ペルシア語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2014年8月1日 (金) 11:47時点における14.128.88.167 (トーク)による版
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先: 案内検索

テンプレート:特殊文字

テンプレート:Infobox Language

ペルシア語(ペルシアご、テンプレート:Lang-Pa-short; Pārsī)は、イランを中心とする中東地域で話される言語ペルシャ語パルシ語ともいう。漢語による省略形は波語[1]

概要

言語学的にはインド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派イラン語群に分類される。ペルシアという語は現代のファールス地方に相当する「パールサ」に由来する。

おもにイランタジキスタンアフガニスタングルジアおよびインドの一部やパキスタンの一部で話され、母語話者は4600万人を超えるとされている。イランでは公用語

歴史的経緯により、アフガニスタンではダリー語(公用語の1つ)、タジキスタンではタジク語と呼ばれる。これらは現在ではそれぞれの国におけるペルシア語の方言を指すが、イランのペルシア語とは発音や語彙、正書法などに違いがあり、別言語として扱われる場合もある。

ペルシア語は高度な文明を持っていた古代ペルシア帝国から現在に至るまでイラン高原を中心に使われ続けてきた言語であり、文献によって非常に古くまで系統をさかのぼることができる。ただし、現在のペルシア語にはアラビア語からの借用語が非常に多く、その形態は古代ペルシア語とはかなりの断絶がある。

分類

ペルシア語は、時代によって次のように大別される[2][3]

  1. 古代ペルシア語 … 古代ペルシア帝国アケメネス朝)の公用語の一つ。古代ペルシア楔形文字(楔形文字の一種)を用いた。
  2. 中世ペルシア語サーサーン朝頃に使われた。アラム文字から派生したパフラヴィ文字(中世ペルシア文字)を用いた。後述の口語のダリー語に対し、行政・宗教・文学で用いられた文語だった。
  3. 近世ペルシア語 … 現代では「ペルシア語」といえばふつう近世ペルシア語を指す。7世紀から9世紀頃に原型であるダリー語(アフガニスタンで現在話されている同名の言語とは関係がない。起源はサーサーン朝の宮廷口語。「Dar(宮廷)-ī(の)」が語源とされる)が成立した。ペルシア文字アラビア文字の一種。ナスタアリーク体)を用いている。特に「現代ペルシア語」ないし「現代ペルシア発音」という時は、近世ペルシア語のうち、発音がテヘラン方言に近いものに変化したものを指す(i→e、u→o、q→ghなど)。

文字

テンプレート:Main 基本的にアラビア文字で表記される。アラビア語にない幾つかの音は元の文字に線や点を加えて書き表している。また、کの単独形や尾字形が頭字や中字と同じ形(アラビア語に用いられるアラビア文字では異なる形)である、یの単独形や尾字形には点をつけない、アラビア語からの外来語のهとする、といった細かい差異がある。また、数字もアラビア語で用いられるものとは微妙に形が異なる。ペルシア語に用いられるアラビア文字を、特にペルシア文字と呼ぶことがある。

ただし、現在はタジキスタンウズベキスタンなど旧ソビエト連邦内のペルシア語(タジク語)はキリル文字で表記される。

ペルシア語アルファベット
ا ب پ ت ث ج چ ح خ د ذ ر ز ژ س ش ص ض ط ظ ع غ ف ق ک گ ل م ن و ه ی
a b p t s j ch h x d z r z zh s sh s z t z gh f gh
(q)
k g l m n v/u h y/i

音韻

Structural Sketch of Persianなどを参考にして、ペルシア語の音韻組織SAMPA方式で示す。

母音
  前舌 奥舌
i: u:
中高 E o
{ A:
子音
  両唇音 歯音 硬口蓋音 軟口蓋音
無声閉鎖音 p t tS k
有声閉鎖音 b d dZ g
無声摩擦音 f s S x
有声摩擦音 v z Z G
鼻音 m n    
流音   l, r    
わたり音     y h
ただし、表中で /tS/ と /dZ/ は破擦音だが、破擦音は多くの言語の音素分類で、閉鎖音に含められる。

母音の機能的な相違は、長母音 {/i:/, /u:/, /A:/} と短母音 {/E/, /O/, /a/} の間に顕著である。 それゆえに、ペルシア語の音韻を {/i:/, /u:/, /a:/} と {/i/, /u/, /a/} とで表記し分けることは可能と思われる。

文法

平叙文での語順は、主語 - 目的語 - 動詞SOV型である。

動詞は主語の数(単数・複数)、人称(一人称〜三人称)に応じて人称変化する。

名詞形容詞または名詞に修飾される場合、修飾される名詞の後ろに形容詞・名詞が来る。この際、修飾される名詞は語尾に「e」(名詞が子音で終わる場合)または「ye」(名詞が母音で終わる場合)がつく。これをエザーフェという。

はほぼ完全に消滅しており、代名詞にも存在しない。例えば英語の「he/she/it」は、ペルシア語ではいずれも「او(ū/ウー)」となる。

格変化はほぼ完全に消滅しており、代名詞にも存在しない。を表す役割は、語順と前置詞が果たしている。英語等の所有代名詞にあたるものは接尾辞で表される。

冠詞はない。

その他

ペルシア語はテュルク諸語、及びヒンドゥスターニー語をはじめとするインドの諸言語に大きな影響を与えた。土地、国を意味するスターンという語は南アジアから東欧にかけて広がっている。

また、ペルシア語の長い歴史を反映して、他の言語から多くの語彙を取り入れている。特にアラビア語から取り入れられた語彙が非常に多い。他にテュルク諸語、モンゴル語ギリシア語フランス語英語などからも語彙を取り入れている。

脚注

テンプレート:Reflist

関連項目

外部リンク

テンプレート:Sister

  • ただし、ポーランド語も「波語」と略せるため、使用には注意を要する。
  • 以下の区分は英語では"Old Persian", "Middle Persian", "New Persian"と呼ぶことになっている。("Ancient Persian", "Medieval Persian", "Modern Persian"ではない。)日本では以下のように「古代」「中世」「近世」という名称が学界でも広く使われているが、歴史学における「中世」「近世」とはかなり時代がずれるため、非常に問題がある。そのため、本来は「古期ペルシア語」「中期ペルシア語」「新期ペルシア語」とすべきである。(たとえば伊藤義教は『ゾロアスター教論集』平河出版社 ISBN 4892033154、などでは「古期」「中期」「新期」という用語も併用していたが、学界の主流にはならなかった。)
  • 『イランを知るための65章』 岡田久美子・北原圭一、鈴木珠里編著 明石書店  2009年11月20日 p.66-68 ISBN 9784750319803