鳳凰
鳳凰(ほうおう、テンプレート:ピン音)は、中国神話の伝説の鳥、霊鳥である。鳳皇とも。日本や朝鮮など東アジア全域にわたって、装飾やシンボル、物語・説話・説教などで登場する。
目次
特徴
形態
前2世紀頃前漢の時代に成立されたという中国最古の類語辞典『爾雅』17章によれば、嘴は鶏、頷は燕、頸は蛇、背は亀、尾は魚で、色は黒・白・赤・青・黄の五色で、高さは六尺程とされる[1]。『山海経』「南山経」では鶏に似ており、頸には「徳」、翼に「義」、背に「礼」、胸に「仁」、腹に「信」の紋があるとされ、同じく『山海経』「西山経」ではヤマドリに似ているとされた。 後漢の字典『説文解字』では、顔は鴻、前半身は雁またはオオハクチョウ、後半身は麟、頸は蛇、尾は魚、額は鸛、髭は鴛鴦、紋様は龍、背中は亀、嘴は鶏、頷は燕と記された。南朝の時代に成立した『宋書』志第十八では、頭は蛇、頸は鶴、背は魚、腹はスッポン、尾羽は魚の尾鰭、前半身は鴻に似ており、頭は青く、翼を並べるとされる。同じく『宋書』巻二十八では孔雀に似ているとされる。また南宋の『癸辛雑識』では高さ一丈(約3.07m)ほどで、尾は鯉に似、色が濃いとされた[2]。
日中の相違
後世、中国と日本ではそのデザインに変化が生じた。現代の中国では一般に、頭はキンケイ、胴体はオシドリ、尾は孔雀、足は鶴、嘴はオウム・インコ、翼は燕とされる。これに対し日本では一般に、背丈が4-5尺はあり、その容姿は前部が麟、後部が鹿、頸は蛇、背は亀、頷(あご)は燕、嘴は鶏、尾は魚であるとされる[3]。また五色絢爛な色彩で、羽には孔雀に似て五色の紋があり、声は五音を発するとされる。
その他の特質
春秋時代の『詩経』『春秋左氏伝』『論語』などでは「聖天子の出現を待ってこの世に現れる」といわれる瑞獣(瑞鳥)のひとつとされる。
『礼記』では麒麟・霊亀・応竜とともに「四霊」と総称されている。
鳳凰は、霊泉(醴泉〈れいせん〉、甘い泉の水[4])だけを飲み、60-120年に一度だけ実を結ぶという竹の実のみを食物とし、梧桐の木にしか止まらないという[4]。『詩経』に「鳳凰鳴けり、彼の高き岡に。梧桐生ず、彼の朝陽に」[5]とあり、「鳳凰は梧桐にあらざれば栖まず、竹実にあらざれば食わず」という[6]。
『説文解字』では「東方君子の国に産し、四海の外を高く飛び、崑崙山を過ぎ、砥柱で水を飲み、弱水で水浴びをし、日が暮れれば風穴に宿る」とも記された。
唐の時代の『酉陽雑俎』では、骨が黒く、雄と雌は明け方に違う声で鳴くと記述される[7]。
『本草綱目』によれば、羽ある生物の王であるとされる。
鳳凰の卵は不老長寿の霊薬であるとされるとともに、鳳凰は中国の西方にあるという沃民国(よくみんこく)やその南にある孟鳥国(もうちょうこく)にも棲むといわれ、その沃民国の野原一面に鳳凰の卵があると伝えられる[4]。また仙人たち(八仙など)が住むとされる伝説上の山崑崙山に鳳凰は棲んでいるともいわれる[8]。
鳳凰の別名
鳳凰の別名としては、雲作、雲雀、叶律郎、火離、五霊、仁智禽、丹山隠者、長離、朋、明丘居士、などがある。黄鳥・狂鳥・孟鳥・夢鳥なども鳳凰と同一とする説もある[9]。
鳳凰の種類
これらの種類分けは理論的・空想的なものであって、実際の装飾や図像表現においては鳳凰と精確に区別されることが無くほとんど同形同一のものであり、鸞・鵷鶵・朱雀などが鳳凰と別のものか同じものかをめぐる厳密な議論はあまり意味がない。
鸞
鸞(らん)は、鳳凰の一種で青いものをさすとも、鳳凰は赤いのに鸞は青いから別のものともいう。唐の『初学記』(727)によれば、鸞とは鳳凰の雛のこととされる。また江戸時代の『和漢三才図会』は鸞を実在の鳥とし、中国の類書『三才図会』からの引用で、鸞は神霊の精が鳥と化したものとする。また鳳凰が歳を経ると鸞になるとも、君主が折り目正しいときに現れるとしている[10]。またその声は5音の律、赤に5色の色をまじえた羽をたたえているとされ、鳳凰と区別し難い。
鵷鶵
鵷鶵(えんすう)は、鳳凰の一種で黄色いものをさすとも、鳳凰は赤いのに鵷鶵は黄色いから別のものともいう。『山海経』では「鳳凰とともに住む」とあるから鳳凰とは別の鳥であるが、ともに住むから習性も似ており『荘子』秋水篇には「鵷鶵、南海を発して北海に飛ぶ。梧桐に非ざれば止まらず、練実(竹の実)に非ざれば食わず、醴泉(甘い味のする泉の水)に非ざれば飲まず」とあるのは鳳凰に類同する。
朱雀
鳳凰は五行説以前から存在したが、五行説ができて南と火を司る神あるいは聖なる動物とされてからは朱雀とよばれるようになった。「四神」の一つとしてあげる場合は朱雀といい、単独であげる場合は鳳凰という。漢代の緯書には、鳳凰を火精としているものがあるがこれも五行説の影響を受けた結果である。
その他の分類
『山海経』には、五色の鳥として鳳鳥(鳳)・鸞鳥(鸞)・皇鳥(凰)の3種が挙げられているが具体的な違いは明らかでない。鳳(ほう)はオス、凰(おう)はメスを指す[3]という説もあれば、鳳凰のうち赤いのを鳳、青いのを鸞、黄色いのを鵷鶵、紫のをガクサク、白いのを鵠、と色でわける説(『毛詩陸疏広要』)もある。
モデル(実在の鳥)の比定
また江戸時代の『和漢三才図会』は鸞を実在の鳥としているが、鳳凰のモデルとなった実在の鳥類について諸説ある。
- マクジャク、キンケイ・ギンケイ、オナガキジやジュケイ類といった中国に生息するキジ類とする説。
- マレー半島に生息するキジ科の大型鳥であるセイラン(青鸞)とする説(吉井信照ら)。
- マレー半島に生息するカンムリセイラン(鳥類学者蜂須賀正氏はケンブリッジ大学に提出した卒業論文「鳳凰とは何か」において、鳳凰のモデルを、カンムリセイランとした[11]。頭がニワトリに似、頸がヘビのようで、背中に亀甲状の模様があり、尾が縦に平たく魚に似ている、といったカンムリセイランの特徴を挙げた[12]
- ツバメ説(袁珂の説。『爾雅』の記述に鳳凰の別名エンを「燕」と解釈[13]。)
- 笹間良彦は鳳凰の相似霊長である鸞について、キヌバネドリ目のケツァールが、鸞の外観についての説明に合致するという[14]。
装飾における鳳凰
古代から中世にかけて東アジア全域にわたってその意匠が装飾に使用された。中国の殷王朝期の陶器に見られる。
日本では伝説にちなんで桐の家具に鳳凰を彫刻するものが流行したと『枕草子』にある[15]。装飾芸術としては宇治平等院鳳凰堂が最も有名である。 ほか京都鹿苑寺金閣の屋上にあるものも有名である。
現代では通貨や郵便ステーショナリー、各種団体の意匠にも取り入れられている。
- 日本銀行券
- 2004年(平成16年)11月1日より発行 壱万円裏面 平等院鳳凰像
- 硬貨
- 1957年(昭和32年)から1958年(昭和33年)発行 百円銀貨表面 年銘は昭和三十二年および昭和三十三年
- 切手
- はがき
- 1981年(昭和56年)4月1日発売 40円料額印面
- 日本赤十字社の社章は、赤十字竹桐鳳凰章という。
- 企業では、角川グループのものが知られている。角川書店の創業者角川源義が1946年(昭和21年)に出版した飛鳥新書のマークに使ったことに始まる。
- 専修大学と創価大学の校章は、鳳凰の翼を意匠に取り入れている。
宮型霊柩車には、鳳凰が前部の装飾として取り入れられていることが多くある。
賞状の縁にデザインされている鳥は鳳凰である。左が鳳・右が凰で、中央には雲竜・下部には桐をモチーフにした図柄が用いられるのが一般的である。[16]
地名
起源
殷の時代には風の神、またはその使者(風師)として信仰されていたといわれる。また「風」の字と、「鳳」の字の原型は、同じであったともいわれる[17]。
フェニックスとの関係
東西の聖なる鳥の代表としてよく混同される両者だが、フェニックスの形態は猛禽類(エジプトで愛好されていた鷹)に近いのに対して鳳凰は尾羽など孔雀に近い見た目をしている。また鳳凰は雌雄の別があり卵も産むのに対してフェニックスは単性(雄)生殖をするとされ、本来は別系統のものと考えられていた。
しかし鳳凰にしろフェニックスにしろこれらの図像は多く後世のもので、本来は、フェニックスのルーツはエジプトの霊鳥ベンヌであり水鳥に近い外貌であった。また鳳凰は本来一つの語であったと考えられており、二文字の単語を一文字づつに分けて一方は何々、他方は何々と説明するのは中国ではありふれた語源俗解であり、鳳が牡で凰が牝などというのは後付けの説明である。ペルシア神話の「フマ」はフェニックスと鳳凰の中間的な性質をもち、ベンヌ〜フマ〜鳳凰は死と再生の象徴(政治的には新王朝の到来の象徴)として日の出を告げる鳥の神格化で、神話学的に同一起源である可能性が指摘されている。
過去の歴史においても現在のフィクションにおいても、フェニックスと鳳凰はしばしば同一視される。鳳凰と朱雀は共に五行説の「火の属性」を持つがこれは後世の解釈であって、鳳凰は本来は五行説と無関係な存在であった(「風の属性」などという概念は古代中国に存在しない)が、南方(五行思想で火を表す)を守護する朱雀と鳳凰が同一視されたので、自身を炎で焼いて再生するという伝承をもつフェニックスと鳳凰も自然に同一視されがちである。実際、鳳凰は英語ではチャイニーズフェニックスとも呼ばれている。
ガルーダとの関係
その形態から、インド神話の神で、マレー半島、インドネシアの聖鳥ガルダ(迦楼羅)との類似が指摘されている。
脚注
- ↑ 《尔雅•释鸟》郭璞の注による。鳳凰特徵是:“雞頭、燕頷、蛇頸、龜背、魚尾、五彩色,高六尺许”。
- ↑ 『癸辛雑識』別集巻下
- ↑ 3.0 3.1 『大辞林 第3版』 三省堂、2006年。ただし現在では本来一単語であった鳳凰を二文字に分解して一方を何々、他方を何々と意味付けするのは中国にありふれた語源俗解であり、後世の後付けにすぎないと考えられている。
- ↑ 4.0 4.1 4.2 テンプレート:Cite journal
- ↑ 『詩経』大雅巻阿
- ↑ 『晋書』14・苻堅載記下、『魏書』21下・彭城王勰伝
- ↑ 『酉陽雑俎』巻十六羽篇
- ↑ 曽布川寛 『崑崙山への昇仙:古代中国人が描いた死後の世界』 中央公論社〈中公新書〉、1981年。
- ↑ 袁珂『中国神話・伝説大事典』大修館書店 、1999年
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ 荒俣宏『大東亜科学奇譚』ちくま文庫、1996年
- ↑ 荒俣宏『大東亜科学奇譚』ちくま文庫、1996年、荒俣宏編『世界大博物図鑑 4 鳥類 別巻1 絶滅・希少鳥類』平凡社
- ↑ 『中国の神話伝説』上下、青土社 、1993年『中国神話・伝説大事典』大修館書店 、1999年
- ↑ テンプレート:Cite book ただし大航海時代以前に新大陸の固有種がモデルになったという説は説得力がない。
- ↑ 現代の植物学ではアオギリと桐は相が異なるため、誤りともいえる。
- ↑ ご贈答マナー【賞状について】
- ↑ 白川静『字統』
参考文献
- 袁珂『中国の神話伝説』上下、青土社 、1993年
- 袁珂『中国神話・伝説大事典』大修館書店 、1999年。