JT将棋日本シリーズ
将棋日本シリーズ(しょうぎにほんシリーズ)は、日本たばこ産業株式会社主催の将棋の大会であり棋戦。1980年創設。毎年6月から11月にかけて、全11局が全国各地の都市において公開対局で1局ずつ行われる。双方の持ち時間が少ない早指しの棋戦である。優勝賞金は500万円。2011年度までの大会名はJT将棋日本シリーズ(ジェイティーしょうぎにほんシリーズ)。
各々の大会ではこども大会も実施される。現在では、プロの公式戦だけでなく、こども大会も含めて「日本シリーズ」と称される。2012年度よりグループ会社のテーブルマークも協賛することになったことから、「JT将棋日本シリーズ」から「将棋日本シリーズ」に、そして2つの大会が「JTプロ公式戦」「テーブルマークこども大会」とそれぞれ変更されている。
目次
しくみ
JTプロ公式戦のしくみ
以下の順に従って選抜された12人の棋士がトーナメントで対局する。
持ち時間は10分で、切れたら1分単位で合計5回の考慮時間が与えられる。考慮時間を使い切ったら1手30秒未満。
テーブルマークこども大会のしくみ
- 2001年度から創設された大会で、大会は未就学児を含む小学校3年生までの低学年の部と小学校4年生~6年生対象の高学年の部の2つに分かれている。
- まずブロック対局を行い、ブロックを勝ち抜いた選手によるトーナメントによって、各部門2名の代表を決定する。ブロック対局で敗れた選手も予選終了後に自由対局(練習試合)を指すことができ、参加者のレベルに応じた対局、あるいはプロや奨励会員との指導対局など、将棋を思う存分楽しみ、また成長できる環境が提供されている。
- トーナメントを勝ち上がった各部門2名ずつが、プロ公式戦の前座試合として、プロと同じ対局会場・盤駒を使い、それぞれのクラスの優勝をかけて対局する。プロ同様に棋譜読み上げや記録係、大盤解説が付き、また和服(男子は紋付はかま、女子は振袖着物)が貸し出されるなど、プロの雰囲気をそのまま体験できるようになっている。
しくみの変遷
- 1981年(昭和56年、第1回) - 大山康晴の発案で創設(この回のみ年初頭に行われたため1980年度の開催となる)。タイトル保持者であった、中原誠名人、加藤一二三十段、大山康晴王将、米長邦雄棋聖(肩書きは大会開始時点のもの)の4人によるトーナメントだった。当時は日本たばこ産業が民営化される前で(日本専売公社)、単に「将棋日本シリーズ」と呼ばれていた。
- 1981年(昭和56年、第2回) - 参加棋士が8名になる。
- 1983年(昭和58年、第4回) - 参加棋士が12名になる。
- 1987年(昭和62年、第8回) - 第4回以降、1回戦4局は将棋会館で行われていたが、この年から全対局を公開対局と改める。
- 2001年(平成13年、第22回) - 3都市で「こども将棋大会」を実施。
- 2002年(平成14年、第23回) - こども大会をすべての開催地(11都市)で実施する。
- 2006年(平成18年、第27回) - 優先出場資格の3番目を、順位戦ランキング上位者から、獲得賞金・対局料ランキング(前年1月 - 12月)の上位者に変更。
- 2007年(平成19年、第28回) - 優勝賞金を、従来の350万円から500万円に増額。
- 2012年(平成24年、第33回) - この年から、名称を「将棋日本シリーズ」に変更。また、JTグループのテーブルマークが協賛社になったことから大会名をそれぞれ「JTプロ公式戦」「テーブルマークこども大会」に変更。
エピソード
- 無冠のC級棋士が3連覇(第14回 - 第16回)
郷田真隆は、1992年、四段でタイトル(王位)獲得という究極の最低段記録を成し遂げ、翌年の第14回大会(1993年)に初出場。しかも優勝してしまう。決勝戦の前に王位を失冠し「郷田五段」となっていた。翌年の第15期は前回優勝者(第1シード)として出場し、これまた優勝。続く第16期も同様に優勝し、本棋戦史上初の3連覇を果たした。郷田は長考派として知られていたが、早指し将棋でも強いことを見せつけた。
- 台風で異例の中止(第27回)
2006年9月17日に福岡市で開催予定の第27回2回戦・森内名人対三浦八段戦は、台風13号の影響により大会史上初の公開対局中止・延期になった。代替として同月20日に東京将棋会館で非公開で対局されたが、ファンサービスのため、インターネット中継を行う措置がされた。
- 新型インフルエンザ感染の疑いで(第30回)
2009年9月12日に福岡市で開催予定の第30回2回戦に出場予定であった渡辺明が、新型インフルエンザに罹患している可能性があるとして、欠場する旨が日本将棋連盟から発表された(9月8日)。近親者が感染・発症したため、渡辺本人が感染している可能性を否定できないためであった。代わって、前年の獲得賞金・対局料ランキング13位の谷川浩司が繰上げ出場となったが、谷川はそのチャンスを生かして優勝し、同棋戦の最多優勝記録を6に更新した。谷川は優勝後のインタビューで「本来、出場できる立場ではなかった」とし、優勝賞金を小学生への普及のために使ってほしい(寄付する)との旨を語った[1]。結果的に渡辺は発症せず、さらに対局当日の時点では近親者も全快していた。渡辺は週刊将棋による取材の中で「今後は棋士が安心して自己申告できるような規定の整備が急務ではないか」と、現行の対応を非難するコメントをしている。
歴代決勝結果
段位、称号は決勝当時のもの。
回 | 対局日 | 優勝 | 準優勝 |
---|---|---|---|
1 | 1981年3月22日 | 米長邦雄棋王 | 加藤一二三十段 |
2 | 1981年10月31日 | 中原誠名人 | 大山康晴十五世名人 |
3 | 1982年10月31日 | 大山康晴十五世名人 | 中原誠前名人 |
4 | 1983年10月23日 | 加藤一二三前名人 | 米長邦雄王将 |
5 | 1984年11月11日 | 米長邦雄王将 | 谷川浩司名人 |
6 | 1985年11月24日 | 森安秀光八段 | 谷川浩司前名人 |
7 | 1986年11月9日 | 米長邦雄十段 | 谷川浩司棋王 |
8 | 1987年11月29日 | 加藤一二三九段 | 大山康晴十五世名人 |
9 | 1988年11月27日 | 高橋道雄七段 | 加藤一二三九段 |
10 | 1989年12月3日 | 谷川浩司名人 | 島朗竜王 |
11 | 1990年12月9日 | 谷川浩司竜王 | 中原誠名人 |
12 | 1991年12月15日 | 羽生善治棋王 | 有吉道夫九段 |
13 | 1992年11月29日 | 谷川浩司竜王 | 南芳一九段 |
14 | 1993年12月5日 | 郷田真隆五段 | 谷川浩司王将 |
15 | 1994年12月4日 | 郷田真隆五段 | 米長邦雄前名人 |
16 | 1995年12月3日 | 郷田真隆六段 | 米長邦雄九段 |
17 | 1996年12月15日 | 谷川浩司竜王 | 村山聖八段 |
18 | 1997年11月30日 | 谷川浩司竜王・名人 | 森内俊之八段 |
19 | 1998年11月29日 | 羽生善治四冠 | 佐藤康光名人 |
20 | 1999年11月28日 | 丸山忠久八段 | 羽生善治四冠 |
21 | 2000年12月10日 | 森内俊之八段 | 谷川浩司九段 |
22 | 2001年11月18日 | 丸山忠久名人 | 羽生善治四冠 |
23 | 2002年11月10日 | 藤井猛九段 | 丸山忠久九段 |
24 | 2003年11月30日 | 羽生善治名人 | 久保利明八段 |
25 | 2004年11月28日 | 佐藤康光棋聖 | 久保利明八段 |
26 | 2005年12月11日 | 藤井猛九段 | 郷田真隆九段 |
27 | 2006年11月26日 | 佐藤康光棋聖 | 郷田真隆九段 |
28 | 2007年11月18日 | 森下卓九段 | 森内俊之名人 |
29 | 2008年11月22日 | 森下卓九段 | 深浦康市王位 |
30 | 2009年11月22日 | 谷川浩司九段 | 深浦康市王位 |
31 | 2010年11月23日 | 羽生善治名人 | 山崎隆之七段 |
32 | 2011年11月20日 | 羽生善治王位・棋聖 | 渡辺明竜王 |
33 | 2012年11月18日 | 久保利明九段 | 羽生善治三冠 |
34 | 2013年11月10日 | 久保利明九段 | 羽生善治三冠 |
棋士別成績
棋士 | 優勝 | 準優 | 優勝年度 | 準優勝年度 |
---|---|---|---|---|
谷川浩司 | 6 | 5 | 1989,1990,1992,1996,1997,2009 | 1984,1985,1986,1993,2000 |
羽生善治 | 5 | 4 | 1991,1998,2003,2010,2011 | 1999,2001,2012,2013 |
米長邦雄 | 3 | 3 | 1980,1984,1986 | 1983,1994,1995 |
郷田真隆 | 3 | 2 | 1993,1994,1995 | 2005,2006 |
加藤一二三 | 2 | 2 | 1983,1987 | 1980,1988 |
久保利明 | 2 | 2 | 2012,2013 | 2003,2004 |
丸山忠久 | 2 | 1 | 1999,2001 | 2002 |
佐藤康光 | 2 | 1 | 2004,2006 | 1998 |
藤井猛 | 2 | - | 2002,2005 | |
森下卓 | 2 | - | 2007,2008 | |
大山康晴 | 1 | 2 | 1982 | 1981,1987 |
中原誠 | 1 | 2 | 1981 | 1982,1990 |
森内俊之 | 1 | 2 | 2000 | 1997,2007 |
森安秀光 | 1 | - | 1985 | |
高橋道雄 | 1 | - | 1988 | |
深浦康市 | - | 2 | 2008,2009 | |
島朗 | - | 1 | 1989 | |
有吉道夫 | - | 1 | 1991 | |
南芳一 | - | 1 | 1992 | |
村山聖 | - | 1 | 1996 | |
山崎隆之 | - | 1 | 2010 | |
渡辺明 | - | 1 | 2011 |
関連書籍
- 『スリル満点、スピード将棋』(日本将棋連盟) ISBN 4-8197-0300-5
- 「JT将棋日本シリーズBOOK」(『将棋世界』2006年7月号付録)
脚注
関連項目
- 日本将棋連盟
- 棋戦 (将棋)
- NECカップ囲碁トーナメント戦(大会形式が似ているため)
外部リンク
テンプレート:Navbox- ↑ 2009年11月28日放送の「囲碁・将棋ジャーナル」