空中給油
空中給油(くうちゅうきゅうゆ)とは、飛行中の航空機に他の航空機から給油を行うこと。英語では In-Flight Refueling (IFR) や Air-to-Air Refueling (AAR) と呼ばれる。軍事的目的での飛行で行なわれることが多い。
目次
概要
テンプレート:Multiple image 空中給油機(タンカー)と呼ばれる空中給油を行うために特化した航空機から、戦闘機へ給油する場合が圧倒的に多い。バディポッドと呼ばれる装備を使えば戦闘機などの小型機同士でプローブアンドドローグ方式の給油を行うこともできる。
空中給油の最大の目的として、滞空時間(航続距離)の延長が挙げられる。戦闘機が敵の攻撃に備え戦闘空中哨戒(CAP)を行う場合などに効果を発揮する。通常の戦闘機がミサイルなどを搭載した状態で滞空できる時間は通常3- 4時間程度だが、基地から哨戒空域までの往復の時間を考えると実際に哨戒を行える時間はさらに短くなる。また、給油による哨戒活動の中断を避けるためには、複数の戦闘機を用意して順次離陸させなければならず、効率が悪い。しかし、空中給油を行えば1機で長時間の哨戒が可能となる。また、訓練の際などにも基地までの往復の時間が飛行時間に占める割合が低くなるため、効率が良い。その他、突発的戦闘や航法ミスなどの予定外の事態による燃料消費や、増槽投棄などで帰路の燃料を失った航空機に対して空中給油が行なわれることもある。
また、空中給油により戦闘機の搭載能力を向上させることもできる。軍用機では最大離陸重量が最大飛行重量を下回る(端的に言えば軽量化のため降着装置が強くない)ことが少なくないが、搭載燃料は少量として離陸時の搭載量のより多くを空対地ミサイルや爆弾などの兵装に振り分け、追って空中給油を行うことにより最大の積載量を発揮することが可能になるためである。
歴史
空中給油の歴史は古く、1923年にアメリカ陸軍航空隊所属のDH-4B同士で行われたのをはじめとして各国で実験的に行われ日本でも1931年に初めて空中給油実験が行われた。しかしこの頃の空中給油は軍事的利点が少なかったため商業輸送機の航続距離延長や滞空時間の世界記録樹立などに使用されただけで軍用としての実用化にはいたらなかった。
本格的に実用化されたのは米ソの溝が深くなる第二次世界大戦後のことで、このころになるとアメリカ合衆国本土から直接ソビエト連邦を爆撃する必要が出てきたためそれを実現する方法として空中給油が注目され、アメリカ空軍は1949年にKB-29の支援を受けたB-50戦略爆撃機による世界一周無着陸飛行を行い、空中給油の有用性を世界に示した。このときの空中給油方式はループホース方式と呼ばれるものだったが実用上問題があり、より実用的な空中給油の方法として、アメリカ合衆国のボーイング社でフライングブーム方式が、イギリスのフライト・ リフューリング社でプローブアンドドローグ方式が開発された。その後フライングブーム方式はアメリカ空軍で、プローブアンドドローグ方式はその他の軍で採用され現在にいたっている。
空中給油はベトナム戦争ではグアムから出撃するB-52戦略爆撃機の支援、フォークランド紛争においてはアセンション島から出撃するバルカン爆撃機の支援、湾岸戦争では戦闘機のアメリカ本土からサウジアラビアへの展開の支援、アメリカのアフガニスタン攻撃の際、アメリカ本土から飛び立つB-2戦略爆撃機への支援など戦争のたびに目立たないながらも非常に重要な役割を果たしている。
航空自衛隊はボーイング767の改造型KC-767を4機導入した。
空中給油の方法
現在、空中給油の方法には大きく分けフライングブーム方式とプローブアンドドローグ方式の2つがある。
フライングブーム方式
フライングブーム方式は主にアメリカ空軍及びF-15やF-16を用いている各国空軍が採用している方式で、給油機側がブームの動きを操作し給油を受ける航空機の燃料口(リセプタクル)に燃料パイプを挿し込み給油を行う[1][2]。
利点
- 給油を受ける航空機の側は給油機の後ろにならんで飛行するだけでよいため受ける側の負担が少ない。
- 時間当たりに給油できる量がプローブアンドドローグ方式に比べ多い。
- アタッチメントを使用すればプローブアンドドローグ方式の給油も行える。
- この方式の給油口は機外にプローブを露出するプローブアンドドローグ方式の給油口に比べて、空力の影響が小さい。よって被給油機の空力的な性能向上にもなる。
欠点
- 給油機側にブームを操作する人員が必要なため一度に1機にしか給油ができない。
- 給油機側の改造に手間がかかる。給油を受ける戦闘機や輸送機は、フライングブーム式からプローブアンドドローグ式への改造は容易だが(ベトナム戦争中、アメリカ空軍で試験的に運用されていたF-5Aの特別バージョンであるF-5Cに対する給油を行うためにフライングブームを特別に改造したKC-135が登場した)、給油機側を逆に改造するのは困難である。
- もっぱら米国で用いられている方法のため、米国のサポートが無いと持続が困難になる事が多い(革命後のイラン空軍など)。
この方式に適した航空機
微妙な位置合わせが難しく大量の燃料が必要な大型機への給油にむいている。
- Usaf.f15.f16.kc135.750pix.jpg
フライングブーム方式
- KC-135 Stratotanker boom operator.jpg
ブームオペレーター
- F16A PoAF refueling from a USAF tanker.jpg
給油中のF-16
- F-22 Raptor - 100727-F-7370M-104.jpg
プローブアンドドローグ方式
プローブアンドドローグ方式はアメリカ海軍をはじめ多くの空軍及び海軍航空隊で採用されている方法で、給油機側は先が漏斗状になったホース(ドローグ)を伸ばし給油を受ける側が漏斗の部分にパイプ(プローブ)を挿し込み給油を受ける。
フランス空軍で運用されているKC-135Fは今までフランス空軍の空中受油能力のある機体が全てプローブアンドドローグ方式なので、フライングブーム先端にドローグが付いたホースを装着し、常時プローブアンドドローグ方式で運用されている。
主に艦載機で広く行われている、空中給油ポッドもしくは小型給油機(既存の艦上攻撃機や艦上対潜哨戒機を改造)を用いたバディ給油もこの応用である。
航空自衛隊では一部のC-130Hにプローブアンドドローグ方式の空中給油ポッドの増設や空中給油受油能力の付与を行い、KC-130Hとして運用している。
利点
欠点
- フライングブーム方式に比べ時間当たりに給油できる量が少ない
- 給油を受ける側がプローブを合わせる必要があり、高度な技術を要する
この方式に適した航空機
繊細な操縦が比較的容易で大型機に比べ必要な燃料が少ない小型機への給油に適する。
- Helicopter aerial refueling.jpg
プローブアンドドローグ方式
- Spanish KC-130H and F-18.jpg
2本のドローグを延ばすKC-130
- Panavia Tornado Tankruessel.jpg
トーネード IDSの空中受油プローブ
- Marine Corps CH-53E Super Stallion 1.jpg
ドローグへ接近中のCH-53E
- USMC-091031-M-8334L-003.jpg
給油を受けるMV-22
HIFR
艦船から空中に飛行したままのヘリコプターへの給油は、HIFR(Helicopter In Flight Refuling)と呼ばれる。HIFRによる給油を受けるヘリは、艦船の上を並走しながら機上ホイストでワイヤを下ろして給油ホースを引き上げ、機内の給油口に接続する。給油は艦船側から圧送されるので手違いで燃料が艦上に振りそそぐことがないよう、ヘリは通常、右側の操縦士が位置を確認しやすい艦船の左舷側の海上を並んで飛行しながら行われる。
艦船側に着艦できる場所がない場合や、海況が悪く着艦に危険を伴う場合などに取られる方法であり、航空燃料と適切なポンプやホース類があればどのような艦船でも実施できる。
各国海軍では艦上ヘリコプターでは常にHIFRの訓練を行っている[4][出典 1]。イギリス海軍ではインヴィンシブル級航空母艦に搭載された早期警戒ヘリコプターの哨戒時間を延長する為にHIFRを行っている。
- HIFR(MVC-006S).JPG
燃料ホースを船から引き上げる
- HIFR(MVC-007S).JPG
ホースを機に接続し給油を行う
脚注
- ↑ 航空自衛隊のKC-767Jもフライングブーム方式である。
- ↑ ステルス機の多くが用いているRAMなどの特殊塗装は比較的強度が低く空中で安定しないドローグでは機体外面に接触することで剥離が起きる可能性が高い。フライングブーム方式ではブームがほぼ安定しているのでこのような可能性は低い。
- ↑ 回転翼のホースへの接触を避ける細心の注意が必要。映画『パーフェクト ストーム』では暴風雨の中、KC-130から空中給油を受けようとして失敗、燃料不足で墜落するアメリカ沿岸警備隊のHH-60が登場する。
- ↑ 米海軍ではHIFRを俗に「ハイ・ドリンク」と呼んでいる。
出典
関連項目
- 空中給油機が一般的になる前は長距離攻撃の手段として研究が進められていたが、空中給油機が実用化されると見放されてしまった。テンプレート:Link GA