1984年 (小説)
テンプレート:基礎情報 書籍 テンプレート:Portal 『1984年』(テンプレート:En)は、イギリスの作家ジョージ・オーウェルの小説。1949年刊行。
目次
概要
トマス・モア『ユートピア』、スウィフト『ガリヴァー旅行記』、ザミャーチン『われら』、ハクスリー『すばらしい新世界』などのディストピア(反ユートピア)小説の系譜を引く作品で、スターリン体制下のソ連を連想させる全体主義国家によって分割統治された近未来世界の恐怖を描いている。なお、著者などは言及していないが「1984年」という年号は、本作が執筆された1948年の4と8を入れ替えたアナグラムであるという説が一般的である。これによって、当時の世界情勢そのものへの危惧を暗に示したものとなっている。
出版当初から冷戦下の英米で爆発的に売れ、同じ著者の『動物農場』やケストラーの『真昼の闇黒』などとともに反全体主義、反集産主義のバイブルとなった。冷戦時の共産主義体制を批判した反共主義者も、また政府による監視や検閲や権威主義を批判する西側諸国の反体制派も、好んでこの小説を引用する。
1998年にランダム・ハウス、モダン・ライブラリーが選んだ「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100[1]」、2002年にノルウェー・ブック・クラブ発表の「史上最高の文学100」[2]に選出されるなど、欧米での評価は高く、思想・文学・音楽など様々な分野に今なお多大な影響を与え続けている。
作品背景
オーウェルは1944年にはこの小説のテーマ部分を固めており、結核に苦しみながら1947年から1948年にかけて転地療養先の父祖の地スコットランドのジュラ島でほとんどを執筆した[3]。病状の悪化により1947年暮れから9か月間治療に専念することになり、執筆は中断された。1948年12月4日、オーウェルはようやく『1984年』の最終稿をセッカー・アンド・ウォーバーグ社(Secker and Warburg)へ送り、同社から1949年6月8日に『1984年』が出版された[4][5]。
1989年の時点で、『1984年』は65以上の言語に翻訳される成功を収めた[6]。『1984年』という題名、作中の用語や「ニュースピーク」の数々、そして著者オーウェルの名前自体が、今日では政府によるプライバシーの喪失を語る際に非常に強く結びつくようになった。「オーウェリアン」(Orwellian、「オーウェル的世界」)という形容詞は、『1984年』などでオーウェルが描いた全体主義的・管理主義的な思想や傾向や社会を指すのに使われるようになった。
当初、この小説は、『ヨーロッパ最後の人間』(The Last Man in Europe)と題されていた。しかし1948年10月22日付の出版者フレデリック・ウォーバーグに対する書簡で、オーウェルは題名を『ヨーロッパ最後の人間』にするか、『1984年』にするかで悩んでいると書いている[7]が、ウォーバーグは『ヨーロッパ最後の人間』という題名をもっと商業的に受ける題名に変えるよう示唆している[8]。オーウェルの題名変更の背景には、1884年に設立されたフェビアン協会の100周年の年であることを意識したという説[9]、舞台を1984年に設定しているディストピア小説『鉄の踵』(The Iron Heel, ジャック・ロンドン、1908年)や『新ナポレオン奇譚』(The Napoleon of Notting Hill, G.K.チェスタトン、1904年)を意識したという説[10]、最初の妻アイリーン・オショーネシー(Eileen O'Shaughnessy)の詩、『世紀の終わり、1984年』(End of the Century, 1984)からの影響があったとする説などがある[11]。アンソニー・バージェスは著書『1985年』(1978年刊行)で、冷戦の進行する時代に幻滅したオーウェルが題名を執筆年の『1948年』にしようとしたという仮説を上げている。ペンギン・ブックス刊行のモダン・クラシック・エディションから出ている『1984年』の解説では、当初オーウェルが時代設定を1980年とし、その後執筆が長引くに連れて1982年に書きなおし、さらに執筆年の1948年をひっくり返した1984年へと書きなおしたとしている[12]。
オーウェルは1946年のエッセイ『なぜ書くか』(Why I Write)では、1936年以来書いてきた作品のすべてにおいて、全体主義に反対しつつ民主社会主義を擁護してきたと述べている[13]。オーウェルはまた、1949年6月16日に全米自動車労働組合のフランシス・ヘンソンにあてた手紙で、「ライフ」1949年7月25日号および「ニューヨーク・タイムズ・ブックレビュー」7月31日号に掲載される『1984年』からの抜粋について、次のように書いている。 テンプレート:Quote
しかしアメリカなどでは、一般的には反共主義のバイブルとしても扱われた。アイザック・ドイッチャーは1955年に書いた『一九八四年 - 残酷な神秘主義の産物』の中で、ニューヨークの新聞売り子に「この本を読めば、なぜボルシェヴィキの頭上に原爆を落とさなければならないかわかるよ」と『1984年』を勧められ、「それはオーウェルが死ぬ数週間前のことだった。気の毒なオーウェルよ、君は自分の本が”憎悪週間”のこれほどみごとな主題のひとつになると想像できたであろうか」と書いている[14]。
あらすじ
1950年代に発生した核戦争を経て、1984年現在、世界はオセアニア、ユーラシア、イースタシアの3つの超大国によって分割統治されている。さらに、間にある紛争地域をめぐって絶えず戦争が繰り返されている。作品の舞台となるオセアニアでは、思想・言語・結婚などあらゆる市民生活に統制が加えられ、物資は欠乏し、市民は常に「テレスクリーン」と呼ばれる双方向テレビジョンによって屋内・屋外を問わず、ほぼすべての行動が当局によって監視されている。
ロンドンに住む主人公ウィンストン・スミスは、真理省の役人として日々歴史記録の改竄作業を行っていた。物心ついたころに見た旧体制やオセアニア成立当時の記憶は、記録が絶えず改竄されるため、存在したかどうかすら定かではない。スミスは古道具屋で買ったノートに自分の考えを書いて整理するという、禁止された行為に手を染める。ある日の仕事中、抹殺されたはずの3人の人物が載った過去の新聞記事を偶然に見つけたことで体制への疑いは確信へと変わる。「憎悪週間」の時間に遭遇した同僚の若い女性、ジューリアから手紙による告白を受け、出会いを重ねて愛し合うようになる。また、古い物の残るチャリントンという老人の店を見つけ、隠れ家としてジューリアと共に過ごした。さらにウインストンが話をしたがっていた党内局の高級官僚の1人、オブライエンと出会い、現体制に疑問を持っていることを告白した。エマニュエル・ゴールドスタインが書いたとされる禁書をオブライエンより渡されて読み、体制の裏側を知るようになる。
ところが、こうした行為が思わぬ人物の密告から明るみに出て、ジューリアと一緒にウィンストンは思想警察に捕らえられ、愛情省で尋問と拷問を受けることになる。彼は「愛情省」の101号室で自分の信念を徹底的に打ち砕かれ、党の思想を受け入れ、処刑(銃殺)される日を想いながら“心から”党を愛すようになるのであった。
本編の後に『ニュースピークの諸原理』と題された作者不詳の解説文が附されており、これが標準的英語の過去形で記されていることが、スミスの時代より遠い未来においてこの支配体制が破られることを暗示している。
登場人物
- ウィンストン・スミス
- 39歳の男性。真理省記録局に勤務。キャサリンという妻がいるが、別居中。しばしば空想の世界に耽り、現体制の在り方に疑問を持ち、テレスクリーンから見えない物陰で密かに日記を付けている(イングソック下においては極刑相当の「思考犯罪」行為である)。ネズミが苦手。見捨てられた存在であるプロレ達に「国を変える力がある」という考えの持ち主。
- ジューリア
- 26歳の女性。真理省創作局に勤務。青年反セックス連盟の活動員。表面的には熱心な党員を装っているが、胸中ではスミスと同じく党の方針に疑問を抱いている。他方、党の情報の改竄など、自分自身にあまり関係のないことには興味がない。ウィンストンに手紙を使って告白し、監視をかいくぐって逢瀬を重ねる。
- オブライエン
- 真理省党内局に所属する高級官僚。他の党員と違い、やや異色の雰囲気を持つ。ウィンストンの夢にたびたび現れる。後にウィンストンに接近し、秘密結社『兄弟同盟』の一員であると名乗る。人心掌握の術に長け、自身も「二重思考」を巧みに使いこなし党の任務を果たす。
- トム・パーソンズ
- ウィンストンの隣人。真理省に勤務。肥満型だが活動的。献身的でまじめな党員。幼い息子と娘がおり、二人とも父と同じく完全に洗脳されている。
- パーソンズ夫人
- トム・パーソンズの妻。30歳くらいだが、年よりもかなり老けて見える。親を密告する機会を虎視眈々と狙っている自分の子供達に怯えている。
- サイム
- ウィンストンの友人。真理省調査局に勤務。言語学者でニュースピークの開発スタッフの一人。饒舌で、また頭の回転も速い。ニュースピークの「言語の破壊」に興奮を覚え、心酔している。
- チャリントン
- 下町で古道具屋を営む老人。63歳のやもめ暮らしで、古い時代への愛着を持つ数少ない人物の一人。ウィンストンとジューリアの密会の場所を提供する。
- ビッグ・ブラザー(偉大な兄弟)
- オセアニア国の指導者。肖像では黒髭をたくわえた温厚そうな人物として描かれている。モデルはヨシフ・スターリン。
- エマニュエル・ゴールドスタイン
- かつては「ビッグ・ブラザー」と並ぶ指導者であったが、のちに反革命活動に転じ、現在は「人民の敵」として指名手配を受けている。「兄弟同盟」と呼ばれる反政府地下組織を指揮しているとされる。党によれば、いかにも狡猾そうで山羊に似た顔立ちの老人。モデルはレフ・トロツキー。ゴールドスタインという名は、トロツキーの本名「ブロンシュタイン」のもじりである[15]。
設定
地理
オセアニア (Oceania) は、物語の舞台になる第三次世界大戦後の超大国。イデオロギーは「イングソック(下記参照)」。旧アメリカ合衆国をもとに、南北アメリカおよび旧イギリス、アフリカ南部、オーストラリア南部(かつての英語圏を中心とする地域)を領有する。
残る超大国は、旧ソ連をもとに欧州大陸からロシア極東にかけて広がるユーラシア(Eurasia、イデオロギーは「ネオ=ボリシェビキズム」)、旧中国や旧日本を中心に東アジアを領有するイースタシア(Eastasia、イデオロギーは「死の崇拝」あるいは「個の滅却」)。どの国も一党独裁体制であり、イデオロギーにもそれほど違いは無い。
これら3大国は絶えず同盟を結んだり敵対しながら戦争を続けている。表向きは、各国とも世界支配のため他の大国を滅ぼすべく戦っているが、実態は世界を分割する3大国が結託し、労働力や資源を戦争で浪費することにより、富の増加による階級社会の不安定化や崩壊を防ぎ、支配階層が権力を半永久的に維持できるようにするために行っている永久戦争である。三大国はどれも戦争で滅ぼすことは不可能である(オセアニアはその名の通り大洋に守られているため、ユーラシアは国土が広大であるため、イースタシアは人口が多く勤勉であるため)。 北アフリカから中東、インド、東南アジア、北オーストラリアにかけての一帯は、これら3大国が半永久的に争奪戦を繰り広げる紛争地域である。
エアストリップ・ワン(Airstrip One / エアストリップ一号)は、この物語の舞台となるオセアニアの一区域。最大都市はロンドン。かつて英国とよばれた地域に相当し、ユーラシアに支配されたヨーロッパ大陸部とは断絶状態にある。エアストリップ(緊急用滑走路)の名のとおり、その主たる存在意義は、航空戦力でユーラシアに対峙・反撃する最前線基地であることと想定される。いわばオセアニアの不沈空母である。ロンドンには絶えずミサイルがどこからか着弾している。
しかし作中で描かれるこれらの戦争は、どこからか落ちてくるミサイル以外は、全てテレスクリーンを通じて国民に提供された情報によるもので、実際に戦争が行われているのか、また他国が存在するのか、エアストリップ・ワン以外のオセアニア領土がどうなっているのかは謎に包まれている。
党とイデオロギー
テンプレート:Main 党は、「ビッグ・ブラザー(1972年旧訳では「偉大な兄弟」、なお英語の Big Brother に独裁者という意味があるのはこの作品に由来する)」によって率いられる唯一の政党である。「ビッグ・ブラザー」は国民が敬愛すべき対象であり、町中の到る所に「ビッグ・ブラザーがあなたを見守っている」(BIG BROTHER IS WATCHING YOU) という言葉とともに彼の写真が張られている。しかし、その正体は謎に包まれており、実在するかどうかすらも定かではない。党の最大の敵は「人民の敵」エマニュエル・ゴールドスタインで、オセアニアと党を崩壊させるためのあらゆる陰謀の背後に彼がいるとされる。国民は毎日、テレスクリーンを通して彼に対する「二分間憎悪」を行い、彼に対する憎しみを駆り立てる。テレスクリーンの登場により、全国民は党の監視下に置かれ、私的生活は存在しなくなっている。
党のイデオロギーはイングソック(IngSoc、Inglish Socialism, つまりイングランド社会主義の略)と呼ばれる一種の社会主義であり、核戦争後の混乱の中、社会主義革命を通じて成立したようだが、誰がどのような経緯で革命を起こしたのかは、忘却や歴史の改竄により明らかではない。ゴールドスタインの禁書によれば、そのイデオロギーの正体は「少数独裁制集産主義」とでも呼ぶべきもので、「社会主義の基礎となる原理をすべて否定し、それを社会主義の名の下におこなう」ことであるという。もとは社会主義運動の中から発したが、現在は中層階級が下層階級を味方につけて上層階級を倒す事態を永久に防ぎ、非自由と不平等を恒久的なものにすることを目的としている。
党の3つのスローガンが、至る所に表示されている。これらはゴールドスタインの禁書『少数独裁制集産主義の理論と実際』の各章の題名でもある。
- 戦争は平和である (WAR IS PEACE)
- 自由は屈従である (FREEDOM IS SLAVERY)
- 無知は力である (IGNORANCE IS STRENGTH)
国民
党には中枢の党内局(2009年新訳では党中枢) (inner party) と一般党員の党外局(2009年新訳では党外郭) (outer party) がある。党内局員は黒いオーバーオール(かつての労働者階級の作業着だったとされる)を着用し、貴族制的な支配階級(上層階級)で、世襲でなく能力によって選ばれ、テレスクリーンを消すことができる特権すらある。党外局員は青いオーバーオールを着る中間層(中層階級)で、党や政府の実務の大半をこなす官僚たちである。党の主要な監視対象は、上層階級に対して立ち上がる可能性のある中層階級である党外局員であり、党内局員も党外局員も反抗の意思を少しでも見せたら密告などに遭い、思想警察(思考警察)に連行され「蒸発」してゆく。「蒸発」した人間は存在の痕跡を全て削除され、その者は初めからこの世に存在していなかった(ニュースピークで言う「非存在」)として扱われる。
党に関わりを持たない人々はプロレ(2009年新訳ではプロール、the proles、プロレタリアの略)と呼ばれ、人口の大半を占める被支配階級(下層階級)の労働者たちであるが、娯楽(酒、ギャンブル、スポーツ、セックス、またその他「プロレフィード(Prolefeed、直訳すると「プロレの餌」)」と呼ばれる、党の制作した人畜無害な小説や映画、音楽、ポルノなど)が提供されている。彼らに対する政治教育は行われておらず、識字率も半分以下である。多くはテレスクリーンさえ持っておらずそれゆえ監視もされていないが、党はプロレ階層を社会を転覆させる能力のある脅威であるとは全く見ておらず、動物を放し飼いにするように接している。彼らは10代から働き、早くに子供を作って60歳までには死んでしまう。重労働が彼らを蝕み、彼らの住む貧民地区にはおびただしい犯罪が横行している。
党外局員およびプロレの生活水準はきわめて低いが、テレスクリーンによる宣伝によれば日用品などの生産は毎年驚くほど伸び続けており、1950年代の革命以前の社会は言語を絶するほどの貧しさだったという。もっとも過去の統計や過去に発表された目標数値は改竄され続けており、今より昔のほうが生活が豊かだったことを証明することは不可能である。
人間の性本能や愛情は抑圧されている。党は神経学的に性本能を抹殺し、性行為から快楽を除去しようと試みており、党や「ビッグ・ブラザー」以外への愛情は必要としない。プロレの性に関しては放置されているが、党員の場合、結婚は党への奉仕のために子供を生むための「儀礼」であり、男女間に肉欲がある場合は結婚を許可されない。若者の間には「青年反セックス連盟」というものがあり、完全な独身主義を提唱し性を汚すキャンペーンを行っている。
政府
オセアニアには単一の首都は存在しない。オセアニアの各地域の国民は他地域や他民族による支配を感じておらず、ロンドンやニューヨークなど各地方の中心都市による自治が行われていると認識している。ロンドン市内には政府省庁の入った4つのピラミッド状の建築物がそびえ立っており、それぞれに先述の3つのスローガンが側面に書かれている。
- 平和省(The Ministry of Peace、ニュースピークでは Minipax)
- 軍を統括する。オセアニアの平和のために半永久的に戦争を継続している。
- 豊富省(The Ministry of Plenty、ニュースピークでは Miniplenty)
- 絶えず欠乏状態にある食料や物資の、配給と統制を行う。
- 真理省(The Ministry of Truth、ニュースピークでは Minitrue)
- オセアニアのプロパガンダに携わる。政治的文書、党組織、テレスクリーンを管理する。また、新聞などを発行しプロレフィードを供給するほか、歴史記録や新聞を、党の最新の発表に基づき改竄し、常に党の言うことが正しい状態を作り出す。
- 愛情省(The Ministry of Love、ニュースピークでは Miniluv)
- 個人の管理、観察、逮捕、反体制分子(本物か推定かにかかわらず)に対する尋問と拷問を行う。連れてきた者を、最終的に党を愛させるようにし、その後処刑する。
- 真理・愛情の両省で「思想・良心の自由」に対する統制を実施。
ニュースピーク
テンプレート:Main ニュースピーク (テンプレート:En、新語法)は、思考の単純化と思想犯罪の予防を目的として、英語を簡素化して成立した新語法である。語彙の量を少なくし、政治的・思想的な意味を持たないようにされ、この言語が普及した暁には反政府的な思想を書き表す方法が存在しなくなる。
付録として作者によるニュースピークの詳細な解説が載っている[16]。 これによるとニュースピークにはA群B群C群に分けられた語彙が存在し、A群には主に日常生活に必要な名詞や動詞が含まれ、その意味は単純なものに限定され文学や政治談議には使用しにくいもののみがイングソックによる廃棄をまぬがれる。B群には政治に使用される用語が含まれ少なからずイデオロギーを含んだ合成語が含まれる(例: テンプレート:En(正統性)、テンプレート:En(思想犯罪))。C群にはほかの語群の不足を補うための科学技術に関する専門用語が含まれる。
またニュースピークは現代英語を必要最小限にまで簡略化することを目指しており、現在では別々の言葉が似たような意味を持つという理由で統合され名詞や動詞の区別も接尾語により変化する。たとえばテンプレート:En(思想[名詞])はニュースピークの文法では テンプレート:En(考える[動詞])で代用でき、テンプレート:En(速さ[名詞])に形容詞をあらわす テンプレート:En や副詞をあらわす テンプレート:En を加えることでそれぞれの品詞に自在に変化する。テンプレート:En をあらわすには テンプレート:En に否定の接頭語 テンプレート:En をつけた テンプレート:En でこと足り、強意表現はテンプレート:En といった接頭語をつけることで表現される。また、テンプレート:En などのように略語を極端に採用しているが、これによって本来の語源を考えることなくまったく自動的に単語を話すことができる(これには、ナチスドイツやソ連が「ゲシュタポ」「コミンテルン」などのような略語を多用したことの影響がある)。
新語法(ニュースピーク)辞典が改定されるたびに語彙は減るとされている。それにあわせシェークスピアなどの過去の文学作品も書き改められる作業が進められている。改訂の過程で、全ての作品は政府によって都合よく書き換えられ、原形を失う。テンプレート:En の意味も「テンプレート:En ~」(~がない)の意味しか残らず「政治的自由」「個人的自由」の意味は消滅しているなど変化しており、原文の意味を保って自由や平等を謳う政治宣言などをニュースピークに翻訳することは不可能になる。
なお、ニュースピークという言葉自体が既にニュースピークである。本来、テンプレート:En という単語に名詞としての用法は無い。
ダブルシンク
テンプレート:Main ダブルシンク(テンプレート:En、二重思考)は、1人の人間が矛盾した2つの信念を同時に持ち、同時に受け入れることができるという、オセアニア国民に要求される思考能力である。現実認識を自己規制により操作された状態でもある。
- 過去を支配する者は未来まで支配する。現在を支配する者は過去まで支配する
- 政府が過去を改竄し続けているのは、党員が過去と現在を比べることを防ぐため、そして何よりも党の言うことが現実よりも正しいことを保証するためである。党員は党の主張や党の作った記録を信じなければならず、矛盾があった時は誤謬を見抜かないようにし(誤謬を無視するこの思考方法を「犯罪中止」という)、万一誤謬に気づいても「二重思考」で自分の記憶や精神の方を改変し、「確かに誤謬があった、しかし党の言うほうが正しいのでやはり誤謬はない」ということを認識しなければならない。
- 古代の専制者は命じた。汝、するなかれと。全体主義者は命じた。汝、すべしと。我々は命じる、汝、かくなり、と
- オブライエンの言によれば、かつての専制国家は人々に対しさまざまなことを禁止していた。近代のソ連やナチス・ドイツなどは人々に理想を押し付けようとした。今日のオセアニアでは人々はニュースピークやダブルシンクを通じ認識が操作されるため、禁止や命令をされる前に、すでに党の理想どおりの考えを持ってしまっている。党の考えに反した者も、最終的には「自由意思」で屈服し、心から党を愛し、党に逆らったことを心から後悔しながら処刑される。
- 2足す2は5である(2+2=5、テンプレート:En)
- この小説を象徴するフレーズの一つ。スミスは当初、党が精神や思考、個人の経験や客観的事実まで支配するということに嫌悪を感じて(「おしまいには党が2足す2は5だと発表すれば、自分もそれを信じざるを得なくなるのだろう」)自分のノートに「自由とは、2足す2は4だと言える自由だ。それが認められるなら、他のこともすべて認められる」と書く。後に愛情省でオブライエンに二重思考の必要性を説かれ拷問を受け、最終的にはスミスも犯罪中止と二重思考を使い、「2足す2は5である、もしくは3にも、同時に4と5にもなりうる」ということを信じ込むことができるようになる。
文化的影響
『1984年』が英語の語彙に対して与えた影響は甚大である。 ビッグ・ブラザー、101号室、思想警察 (the Thought Police)、テンプレート:仮リンク、テンプレート:仮リンク、ダブルシンク(同時に矛盾した考えを信じること)やニュースピーク(イデオロギー的な言い換え)といったオーウェルによる造語は、全体主義を表現する一般的な語彙となった[17]。
また、この小説のテーマやコンセプト、プロットは特にポピュラー音楽や映像などで繰り返し言及されている。
ダブルスピーク
テンプレート:Main ダブルスピーク(テンプレート:En、二重語法)は、矛盾した二つのことを同時に言い表す表現である。『1984年』作中の例でいえば「戦争は平和である」・「真理省」のように、例えば自由や平和を表す表の意味を持つ単語で暴力的な裏の内容を表し、さらにそれを使う者が表の意味を自然に信じて自己洗脳してしまうような語法。他者とのコミュニケーションをとることを装いながら、実際にはまったくコミュニケーションをとることを目的としない言葉。
実は『1984年』には登場しない用語であるが、『1984年』初版発刊後の1950年代に発生し一般化した言葉で、しばしば『1984年』 由来と考えられている。ニュースピークのB群語彙の定義におおむね影響を受けている。また、現実にある政策や婉曲話法などを批判的に言及する際に「二重語法」という言葉を使うことがある。たとえば事業の再構築を意味するリストラクチャリング(リストラ)を単に「従業員の大規模解雇」の意味に使用するなど。
文学
- レイ・ブラッドベリ『華氏451度』(1953年)
- アントニー・バージェス『時計じかけのオレンジ』(1962年)
- ジャック・ウォマック「アンビエント」シリーズ(1987年 - 2000年)
- 有川浩「図書館戦争」シリーズ(2006年 - 07年)
- 伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』(2007年)
- 伊藤計劃『虐殺器官』(2007年)『ハーモニー』(2008年)
- 村上春樹『1Q84』(2009年)
漫画
音楽
- スピリット「1984」(1969年)
- ポール・マッカートニー&ウイングス「1985年」(1973年)
- ヒュー・ホッパー「1984」(1973年)
- デヴィッド・ボウイ『ダイアモンドの犬』(1974年)
- リック・ウェイクマン『1984』(1981年)
- ユーリズミックス『1984』(映画『1984』のサウンドトラック)(1984年)
- レディオヘッド『OK コンピューター』(1997年),『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』(2003年)
- レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン『バトル・オブ・ロサンゼルス』(1999年)
- スティーヴィー・ワンダー『ビッグ・ブラザー』(1972年)
- 核P-MODEL(平沢進)「Big Brother」(2004年)
CM
- アップルコンピュータ Macintoshの登場を告知するCM 『1984』 (1983年)
- モトローラ Xoom(Androidタブレット)のCM。上記のMacintoshのCMと同様スーパーボウルで放送された。 (2011年)
映画
- フランソワ・トリュフォー(監督)『華氏451』(1966年)
- ジョージ・ルーカス(監督)『THX 1138』(1971年)
- テリー・ギリアム(監督)『未来世紀ブラジル』(1985年)
- カート・ウィマー(監督)『リベリオン』(2003年)
ゲーム
- Valve Corporation『ハーフライフ2』(2004年)
原書
原文は全て公開されているが、詳細な解説などが追加されたものやオーディオブックなど、英語版だけでも複数のエディションが刊行されている。またタイトルは刊行当時の「Nineteen Eighty-Four」とアラビア数字の「1984」の二種類がある。
- テンプレート:Cite book - Thomas Pynchonの序論が追加されたペーパーバック。
- テンプレート:Cite book - 刊行60周年記念版のペーパーバック。
日本語訳
- テンプレート:Cite book - 書名は奥付等によるもので表紙などの表記は1984。現在は絶版。
- テンプレート:Cite book - 現在は絶版。
- テンプレート:Cite book - オルダス・ハックスリイ『すばらしい新世界』と『一九八四年』を収録。
- テンプレート:Cite book - 現在は絶版。
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book - 新訳版。タイトルも「一九八四年」と漢数字に改められている。解説はトマス・ピンチョン。
他メディア展開
映画
- 『1984』(日本未公開)、 マイケル・アンダーソン(監督) 1956年
- ストーリーは原作に準拠したものであるが、アメリカ公開版ではウィンストンとジュリアが拷問に最後まで屈せず、共に打倒ビッグ・ブラザーを叫んで死ぬという結末に変更された。オーウェルの遺族はこれに不満を持ち、公開差し止めを求めたという[18]。
- 『1984』 マイケル・ラドフォード(監督・脚本) 1984年
- なお、ラドフォード版は日本の映画館で公然と上映された映画としては初めて、陰毛をぼかしていないヌードを含んでいた。また、同年に死去したリチャード・バートンの遺作ともなった。
テレビドラマ
- 『Nineteen Eighty-Four』(日本未放映)、 ピーター・カッシング主演、1954年
漫画
オペラ
脚注
関連項目
- 大きな栗の木の下で - この替え歌が作中で効果的に使われる。
- オレンジとレモン - 作中で使われている童謡。
- 独裁政治
- ユートピア - ディストピア
- 1984 (広告) - アップルコンピュータのテレビCM。この小説を元にCM制作された。
- 冷戦
- Amazon Kindle・・・電子ブックで販売済の作品をユーザーの端末から勝手に削除してしまうという、この作品内に出てくるような事件を引き起こしたときに、その作品がよりにもよってこの作品であった。詳細は、リンク先参照。
外部リンク
- 1984 by George Orwell(英語原文、オンライン無料)
- 一九八四年(Nineteen Eighty-Four, 1949) 日本語訳 (日本語訳、オンライン無料、CC:BY-NC-SA 2.1 日本)
- ↑ 100 Best Novels
- ↑ Guardian, May 8, 2002
- ↑ Bowker, Gordon (2003). Inside George Orwell: A Biography. Palgrave Macmillan. ISBN 031223841X, Chapter 18. "thesis": p. 368-369.
- ↑ Bowker, p. 383, 399.
- ↑ Charles' George Orwell Links
- ↑ John Rodden. The Politics of Literary Reputation: The Making and Claiming of "St. George" Orwell
- ↑ CEJL(Collected Essays Journalism and Letters of George Orwell), iv, no. 125
- ↑ Crick, Bernard. Introduction to Nineteen Eighty-Four(Oxford: Clarendon Press, 1984)
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ Why did George Orwell call his novel "Nineteen Eighty-Four?" , by David Alan Green
- ↑ www.arlindo-correia.com
- ↑ Nineteen Eighty-four, ISBN 978-0-141-18776-1 p.xxvii (Penguin)
- ↑ "Why I Write" (1946) in The Collected Essays, Journalism and Letters of George Orwell Volume 1 - An Age Like This 1920–1940 p.23 (Penguin)
- ↑ 新庄哲夫による本書への解説 『オーウェルの『一九八四年』』より抜粋、『1984年』 p420、ハヤカワ文庫、1972年
- ↑ ゴールドスタインの禁書「寡頭制集産主義の理論と実践」の内容は、トロツキーの『裏切られた革命』を模しているとされるが、実際はオーウェル自身の権力観を書いた随筆であるという。『1984年』 p420-421,新庄哲夫訳、ハヤカワ文庫、1972年
- ↑ この解説は1984年よりさらに未来の時点において書かれたという形式をとっている。通常の英語で書かれており、ニュースピークについて「オセアニアの公用語であり、元来、イングソックの要請に応えるために考案されたものであった」と過去形で書かれていることから、将来における体制の崩壊を暗示しているという見方もある。
- ↑ 権威ある英語辞書に掲載されるほど浸透している。たとえば、"newspeak"のOEDによる定義: any corrupt form of English; esp. ambiguous or euphemistic language as used in official pronouncements or political propaganda.
- ↑ DVD『1984』作品解説より