1976年の日本シリーズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

テンプレート:Infobox プロ野球日本シリーズ 1976年の日本シリーズ(1976ねんのにっぽんシリーズ、1976ねんのにほんシリーズ)は、1976年10月23日から11月2日まで行われたセ・リーグ優勝チームの読売ジャイアンツパ・リーグ優勝チームの阪急ブレーブスによる日本プロ野球日本選手権シリーズである。

戦評

上田利治監督率いる阪急ブレーブス長嶋茂雄監督率いる読売ジャイアンツの対決となった1976年の日本シリーズは、長嶋にとっては巨人監督就任後初の日本シリーズであった。シリーズの戦前の下馬評では、V9巨人に5度挑戦して一度も勝てなかった時代よりさらにパワーとスピードを増して充実期に入り、前年広島カープを下して球団初の日本一になった阪急ブレーブスの有利を予想する声が大きかった。果たして、ミスが目立ちV9時代の緻密(ちみつ)な野球に陰りが目立った巨人に阪急があっさり3連勝。簡単に雪辱を果たすと思われた。

しかし、巨人は第4戦にシリーズ初勝利を挙げると、第5戦も制し、後楽園球場に舞台を移した第6戦では阪急に0-7と大差をつけられながら7点差を追いつき延長10回にサヨナラ勝利を収める劇的な試合を演じた。この勝利でシリーズの流れが完全に巨人に傾いたと見られ、第7戦は巨人ファンが熱狂的な声援を送る異様な雰囲気となったが、阪急が先発足立光宏の好投で巨人に4-2と逆転勝利を収め、阪急は念願の「打倒巨人」を達成した。

3連勝した第3戦の試合後に福本豊がインタビューで「パ・リーグ最下位の近鉄だってうちと3試合やれば1回は勝つぜ(だから1勝もできない巨人は近鉄以下)」と発言(ただしこの年のパ・リーグ最下位は太平洋クラブライオンズで、近鉄は4位だった)[1]。これを聞いた巨人ナインは激怒し王貞治は「福本は言ってはいけないことを言ってしまった」と怒りをあらわにした。

尚、「3連勝→3連敗→最終戦勝利」というパターンは、2013年時点で唯一のケースである。

試合結果

第1戦

10月23日 後楽園 入場者40659人

阪急 0 1 0 0 3 0 0 1 1 6
巨人 2 0 0 0 0 2 0 0 0 4

(急)山田、○山口(1勝) - 中沢
(巨)堀内、●小林(1敗) - 吉田孝
本塁打
(急)中沢1号ソロ(9回小林)
(巨)王1号2ラン(6回山田)

[審判]セ岡田(球)パ斎田 セ山本 パ吉田(塁)セ松橋 パ道仏(外)

巨人は堀内恒夫、阪急は山田久志と両エースが先発。1回裏に巨人は張本勲のタイムリーと末次利光の犠牲フライで2点を先制するが、2回表に阪急は福本豊のタイムリーで1点差に追い上げると、5回表にロベルト・マルカーノのタイムリー二塁打、中沢伸二の2点タイムリーで逆転。しかし巨人は6回、王貞治のシリーズタイ記録となる日本シリーズ通算25号2ランで同点。続く末次に安打を許したところで阪急は先発の山田から山口高志に交代。翌日の天気予報が雨だったので1日山口が休めるとの計算による早目の交代だった。山口はデーブ・ジョンソン吉田孝司を連続三振に仕留め、この回の追加点を許さなかった。巨人も5回からロングリリーフの小林繁が踏ん張っていたが、阪急は8回2死無走者から大熊忠義加藤秀司、マルカーノの3連打で勝ち越し。9回中沢の本塁打で突き放した。

第2戦

10月25日 後楽園 入場者47452人

阪急 0 2 0 0 2 0 0 1 0 5
巨人 0 0 0 1 0 0 2 1 0 4

(急)○足立(1勝)、S山口(1勝1S) - 中沢
(巨)●ライト(1敗)、加藤初新浦 - 吉田孝、矢沢
本塁打
(巨)王2号ソロ(7回足立)

[審判]パ道仏(球)セ松橋 パ斎田 セ山本(塁)パ久保山 セ谷村(外)

上田監督の読みどおり雨で1日順延した第2戦は巨人がクライド・ライト、阪急が足立光宏の先発。阪急は2回、バーニー・ウイリアムス森本潔の連続タイムリーで先制。5回には巨人の守備の乱れを突いて2点を追加。巨人は7回、王が長嶋茂雄の記録を破るシリーズ新記録の通算26号本塁打で反撃。柳田俊郎が二塁打で続いたところで阪急は足立から山口に交代。しかしその山口が原田治明にタイムリーを許し1点差に。8回表に阪急が新浦寿夫河埜和正のエラーで再び2点差とするもその裏、巨人は連続四球のあと王の二塁打で1点差まで追い上げるが、なんとか山口が後続を絶ち、9回は下位打線を三者凡退に退け、阪急が連勝。しかし、頼みの山口が打たれたことで、阪急の投手陣に不安の漂う試合内容だった。

第3戦

10月27日 西宮 入場者29241人

巨人 0 0 2 0 0 0 0 1 0 3
阪急 4 0 0 0 3 0 0 3 X 10

(巨)●加藤初(1敗)、小林、倉田 - 吉田孝、矢沢
(急)○山田(1勝) - 中沢
本塁打
(急)マルカーノ1号3ラン(5回小林)

[審判]セ谷村(球)パ久保山 セ松橋 パ斎田(塁)セ岡田 パ吉田(外)

舞台を阪急西宮球場に移しての第3戦。阪急は初回、ヒットと四球を絡めて4点を奪い、巨人先発の加藤を早々とKO。5回にはマルカーノが巨人の2番手・小林から3ラン本塁打を放ち、試合を決めた。中3日先発の山田は点を取られた3回、8回以外は危なげないピッチングで、大量点にも守られ完投、5度目の先発でようやく巨人から初勝利を挙げた。阪急があっさり3連勝で連続日本一に王手をかけた。

第4戦

10月29日 西宮 入場者23443人

巨人 0 1 0 0 0 0 1 0 2 4
阪急 1 0 1 0 0 0 0 0 0 2

(巨)堀内、○小林(1勝1敗) - 矢沢、吉田孝
(急)足立、●山口(1勝1敗1S) - 中沢
本塁打
(巨)王3号ソロ(2回足立)、柴田1号2ラン(9回山口)
(急)福本1号ソロ(1回堀内)

[審判]パ吉田(球)セ岡田 パ久保山 セ松橋(塁)パ道仏 セ山本(外)

2度目の雨天順延で1日間隔が延びたこともあり、阪急は36歳の足立が中3日で先発。巨人は中5日で堀内。阪急は初回、福本豊の先頭打者本塁打で先制。巨人は2回、王のシリーズ3号本塁打で追いつくが、阪急は3回、加藤秀のタイムリー三塁打で再びリードを奪う。阪急は5回途中から山口を投入し逃げ切りを図ったが、その山口が誤算。7回には3連続四球を与えた挙句柴田勲に犠牲フライを打たれ、同点。9回、巨人は投手の小林が安打、柴田が決勝の2ラン本塁打。巨人は堀内が粘りの投球を見せ、好救援の小林とともに投手陣に一縷の光をもたらした。

第5戦

10月30日 西宮 入場者26099人

巨人 0 0 0 4 0 0 1 0 0 5
阪急 0 0 0 1 0 0 0 2 0 3

(巨)○ライト(1勝1敗)、加藤初、S小林(1勝1敗1S) - 吉田孝
(急)●山田(1勝1敗)、白石、戸田、山口 - 中沢、宇野、河村
本塁打
(巨)ライト1号2ラン(4回山田)

[審判]セ山本(球)パ道仏 セ岡田 パ久保山(塁)セ谷村 パ斎田(外)

阪急は山田が中2日で先発したが、初回、2回と2安打ずつ許す不安定な立ち上がり。4回、先頭打者の王に対しカウント2-2からの5球目は絶妙のコースに決まり、王のバットも回ったかに見えたが、判定はボール。この1球で山田はリズムを崩し、王、柳田に連続四球、高田繁の送りバントのあと、吉田の2点タイムリーで先制を許した。更に2死から投手のライトに本塁打を浴び、試合を決定付けた。ライトは7回まで1失点の好投。8回2死から3連打を浴びたが、加藤、小林とつなぎ、巨人が逃げ切って2勝3敗に持ち込み、西宮での胴上げを阻止した。

第6戦

11月1日 後楽園 入場者44948人 (延長10回サヨナラ)

阪急 2 0 0 2 3 0 0 0 0 0 7
巨人 0 0 0 0 2 3 0 2 0 1x 8

(急)山口、●山田(1勝2敗) - 中沢
(巨)堀内、加藤初、○小林(2勝1敗1S) - 吉田孝、矢沢
本塁打
(急)ウイリアムス1号3ラン(5回加藤初)
(巨)淡口1号3ラン(6回山口)、柴田2号2ラン(8回山田)

[審判]パ斎田(球)セ谷村 パ道仏 セ岡田(塁)パ吉田 セ松橋(外)

再び舞台は後楽園球場に。阪急は初回、マルカーノ、ウイリアムスの連続タイムリーで2点を先制。4回にも中沢のタイムリー、大橋穣のスクイズで2点を追加し、巨人の先発・堀内をKO。5回には2番手の加藤からウイリアムスが3ランを放ち、7-0と一方的な展開となった。阪急は先発の山口が4回まで無失点に抑えていたが、5回裏、巨人は9番に入った淡口憲治の四球、続く柴田が二塁打を放ち無死2、3塁。1死後、張本の一ゴロの間に淡口が返り1点。続く王の中前打で柴田が返り7-2とするもまだ5点差。しかし6回、突如山口が崩れ、2連続四球のあと、淡口が3ラン本塁打。7-5と追い上げられたところで、阪急は7回から山田を投入。しかし巨人は8回、淡口がヒットで出塁後、続く柴田が2ラン本塁打を放ち7-7の同点に追いついた。延長10回裏、巨人は張本の2塁打、王敬遠、小林のバスターでの中前打で無死満塁とすると、ここまでわずか3安打と不振だった高田が右前打を放ち、7点差をひっくり返す日本シリーズ史上に残るサヨナラ勝ち。長嶋監督は「巨人だ、巨人だ、これが巨人だ」と声を上ずらせ、普段冷静な王も「ウォー!やったぜ、すごいよ」と興奮を隠せなかった。なお、7点差からの逆転勝利は現在もシリーズ最多得点差逆転記録である。巨人のサヨナラ勝ちは1971年の対阪急第3戦(王の逆転3ラン[2])以来5年ぶり5度目。

第7戦

11月2日 後楽園 入場者45967人

阪急 0 0 1 0 0 0 2 1 0 4
巨人 0 0 0 0 1 1 0 0 0 2

(急)○足立(2勝) - 中沢
(巨)●ライト(1勝2敗)、小林、堀内 - 吉田孝
本塁打
(急)森本1号2ラン(7回ライト)、福本2号ソロ(8回ライト)
(巨)高田1号ソロ(5回足立)
[審判]セ松橋(球)パ吉田 セ谷村 パ道仏(塁)セ山本 パ久保山(外)

3連敗の後3連勝で波に乗る巨人と、山口、山田が打たれた阪急とでは勢いで巨人が有利と思われた。上田監督最後の頼みの綱は中3日の36歳足立。3回表に2死2塁から福本の2塁打で阪急が先制したが、巨人は5回、前日サヨナラ打の高田がソロ本塁打を放ち同点に追いつき、6回には巨人先発ライトの2塁打から生まれた1死2、3塁の場面で、この回の守備から入ったばかりの加藤秀が張本の一ゴロを本塁へ悪送球し逆転、なおも王が敬遠で歩き1死満塁と攻め立てる。巨人ファン一色のスタンドがマウンド上の足立にプレッシャーをかけるが、足立は「もっと騒げ、たかが野球じゃないか。負けたって命まで取られるわけじゃない」と水を打ったように冷静だったという[3]。その冷静なピッチングでこの日先発5番の淡口を投ゴロ併殺に仕留め、この回を1点に止める。直後の7回、阪急は1死から内野安打で出塁したウイリアムスが盗塁で2塁に進むと、続く森本が2ランを放ち逆転。シリーズ前にトレードが決まっていた森本の大仕事に、出迎えた上田監督は涙をぐっとこらえたという。さらに8回には福本のソロ本塁打で突き放ちライトをKO。巨人は8回途中から小林、9回には堀内を投入。その裏に1死から淡口が四球、2死後代打原田治明が右前打を放ち1、2塁と意地の反撃を見せるが、ここでも足立は「これで勝ったと思った。だってONじゃないから」と冷静だった。足立は代打山本和生を空振り三振に仕留め125球完投、阪急の2年連続日本一が決定した。それまで騒がしかったスタンドが静まり返る中、6度目の挑戦で悲願の打倒巨人を果たした阪急ナインはグラウンド上で喜びを爆発させた。

表彰選手

テレビ・ラジオ中継

テレビ中継

  • 関西テレビ≪フジテレビ系列≫ 解説:岡本伊三美、荒川博 ゲスト解説:広瀬叔功
  • 日本テレビ 実況:赤木孝男 解説:森昌彦 ゲスト解説:野村克也

ラジオ中継

  • NHKラジオ第1 解説:加藤進
  • TBSラジオ(JRN) 解説:稲尾和久、牧野茂
  • 文化放送(NRN) 解説:別所毅彦、福田昌久
  • ニッポン放送(NRN) 解説:小山正明 ゲスト解説:野村克也
  • ラジオ関東 解説:有本義明、笠原和夫
  • NHKラジオ第1 解説:加藤進
  • TBSラジオ(JRN) 解説:稲尾和久、牧野茂
  • 文化放送(NRN) 解説:花井悠 ゲスト解説:野村克也
  • ニッポン放送(NRN) 実況:深澤弘 解説:土井淳
  • ラジオ関東 解説:有本義明、笠原和夫
  • NHKラジオ第1 解説:鶴岡一人
  • TBSラジオ(JRN) 解説:稲尾和久、牧野茂
  • 文化放送(NRN) 解説:別所毅彦、福田昌久
  • NHKラジオ第1 解説:川上哲治
  • TBSラジオ(JRN) 解説:稲尾和久、牧野茂
  • 文化放送(NRN) 解説:別所毅彦、福田昌久
  • ニッポン放送(NRN) 実況:深澤弘 解説:土橋正幸 ゲスト:大橋巨泉
  • ラジオ関東 解説:有本義明、千葉茂
  • NHKラジオ第1 解説:鶴岡一人
  • TBSラジオ(JRN) 解説:稲尾和久、牧野茂
  • 文化放送(NRN) 解説:別所毅彦、福田昌久
  • ニッポン放送(NRN) 実況:深澤弘 解説:土橋正幸、土井淳
  • ラジオ関東 解説:有本義明、千葉茂

脚注

テンプレート:Reflist

関連項目

外部リンク

テンプレート:NavboxYears2
  1. テンプレート:Cite journal
  2. この時の敗戦投手も山田であった(勝利投手は関本四十四
  3. 文春ビジュアル文庫「熱闘!プロ野球三十番勝負」文藝春秋社