隠し砦の三悪人
『隠し砦の三悪人』(かくしとりでのさんあくにん)は、1958年12月28日に公開された黒澤明監督による日本映画。
概要
黒澤作品初のスコープサイズ(TohoScope) 作品。主な撮影は兵庫県西宮市の蓬莱峡で行われた。上映時間139分。白黒・モノラル作品。東宝配給。
あらすじ
戦国時代のある地方、隣り合った領地をもつ山名家と秋月家の間で戦いが続いていた。 百姓の太平と又七は手柄や褒美を夢見てこの戦に参加したが、もとよりなんの力もない素人であったためにろくな働きも出来ず、褒美を手にするどころか逆に全てを失って途方に暮れてしまった。なにしろ勝敗が決した後についたため戦には加われず、しかも敗れた秋月の雑兵と間違われて山名の手勢にこき使われ、疲れ果てるまで只働きを強いられたのである。二人は自分の哀れな境遇に対する不満を互いにぶつけ合いながら、おとなしく家路につくしか他になかった。
そうした道中で二人は興味深い話を耳にする。秋月家は城を攻め落とされて敗れたが、雪姫は侍大将の真壁六郎太などとともに逃れ、また城にあったはずの莫大な軍資金も見つかっていないというのだ。ならば二人にもそれらを見つけ出すという望みはあったが、それは戦で手柄を立てるよりもなお叶う当てのない夢物語としか思えなかった。
しかし偶然は二人に味方をする。米を研ごうと入った川の中で、黄金の延べ棒を包んだ薪木を拾ったのである。しかも延べ棒には秋月の紋章が刻まれている。理由はわからないがこれは秋月の軍資金に違いない、そう考えた二人はあたりを探して回るが、そこに不思議な風体の男が現れる。百姓の二人が顔を知るはずもなかったが、それこそが侍大将の真壁六郎太その人だった。
彼は雪姫や重臣らとともに、山中の隠し砦に身を潜めていた。又七と太平が拾った薪木は、彼が泉に隠した軍資金の中からこぼれた一本だった。姫と泉に隠した軍資金さえあればお家再興は果たせるかもしれないが、しかし彼らは同盟国の早川領へ逃げ延びる手段を探しあぐねていた。六郎太が又七と太平を見つけたとき、返答しだいによっては口封じで首をはねるほかないとも考えたが、問い詰められた二人が苦し紛れに口にした早川領への脱出法を聞いて考えを改める。二人が話したのは、一度秋月から山名へ戻り、そこから早川に抜けるという思ってもみない方法だった。たしかに負けた秋月の残党が敵地の山名に逃げる筈もなく、そこから早川への境も、秋月からの境に比べれば見張りはずっと少ないに違いない。
六郎太は心を決め、雪姫の身を守りながらも敵地である山名領を通り、友好国の早川領へ抜ける作戦を行動に移す。又七と太平は六郎太や雪姫の正体に気づかないまま、なんとか宝の分け前に与ろうと黄金を背負い力を貸すことを選ぶ。しかし敵陣を突破する大胆不敵な道行きの前には次から次に困難が立ちはだかる。六郎太は男まさりの勝気な気性の雪姫の機嫌をとったり、不平不満を言い逃亡も図る百姓二人を脅したりすかしたりしながら、山名領との国境の関所を目指す。だがそんな六郎太の前に、山名の侍大将でかつての盟友・田所兵衛が立ちふさがった。
キャスト
- 六郎太:三船敏郎
- 太平:千秋実
- 又七:藤原釜足
- 田所兵衛:藤田進
- 長倉和泉:志村喬
- 雪姫:上原美佐
- 老女:三好栄子
- 娘:樋口年子
- 関所番卒:藤木悠
- 騎馬武士:土屋嘉男
- 男:高堂国典
- 落武者:加藤武
- 番卒:三井弘次
- 関所奉行:小川虎之助
- 親父:上田吉二郎
- 男:佐藤允、田島義文
- バクチ打ち:沢村いき雄
- 雑兵:大村千吉
- 六郎太に捕らえられる足軽:堺左千夫
- 足軽:富田仲次郎
- 雑兵:小杉義男
- 六郎太に捕らえられる足軽:谷晃
- 関所番卒:佐田豊
- 関所番卒:笈川武夫
- 若者:中丸忠雄
- 足軽:熊谷二良
- 雑兵:広瀬正一
- 落武者:西条悦郎、長島正芳
- 馬を買う侍:大橋史典
- 騎馬武士:大友伸
- 武士:伊藤実、鈴木治夫、金沢重勝
- 足軽:日方一夫
- 雑兵:中島春雄
- 雑兵:久世竜
- 足軽:千葉一郎、砂川繁視
- 若者:緒方燐作
- 荷車を追う騎馬武者:山口博義、坂本晴哉
- 女達:日劇ダンシングチーム
スタッフ
- 監督:黒澤明
- 製作:藤本真澄、黒澤明
- 脚本:菊島隆三、小国英雄、橋本忍、黒澤明
- 撮影:山崎市雄
- 美術:村木与四郎
- 録音:矢野口文雄、下永尚
- 照明:猪原一郎
- 音楽:佐藤勝
- 美術監修:江崎孝坪
- 監督助手:野長瀬三摩地
- 特殊技術:東宝技術部
- 製作担当者:根津博
主な受賞歴
備考
劇中、火祭りの歌の歌詞は本作品の舞台である戦国時代をやや遡る室町時代の成立である『閑吟集』の「なにせうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ」に由来する。この歌集に先行する類似の文句としては、室町幕府初代将軍足利尊氏の清水寺への請願文の書き出しとして有名な「この世は夢のごとくに候」がある。
影響と逸話
- 『スターウォーズ』(1977=新版では『エピソードIV/新たなる希望』)のアイディアはこの映画を元に考えられたと監督ジョージ・ルーカス自らが回想している。
- 有名な冒頭シーンやラストシーンが酷似している。
- キャリー・フィッシャー演じるレイア姫は、男勝りの性格や行動、身分に溺れない正義感など、雪姫をモデルとしている。雨の中、野宿するシーンで地べたに横たわり眠っている雪姫と、捕らえられたレイア姫が狭い部屋で横たわっているシーンは、ポーズもアングルも酷似している。
- C-3POとR2-D2は、太平と又七がモデルになっている。なお二人は、狂言でいう太郎冠者と次郎冠者(狂言におけるボケ役とツッコミ役の通称のような役どころ)が元である。
- この作品を遡ること二年前の1975、黒澤はハリウッドへの進出の度重なる失敗の後で旧ソ連のモスフィルムの元で『デルス・ウザーラ』を製作し、アカデミー賞の外国語映画賞を受賞している。この点を勘案すると、『スターウォーズ』の製作は、1970年代の冷戦構造下における黒澤のハリウッドへの影響の屈折した表出であったとも理解され得る。
- 撮影の前半は順調に進んだが、後半は天候に災いされて大幅に遅れた。映画自体はヒットしたが、制作日数と予算がオーバーしたため、東宝はその後、黒澤側にプロダクションの設立を要求することになる。一連の予算的なリスクをプロダクションに負担してもらうためである。
- 劇中、疾走する馬にまたがってのチャンバラはスタントを使わず、三船敏郎自身が演じている。この撮影シーンは、黒澤映画の中でも語り草となるところで、三船は馬で騎馬武者を追いかけて切り捨てるが、両手は刀を握り八双の構えをとり、膝で馬を制御している[1]。また、狙撃されるシーンで黒澤はリアリティにこだわり、本物の銃弾を撃たせ、三船らに銃弾をかわさせようとしたが、さすがに三船は拒否した。なお、その前年に公開された黒澤の映画『蜘蛛巣城』で三船に対し同じようなスタント(本物の矢が三船に射かけられる)があり、三船を激怒させたというエピソードがある。
- 2008年、東宝の配給で本作品のアイドル映画への翻案である『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』が公開された(主演は嵐の松本潤)。