受胎告知
受胎告知(じゅたいこくち)はキリスト教の聖典である新約聖書に書かれているエピソードの1つ。聖告(せいこく)、童貞聖マリアのお告げ、生神女福音(しょうしんじょふくいん)とも言う。一般に、処女マリアに天使のガブリエルが降り、マリアが聖霊によってイエスを身ごもることを告げ、またマリアがそれを受け入れることを告げる出来事。
マリア崇敬の思想を背景として、キリスト教文化圏の芸術作品の中で繰り返し用いられるモチーフでもある。
これを記念する祭日は東方に始まり、中世に西方につたわった。現在もカトリック教会などでは3月25日、東方教会では4月7日を祭日としている。カトリック教会では「お告げの祭日」と呼ぶ。正教会では「生神女福音祭」とし、十二大祭のひとつである。
福音書における記述
受胎告知が記述されているのは、「マタイによる福音書」と「ルカによる福音書」だが、それぞれ詳細が異なる。マタイ福音書では(1:18-25)、ナザレではない地(2:22-23、おそらくベツレヘム)で、ヨセフの夢に天使が現れる。マリアに関しては、天使による告知の記述はなく、聖霊による受胎をすでに知っていたことのみ書かれている。一方、ルカ福音書(1:26-38)では、ナザレにて、天使ガブリエルがマリアの前に現れ、受胎を告げる。ヨセフの方に対する言及はない。
旧約聖書における受胎告知
新約聖書における受胎告知は、旧約聖書中の『イザヤ書』(7:14)の預言に基づいている。
旧約聖書中に神が子を授ける例はたびたび見られる。 受胎告知らしきものは、不妊であったマノアの妻がサムソンを授かる旨を天使が告げる『士師記』(13:3-5)などがある。
美術
絵画では、この場面でのマリアは読書の最中であることが多いが、糸をつむいでいることもある。傍らには白百合(純潔の象徴)が置かれるが、天使が百合を携えている場合もある。二人の上には天上からの光や聖霊の鳩が描かれることが多く、これによって「聖霊によって身ごもる」ことを示す。
中世の作品としては、ランス大聖堂の彫像や、シモーネ・マルティーニの祭壇画が名高い。ルネサンスでは、天上と地上の邂逅という如何にもルネサンス的な性格が好まれ、もっとも人気のある主題の一つとなった。サン・マルコ修道院にフラ・アンジェリコが描いた壁画、レオナルド・ダ・ヴィンチによる絵画などが傑作として知られる。
正教会においては、イコノスタシスの門にこの場面を描く決まりがあり、作例が多い。ただし構図上、左右の扉に天使とマリヤを分けて配するため、鳩など聖霊を現す象徴は省略されることが多い。またこれとは別に、一枚のイコンにこの場面を描いたものもある。一枚絵の場合は、マリアが室内にいることを示す家が背景に描かれ、また神・父を象徴する丸い光が中央上端、天空に描かれる。そこから聖霊を示す光が差している場合も多い。
関連項目