10式戦車
テンプレート:戦車 10式戦車(ひとまるしきせんしゃ)は、日本の主力戦車。陸上自衛隊が運用する国産戦車としては四代目となる。2009年(平成21年)に制式化された。
目次
概要
陸上自衛隊の最新国産主力戦車であり、自衛隊では第3世代主力戦車であった先代の90式戦車を上回る、第4世代主力戦車と定義している[注 1][注 2]。
開発は防衛省技術研究本部、試作・生産は三菱重工業が担当した。戦闘力の総合化、火力・機動力・防護力の向上、小型・軽量化などを達成し、2009年(平成21年)12月に「10式戦車」と命名された[2]。
主砲には日本製鋼所の国産44口径120mm滑腔砲(軽量高腔圧砲身)を備え、新型の国産徹甲弾の使用により貫徹力を向上させている。また、90式と同様に自動装填装置を採用し、乗員は車長・砲手・操縦士の3名である。小型・軽量化と応答性・敏捷性の向上のため、水冷4サイクルV型8気筒ディーゼルエンジンと油圧機械式無段階自動変速操向機(HMT)を組み合わせた動力装置(パワーパック)を搭載する。また、全国的な配備・運用のために車体を小型軽量化したことで重量は約44トンに抑えられており、さらに着脱が容易なモジュール型装甲を実装している。日本の戦車・戦闘車両としては初めてC4Iシステムを装備したことも特徴である。ニコニコ超会議2にて行われた「10式戦車開発者によるトークショー」では、冷暖房を装備していることを開発者が明かにしている。
平成22年度(2010年)より調達が開始されており、平成23年度(2011年)より富士教導団戦車教導隊などから順次部隊配備される。平成24年(2012年)に量産第1号車が富士学校機甲科部に引き渡され、平成24年(2012年)12月に駒門駐屯地の第1戦車大隊へ配備された。
開発経緯
日本を防衛するための能力を将来にわたって維持するため、将来戦に対応できる機能・性能を有した現有戦車の後継が必要とされた。導入する戦車の条件として、C4Iシステムによる情報共有および指揮統制能力の付加、火力・防護力・機動力の向上、全国的な配備と戦略機動のための小型軽量化が求められた。
現有戦車の改修や、諸外国で装備されている戦車の導入も検討されたが、防衛省の政策評価書によれば次のような理由から不適当であるとされた。
- 現有の74式戦車および90式戦車を改修する場合、C4Iシステムを付加するには内部スペースが足りず、設計が古いことから将来戦に求められる性能が総合的に不足する。
- 諸外国の新鋭戦車を導入する場合、いずれも90式戦車より大型で重量が約6-12トン重い上、陸上自衛隊でそのまま利活用できるC4Iシステムを搭載しておらず、独自のC4Iに適合させるための改修が必要である。
以上の理由から既存の戦車の改修によって目標を達成することは困難であり、将来の各種任務に必要な性能を満たす戦車を装備するためには新戦車の開発を行うことが適当と判断された。ただしC4Iシステムを車外に外付けすることは可能である。
開発を担当したのは防衛省技術研究本部の技術開発官(陸上担当)、試作・生産は主契約企業の三菱重工業である。開発は平成14年度(2002年)から平成21年度(2009年)まで行われ、試作については平成14年度-平成20年度(2008年)にかけて、試験については平成16年度(2004年)-平成21年度(2009年)にかけて実施された。
2008年2月13日、神奈川県相模原市の技術研究本部陸上装備研究所で新戦車の試作車両として初めて報道公開された。また、同時に主な諸元、砲塔内の一部を撮影した写真、走行・射撃映像なども報道向けに公開された。記者会見では価格についての質問があり、担当者から希望的なニュアンスで7億円との回答があったとされる。試作車両の車体後部左側面の銘板には「新戦車(その5)戦車(その2)戦車2号車」と書かれており、複数の雑誌で2008年1月に完成した試作2号車と記述していた。
2010年6月14日、静岡県駿東郡小山町の陸上自衛隊富士学校(富士駐屯地)で10式戦車の試作車両として報道関係者に公開され、90式と並走した。同年7月11日に行われた富士学校・富士駐屯地開設56周年記念行事では2両の試作車による走行展示が行われ、これが初の一般公開となった。なお、7月9日の予行でも報道関係者に公開されている。
2010年10月24日には、埼玉県の朝霞訓練場で行われた自衛隊観閲式で展示が行われた。ただし、観閲行進には不参加[3]。
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2012年1月10日に量産第1号車(初号車)の「入魂式行事」が陸上自衛隊富士学校にて行われ、報道陣に対して試作車(1号車と3号車)と共に量産車の公開が行われたテンプレート:Sfn。富士学校校長・機甲科部長らによる機甲科部マーキングへの最後の筆入れ(入魂の儀式)とテープカットがなされたテンプレート:Sfn。量産車は試作車と細部が異なっており、主な変更点は以下の通り。
- 車体前部の形状テンプレート:Sfn
- 砲塔側面モジュール装甲へのハッチの追加テンプレート:Sfn
- 主砲先端の砲口照合装置ミラーの位置の変更テンプレート:Sfn
- 砲塔後部の用具入れの形状の変更テンプレート:Sfn
- 車体側面の乗車用ステップの増加テンプレート:Sfn[注 3]
- 砲塔側面の76mm発煙弾発射筒の開口部をそれぞれ1カ所に集約テンプレート:Sfn
試作第4号車は2013年4月13日に一般公開された。塗装はOD一色で、車体下部に地雷原処理用装備のマウントが確認できる[4]。その他にも、砲塔、架台車(車体)研究用に第0号車(単車としては存在せず)があったとされる。
2012年(平成24年)6月29日からは陸上自衛隊広報センターにて試作1号車が広報センターの中庭に常設展示となっている[5]。
2012年8月、富士総合火力演習にて実弾の射撃および難易度の高いスラローム走行技術を一般に公開した。
2013年(平成25年)4月時点での試作車の現状であるが、1号車は陸上自衛隊朝霞広報センターにて、試作2号車は土浦の武器学校、試作3号車(ドーザ付)は富士学校に展示されており、試作4号車は技術研究本部陸上装備研究所で保管されている。
仕様
火力・防護力・機動力などの性能は、90式戦車と同等かそれ以上を目標としている。乗員は車長、砲手、操縦士の3名。
将来の対機甲戦闘および機動打撃を行いうる性能と、ゲリラコマンド攻撃の対処における優位を確立するため、以下を開発のコンセプトとしている。
- 高度なC4I機能などの付加
- 火力・防護力・機動力の向上
- 全国的な配備に適した小型軽量化
- 民生品の活用(COTS)および部品の共通化などによるライフサイクルコストを含む経費の抑制
- 将来の技術革新などによる能力向上に対応するための拡張性の確保
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火力
火砲・弾薬
主砲は従来の44口径120mm滑腔砲より13%軽い、新開発された軽量高腔圧砲身の日本製鋼所製の国産44口径120mm滑腔砲を装備、威力は発射薬や飛翔体構造を最適化した10式120mm装弾筒付翼安定徹甲弾を用いた場合にRHA換算で548mm貫通可能と推測されているテンプレート:Sfn(90式戦車が用いるJM33はRHA換算で約460mm)。新型弾薬に合わせ薬室の強度も強化されている。また、将来的に必要であれば55口径120mm戦車砲に換装可能なよう設計されている。
10式戦車の開発では90式で使われる120mm戦車砲弾の転用・使用を考慮していた[6]。主砲を構成する一部の部品にラインメタルからライセンス生産された技術が使用されテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn、90式の主砲弾も使用できるとされているテンプレート:Sfn[7]。なお、10式用の砲弾は徹甲弾の他に空包が調達されている。これにより、訓練や演習時、記念行事などでの模擬戦闘で90式ができなかった空包射ができるようになる[8]。
副武装として主砲同軸に74式車載7.62mm機関銃、砲塔上面には12.7mm重機関銃M2を装備している。また、12.7mm重機関銃M2用の銃架は、車長用潜望鏡上部にある円形のレールに取り付けられ、旋回式となった。 テンプレート:-
自動装填装置
自動装填装置を装備し、砲塔後部バスル内にベルト式の給弾装置を配置していると見られている。戦車用自動装填装置の多くは装填時の角度が決まっており、装填のたびに主砲をその角度に戻す形式だが、10式戦車の自動装填装置は主砲にある程度の仰俯角がかかっていても装填が可能とされるテンプレート:Sfn。また、砲塔後面には給弾用ハッチがあり、そこから自動装填装置への給弾を行うテンプレート:Sfn。
砲弾の搭載弾数については、自動装填装置内で「現時点で14発」とする記事テンプレート:Sfnや、砲塔弾薬庫に14発、砲手の後方に2発、車体に6発の計22発が収納できるとする記事テンプレート:Sfnのほか、90式戦車とほとんど変わらないという記事テンプレート:Sfnがあり、こちらでは90式は自動装填装置内と車体内に各18発と戦闘室内に4発の計40発が搭載可能と記述している。
指揮・射撃統制装置
指揮・射撃管制装置に関しては走行中も主砲の照準を目標に指向し続ける自動追尾機能があり、タッチパネル操作でも主砲の発砲が可能である。無線通信、レーザーセンサー、赤外線、ミリ波レーダーなどのすべてのセンサーが完璧に機能する条件下では、小隊を組んだ10式戦車同士の情報のやり取りで、8標的まで同時補足し、これに対する同時協調射撃が可能となる。小隊長は10式に装備された液晶ディスプレイをタッチパネル操作することで、各車に索敵エリアを指示したり、「自動割り振り」表示を押すことで各車に最適な標的を自動的に割り振り、同士撃ちや重複射撃(オーバーキル)を避けながら効率よく標的を射撃することが可能になっている[9]。
10式の試験項目には、直進及びスラロームの走行状態を模擬した加振を新戦車模擬砲塔部に与え、射撃管制誤差に関するデータを取得する性能確認試験の内容がある。平成24年度富士総合火力演習で、大きく左右に蛇行しながら正確な行進間射撃を行う「スラローム射撃」及び急速後退しながら正確な射撃を行う「後退行進射撃」を実演した。「スラローム射撃」は先代の90式戦車では行えなかった射撃方法でもあり、90式以上の高い砲安定化能力を有しているのが分かる。また、ニコニコ超会議2内で行われた「10式戦車開発者によるトークショー」では、演習で披露された静止目標に対するスラローム射撃よりも難易度の高い、動目標に対するスラローム射撃でも百発百中の命中精度を有していることが語られている[10]。
車長用潜望鏡後方の高い位置に設置された、車長用視察照準装置の赤外線カメラ部は全周旋回可能、C4Iによる情報の共有などもあり、味方と連携して索敵、攻撃を行うハンターキラー能力は90式と比べて向上しているとされるテンプレート:Sfn。
2008年2月の試作車両の報道公開に際し、砲塔上面から砲塔内部の視察が行われたほか、車長席と砲手席のモニターおよび操作パネル周りの写真も公開された。写真には砲手席に直接照準眼鏡と砲手用潜望鏡が写っているが、この写真が報道公開された車両のものかは明らかでない。
防護力
直接防護力
防護力に関しては、新たに開発した複合装甲を使用し、防御力を下げることなく軽量化を図っている。テンプレート:要出典範囲
2006年に公表された防衛省技術研究本部のウェブサイト内の資料である「公共調達の適正化について(平成18年8月25日付財計第2017号)に基づく随意契約に係る情報の公表(物品役務等)」には、岐阜県の神岡出張所にて実施される正面要部耐弾性試験に関する内容が記載されている。これによると新型試作砲である120mm架台砲IV型、そして新型試作砲弾である徹甲弾IV型を用いること、それらを用いた射距離250メートルの射撃により砲塔正面左右及び車体正面モジュール型装甲の耐弾性評価を実施するとされる。
列国の軍隊の現存する様々な砲弾に対して全て抗堪できる優れた防護能力を持っている[10]。
炭素繊維やセラミックスの装甲板への使用や、小型化などにより、全備重量は90式より約12%ほど軽量になったとされる。
正面要部(砲塔・車体正面)には90式と同じく複合装甲が組み込まれており、90式は内装式モジュール装甲であると言われているが、10式戦車の場合は砲塔正面、車体正面とも外装式モジュール装甲と報じられている[11]。
正面要部には、複数本のボルトで固定された装甲板が確認できる。砲塔部の装甲板は先端が楔形であり空間装甲としての効果などがあると考えられている。また、操縦士用ハッチ上方の一部の部分は内側に引き込まれる形で垂直になっており、この垂直部分を隔てた更に奥に複合装甲からなる主装甲が存在する。車体部の装甲板の内側には前照灯が確認できる。砲塔部・車体部どちらの装甲板も、90式のキャンバスカバーのように正面要部を覆うようにボルトで取り付けられている。
90式の防盾は正面投影面積が左右対称だったが、10式では直接照準眼鏡と同軸機銃のない側である防盾右半分の面積を小さくしている。
砲塔本体の両側面には分割式の増加装甲が装着されており、試験映像ではこれが取り外された状態で走行・射撃試験が行われている。この増加装甲は空間装甲と物入れを兼ねており、必要に応じて内部に装甲を追加するという見方がある。砲塔後部のバスケットはスラット装甲を兼ねていると見られる。両者ともに歩兵用携帯対戦車兵器による攻撃からの防御を考慮したものと報じられた。防衛省技術研究本部のウェブサイトで公開されている写真などから、両者ともに砲塔本体に対して水平方向にボルト止めされることが窺える。
全備重量は基本40トン/通常44トン/最大48トンとする説テンプレート:Sfnや、増加装甲を最大限取り付けると全備重量が48トン、公開された試作車両が44トンと記述する説テンプレート:Sfnがある。
間接防護力
砲塔側面前方には発煙弾発射装置が取り付けられている。なお、90式戦車の発煙弾発射装置はレーザー検知装置と連動するようになっており、10式戦車も同様の機能を有していると考えられる。
既存の戦車には見られなかった10式の特徴として、全周囲を走査可能なよう砲塔の四隅に配置されたセンシング装置がある。詳細な性能については非公開だが、レーザー検知器と、MEMS技術を用いた赤外線イメージセンサー、パッシブ方式のミリ波レーダー検知器とする説がある。また、10式の車両構造は対IR化のため最適化され、IRステルス性が向上しているとされる。
車体側面、鋼製スカートの下にあるゴム製スカートはステルスを目的としている。
機動力
戦術機動性
2005年(平成17年)10月25日に防衛省技術研究本部のサイト内に新設された「外部評価委員会 評価結果の概要」は、新戦車のエンジンは「90式戦車と同等あるいはそれ以上の機動性能を実現可能な、新戦車用動力装置(エンジン、冷却装置および変速装置)」を目的とした試作がなされ、
の4点が試作品の基本設計結果としている。 この新戦車用機関の設計について外部評価委員会は「動力装置の設計は、現時点での最新技術を導入した正攻法なものと考えられる」とまとめている。
小型・軽量な水冷4サイクルV型8気筒ディーゼル機関を採用し、燃費向上や黒煙低減などが図られている。最大出力は1,200ps/2,300rpm。出力重量比は約27ps/tで、90式の約30ps/tと比べれば若干低いが、出力1,500ps重量55tの戦車とほぼ同等である。また、後述のHMTにより伝達効率が改善されており、スプロケット軸出力は90式と同等と発表されているため実質の出力重量比は90式よりも高くなる。なお、国産戦車における4サイクルディーゼル機関の搭載は61式戦車以来となる。
また、変速操向機には変速比を最適に制御できる油圧機械式無段階自動変速操向機(HMT, Hydro-Mechanical Transmission)を採用している。車両質量当たりのスプロケット(起動輪)出力は現有戦車に対して格段に向上しているとされ、90式の半分の半径で旋回が可能だという。また、後退速度も70km/hを発揮することができる(2010年7月11日、富士学校・富士駐屯地開設56周年記念行事における10式戦車試作車の走行展示にて前進速度と後進速度は同じ70km/hであると解説されている)。
水冷4サイクルV型8気筒ディーゼル機関と、無段階自動変速操向機(HMT)を組み合わせにより、動力装置(パワーパック)の高効率・高応答化、そして小型・軽量化を実現している。
エンジンの燃費に関しては90式と比べ省燃費となり、携行燃料は90式の1,100リットルから880リットルに減少しているとされ、これによるタンク容積の節約も車体の小型・軽量化に寄与しているとされるテンプレート:Sfn。
懸架装置は74式戦車と同じく全転輪が油気圧式となり、90式では省略されていた左右への車体傾斜機能が復活している。また、転輪の数は片側5個の等間隔となり、90式の6個より減少している。車体の振動の制御のために、アクティブサスペンションテンプレート:Sfn[12]もしくはセミアクティブサスペンションテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnが採用されており、これにより走行性能と砲安定性能が向上しているといわれている。
操縦士席の様子は公開されていないが、操縦士用ハッチはスライド式で、車体の前面と後面には、操縦士用潜望鏡とは別に操縦士用の視察装置があり、操縦士はモニターを見ながら操縦するとされている。また、2007年に当時の技術研究本部長が『MAMOR』のインタビューで、今までメーター型だった計器をフラットパネル化する予定であると述べている。
エンジンが発生させる駆動力を地面に伝え、走行性能に大きな影響を与える履帯(キャタピラ)は新型を採用している。これまで車両が一定速度で走行する場合に、履帯が進行方向にすべる現象(前すべり現象)が認知されていたが、発生原因が不明だった。これを技術研究本部が2003年に発生メカニズムを解明。テンプレート:要出典範囲
10式戦車のエンジン機構は海外からも注目されており、トルコは開発を予定している新型戦車のエンジンに採用したいと希望していた。しかし、トルコは同時に開発した戦車を国外輸出する計画も持っており、第三国への技術流出を警戒する日本との間で条件が折り合わず、2014年3月、開発協議は棚上げとなった[13][14]。
戦略機動性
90式戦車は北海道での運用を考慮して開発されたために重量が約50トンあり、橋梁や路面の許容重量と活荷重の面で北海道以外での平時における配備・運用が難しいとされている[注 4]。このため、10式戦車の開発においては本州、四国、九州など全国的な配備運用に適した能力、砲塔・車体一体でのトレーラー輸送など戦略機動性の向上が求められた。その結果、90式と比べて全長で約38cm、全幅で約16cm小型化され、全備重量は約6トン軽い約44トンとされている。
全国的な道路交通網の整備がなされ、61式戦車が開発された頃に比べると鉄道に頼らずに済むようになったため、陸上自衛隊では74式戦車の開発以降、鉄道輸送は事実上断念している。90式の場合、専用のトランスポーターによる輸送を行えば、道路の許容重量によって走行できるルートが限られてしまう可能性が存在し[注 5]、長距離を自走させた場合に足回りを傷める可能性[注 6]があったが、小型の40t級車輌とすることで車体と路面へのダメージ低減に成功した。
全国の主要国道の橋梁17,920ヶ所の橋梁通過率は10式(約44トン)が84%、90式(約50トン)が65%、海外主力戦車(約62-65トン)は約40%とされる[15]。
74式をトランスポーターで輸送する場合、73式特大型セミトレーラで砲塔と車体が一体の状態で輸送できる。一方、90式の場合は最大積載量50トンの特大型運搬車であれば砲塔と車体が一体の状態で輸送できるが、最大積載量40トンの73式特大型セミトレーラでは砲塔と車体を分離して別々に輸送する必要があった。
10式は74式と同じ輸送インフラを利用できるよう小型軽量化され、全備重量は約44トンとし、約4トン分の装甲などを取り外すことで73式特大型セミトレーラの最大積載量に収めている。2010年12月までに73式特大型セミトレーラに10式を乗せ、砲塔と車体が一体の状態で輸送しているところが目撃されており、その際には東名高速道路および国道を走行している[16]。なお、輸送時の写真を見る限りでは、10式の装甲などにおける外見上の変化は確認されていない。
C4I
テンプレート:Main 諸外国の主力戦車に装備されつつあるC4Iシステム(Command Control Communications Computers and Intelligence〈指揮・統制・通信・コンピュータ・情報〉)を陸上自衛隊の戦闘車両で初めて搭載する。これにより単車内あるいは近くの10式戦車同士が相互に情報を伝達し、敵や味方に関する情報の共有や指揮統制も可能になる(#指揮・射撃統制装置を参照)。
また、基幹連隊指揮統制システムに連接させることで司令部や味方部隊との通信能力が向上し、戦車部隊と普通科部隊が一体化した作戦行動が可能となるという。将来的にはOH-1観測ヘリコプターやAH-64D戦闘ヘリコプターからの情報も入手できるようになると言われている。
なお、10式戦車は74式戦車の後継機種であるため、事実上北部方面隊のみの配備となっている90式戦車に関しては車内に戦車連隊指揮統制システム(T-ReCs)を後付けした機種を運用している(第2戦車連隊のみ)[17]。
高度なC4Iシステムを搭載した10式は、自衛隊員の間で「走るコンピューター」との異名をとっている[5]。
現有戦車との比較
調達と配備
10式戦車の調達初年度に当たる平成22年度概算要求では当初、4ヶ年度分の58輌(1年当たり14.5輌)を一括調達し、平成23年度(2011年)-平成26年度(2014年)に分割して取得する計画だった。
だが、2009年の政権交代に伴い新たな防衛計画の大綱と次期中期防衛力整備計画の策定が1年間先送りされたため、一括調達は中止され、最終的には13両を124億円で調達することが正式に決定された[18]。なお、平成20年度予算から調達初年度に一括計上されるようになった初度費(製造に係わる初期投資費)[19]であるが、初度費込みの契約ベースでは187億円[20]とされていることから、初度費は約63億円と推定される。調達初年度の1輌当たりの単価は約9.5億円で、平成23年度(2011年)より取得が開始されており、74式戦車中隊(本部管理小隊を除く)が16輌、90式戦車中隊(本部管理小隊を除く)が12輌で編成されており、今後74式戦車中隊を10式戦車で更新していく中で16両から12両体勢に移行していく[21]。
政府は、2010年12月17日に閣議決定された「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」において、戦車の配備数を「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」から200両削減し約400輌とすることとした。同時に閣議決定された中期防衛力整備計画(平成23年度-)では、平成23年度(2011年)から平成27年度(2015年)までの5年間で10式戦車を68輌調達するとしている[22]。第2次安倍内閣で閣議決定された「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱」では戦車定数が約300輌に削減され、中期防衛力整備計画 (2014)の整備期間である平成26年度-平成30年度までの間に44輌の調達が計画されている[23]。
調達数
予算計上年度 | 調達数 |
---|---|
平成22年度(2010) | 13輌 |
平成23年度(2011) | 13輌 |
平成24年度(2012) | 13輌 |
平成25年度(2013) | 14輌 |
平成26年度(2014) | 13輌 |
合計 | 66輌 |
配備部隊
- 新編の方面直轄戦車部隊(時期未定)
派生型
登場作品
- 小説
- 『MM9―destruction―』
- 著:山本弘。チルゾギーニャ遊星人が操る怪獣軍団を攻撃すべく出動した陸上自衛隊の装備として登場。89式装甲戦闘車や99式自走155mmりゅう弾砲と共にひたちなか市のひたち海浜公園付近に展開し、主に怪獣9号メカモグラと交戦した。
- 『自衛隊三国志』
- 著:吉田親司。『戦国自衛隊』の外伝。中華人民共和国崩壊後の中国へ派遣された自衛隊の国際連合平和維持活動(PKO)部隊の戦車として登場。突如発生した大地震によって、隊員共々三国時代へタイムスリップする。
- 『超機密自衛隊』
- 著:遥士伸。開発兵器の試験と評価を兼ねた、EGSDF(自衛隊試験評価群)の新型戦車として登場。突如、超科学的現象により、しもきたごと隊員共々南北に分断した1944年の日本へタイムスリップする。
- 『対馬奪還戦争』
- 著:大石英司。竹島に駐留する韓国守備隊への謎の攻撃から端を発した対馬における日韓の戦闘の中で対馬に揚陸された装備として登場。戦闘中には、敵戦車のGPS座標をスタイラスペンでモニターの地図にマーキングすることで戦車が自動で発砲するという描写があり、現代の戦車がデジタルに進化していることが表現されている。
- 『突入!痛戦車小隊』
- 著:吉岡平。作中の時代設定は2024年。登場するTK-Xは90式戦車と同じ主砲を搭載するなど実際とは大きく異なっており、90式以下にスペックダウンした戦車として描写されているため、共通点は名前のみ。作中では、2022年に「22式戦車」という90式を発展させて大型化したような性格の戦車が制式化され、主力となっている設定である。
- 『北方領土奪還作戦』
- 著:大石英司。支持率の低下に悩んだ内閣が起死回生として巧妙に作戦を隠蔽かつ決行した北方領土奪還作戦にて、日本全土からかき集められた部隊に試験運用部隊の装備で登場。砲塔に備え付けられたレーザー検知器によって、ロシア側の携行式対戦車ミサイルを感知したり、回避する描写がある。
- 特撮
- 『MM9 -MONSTER MAGNITUDE-』
- 著:山本弘による小説『MM9』を原作としたテレビドラマ。第5話「吠谷町M防衛線」で、山梨県吠谷山より出現して吠谷町を襲撃した怪獣8号シッポンを、第1戦車大隊の90式と共に攻撃する。
- 『ウルトラゾーン』
- 防衛軍の戦車として第20話「最後の攻撃命令(後編)」に登場。90式や巨大M60などと共に、防衛軍基地に迫るキングジョーを迎撃した。
- 『ガッチャマン』
- 冒頭で東京を襲撃したギャラクター部隊を迎撃すべく出動するが、有効打を与えることはできなかった。
- 『ネオ・ウルトラQ』
- 第6話「最も臭い島」に登場。太平洋の無人島に生息する悪臭怪獣セーデガンを掃討するために出動し、上陸先の無人島でセーデガンを攻撃する。
- アニメ・コミック
- 『SKET DANCE』
- 原作:篠原健太による同名漫画を原作としたテレビアニメ。第74話で丹生グループの屋敷内を警備する戦車として登場。
- 『Z/X IGNITION』
- ブロッコリー発売のトレーディングカードゲームを原作としたテレビアニメ。96式装輪装甲車(II型)などとともに、九州に駐屯していた防衛隊の陸上戦力として登場する。
- 『ガールズ&パンツァー』
- 監督:水島努によるテレビアニメ。大洗女子学園の戦車道教官、蝶野亜美一等陸尉の搭乗車両として戦車教導隊所属車両が登場。初登場となる第2話では、C-2改輸送機からのLAPESによる降下を披露した。
- 『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』
- 原作:佐藤大輔、作画:佐藤ショウジによる同名漫画を原作としたテレビアニメ。第5話で街中を警戒する自衛隊の戦車として、高城沙耶の思考内に登場。
- 『真剣で私に恋しなさい!』
- 原作:みなとそふとによる同名アダルトゲームを原作としたテレビアニメ。第7話冒頭の北富士演習場のシーンに登場。
- 『世界征服〜謀略のズヴィズダー〜』
- 監督:岡村天斎によるオリジナルアニメ作品。第1話にて、陸上自衛隊所属のものが登場。なお、所属は「西ウド川駐屯地第3戦車隊」という架空の部隊だった。
- 『絶園のテンペスト』
- 原作:城平京、構成:左有秀、作画:彩崎廉による同名漫画を原作としたテレビアニメ。日本国防陸軍の主力戦車として登場。国防軍合同軍事演習(実際には絶園の樹攻撃作戦)に多くの車両が参加し、絶園の樹に砲撃を加える。そのうち1両は鎖部夏村によってはじまりの樹の供物にされて消滅し、残りも新たに接近した絶園の果実から脱落した巨大な鎖の下敷きとなって全滅した。
- 『バーサスアース』
- 原作:一智和智、作画:渡辺義彦による漫画、都内に現れた深柱を攻撃するため96式装輪装甲車と共に出撃。
- 『まりかセヴン』
- 著:伊藤伸平によるSFコメディ漫画。怪獣迎撃を行う陸上自衛隊の戦車部隊「レッドスコルピオン」や「ホワイトタイガー」所属の車両が登場する。第2話では攻撃中に登場人物の田子ノ浦を車内へ収容することになるが、その際の「ヒトマル式」や「そっち撮らないでくれる」という台詞に作者の軍事オタクぶりがうかがえる。
- 『薬師寺涼子の怪奇事件簿』
- 著:田中芳樹による同名小説を原作としたテレビアニメ。日本政府が自衛隊の天下り先として設立した警備会社の戦車という設定であり、ヒロイン側の警備会社を壊滅させるべく対テロ演習名目で封鎖した東京へ現れるが、彼女達の手の者にあっさり奪われる。
- ゲーム
- 『大戦略シリーズ』
- 「新戦車」として登場。
- 『メタルサーガニューフロンティア』
- 「TYPE-X10」の名前で、10式戦車に酷似した戦車が登場。
- 『メタルマックス4 月光のディーヴァ』
- 10式として登場。
- 『メビウスオンライン』
- ゲームポットが運営するオンラインゲーム。プレイヤーが操作できる兵器として登場。
- 『ランナバウト3D ドライブ:インポッシブル』
- 幅広い種類の車両を操作できるカーアクションゲームシリーズ。「TANK 10」の名前で、10式戦車に酷似した戦車が登場。
脚注
注釈
出典
参考文献
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- 『J Ground(Jグランド)』Vol.19
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- テンプレート:Cite book
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関連項目
外部リンク
- 防衛省・自衛隊:平成13年度 事前の事業評価 評価書一覧
- 新戦車(その1) : テンプレート:PDFlink - テンプレート:PDF
- 防衛省・自衛隊:平成21年度 事前の事業評価 評価書一覧
- 新戦車の取得 : テンプレート:PDFlink - テンプレート:PDFlink - テンプレート:PDFlink
- 防衛省・自衛隊:平成21年度 事後の事業評価 評価書一覧
- 新戦車 : テンプレート:PDFlink - テンプレート:PDFlink - テンプレート:PDFlink
- 防衛省技術研究本部 - 新戦車報道公開
- テンプレート:Cite news
- テンプレート:Cite news
- eJ.magazine - 防衛省が次期主力戦車を公開 機動力重視、ネットワーク中心型戦争にも対応
- GlobalSecurity.org - Type 10 MBT-X Prototype (TK-X)
- NetworkWorld.com - Japan shows off tank with peer-to-peer networking capabilities
- 10式戦車 スラローム射撃 JGSDF Type 10 MBT - Car Watch YouTube
- ハイパ~道楽 - 10式戦車の開発と試作車 文:一戸崇雄
- ↑ 自衛隊装備年鑑〈2010‐2011〉朝雲新聞社編集局(著、編集) ISBN 978-4750910314
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ テンプレート:Cite newsテンプレート:リンク切れ
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ 5.0 5.1 テンプレート:Cite newsテンプレート:リンク切れ
- ↑ テンプレート:PDFlink - 財務省
- ↑ 『J Ground(Jグランド)』Vol.19
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 10.0 10.1 10式戦車開発者によるトークショー@ニコニコ超会議2
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ 『丸』2011年1月別冊
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ 『PANZER(パンツァー)』アルゴノート社 2010年12月号 P.39 Tank Transporter
- ↑ テンプレート:Cite news
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ 防衛省・自衛隊:第67回防衛調達審議会議事要旨
- ↑ テンプレート:PDFlink(2010年2月2日時点のアーカイブ)
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ テンプレート:PDFlink(平成23年度 - 平成27年度・閣議決定)
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ 第1戦車大隊ホームページ
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