多層建て列車
多層建て列車(たそうだてれっしゃ)とは、ある列車が始発駅から終着駅まで運転する間に、異なる始発駅の列車あるいは異なる終着駅の列車と相互に分割併合しながら運転する列車をいう。建物の階層に例えて、2つの列車に分割されるものを2階建て、3つに分割されるものを3階建てのように称す。
新幹線と並行在来線のような多層建て路線網や、Maxのような車両自体が2階建ての列車を意味するものではない。
目次
長所および短所
多層建て列車の長所としては、次のようなものがある。
- 支線区へ乗換えなしで直通運転が実施できるため、乗客にとって乗換えの手間、時間を節約できる。
- 線路容量に余裕がない場合、複数の列車を統合することにより線路容量の有効活用を図ることができる。
- 前項と同じ理由で、乗務員の効率的運用を図ることができる。
- 本線と支線で輸送量に差がある場合、編成の長さを増減することで輸送力の適正化を図ることができる。
一方、次のような短所もある。
- 列車系統と列車ダイヤの整合が困難。本線と支線区の有効時間帯を合わせるのが困難である。
- 分割併合のための構内作業が(機関車連結の必要のため客車列車では特に)複雑となる。また自動解結装置・自動連結装置を有していない車両については、連結や解結のための要員が必要になる。
- 分割併合を行う駅で停車時間が増える。
- 分割併合を行う駅では誘導信号機などの設備が必要となる。
- 異常時の運転手配が複雑。併結する列車が遅れた場合、その遅れが正常運転している列車にも波及してしまう。また、単独運転する場合は、乗務員の手配が必要となる(すなわち、運転整理面において不利になる)。
- 行き先の違う車両を併結するため、駅や車内での旅客への案内が煩雑になり、乗客の車両乗り間違いの虞れがある。
- 運転台付きの車両が増えるため、乗車定員が減る。
- 上記各短所も然ることながら、車体塗色や形態・設備の異なる車両(例 : 急行型車両と一般型車両)を混結する列車の場合もあり、(列車自体の)見た目の統一感が損なわれてしまいかねない。特に非電化区間で顕著であった。
国鉄時代には、7 - 8列車が関係するような大規模なもの(急行「陸中」など)も見られたが、新幹線の開業により接続駅からの乗換え連絡に改められたり準急・急行列車自体の減少などがあり、その数を減らしていった。
JR発足後は、一転して分割併合運用を前提とした装備を持つ車両が多数新造されるようになり、ミニ新幹線による新在直通など積極的に支線区への直通を実施する例が見られる。
多層建て列車の例
以下の()内の区間は複数の列車を併結運転している区間。
2階建て列車
2つの列車を併結運転している例
JR
列車名のあるものについて示す。
新幹線
東北新幹線(東日本旅客鉄道)
東北新幹線では多くの列車で、“ミニ新幹線+フル新幹線”の二階建て列車を構成しているが、ここでは代表的な列車を列挙する。
- はやて・こまち : (東北新幹線 : 東京駅 - 盛岡駅間(盛岡駅で分割併合)、一部東京駅 - 仙台駅間)
- はやぶさ・スーパーこまち : (東北新幹線 : 東京駅 - 盛岡駅間(盛岡駅で分割併合))
- やまびこ・つばさ : (東北新幹線 : 東京駅 - 福島駅間(福島駅で分割併合))
上越新幹線(東日本旅客鉄道)
在来線の特急列車
- はくたか : (上越線・北越急行ほくほく線・信越本線・北陸本線 : 越後湯沢駅 - 金沢駅間)
- あずさ
- 成田エクスプレス : (総武本線・成田線 : 東京駅 - 成田空港駅間)
- しおさい・あやめ : (総武本線 : 東京駅 - 佐倉駅間)
- 踊り子 : (東海道線 : 東京駅 - 熱海駅間)
- サンライズ瀬戸+サンライズ出雲 : (東海道本線・山陽本線 : 東京駅 - 岡山駅間(岡山駅で分割併合))
- ひだ : (東海道線・高山本線 : 名古屋駅・岐阜駅 - 高山駅間)
- しらさぎ : (東海道本線・北陸本線 : 名古屋駅・米原駅 - 金沢駅間)
- サンダーバード : (JR京都線・湖西線・北陸本線 : 大阪駅 - 金沢駅間)
- きのさき・まいづる、はしだて・まいづる : (山陰本線 : 京都駅 - 綾部駅間)テンプレート:要検証
- しおかぜ・いしづち : (予讃線 : 宇多津駅 - 松山駅・宇和島駅間)
- 南風・しまんと : (予讃線・土讃線 : 宇多津駅 - 高知駅間)
- 南風・うずしお : (宇野線・本四備讃線 : 岡山駅 - 宇多津駅間)
- みどり・ハウステンボス : (鹿児島本線・長崎本線・佐世保線 : 博多駅 - 早岐駅間)
快速列車
- 深浦 : (五能線 : 鰺ケ沢駅 - 川部駅間)
- エアポート成田(横須賀線・総武快速線・総武本線 : 逗子駅 - 佐倉駅間)
- ホリデー快速おくたま・あきがわ : (中央線快速・青梅線 : 東京駅・新宿駅 - 拝島駅間)
- 新快速
- 関空快速・紀州路快速 : (大阪環状線・阪和線 : 天王寺駅・京橋駅 - 日根野駅間)
- 大和路快速 : (大阪環状線・大和路線 : 天王寺駅 - (大阪駅経由) - 王寺駅間)
私鉄
小田急電鉄
- はこね・えのしま、さがみ・えのしま、あさぎり・えのしま : (小田急小田原線 : 新宿駅 - 相模大野駅間相模大野駅で分割併合))
- はこね : (小田急小田原線 : 新宿駅 - 小田原駅間)
- メトロはこね : (東京メトロ千代田線・小田急小田原線 : 北千住駅 - 小田原駅間)
西武鉄道
京浜急行電鉄
- 一部の快特・特急 : (京急本線 : 品川駅 - 金沢文庫駅間)テンプレート:要検証
- 一部の特急 : (京急本線 : 品川駅 - 京急川崎駅間)テンプレート:要検証
東武鉄道
名古屋鉄道
- 公式に案内のあるものは、夕方・夜間のミュースカイ(中部国際空港駅 - 犬山駅間)と、朝時間帯の一部列車のみである。
- その他、途中駅で分割した編成をその駅始発の列車として扱うものがあるが、これらの列車は特に時刻表などでの案内はなく、事前に車内アナウンスなどで知らされるのみである。
近畿日本鉄道
- 同社では「親子列車」という呼称を用いる。
3階建て列車
「かもめ」「みどり」「ハウステンボス」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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新幹線が開業する以前は東北地方を中心に3階建て以上を組む列車も存在したが、新幹線開業に伴う急行列車を中心とする優等列車の整理・廃止に伴いこうした列車は少なくなり、2011年3月12日のJRダイヤ改正により日本国内において定期の3階建て列車は存在しなくなった。
2012年3月時点における日本最後の定期の3階建て列車は、1992年3月25日から2011年3月11日まで鹿児島本線・長崎本線の博多駅 - 肥前山口駅間で併結運転を行っていた「かもめ・みどり・ハウステンボス」である。この併結は1976年の長崎本線・佐世保線電化に伴い運行を開始した「かもめ・みどり」の2階建て列車が母体で、1992年に「ハウステンボス」が運行を開始した際、博多駅 - 早岐駅間で「みどり」に併結することになったことから、列車によっては3階建て列車を組むことになった。なお、従来通りの「かもめ・みどり」の2階建て列車や、「かもめ」を欠いた「みどり・ハウステンボス」の2階建て列車も存在したほか、2000年代に入ると「ハウステンボス」編成を連結した「みどり」が「かもめ」と併結する場合も見られるようになった。車両は2000年3月10日までは485系電車、それ以降は783系電車が用いられている。
2011年3月12日のダイヤ改正で「かもめ」が全列車単独運転となったことから、現在は「みどり・ハウステンボス」の2階建て列車のみが存続している。
廃止されたもの
国鉄・JR
分割の案内例
分割する際の乗り間違いを防ぐために以下の方法を用いるところもある。
- 乗車位置に列車名や行き先を明記する。
- 号車番号をドア上など目立つところに貼り付け、その番号を用いて案内する。
- 客室にも列車名や行き先を表示する。
- 側面の行先表示装置に「この車両は○○行き(この車両○○まで)」を追記する。
- JR東日本常磐線快速電車のE231系成田線直通列車で、常磐線区間の上野駅 - 我孫子駅間のみを運行する列車との区別で使われている。この場合、前面は、最終行先の「成田」を表示し、側面にその車両の行先を表示している。
- 西武鉄道で採用された方式で、主に池袋発の秩父鉄道直通列車で見られる。なお、2013年3月16日まで新宿線系統では拝島線等への多層建て列車も存在し、このような表記で存在した。
- 近畿日本鉄道・阪神電気鉄道・阪急電鉄では「この車両○○まで」と表記。
- かつて設定されていた近鉄南大阪線の大阪阿部野橋発、富田林・橿原神宮前行き準急の場合「前部(後部)車両は橿原神宮前(富田林)行き」。
- 阪神の車両の場合、行き先と交互に表示される。
- 南海のズームカーによる大運転では、場合は「後部X両橋本(三日市町または河内長野)」と表示される。
- 阪急の場合、切り離される編成の行先表示は、英語表記が切り離される駅のものとなっている。
- ホームに「分割案内板」などの切り離し位置を示す看板を用意する。
- 車両の座席や吊革などを行き先別に別の色にする。
- 車両のアナウンスを、内容に応じて流す車両・流さない車両を切り替える(編成別放送)。
- 小田急電鉄などで採用されていた方法で、小田急の場合1000形のうち8両固定・10両固定の編成・2000形以外の通勤車全車両に「分割放送装置」が設置されている。全車一斉・前編成・後編成と放送する対象車両を選択可能。なお、現在は活用されておらず、号車番号での案内になっている。ただし3000形の近年の増備車では、液晶ディスプレイにより視覚的な案内を行なっている。
- 京浜急行電鉄では都営地下鉄浅草線直通列車と品川止まり列車、三崎口方面行き列車と浦賀・新逗子方面行き列車が併結されている品川駅もしくは京急川崎駅 - 金沢文庫駅間で分割放送装置を活用している。
- 近畿日本鉄道では多層建て列車に対して分割放送装置を活用している(同社では途中駅での増解結列車でも活用)。
- 211系電車では、車両個別に放送する対象車両を選択可能になっていたが、高崎線・東北線(宇都宮線)では幌をつなぐことで、隣の編成の放送が聞こえてしまうことがあることから、あまり活用されていなかった。
- OER Division Signboard A.JPG
「分割案内板」の例 : 分割案内板A(小田急電鉄小田原線下北沢駅)
- KTR Green Strap.jpg
吊革の色分け例 : 緑色の吊革(京王電鉄)
- KTR White Strap.jpg
吊革の色分け例 : 白色の吊革(京王電鉄)
- TOBURAILWAY SERIES6050 SHANAI HYOUJIKI.JPG
車内行先表示の例(東武鉄道6050系電車)
現在の増解結列車
多層建て列車に似たケースとして、1つの列車の一部編成を途中駅で増結または解結することが挙げられるが、この場合は多層建て列車とはみなされない。「一部編成の増解結」も輸送力の調整法としてよく行われており、1960 - 80年代の東北地方の急行列車では多層建て列車と組み合わせての車両運用もよく見られた(詳しくは増解結の項を参照)。しかし1980年代以降の新幹線開業や、それに伴う優等列車の系統整理により、こうした列車は急速に数を減らしていった。
2012年3月現在、JRグループの優等列車で「多層建て列車を組みかつ一部編成の増解結を行う」列車は、特急「しおかぜ21号」のみとなっている。岡山駅発宇和島駅行きの「しおかぜ21号」は岡山駅を5両で発車するが、宇多津駅で高松駅からの「いしづち」25号」(2両)を併結。宇多津駅→松山駅間は7両で運転するが、松山駅で「しおかぜ」の後ろ2両および「いしづち」を解結し、3両で宇和島駅に向かう。
2011年3月11日までは「しおかぜ9・22号」(運行は21号と同様)「みどり23号」(肥前山口駅で「かもめ」と分割し、早岐駅で一部編成を解結する)も多層建て列車で一部編成の増解結を行う列車だったが、3月12日のダイヤ改正により「しおかぜ9・22号」は松山駅発着となり、「みどり23号」は「かもめ」との併結がなくなったため、それぞれこのパターンからは外れた。
脚注
- ↑ テンプレート:PDFlink 2012年12月21日 JR東日本新潟支社からのお知らせ
- ↑ 東北新幹線と山形・秋田新幹線の場合、前者は1号車から、後者は11号車から車両の付番がされているが、当初より前者が「やまびこ」200系10両編成、後者が5両(「つばさ」400系登場時)編成を組んだ際に、新幹線直行特急(ミニ新幹線)列車へ10番代の号車番号を付番したことによる。のちにMaxE4系8両編成と組んだ「Maxやまびこ・つばさ」が存在したことで、車両番号が欠けた列車が存在した。
- ↑ なお、東武6050系電車ではこのために車内に方向幕を設けたが、案内上車内に設置しているLED表示器や液晶ディスプレイなどで対応が可能である。