ムカデ
テンプレート:出典の明記 テンプレート:生物分類表 ムカデ(百足、蜈蜙、蜈蚣、蝍蛆)とは、多足亜門 ムカデ綱(=唇脚綱)に属する節足動物の総称。脚の数が多く、運動性に富む捕食性の虫である。英名のCentipedeはラテン語の百(centi)脚(ped)に由来する。
目次
特徴
現在は、増節変態をする改形亜綱のゲジ目、イシムカデ目、ナガズイシムカデ目(日本未産)と、一般に雌雄同形で自由生活ステージでは変態しない整形亜綱のジムカデ目、オオムカデ目に分類される。狭義のムカデは、オオムカデ目のトビズムカデやイシムカデ目のイッスンムカデなど、人目につきやすい、いわゆるムカデ型の生物を指す。
ムカデ類の体は、頭部と歩肢の並んだ胴部からなる。頭部には1対の触角と口器がある。頭部の次の体節には、歩肢がなく、その代わりに顎の形になった顎肢がある。全てのムカデは顎肢に毒腺を持ち、この毒を用いて昆虫などの動物を捕食する。それに続く体節には、それぞれ1対の歩肢がある。歩肢の数は分類群によって異なり、イシムカデ目、ゲジ目の成体は15対、オオムカデ目では21又は23対、ジムカデ目では種によって異なり、27対から37対、41対、47対などを示し、多い種は100対を超し、173対まである。ジムカデの歩肢対数には多くの個体変異が見られるが、発生による制約があるらしく、偶数対の歩肢対を持つ個体は稀な奇形である。最後の節には1対の尾脚=曳航肢と、改形類の雌では生殖肢がある。
どの種も肉食で、小動物を捕食する。オオムカデ類はヒトに対して能動的に攻撃をかけるものがあり、噛まれるとかなり痛む。人命に係る被害はほとんど無く、ムカデの咬害により死亡した例は報告されていない。大型種の多くは人間による拘束状況下において狂暴であり、触れたものには手当たりしだいに噛み付く。それでも、噛まれると体質によりアナフィラキシーショックを発症する事もあり、噛まれた場合には速やかに医師の診察を受けることが望ましい。
生息環境
小型のものは土壌動物として生活しているものが多い。イシムカデ類は、比較的短い体形で軽快に走り回り、小動物を捕らえる。地表にも出るホルストヒトフシムカデと同所的に分布する土壌性の強いダイダイヒトフシムカデを比較すると判るように、地中に棲む傾向の強い種は単眼数が少なかったり、無眼の場合もあり、淡い体色で、体毛が少なく、肢や触角が短い。地中(朽木を含む)生活に特化したジムカデ類は無眼で、黄色や赤、白、緑などの体色を示し、非常に細長い体に短い足を多数持ち、土壌中をミミズのように穿孔する。つつくと尾端を頭部と擬態して後ずさりしたり、とぐろを巻くように体を丸める種が知られている。ヨコジムカデなど、地下5mほどの餌となる土壌生物の密度が薄い層からも得られることがあり、活発な垂直移動をしていると思われる種もある。オオムカデ類も、ほとんどの小型種は無眼で、土壌動物である。一部の大型種は4個の単眼を持ち、樹上などを徘徊して獲物を襲って食べる。この仲間に、日本本土最大の種「トビズムカデ」が含まれる。特に大型のものはセミのような大型で活発な昆虫やネズミ[1]、コウモリ[2]テンプレート:リンク切れさえ捕食することが知られている。ゲジ類は長い歩肢と複眼や背面の大きな気門などにより、徘徊生活に特化しており、樹上での待ち伏せでは、長い脚を空中に巡らせて飛行中の蛾などを採食している。
人間の生活との関わり
主に夏場、山林に近い民家では、ゴキブリなどを捕食するためにムカデがしばしば家屋の内部に侵入する。この場合、靴の中や寝具に潜んだりすることから咬害が多く、衛生害虫としても注意が必要である。
産業との関連は少ない。オオムカデ類の油漬けや乾物は火傷や切り傷に効果があるとされ、民間薬として知られており一部に市販の例もある。観賞魚などの餌として冷凍のオオムカデが輸入されて市販されている。
近年の日本では、不快害虫の忌避効果を目的とした薬剤にムカデ・ヤスデの侵入防止効果を謳う場合が多い。家庭用殺虫剤等ではすぐには死なない(近年はムカデ用の殺虫剤が市販され、冷却により動きを止め、効果の解り易さを演出している)。俗に「ムカデはつがいで行動しているために、1匹を殺すともう1匹必ず現れる」と言われているが、ムカデにつがいで行動するような習性は無く(配偶時のみ短時間つがいで行動する)、1匹現れるような環境には自然とその他の個体も出現しやすいというだけのことである。
大韓民国では、干したオオムカデを鶏の腹に詰めて煮込む薬膳がある。漢方では生薬名を蜈蚣(ごしょう)といい、平肝・止痙・解毒消腫の効果があるとされる。オーストラリア原住民においては伝統的な調味料の原料に使用される[3]。
昆虫やクモ、サソリなどが、かなり頻繁にアクセサリーやグラフィックのモチーフになることに比べると、ムカデについては僅少な例しか無い。一方で、子供向けの絵本のキャラクターとしてムカデが登場することはある(ムスティなど)。
ペット(広意)としての飼育は、輸入種を中心に拡大傾向にある。現在、さまざまな種類が入荷しており、大型種ほど高値で販売される傾向がある。
「非常に凶暴で攻撃性が高い」というイメージや、「絶対に後ろに下がらない(後退しない)」という俗信から、戦国時代にはムカデにあやかり、甲冑や刀装具等にムカデのデザインを取り入れたり(伊達政宗の従兄弟、伊達成実が兜の前立にデザインを取り入れた事は有名)、旗差物にムカデの絵を染め抜いた物を用いた例もある。
また、『甲陽軍鑑』に拠れば武田家の金堀り衆は、トンネル戦法を得意とする工兵部隊で、百足衆と呼ばれたとも言われる。相馬中村藩に起源する相馬野馬追においては、「下がりムカデ」の旗が軍師の指物と指定されている。足の多いことにより、伝令をムカデに例えることも一般的であった。
赤城山などの神体として、また『毘沙門天』の使いとされ、神格化されている。商家においても「客足が多い」縁起物として扱われることがあった。男体山の大蛇と日光の戦場ヶ原で決闘した伝説、藤原秀郷(俵藤太)の百足退治伝説などが知られる。大蛇が河川を象徴し、砂鉄の採集や製鉄の技術者集団を表すことと比して、ムカデは地下坑道を掘り進み、自然金などの鉱石を採集する技術者集団を表しているという説がある[4]。
分類
ムカデ亜綱(整形亜綱) Epimorpha
ジムカデ目 Geophilomorpha
- マドジムカデ科 Chilenophilidae:フタマドジムカデ、ミドリジムカデ(国内の土中に優占)
- ベニジムカデ科 Dignathodontidae:ベニジムカデ(全国に分布、朽木に多い)
- ツチムカデ科 Geophilldae:スミジムカデ、ホソツチジムカデ、ヨコジムカデ(深層からも産する大型種を含む)、ツチムカデ、シマジムカデ(西南諸島)
- オビジムカデ科 Himantariidae:ヨシヤジムカデ(歩肢対数多)
- ナガズジムカデ科 Mecistocephalidae:ツメジムカデ(多産)、ナガズジムカデ(=メキストケファルス:中〜大型種)、ニブズジムカデ、タカシマジムカデ、タイワンジムカデ、モイワジムカデ(西南諸島・北海道)、ヒロズジムカデ(中〜大型種)、アゴナガジムカデ(大顎が前方に伸びる:台湾・西表)
- オリジムカデ科 Oryidae:ヒラタヒゲジムカデ
- マツジムカデ科 Schendylidae:サキブトジムカデ、エスカリジムカデ、チチブジムカデ、モモジムカデ
オオムカデ目 Scolopendromorpha
- メナシムカデ科 Cryptopidae:メナシムカデ属(歩肢対数21、曳航肢に変形、西南諸島〜黒潮圏、北米産の種がイシムカデを称して市販されたことがある)、アカムカデ亜科アカムカデ属(国内で唯一歩肢対数23、セスジアカムカデなど、北海道南部を含む全国、北米:普通種を含む)
- オオムカデ科 Scolopendromorpha:オオムカデ属(北海道南部を含む全国:世界最大種・ペルビアンジャイアントオオムカデなど含む)、アオムカデ(西南諸島〜九州沿岸部)
ゲジ亜綱(改形亜綱) Anamorpha
ナガズイシムカデ目 Craterostigmomorpha
- ナガズムカデ科 Craterostigmidae:ナガズムカデ(オセアニア産)
イシムカデ目 Lithobiomorpha
- イッスンムカデ科 Ethopolidae:イッスンムカデ(地表棲、普通種)
- トゲイシムカデ科 Henicopidae:メクライシムカデ(洞穴)、ゲジムカデ(地表棲、普通種)、トゲイシムカデ
- イシムカデ科 Lithobiidae:イシムカデ(汎存種)、ヒトフシムカデ(国内に優占)
ゲジ目 Scutigeromorpha
- ゲジ科 Scutigeridae:ゲジ(全国)
- オオゲジ(関東以南:背中に橙色の紋)
ムカデの名が付いた生き物
海底洞窟から得られるムカデエビは、多足類との系統的な連関も検討されている。ウミウシの仲間にムカデウミウシやムカデメリベという種類があり、これはムカデの脚のように胴体が櫛状になっていることから、その名が付いた。また、水生昆虫のヘビトンボの幼虫は、ムカデのように長い胴体と、その胴体の両側に櫛状に呼吸用エラがムカデの脚のように並び、性質が荒くて噛みつくことから、水ムカデ(Water Centipede)と呼ばれる事がある。噛まれると痛いが、ムカデのような毒は持たない。深海産のゴカイの仲間にも、ムカデに似た姿のオヨギゴカイなどがいる。ツツジ科の植物にジムカデ(地百足)があり、葉と茎の形状がムカデに似ていることから名が付いたが、ムカデの中の動物種グループとしてのジムカデ(土百足)目とは直接の関係はない。
脚注
関連項目
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外部リンク
- テンプレート:PDFlink (財)日本中毒情報センター