コオロギ

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コオロギ(蟋蟀、蛬、蛩、蛼)は、昆虫綱バッタ目(直翅目)キリギリス亜目(剣弁亜目)コオロギ上科の総称である[1][2][3]。分類体系によってはコオロギ科ともなるが、指し示すものは同じである。

日本ではコオロギ科コオロギ亜科に分類されるエンマコオロギミツカドコオロギオカメコオロギツヅレサセコオロギなどが代表的な種類として挙げられる。ただし人によって「コオロギ」の概念は異なり、コオロギ上科の中でもスズムシマツムシケラなどを外すこともある。

なお、日本史上、中世以前の時代では、「蟋蟀」とはセミをも含むあらゆる鳴く昆虫を指していた。このため、現在でも学問的厳密性を要さない日常会話上では、コオロギ上科でないカマドウマコロギスヒメギスなども「コオロギ」に含むことが少なからずある。

概要

成虫の体長は10mm前後–40mmほどだが、アリヅカコオロギマダラスズシバスズなど数mmしかないものもいる。日本に分布するコオロギで最大種は体長30-40mm前後のエンマコオロギやケラだが、海外にはタイワンオオコオロギBrachytrupes portentosusをはじめ50mmを超える種類も多い。

形態

体色は茶色のものが多く、太短い円筒形か紡錘形の体つきをしている。頭部には体長以上はある毛髪状の触角を持つ。また、尾端にも後ろ向きに2つの尾毛があり、これも触角同様周囲の様子を探る感覚器である。

の中では後脚が特に長く太く発達し、移動や逃走の際には後脚を利用して跳躍するものが多い。また、前脚節のつけ根にを持ち、これで周囲の物音や他個体の鳴き声を聞き取る。

成虫にはがあり、翅を使って飛翔する種類がいる。その一方で前後の翅が鱗状に退化したものや全く消失しているものもいる。

オス成虫の翅にはやすり状の発音器や共鳴室があり、発音器をこすり合わせて「鳴く」ものが多い。翅を使って鳴く種類のオスとメスを比べた場合、メスの前翅の翅脈は前後に直線的に伸びるが、オスの翅脈は複雑な模様を描く。中にはメスに翅がなく、オスに鳴くための前翅だけがあるカネタタキのような種類や、オスは羽化後に後翅が取れてしまう種類もいる。樹上性の種類の中には、立派な翅があるにも関わらず雄も全く鳴くことが出来ないものも少なくない。

また、メスの尾端には長い産卵管があり、産卵の際に土中や植物組織内に産卵管を差しこむ。

地上性-半地上性の多くの種類は他のバッタ目昆虫に比べに柔軟性があり、頭さえ通ればその隙間をくぐり抜けてしまう。しかしスズムシのようにこの特技を持ち合わせていないものもいる。

翅型

コオロギ上科の多くの種では、同種、同性であっても、環境その他の影響により前・後翅が長く発達し飛翔することのできる長翅型と、それらが短く飛翔できない短翅型が出現する。これらの違いは、その個体が生育するうえで被ったストレスに関係があることが実験により確かめられている。幼虫時に脚や尾毛等の付属肢(特に脚)を切断したり、高温や低温にさらして飼育すると、その個体は短翅型として羽化し、一方、完品のまま適温範囲内で成長した個体は長翅型として羽化する。また、長翅型として羽化して直後に脚を失うと、飛翔せずに後翅を脱落させ飛翔能力をすみやかに放棄する。これらの事から、コオロギは、体にストレスを受けると、体内のホルモンが、長翅による飛翔という冒険的行動をその個体に控えさせるよう働くと考えられている。

鼓膜をともなう進化的な耳を持つ点で、他の上科と区別される。キリギリス亜目の鼓膜の獲得は多系統的であり、キリギリス科 テンプレート:Sname 等も独自に鼓膜を獲得しているが、構造や場所などにより区別でき、また、コオロギ上科の単系統性が確認できる。

生態

草原森林、人家の周囲などの地上に生息するが、乾燥地、湿地山地海岸など環境によって見られる種類は異なる。ほとんどのコオロギは夜行性で、日中は草地や石の下、穴など物陰に潜むことが多い。中には洞窟性のものやアリヅカコオロギのようにアリ共生するものもいる。触角、尾毛、耳などの感覚器や鳴き声はこれらの暗い空間に適応したものである。夜間に地上を徘徊する種類には飛翔して灯火に飛来するものもいる。

完全な草食肉食もいるが、ほとんどが雑食で、植物質の他にも小動物の死骸などを食べる。小さな昆虫を捕食したり、動物性の餌が長らく手に入らなかったり、脱皮中で動けない同種個体と遭遇した場合、共食いをすることもある。飼育下でも雑食性の種類は植物質と動物質の餌を適度に与えた方がよい。脱皮後のコオロギの羽は白色をしており、しばらく時間をかけて羽が固まり黒っぽく色付いていく。また、自身の脱皮した抜け殻を食べる習性がある。

天敵カマキリクモムカデカエルトカゲ鳥類などである。このような天敵に遭遇した時は後脚で大きく跳躍して逃走する。また、湿地に適応した種類は水面に落ちてもよく水に浮き、人間の平泳ぎのように後脚で水面を蹴ってかなりの速度で泳ぐ。

オスが鳴く種類は同種個体との接触に鳴き声を利用し、メスと出会って交尾するか、他のオスと戦って排除する。交尾が終わったメスは土中や植物の組織内に一粒ずつ産卵する。温帯地方に分布するものはに成虫が発生し、卵で越冬するものが多い。孵化する幼虫は小さくて翅がない以外は成虫によく似た体型をしており、成虫と同じ食物を摂って成長する。

利用

愛玩

日本ではコオロギは身近な昆虫の一つで、『枕草子』の昔からその鳴き声を趣があるものと捉えていた。日本で多く聞かれるコオロギは「コロコロ…」「ヒヨヒヨ…」などと表現されるエンマコオロギだが、童謡蟲のこゑ』に登場するコオロギの鳴き声は「キリキリキリキリ」という擬態語で表現されており、カマドコオロギだと云われる。

食用・薬用

東南アジアでは食用として、各種のコオロギが市場で大量に売られている。一方、大型種は食用や民間療法の薬として利用されることもある。日本では20世紀後半以降一般的ではなくなったが、21世紀に入ってもこれらの利用が行われる地域は世界各地に存在する。

飼料

コオロギは飼育管理に比較的手間やコストがかからず繁殖力も旺盛である。このため、実験動物カエルトカゲ、大型肉食魚など肉食の愛玩動物のための手軽な生き餌として大量に人工繁殖、販売がおこなわれている。

闘蟋

中国には、闘蟋(斗蟋/とうしつ/ドウシー)と呼ばれ、にコオロギのオス同士を喧嘩させて楽しむ伝統的昆虫相撲競技がある。ただし、子供の楽しむ純娯楽的なものではなく、闘犬闘鶏闘牛、あるいはタイ王国国技ムエタイ」やヒメカブトムシの「メンクワン」等と同様、歴史的には賭博競技として栄えてきた側面を強く持つ。

の宮廷で始まり1200年の歴史を持つといわれ、代には宰相の賈似道がコオロギ相撲のための飼育書を著している。その後、宮廷のみならず民衆の間にも娯楽として普及した。映画ラストエンペラー』でも描写された娯楽である。人々の身分や地方によって、様々な流儀やスタイルが生まれてきた。

清代の怪奇小説集聊斎志異は、宮廷が各地に優れたコオロギの捕獲献納を割り当て、応じられない各地の責任者を厳罰に処するなど闘蟋の流行の裏面を描く。ある村の役人は上司より強いコオロギの献納を命じられ、網を持って村中を探しまわるが見つけることができず、罰として立てなくなるほどの激しい鞭打ちを受ける。ようやく一匹を捕まえるが、幼い息子が誤って殺してしまい、責任を感じた息子は井戸に飛び込み自殺を図るなど、宮廷の闘蟋流行に伴う民衆の悲劇を描写する。

闘蟋の対象となるコオロギの種類はツヅレサセコオロギ属が主で、闘蟋用に育成された個体は“闘蟋戦士”と呼ばれる。闘蟋戦士の育成、管理、試合実施に使用される様々な容器、器具も発達しており、それらは伝統工芸品としても一大文化を形成している。

文化大革命の際は、他の多くの伝統文化と同様、非生産的な旧文化として紅衛兵集団による弾圧の対象となったが根強く生き延び、現在もなお盛んに愛好され発展を続けている。様々な大会も催されており、優勝したコオロギは「虫王」「将軍」といった称号で呼ばれる。

先述のように、本場で闘蟋に使用される種はツヅレサセコオロギが多いが、他の属、種を使って行うことも出来る。たとえばミツカドコオロギエンマコオロギ等がそれらにあたるが、現代闘蟋は同種でも体格を厳密かつ公正に計量した体重制で競技がおこなわれるため、ツヅレサセコオロギ以外が使われるのはあまり一般的ではない(闘争行動への適応という点だけ見ればミツカドコオロギのほうが向いている)。

日本の場合、多摩動物公園昆虫園のイベントで、季節を問わぬ入手のし易さからフタホシコオロギが用いられた例があるが、これも中国で闘蟋に使われることのある種である。

分類

コオロギ上科 (テンプレート:Sname) の分類群を以下に示す。

これらのうち、現生科の系統関係は、以下のようになる[4]

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ケラ科をケラ上科 テンプレート:Sname として独立させる説もある。ただしいずれにせよ、(残りの)コオロギ上科とケラ科は近縁と見られている。さらにアリヅカコオロギ科とカネタタキ科をカネタタキ上科 テンプレート:Sname として独立させる説もある[5]が、分子系統からは側系統となる。逆に、姉妹群の テンプレート:Sname をコオロギ上科に含める説もある (Gwynne 1995)。

コオロギ科 (テンプレート:Sname) が最大の科で、多くの亜科に分かれる。これをいくつかの科に分割する説もある。逆に、アリヅカコオロギ科・カネタタキ科をアリヅカコオロギ亜科 テンプレート:Sname・カネタタキ亜科 テンプレート:Sname としてコオロギ科に含める説もある。

興梠(こおろぎ・こおろき・こうろぎ・こうろき)という難読苗字が存在する。宮崎県から熊本県に見られ、有名人としては声優こおろぎさとみ(両親が宮崎出身)、サッカー選手興梠慎三(宮崎県出身)が挙げられる。

脚注

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参考文献

関連項目

外部リンク

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  • 日本大百科全書小学館
  • 世界大百科事典平凡社
  • ブリタニカ国際大百科事典TBSブリタニカ
  • テンプレート:Cite
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