C-17 (航空機)
テンプレート:Infobox 航空機 C-17は、マクドネル・ダグラス(現ボーイング)社が製造しアメリカ空軍が保有・運用する、主力の軍用大型長距離輸送機である。
愛称はグローブマスターIII(Globemaster III)で、旧ダグラス・エアクラフト社の開発した輸送機C-74 グローブマスター・C-124 グローブマスターIIに由来している。[1]
目次
概要
C-17はC-5戦略輸送機に近い大型貨物の長距離空輸能力と、C-130戦術輸送機並みの短滑走路での離着陸が可能な性能を持つ大型輸送機である。
アメリカ空軍では研究開発機を除く、223機を航空機動軍団(AMC/ Air Mobility Command)、太平洋航空軍(PACAF/ Pacific Air Force)、航空教育訓練軍団(AETC/ Air Education and Training Command)、空軍予備役軍団(AFRC/ Air Force Reserve Commnad)、そして州兵航空隊(ANG/ Air National Guard)に配備しているほか、平和維持活動や人道支援による軍の海外派遣が世界的に増えたことからその長距離・大型輸送能力が評価され、他国でも採用が広がりつつある。
しかし国際的な国防費削減の動きなどを受け、2013年9月18日、ボーイング社は受注済みの22機が完成する2015年をもってC-17の製造ラインを閉鎖する計画であることを発表した[2]。 テンプレート:-
歴史
C-17はC-141 スターリフターの後継として、アメリカ合衆国本土よりヨーロッパの前線未整備小型飛行場に物資を大量輸送する戦域間空輸(Intertheater Airlift)を担う大型長距離輸送機を開発する米次期輸送機計画C-X(Cargo experimental)によって生み出された。その性能要求は厳しく、未舗装の3,000フィート滑走路(914mx27m)で離着陸が可能で25m幅での転回機能を求められた。これにはボーイングやロッキードなど3社が提案を行い、1981年8月にマクドネル・ダグラス社の提案が採用された。
1982年7月に技術開発契約が結ばれたが、全規模開発契約は1985年12月31日までずれ込んだ。技術上の問題から開発は遅れ、原型機のロールアウトが1990年12月となった。初飛行は1991年9月15日に、カリフォルニア州のロングビーチ工場で行われた。部隊への配備開始は1993年7月であり、第437空輸航空団から開始された。その後も、価格性能比問題[3]により調達に遅れが生じたりしたが、問題払拭後は発注数が増加している。
C-17は開発目標をおおむね達成し、その性能に高い評価が与えられている。近年のアメリカ軍の中東展開には、欠かせないものとなっている。[1]
ノーザン・ディレイ作戦・機上のドラゴン作戦
C-17は、イラク戦争におけるアメリカ軍の初めてのエアボーン作戦に参加したことで知られている。
2003年3月26日、アルビール州北部のバシュール飛行場奪取を目的として、テンプレート:仮リンクが発動された。本作戦には、地上部隊として第173空挺旅団から旅団長ウィリアム・C・メイヴィル大佐を含む954名が、航空部隊として第62、315、437、446空輸航空団より26機のC-17が参加した。
深夜、地上部隊を搭乗させたC-17がイタリアのアビアーノ空軍基地より飛び立った。パラシュート降下は高度300mの低空にて実施され、午後8時10分から25分間で全隊員が降下した。夜闇と強風によって降下部隊は分散し、兵力の集結には時間を要した。しかし、アメリカ特殊部隊に支援されたクルド人民兵「ペシュメルガ」と連携しており、また敵の抵抗も微弱であったため、成功裏に飛行場を奪取した。以後、26機のC-17による空輸が行なわれ、4日間で旅団の残余2,200名、M119 105mm榴弾砲6門、車両400両以上、貨物3,000トンが輸送された。
その後4月7日より、旅団に配属されていた1/63機甲大隊を空輸するためのテンプレート:仮リンクが発動された。この作戦のもと、19日までの12日間で、新たに24機のC-17により、兵員300名と車両78両が空輸された。車両の内訳は、M1A1戦車(60トン)5両、M88A2戦車回収車(60トン)1両、M2A2歩兵戦闘車(27トン)5両、重PLS輸送車(25トン)1両、HEMTT重機動トラック(18トン)7両、M113A3装甲兵員輸送車(12トン)12両、FMTVトラック(9トン)4両、M997改造指揮車(4トン)2両、ハンヴィー汎用車(2.5トン)37両であった。
特徴
アメリカ陸軍のすべての装甲戦闘車両と航空機の搭載が可能で、C-5戦略輸送機の最大ペイロードの65%近くとなる77トンの貨物搭載ができる。
- 搭載例
- M1A1戦車 ×1両
- M2A2歩兵/M3騎兵戦闘車(26トン時) ×3両
- ストライカー装甲車 ×3輌
- MLRS自走多連装ロケットランチャー ×1両、支援車両 ×3両(運用および整備要員47名)
- ハンヴィー高機動多用途車 ×10両
- パトリオット地対空ミサイル発射機 ×1両(分解が必要)
- AH-64攻撃ヘリコプター ×3機
- AH-64攻撃ヘリコプター ×2機、OH-58観測・軽戦闘ヘリコプター ×3機(飛行および整備要員32名)
- 463L貨物パレット ×18個
- 2列の座席をオフセット搭載すれば兵員189名を空輸できる。
最大ペイロードでの航続距離4,440km、離着陸距離910m。先進中型短距離離着陸輸送機計画(AMST)において試作されたYC-15が実証したEBF(Externally blown flap)方式のパワード・リフト・システム(Powered lift system)を用いてSTOL性能を確保している。これはエンジン噴射流を主翼下面とスロッテッド・フラップに吹き付けて揚力を増す方式である。スラスト・リバーサーは斜め上方へ噴射することで、未舗装滑走路で異物を巻き上げ、エンジンに吸い込むことによる故障(Foreign Object Damage 略語:FOD)を最小限にしている。これらにより戦略輸送機と戦術輸送機を兼ねられる機体としているが、厳密には降着装置の接地圧が致命的に高く後者の条件は満たしていない。
C-17は太い胴体とともに、横に突き出したスポンソン部に4ユニット計12個の車輪を収めることで、大きな貨物の搭載を可能としている。貨物の積み下ろし口は後部ランプのみであるが、油圧ウインチと8列ローラー・コンベアによる省力化で、1人のロードマスターでも卸下運用が行えるようになっている。
コックピット内部は広く、2名のパイロット席後部の2名分の追加乗員席に加えて、ギャレーや2名分のベッドが備えられている[1]。計器は4基の多機能ディスプレイを備えたグラスコックピットとなっており、輸送機としては世界で初めてヘッドアップディスプレイを採用した。操縦装置はフライ・バイ・ワイヤで、従来の操縦輪ではなく操縦桿を採用しているが、配置はサイドスティック方式ではなく通常のセンター配置である。また、前部胴体の右側にはロードマスター用の操作席が設けられている。
多くの軍用輸送機と同じく高翼配置の主翼にターボファンエンジンを4基搭載し、T型尾翼となっている。翼端にはウィングレットを装備している。また、19tまでの低高度パラシュート抽出システム(LAPES)に対応している。
生産71号機以降は中央翼部に燃料タンクが増設されて航続距離が延び、ボーイング社ではこの型をC-17ERと呼んでいる。現在開発中の改良型C-17Bでは、推力向上型エンジンと新型フラップシステムの導入によって離着陸性能を向上させ、滑走路面への荷重分散のため中央胴体下に主脚を1本増設する。
- Defense.gov photo essay 110111-F-8695M-080.jpg
貨物を投下中のC-17
- Boeing C-17A Globemaster III 03 (4815848213).jpg
- C-17 Globemaster III at Air refuling by an Boeing KC-135 Stratotanker.JPG
空中給油中のC-17
- Salon du Bourget 20090619 191.jpg
エンジン
- C-17 Globemaster III no. 5139 starboard wing rear 1.JPG
右翼 後方
- Stryker at Daegu Air Base.jpg
機内から降ろされるM1126 ICV
- Leopard C2 Canadian Forces.jpg
機内から降ろされるレオパルトC2
- Loading Humvees.jpg
ハンヴィー2台が並べられる横幅
- FEMA - 29768 - MERS truck being loaded on to a C-17 in Colorado.jpg
機内へ積み込まれるFEMAの車両
採用国
2013年現在、C-17を採用しているのは7ヶ国と1機構軍である。
- アメリカ空軍航空機動軍団(AMC)では223機が配備され運用されている。
- イギリス空軍ではエアバス A400Mの開発遅延もあり、2001年からグローブマスター C.1の名称で(ただしこの名称はすぐに廃れ、現在は単にC-17A グローブマスターIIIとなっている[4])C-17Aの運用を開始した。当初はリース契約であったが、2004年に購入契約に切り替えた。
- 4機の運用であったが、2009年までに6機に増強され、同年12月に更に1機が追加発注される。
- 2006年にオーストラリア空軍が開発中のA400Mとの比較検討の上、国外展開用に4機の購入を決定した。費用は10億オーストラリア・ドルである。
- 2006年から2008年にかけて機体を受領し、第36飛行隊に配備されている。2011年に発生した東北地方太平洋沖地震においては当時利用可能であった3機全てが救援物資の輸送のため日本に派遣された。2011年の追加発注により、2012年11月には6機に増強されている。
- 2009年にC-17Aを2機、2010年1月に4機をさらに追加発注。2011年に最初の2機、2012年に4機が納入予定。
- C-17Aを多国籍で共同調達・共同運用を行う戦略空輸能力(SAC)構想を発表し、2008年10月1日にブルガリア、エストニア、ハンガリー、リトアニア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、アメリカのNATO加盟10ヶ国とNATO非加盟のスウェーデン、フィンランドの合計12ヶ国が了解覚書に調印。
- アメリカ空軍から1機が提供されるほか、2009年に新造機2機を調達し、ハンガリー空軍のパパ空軍基地を拠点に運用が行われている。そのため、機体にはハンガリー空軍の国籍マークが描かれている。
- インド空軍がロシア製のIl-76 20機の後継としてC-17Aの購入を希望し、2009年2月にアメリカ空軍に対し取得費や運用コストについての情報を求めた。最終的に2011年6月に10機の発注に至り、2013年から引き渡し開始予定。
- 2011年4月現在、前述の10機に加えさらに6機の購入を計画している。
- 2010年9月にFMS(対外有償軍事援助)形式で1機の購入を希望しており、2013年に2機を発注、翌年2月13日に初号機が納入された。
検討・計画中
- 航空自衛隊でC-1の後継候補となったが、使用できない飛行場があり、最高巡航速度が性能要求を下回ることから採用されなかった[5]。その後、国際貢献や国際緊急援助隊の展開や、現在開発中のXC-2次期輸送機や運用が始まったKC-767J空中給油・輸送機を補完する役割も考慮して、改めて導入するか検討されているテンプレート:要出典。
- 伊藤忠商事が日本での輸入代理店になっており、1990年代後半の『自衛隊装備年鑑』などに掲載した広告には、日本国政府専用機の塗装を施したC-17のイラストが添えられていた。
- 2009年3月27日フランス国防省がアメリカ空軍に書簡を送り、3機のC-17A購入についての価格や引渡し時期などのデータの問い合わせを行った。フランス空軍のC-17A導入が正式に決まったわけではないが、イギリス同様エアバス A400Mの開発遅延が問題になっているため、場合によっては同機就役までの中継ぎの輸送機としてC-17Aの採用(購入またはリース)を考えざるを得ない状況である。
- C-17の導入を正式に決めたわけではないが、2008年夏にC-17クラスの輸送機を3-4機購入する資金を準備した。
民間型
- 旧マクドネル・ダグラス時代の1990年代に本機の民間用バージョンとして「MD-17」が計画されていたが実現しなかった。2000年にはボーイングが民間型「BC-17X」のアナウンスを行ったが、受注は得られていない[6]。
搭載機器
仕様
- 全長:53.0m
- 全幅:51.8m
- 全高:16.8m
- 翼面積:353.02m2
- 巡航速度:M.0.77(860km/h、高度7,620m)
- エンジン:P&W F117-PW-100ターボファン(18,460kg)4基
- 航続距離:5,190km (空荷フェリー時:9,815km)
- 貨物室:h:3.76m、w:5.48m、l:26.82m(6mランプ含む)
- 空虚重量:128.1t
- 最大離陸重量:265.35t
- 最大積載量:77.519t
- 最低着陸必要距離:1,000m(500mで着陸した実績有り)[1]
登場作品
- 映画
- 『トランスフォーマー』
- 『トランスフォーマー/リベンジ』
- 『アイアンマン』
- 『アイアンマン2』
- 『マン・オブ・スティール』
- ゲーム
- 『大戦略シリーズ』
- 『エースコンバットシリーズ』
- 敵や味方の輸送機で登場
出典
- ↑ 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 軍事研究2007年10月号「地球の裏へ急速空輸:C-5/C-17巨人機」
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ http://www.gao.gov/archive/1995/ns95026.pdf アメリカ会計検査院報告
- ↑ RAF - C-17A Globemaster
- ↑ 次期輸送機 政策評価書防衛省・自衛隊
- ↑ ボーイング・プレスリリース。BC-17X