天然ガス

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天然ガス(てんねんガス、テンプレート:Lang-en-short)は、一般に天然に産する化石燃料である炭化水素ガスのことを指す。

広義には、地下に存在するガス、または地下から地表に噴出するガス一般のことであり、この中には化石燃料ガス(可燃性ガス)だけでなく、窒素酸素炭酸ガス水蒸気硫化水素ガス、亜硫酸ガス硫黄酸化物ガスなどの不燃性ガスも含まれる。これら不燃性ガスの多くは火山性ガスである。

ファイル:Lng tanker.jpg
米ボストンに到着したLNGタンカー
ファイル:LNG tanker model.jpg
LNGタンカーのカットモデル
ファイル:Pascal LPG tanker model.jpg
小型のLNGタンカーのモデル

天然ガス

地下から産出する状態の「天然ガス」について以下に述べる。液化したものは後半部の「液化天然ガス」を参照のこと。

組成

天然ガスにはメタンエタンプロパンブタンペンタン以上の炭素化合物や窒素が含まれ、産出する場所によってその割合は少しずつ異なる。

産地による成分の違いの例(単位は mol/100mol)
産地 メタン エタン プロパン ブタン ペンタン 窒素
ケナイ(アラスカ 99.81 0.07 0.00 0.00 0.00 0.12
ルムート(ブルネイ 89.83 5.89 2.92 1.30 0.04 0.02
ダス(アブダビ 82.07 15.86 1.86 0.13 0.00 0.05

これらの他に不純物として、・炭酸ガス・硫黄酸化物・硫化水素などを含む[1]。例外的に北アメリカ産・アルジェリア産の天然ガスには 1~7 mol/100mol ものヘリウムが含まれており、世界の数少ないヘリウムの供給源となっている[2]

特性

揮発性が高く常温では急速に蒸発し、空気よりも軽いため大気中に拡散する。この点では、常温で空気より重く低い場所に滞留しやすいプロパンブタンガスに比べれば安全性が高いといえる。

物性

以下に天然ガスに含まれる主なガスの物性を示す[1]

名称 メタン エタン プロパン ブタン
(ノルマル/イソ)
分子式 CH4 C2H6 C3H8 C4H10
分子量 16.04 30.07 44.09 58.12
沸点(℃) −161.5 −88.7 −42.2 −0.5/−11.7
臨界温度(℃) −82.6 32.2 96.7 152/135
臨界圧力 45.4 48.8 42 37.5/36
比重 液体(沸点、1気圧) 0.425 0.546 0.580 0.605/0.590
比重 気体(0℃、1気圧) 0.554 1.047 1.522 2.006
燃焼範囲 上限
(空気中容積%)
15.0 12.5 9.5 8.4
燃焼範囲 下限
(空気中容積%)
5.5 3.0 2.2 1.8
気体/液体容積比
(0℃、1気圧)
595 432 292 277/231
毒性 なし なし なし なし
腐蝕性 なし なし なし なし


メタンの沸点は-161.5℃であり、LNGの沸点は-160℃程度になる。このため1気圧の環境下で液化するには極低温が必要になり、臨界温度が-82.6℃ということはいくら加圧してもこれ以上の温度では液化はしない。

メタンの液体での比重は0.43でありLNGになると他の成分の割合に応じて0.43~0.48になる。 原油の比重約0.85と比べても液体メタンはかなり軽いため、運搬時には重量に比べて大きな体積を必要とする。

気体のメタンは空気と比べて約55%の比重でありかなり軽いが、気体でも低温の状態では-113℃で空気と同じ重さとなり、それ以下の温度では空気より重くなる。

事故などで極低温状態のメタンが漏れて-161.5℃以上で気体になると空気の1.4倍程度の重さとなりまず地上に漂うことになる。このガスと周囲の空気との境界で空中の水分を凍らせ白い雲を作る。これが蒸気雲(ベイパークラウド)と呼ばれ、透明なガスが間接的に人の目に触れることになる。 この状態では爆発的な燃焼や凍傷、窒息の危険がある。しばらくは地上に留まった低温メタンガスも、温度が-131℃を超えると空気よりも軽くなり空中へと上昇・拡散していく。

5%-15%の燃焼範囲は他の可燃性ガスと比べれば比較的狭い。気体のメタンが液体になると体積は約1/600になるため、運搬には適している。

燃焼による発熱量は13,300kcal/kgで炭化水素中では最大である。これは5,000-7,000の石炭や9,250の石油よりも大きい。メタンもLNGも共に人体への毒性はない[1]

分類

天然ガスに対する名称は産出場所および精製方法によって変わる。詳細を下にて示す。

天然ガスの分類
産出場所 産出場所に対する呼称 詳細説明
油田地帯 「油田ガス」・「石油系天然ガス」・「湿性ガス」 10-15のガスから1リットル程度のガソリンが採取できるため「湿性ガス」とも呼ばれ、幅広い組成を持つこのガスは中東などでは従来はすぐにガスフレアによって廃棄されていたものだが、現在はこれも液化によって回収されている。この湿性ガスはメタン成分が多ければ液化されて油田由来のLNGとなり、少ない時はLPGの原料となる石油ガスであり液化されてLPGとなる。このような天然ガス鉱床は油溶解性ガス鉱床と呼ばれる[3]
炭田地帯 「炭田ガス」・「炭層ガス」
遊離型ガス鉱床 「水溶性ガス」
ガス田 「乾性ガス」 メタンが85%-95%と主体を占めその他のエタン、プロパン、ブタンなどは比較的少ない。ガス田ガスは液化されてガス田由来のLNGとなる。このような天然ガス鉱床は遊離性ガス鉱床と呼ばれる[3]
原油の精製プラントから生まれるガス 「炭田ガス」・「炭層ガス」・「精製ガス」 液化されてLPGとなる[1]

環境への影響

燃焼したときの二酸化炭素排出量はカロリー当りで、石油より少ない。ただし、主成分であるメタンの地球温暖化係数は、「21」と大きいため、大気への放出は避ける必要がある。

採ガス井

天然ガスを採掘するガス用の井戸を「採ガス井」と呼び、液体の原油を生産する「油井」「油生産井」「採油井」と区別される。採ガス井は一般に原油用の井戸に比べてクリスマスツリーなど、使用される機器類の耐圧が高く設計されているために、大きくなる傾向がある。これは、天然ガスの存在する地層が油田に比べて深く、また、液体と気体では地下の高圧力環境から地上にまで持ち上げられた時の圧力が大きく異なるためでもある[3]

生産工程

分離工程1
採ガス井で地表へと取り出されたものにはガス・油・水などが混ざっているため、まず、ガス原油セパレータに送られて、ガス、原油が分離される。ガス原油セパレータは単純に重さの違いによって分けるものである。
分離工程2
ガス原油セパレータで分離されなかった油分は、コンデンセート[4]・セパレータで分離される。コンデンセートはLPGや石油化学の原料として扱われる。残った水は環境汚染物質を除いた後に多くが地下へ圧入される。ガス成分だけが次の工程に送られる。
脱湿処理工程
グリコール・デハイドレータで、ガス成分にグリコールを接触させて残った水の成分である湿気を除去する。
不純物除去工程
重質炭化水素、硫黄、硫化水素、二酸化炭素、水銀を除去する。硫化水素(H2S)や二酸化炭素(CO2)はアミン溶液を使って、水銀は活性炭によって除去される。ハイドレート[5]は配管を詰まらせる原因となり、硫化物は配管を含むあらゆる下流工程での処理装置を腐蝕させるため、硫化水素では4ppm以下、二酸化炭素では100ppm以下、水は1ppm以下にまで除去される。最終製品となった時の公害防止にも役立つ。
ヘリウムが多く含まれる(0.4%以上程度の)ガスでは、この工程で分離される。産出されるガス成分や下流工程での要求性状の違いによって処理内容が変わってくる。
冷凍工程
LNGとして流通させる場合には-162℃以下に冷却して液化してから製品として出荷する。パイプラインによる出荷では、気体のままで製品とされる[3]

2007年12月の世界の液化天然ガスの生産設備は15ヶ国に79トレインが稼動していて、総生産設備能力は年間18,930万トンであった。2006年に世界一のLNG輸出国となったカタールでは1トレインで年間780万トンという巨大液化プラントを複数建設中である。

生産量

2006年の世界の天然ガス生産量は28,700億m³であった。

  • ロシア:6,120億m³
  • 米国:5,240億m³
  • その他:17,340億m³

2006年の世界の天然ガス貿易量は7,480億m³であった。

  • パイプライン:5,370億m³
  • タンカー:2,110億m³[3]

地下貯蔵

天然ガスは原油と異なり、地上で大量に貯蔵するには極低温状態のLNGとする他にはあまり良い方法が無く、LNGでは施設や冷却の維持などにコストがかかる。このため、多くの国では一度地上に取り出した天然ガスを別の地下ガス層へと再び圧入する事で地下に貯蔵する方法を採用している。欧米では600ヶ所以上存在し、日本でも数ヶ所が稼動している。地下貯蔵に使用されるガス層にはその上部がキャップロックと呼ばれる浸透性の無い緻密な地層で覆われていなければならない。冬季の需要期に備えて、夏季に貯蔵しておいたり、パイプラインの事故に備えるなどがその目的である[3]

埋蔵量

2006年末の世界の天然ガスの確認可採埋蔵量は約181.46兆立方メートルといわれており、国別には旧ソ連が一番多く、イラン、カタールなどがそれに続く。 今後採鉱が盛んになることで、確認可採埋蔵量の増加が期待されている。BP統計2005年版では確認可採埋蔵量は約180兆立方メートルという報告がなされた(可採年数は66.7年)。

日本では関東地方だけでも埋蔵量は4千億立方メートル以上あると推定され、埼玉東京神奈川茨城千葉の一都四県にまたがる地域で南関東ガス田を形成している。しかし、東京の直下にあるため多くの地域で採掘は厳しく規制されており、房総半島でわずかに採掘されているのみである。東京都や千葉県では南関東ガス田から自然放出される天然ガスによって事故がたびたび起きている。

日本の東部南海トラフにはメタンハイドレートが約40兆立方フィートあると推定されている[3]。深海底に存在するメタンハイドレートは、採掘技術が確立されていないため2008年現時点では未利用資源に留まる。

紛争

天然ガスをめぐる紛争がある。

液化天然ガス

液化天然ガス(えきかてんねんガス、LNG[6])は、気体である天然ガスを-162℃以下に冷却して液体にしたもの。体積は気体の約1/600しかない。輸送・貯蔵を目的として液化される[1]

液化

天然ガスは主成分であるメタンの他にもエタン、プロパン、ブタンなどのガスが含まれているが、LNGへの液化の過程でこれらのガスも同時に液化されるために、LNGも元となる天然ガスの産地によってこれら炭化水素の構成比に違いがある。LNGの液化の初期段階過程では、水和物を作ってパイプを閉塞させる炭酸ガスや、プラントを腐蝕する硫黄酸化物などの不純物が除去されるため、LNGは人体にとって無害となる[1]

液化には「C3-MCR」「TEALARC」「PRICO」「CASCADE」の4つの方式が存在する。CASCADE では冷媒にメタン、エチレン、プロパンの純成分を個別に3段階で使用しており、他の3方式は窒素、メタン、エタン、プロパンを混合して使用している。液化プラントで使用されているのは C3-MCR 方式が多い[7]

一般的なガス田の液化施設は、多くの生産地に近接した場所に設置されるが、海上ガス田の場合には浮体構造の洋上液化設備(FLNG)や積み出し用保管設備等が設置される場合がある。2013年に進水したロイヤル・ダッチ・シェルの船型構造物(自力航行装備を持たない)は、排水トン数は60万トン以上と世界最大級の空母6隻分に相当する巨大なものとなった[8]

輸送

輸送方法には大別して2つある。1つがパイプラインによる気体での輸送で、1930年代頃からアメリカで行われており、現在ではロシアから東欧へ、北アフリカから南欧への天然ガス輸送に使用されている。そしてもう一つがLNGタンカーによる液化天然ガスの輸送で中東東南アジアから日本への輸送に多用されている。

ファイル:LNG Carrier.jpg
モス方式のLNGタンクを持つLNGタンカー

LNG船の海難事故は極めて少なく、大規模なガス爆発やガス漏洩を含む環境破壊事故は一度も発生していない。

また、メタンハイドレートにして輸送する方法が開発中である。LNGに比べ温度が高くても体積を減らすことができ、輸送効率の向上が見込める。

また、原産地でGTL法によってメタノール等の液体に変換して輸送する方法も実用化段階にある。

施設

LNGを利用するためには、ガス井、パイプライン、液化プラント、LNGタンカー、受け入れ設備、気化設備など「LNGチェーン」と呼ばれる一連の設備が必要である。

LNG受入れ基地の近辺には気体に戻す際の気化熱を冷熱源とする施設を設置し、エネルギーの利用効率を高めている。阪神港泉北コンビナートでは、キンレイ(かつては大阪ガス傘下)の冷凍うどん製造工場や業務用冷凍庫などの他に大阪府立臨海スポーツセンターのスケートリンクなどが存在する。

用途

日本国内では都市ガス用と火力発電用の比率は約35:65である。

都市ガス
日本での天然ガス利用は、関東では東京ガス東京電力と共同で1969年昭和44年)11月に日本初の液化天然ガス(LNG)を導入、1970年(昭和45年)より東京電力南横浜火力発電所へ燃料として供給するとともに、1972年(昭和47年)から1988年(昭和63年)までの16年間で石油系ガス(6B)からの転換を完了した。関西では、大阪ガス1969年(昭和44年)に導入を決定し、1975年(昭和50年)から1990年平成2年)までの16年間で石炭改質系からの転換を完了した。あわせて阪神港に天然ガスコンビナートを形成した。都市ガス12A13Aである。
火力発電
火力発電用燃料としては、東京電力南横浜火力発電所が世界初のLNG専焼火力として建設された。

以降、発電用燃料として多く使用されるようになり、特に東京電力は近年韓国ガス公社(KOGAS)に抜かれるまで世界最大のLNG輸入者であった。

事故

万一、大量のLNGが漏洩する事故が起きれば液化の為の-162℃以下の超低温状態から-113℃以上に暖められるまでは空気よりも重く、極低温のガスが地上に滞留する。LNGタンクが作られた初期の1944年10月20日、アメリカ合衆国オハイオ州クリーブランドで起きたLNG漏洩事故では防液堤を備えなかったために大量のLNGが市中に広がり、下水溝内で爆発・燃焼するなど死者128人を出した[9]。この大事故を教訓に、現在はLNGタンクの周りは防液堤で囲われており、万一漏洩事故が発生しても周辺被害はそれほど拡大しないと期待されている[1]

LNG受け入れ基地

日本国内の基地について記載する。

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圧縮天然ガス

圧縮天然ガス(あっしゅくてんねんガス、CNG[10])は、高い圧力で圧縮された天然ガスのこと。環境に優しい自動車の燃料として注目を浴びるようになった。天然ガスに仮にオクタン価を付ければ135になる[11]

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脚注

  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 糸山直之著 「LNG船がわかる本」 成山堂出版 2005年1月18日 増補改訂初版発行 ISBN 4-425-32123-5
  2. サイエンス』日本語版 2007年12月号
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 藤田和男ほか監修 佐々木詔雄ほか編著 『天然ガスの本』 日刊工業新聞 2008年3月25日初版1刷発行 ISBN 978-4-526-06024-3
  4. コンデンセートとは地下では気体であったものが地上の圧力や温度の低下によって凝縮した液体のことをいう。
  5. ハイドレートとはガスの水分が凍結したもの。
  6. テンプレート:Lang-en-short
  7. 日本エネルギー学会編 「よくわかる天然ガス」 社団法人 日本エネルギー学会 2000年2月16日初版発行 ISBN 4-339-08232-5
  8. テンプレート:Cite news
  9. Johnson, Jeff. LNG WEIGHS ANCHOR. Chemical & Engineering News. Vol.83. No.17. pp.19-22. 2005年4月25日.
  10. テンプレート:Lang-en-short
  11. ケネス・S・ディフェス著 秋山淑子訳 「石油が消える日」 パンローリング株式会社 2007年8月5日初版第一刷発行 ISBN 978-4-7759-7088-1

出典


関連項目

外部リンク

テンプレート:Commons&cat

テンプレート:自動車用燃料