03式中距離地対空誘導弾

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索
ファイル:JGSDF Type03 SAM launch.jpg
03式中距離地対空誘導弾(アメリカでの実弾射撃訓練)

03式中距離地対空誘導弾(まるさんしきちゅうきょりちたいくうゆうどうだん)は、陸上自衛隊で使用されている純国産の中距離防空用地対空ミサイル・システムである。現在、地対空誘導弾 改良ホークの後継種として配備が進んでいる。主契約者は三菱電機。略称は「SAM-4」、通称「中SAM」。

テンプレート:-

開発から配備まで

西側諸国では、長らくホークなどの地対空ミサイルに改良を行い使用してきたが、これ以上の性能向上が難しいとの判断により、アメリカドイツイタリア中距離拡大防空システム(MEADS)の開発をスタートさせた。これに日本も参加を求められたが、武器輸出三原則の制約を理由に参加を断念し、日本は単独で航空自衛隊地対空誘導弾ペトリオット(長距離防空用)と陸上自衛隊81式短距離地対空誘導弾(短距離防空用)の間を埋める存在となる新型地対空誘導弾の研究開発を行った。

1983年より防衛庁の部内において、ホーク後継ミサイルの検討が開始されている[1]。1995年に国内開発が決定し、1996年より本格開発が開始された[1]2003年度に「03式中距離地対空誘導弾」(中SAM)として制式化され、陸上自衛隊の方面隊隷下の各高射特科群の高射中隊を中心として配備が進められている。陸上自衛隊の1個高射特科群は4個高射中隊からなり、8個群が中SAMに更新される予定である。1個群を構成する武器システムにかかる価格は約470億円で、同規模のペトリオットPAC-2の調達価格である約850億円より低く抑えられている。

しかし、21世紀以降の急速な財政悪化による防衛予算の削減で遅々として配備が進まず、都心部及び地政学的に重要な兵庫県沖縄県を担任する一部の部隊を除き、依然として改良ホークからの更新が行われていない。そのため、取得コストを抑制しながら、巡航ミサイル(低空目標)や空対地ミサイル(高速目標)への対処能力を向上させ、ネットワーク交戦能力の向上により防衛範囲を拡大させた「03式中距離地対空誘導弾(改)」が平成22年度から開発を開始しており、平成28年度までに実用化させることが予定されている[1][2]

特徴

ファイル:JGSDF Type03 SAM 20120520-02.JPG
発射装置搭載車両(射撃姿勢)

対空戦闘指揮装置の搭載車体には73式大型トラックを使用し、幹線無線伝送装置、幹線無線中継装置及び射撃管制装置の搭載車体には高機動車を使用、捜索兼射撃用レーダー装置車、発射装置車、運搬・装填装置車及びレーダー信号処理兼電源車の車体には重装輪回収車と共通の重装輪車が使用されており、高い機動展開性によって有事に即対応できる。操作に必要な要員も省力化され、20人体制で運用することができるようになった(ホークは50人体制。これに伴い装備する高射中隊は運用上の編成が改められている(改編)。また、非自走部のあったホークと異なり、システム一式の完全車載・自走化により、機動力が向上した[3]

ミサイル本体は発射筒を兼ねた角型コンテナに収められた状態で、発射装置及び運搬装填装置に各6発ずつ搭載されており、ロシアS-300や米欧共同開発のMEADSなどと同様の垂直発射方式である。このため、陣地展開に必要な土地面積が従来方式に比べ少なくて済む様になり、展開用地確保が容易になっている。

レーダーはアクティブフェーズドアレイレーダーであり、1基で標的捜索のほか、目標の追尾および射撃管制も行う[3]。また、高度なECCM(対電子妨害対処)能力と多目標同時対処能力を持ち、空対地ミサイル巡航ミサイルによる遠距離攻撃に対処する能力も有するとされている。レーダーは回転することにより、全周捜索を行う。将来的にはE-767早期警戒管制機や、2011年から配備が始まる対空戦闘指揮統制システムなどとのデータリンクによる戦闘能力の向上も予定されている。ミサイル誘導方式は中間指令誘導アクティブレーダーホーミングの組み合わせとなっている[3]

なお、射程については正確な数値は不明であるが、2014年下志津駐屯地創設59周年記念行事では下志津から横浜や筑波山上空の航空機を射撃可能と解説されていることや[4]米国における射撃試験の報道[5]から射程60km以上と思われる。

03式がアメリカ空軍敵防空網制圧(SEAD)を任務とする第35戦闘航空団と演習を行った際には、F-16CJ/DJ戦闘機によるJDAMと20mm機関砲の攻撃で撃破判定を受けている[6]

テンプレート:Multiple image テンプレート:-

調達と配備

調達数

03式中距離地対空誘導弾の調達数[7]
予算計上年度 調達数 予算計上年度 調達数
平成15年度(2003年) 0.5個群(2個中隊) 平成23年度(2011年) 1個中隊
平成16年度(2004年) 0.25個群(1個中隊) 平成24年度(2012年) 1+1個中隊[8]
平成17年度(2005年) 2個中隊 平成25年度(2013年) 0個中隊
平成18年度(2006年) 1個中隊 平成26年度(2014年) 1個中隊
平成19年度(2007年) 1個中隊
平成20年度(2008年) 1個中隊
平成21年度(2009年) 2個中隊
平成22年度(2010年) 1個中隊 合計 0.75群+12個中隊(15個中隊)

配備部隊

現在、配備されている部隊は下記のとおり。配備は陸上自衛隊東部方面隊第2高射特科群)及び中部方面隊第8高射特科群)から開始されたが、これはPAC-3が最初に配備された航空自衛隊中部航空方面隊第1高射群第4高射群)との整合をとるためである。

23中期防に基づき、2012年3月26日に配備開始。2014年3月末に3個(323・324・325)中隊の換装を完了。326中隊は11式短距離地対空誘導弾導入により短距離防空を担任)

性能

  • 全長:約4.9m
  • 直径:約0.32m
  • 重量:約570kg
  • 弾頭重量:約73kg
  • 射程:50km以上[5]
  • 価格:ワンセット(1個群)約470億円

情報漏洩事件

2006年朝鮮総連系の科学者団体「在日本朝鮮人科学技術協会(科協)」と関係があると言われるソフトウェア会社に、ミサイル部分の資料が流出したことが、警視庁公安部の捜査により明らかとなった。中SAMが戦術弾道ミサイルへの対処能力を得られるか否かの性能検討に使うためのシミュレーションを、防衛省三菱総研に発注したとき、三菱総研から研究を孫請けした企業が、薬事法違反の前科のある科協所属の在日韓国人が役員を務める会社だった。

警視庁の調べによれば、この会社から、土台人と呼ばれる在日工作員を通じて北朝鮮に対して情報が流出したとされており、流出した情報には未公開のものも含まれるとみられる。ただし、防衛庁(現:防衛省)は「流出した情報はごく一部であり、異なる部分もあるため、このことが中SAMの運用に悪影響を与えるおそれはない」としている[9]

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

外部リンク

テンプレート:Sister

  • 1.0 1.1 1.2 SAM-X(将来地対空誘導弾)の"国産化"戦略(1)パトリオット後継に求められる性能と技術,宮脇敏幸,軍事研究2012年9月号,P54-69,株式会社ジャパン・ミリタリー・レビュー
  • 03式中距離地対空誘導弾(改) 平成24年行政レビューシート(防衛省)
  • 3.0 3.1 3.2 PANZER 臨時増刊 陸上自衛隊の車輌と装備2012-2013 2013年1月号,アルゴノート社,P86
  • 大迫力対空戦闘!!平成26年度 下志津駐屯地 対空戦闘訓練展示 FDR-AX100 7分20秒から
  • 5.0 5.1 Japan Tests New SAM in Texas, with Anti-Cruise Missile Capability
  • [1]
  • 防衛白書の検索
  • +は補正予算分
  • 「将来SAM」関連情報の流出事案に関する報告のポイント 2006年3月2日 防衛省