサはC-2000MをTc車に搭載。パンタは下枠交差形のPT-48をMc車に2基搭載。9005F以降は8925Fと同様、冷房装置の仕様変更で車体高さが変更となり、また9003F以降のコンプレッサはHS-10に変更されている。

改造・転属・転属後の運用

2001年から2003年にかけて全編成に車体更新が施工されている。更新により、内装の壁紙を5800系と同様のラベンダーブルーに改装されている。また、9003F以降は転落防止幌(9001F・9002Fはワンマン対応改造時に設置)、車椅子スペース[5]が設置されている。2012年から2013年にかけて新型ATS(ATS-SP)設置・デッドマン装置更新工事を完了している。

2003年(平成15年)10月から2006年(平成18年)12月にかけて全編成が方向転換・改造[6]のうえ、名古屋線に転配され、1810系を置き換えている。これにより奈良線系統から9000系は消滅した。

電算記号は、奈良線系統在籍時代には同線系統の2連車を意味する「E」を用いたFE01 - FE08であったが、名古屋線転属時には大阪・名古屋線系統の33パーミル勾配区間の走行が可能な2連車を意味するWを用いてFW01 - FW08に変更されている。

転属後は2両単独編成ないしは他系列を連結した4・5両編成で主に名古屋線の準急、普通列車のほか、2610系・2800系改造L/Cカーや5200系、5800系などの増結車とした6両編成の急行にも多く運用されている。早朝・深夜は間合いで大阪線東青山駅 - 伊勢中川駅間の普通電車でも運用され、「快速急行」などの大阪線用の行先表示も一部装備しているが、現行ダイヤでの快速急行の増結編成はワンマン改造が施工されていないVVVFインバータ車と2800系2両編成車両が中心であるために、本系列の快速急行運用は存在しない[7]。ワンマン対応編成は名古屋線白塚駅 - 志摩線賢島駅間のワンマン列車でも運用されている。

2006年に9007Fへワンマン運転対応改造[8]が施工され、2007年5月から同年12月までには9008F[9]・9005F・9001F・9002Fの順にワンマン改造された。改造内容は2003年以降のワンマン改造車と同じく、クーラーキセへの車外スピーカーの取付と、先頭車への運賃表設置および運転士側の座席1列を撤去して跡地に運賃箱を設置したが、ワンマン表示については行先方向幕の交換は行われず、運転室車掌側に電光表示器を取り付けて対応している。残りの3編成(9003F・9004F・9006F)については2014年現在でもワンマン対応改造が施工されていない。全編成に増粘着剤噴射装置の取り付けが行われている。

9001F・9002F・9005F・9007F・9008Fは明星検車区[3]、9003F・9004F・9006Fは富吉検車区に配置されている[3]。転属以前は全車両が東花園検車区に配置されていた。

アートライナー

  • 9003Fク9103:緑博みえ2014(2013年10月1日 - )[10]

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9200系

テンプレート:鉄道車両 1983年(昭和58年)、当時京都線の組成上において奇数編成が必要であったことから8810系の3両編成バージョンとして登場。途中で中間車が増備され4両編成となっている。大阪・名古屋線の2050系に相当する。大阪難波・京都・伊勢中川 (大阪線所属編成) 寄りからモ9200(偶数) (Mc) +モ9200(奇数) (M) +サ9310(旧サ9350) (T) +ク9300 (Tc) と編成を組み、全車当初より側面に行先表示器が取り付けられている。

主要機器

9000系と異なりMcとMがユニットの1C8Mで、主電動機はMB-3270-A[11]を1両あたり4基搭載。M車に制御器とパンタPT-48を2基、Mc車に界磁機器とコンプレッサー (HB-2000) 、Tc車に電動発電機 (HG-634) を搭載。制動装置も8810系と同じく回生制動に連動するHSC-R電磁直通ブレーキである。台車はKD-88を装着する。

改造・転属

1991年(平成3年)に京都線の長編成化で3両編成の需要が減少したため、サ9350形(現在のサ9310形)を4両新造して各編成に組み込まれ4連化された。増備された中間車は1020系のサ1170形や1620系のサ1770形と同じデザインのアルミ車体となり、車体断面形状が変化したため、編成の中でアクセントとなっている。ひじ掛けは二段式で、乗降扉の仕様や台車も他のアルミ車両に準じ、台車はKD-96Cを装備する。ただし、サ9310形では上記2形式などとは異なり車内の蛍光灯カバーに在来車の廃車発生品を採用していたり、転落防止幌の形状が連結相手のものと同一形状のものが採用されていたりと、特徴的な差異が見受けられる。

全編成が2001年から2007年9月までに、製造年の異なるサ9310形を除き更新が完了している。更新により、転落防止幌、車椅子スペースの設置、内装の壁紙をL/Cカーと同じ色のものに変更している。9202F・9204Fでは乗降扉のガラスが複層ガラスに取り替えられた。
2007年に更新された9208Fは座席が7020系に準じた格子柄の赤系に張り替えられている。これに併せて車体更新の行われていないサ9314形にも、車椅子スペースの設置や座席の張替え(従来のエンジから7020系に準じた赤系に変更)が行われている。2011年から2012年にかけてサ9311形 - サ9314形に1233系1430系6413系と同様の簡易内装更新が施工され、座席モケットと床材の交換が行われた。ただし、雨樋の設置や化粧板、外装材の張り替えは行われていない。

急勾配区間や悪天候時の空転発生を考慮して全編成に増粘着剤噴射装置の取り付けが行われた。2012年から2014年にかけて新型ATS(ATS-SP)設置・デッドマン装置更新工事を完了している。

2006年6月から2007年1月にかけて9208F(電算記号FL54)を除く3編成が方向転換され、大阪線高安検車区に転配された。その際、5820系9020系の大阪線所属車が末尾50番台となっているので、大阪線に9820系が投入された際に9820系のク9320形との番号重複を避ける目的で、サ9350形はサ9310形に改番された。また、9208Fも車体更新時に同様の改番を行い、サ9350形はすべてサ9310形となった。2014年4月現在、9301F - 9303Fが高安検車区に[3]、9304Fが東花園検車区に配置されている[3]。転属以前は全編成が東花園検車区に配置されていた。電算記号は、3連時代には京都寄り先頭車に由来してFB02 - FB08(偶数)となり、4両化時から大阪線転属前までは増備車サ9350形に由来してFL51 - FL54となった。これはFL02 - FL08(偶数)とした場合、FL02とFL04が8800系と重複するため、これを避ける意味合いがあった。大阪線転属後はFC11 - FC13とはせずそれぞれFC51 - FC53となっている。これは8810系の大阪線転属が進行した場合に、電算記号がFC11、FC13…となってしまうためである。

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4両編成車の運用

奈良線所属編成

  • 8810系8814F - 8826F
  • 9200系9208F
阪神なんば線との相互直通以前は奈良・京都線系統の全種別で4 - 10両編成まで幅広く運用されていたが、相互直通開始以降は京都・橿原天理線における4両・6両編成での運用が多くなり、奈良線運用は大阪難波駅折り返し列車が中心となった。

大阪線所属編成

  • 8810系8812F
  • 9200系9201F - 9205F
大阪線転属後は主に大阪上本町駅 - 青山町駅間の快速急行以下の各種別で4両 - 10両編成まで幅広く運用されている。しかし、製造当初は走行距離が比較的短い奈良線系統に投入された関係上、トイレが設置されていないため青山町駅以東の長距離快速急行・急行には基本的に充当されず、名古屋線にも入線しない[12]

脚注

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関連項目

外部リンク

テンプレート:近畿日本鉄道の車両

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  1. 1400系は三菱電機製。
  2. 1時間定格出力160kW。
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 鉄道ファン』2014年8月号 交友社 「大手私鉄車両ファイル2014 車両配置表」
  4. ただし、1C4M構成で使用するため、結線や構成は一部で相違する。
  5. 9006Fまでは奈良線時代に車体更新された車両であるために名古屋線転属と同時に車体更新された9007Fと9008Fとは車椅子スペースの向きが異なっている。
  6. 主な改造内容は、運転台を大阪・名古屋線仕様(マスコンを進め保ち式から指令式への交換)、方向幕を名古屋線用に交換、単独運転を可能とするために踏面清掃装置の設置、連結幌の入れ替えなどである。
  7. しかし、転属から間もない時期に快速急行の増結車で大阪上本町駅まで入線したことがあったため、本系列の快速急行の運用実績が全くないわけではない。
  8. 他のワンマン2連とは異なり、ワンマン運転の案内シールが車内に貼られていなかったが2007年6月に貼り付けられた。
  9. こちらは当初よりワンマン運転のシールも貼られている
  10. 近鉄9000系に『縁博みえ2014』のラッピング交友社鉄道ファン』railf.jp 2013年10月07日
  11. 端子電圧675V時1時間定格出力160kW。
  12. 2010年2月に車両運用の乱れによる代走で9206Fが名古屋線急行・準急に運用されたことがある他、9202F・9204F・9206F・8810系8812Fも大阪線転属回送による方向転換の際に白子駅 (4番のりばで直接折返し) ・白塚駅まで入線経験がある。また8810系は前記の8812Fの方転回送以外にも、制御器更新工事を塩浜検修車庫で実施のため一部編成が名古屋線塩浜駅まで入線実績がある。その模様は「きんてつ鉄道まつりin塩浜」でも展示されている。この際には当然のことながら奈良線車の向きのまま伊勢中川駅経由で回送されたため、9206Fの営業運転時とは向きが異なる。